名探偵プリキュア! ~白銀の太陽は昇る~   作:nest1965

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ビルスが今年の秋に放送。銀河パトロール囚人編は制作中。
名探偵プリキュアは面白かった。

色々我慢できなかった。

そう言うわけで書いてもうた。後悔はしていない。

自分の趣味全開で書いておりますが、皆さんの暇つぶしになると幸いです。

それではどうぞ。


第1話

 

 青年は人里離れた山奥の小さな家で、一人の少女と寄り添うように暮らしていた。

 

 二人の出会いは、まだ「子供」と呼ぶにふさわしい、一桁の年齢の頃だった。

 

 少女の家族は、彼女一人をこの世に遺して皆逝ってしまった。

 

 独り、寂しさと悲しみに暮れ、肩を震わせていた少女の背中。それを見ていた青年もまた独りだった。

 

 青年は迷うことなく「俺が一緒に暮らしたら、寂しくなくなるか?」と言って手を差し出し、二人は互いの体温を分け合うようにして、日差しが照りつく夏も凍える厳しい冬も幾度も越えてきた。

 

 それから時が立ち、重なり合った心は自然と二人を夫婦へと変えていた。

 

 やがて、少女の身体に新しい命が宿る。

 

 その家は、雨風を凌ぐのが精一杯の小さな造り。蓄えもなく、贅沢など望むべくもない生活。それでも青年はこれ以上ない幸福の中にいた。

 

 こんな幸せがずっと続いていくのだと思っていた。

 

 青年は、愛おしい記憶を噛みしめるように瞼を静かに閉じる。

 

 しかし、再び瞼を開いた時、そこは地獄に変わっていた。

 

 視界に飛び込んできたのは赤黒い鮮血に染まった家の床。

 

 窓から差し込む陽光は虚しく、横たわる妻の瞳にはもう光は宿っていない。触れた肌は氷のように冷たかった。

 

 妻は、その胎内に宿る小さな命と共に惨殺されていた。

 

 青年のささやかな夢は、音を立てて崩れ去った。

 

 慈しんできた想いは無慈悲に踏みにじられ、己の命よりも守りたかった宝物は、あまりにも呆気なく奪われた。

 

 青年は表情を失った抜け殻のような顔で、物言わぬ妻の亡骸をただ強く抱きしめた。

 

 瞼を閉じる。

 

 闇を通り抜け、再び瞼を開くと、景色は「戦場」へと塗り替えられていた。

 

 鼻を突く焦燥感。あちこちで建物が炎を上げ、崩落した天井や壁が瓦礫の山を築いている。

 

 そんな地獄の中で、青年は両膝を地面に突き、静かに首を巡らせた。

 

 彼の背後には同じ軍服を纏った兵士が立っている。その視線の先には地面に仰向けに倒れた1人の男がいた。

 

 男の腹部からは、止めどなく紅い血が溢れ出している。

 

 死の影に怯えながらも、男は青年に向けてドロリとした憎悪と嫉妬を隠そうともしない顔を向けた。

 

『な、んで……お前だけ、が……とくべ、つ…なんだ……何で……おま、え……だけが……!』

 

 男は激しく吐血しながらも、呪いのような恨言を吐き散らす。

 

『だのむ、か……らーーー死んでくれ……っ!』

 

 呪詛を吐ききった男の瞳から光が消え、事切れる。

 

 青年の心にまた一つ消えない傷跡が刻まれた。

 

 瞼を閉じる。

 

 三度、瞼を開くと、場面は友との出会いへと移り変わっていた。

 

『ーーーボク達の使命は、怪盗団ファントムからマコトジュエルを護ることだ』

 

 目の前に立つのは金髪を束ね、自身の身体よりも大きな白衣を羽織った少年。

 

 その瞳は青年の持つ異質な力に怯えを含みながらも、揺るぎない覚悟を宿して真っ直ぐにこちらを見つめていた。

 

『だけどボクには、マコトジュエルを護るだけの力が……ない』

 

『頼む……お前の力を、ボク達に貸してくれ!』

 

 少年は自尊心を捨て、必死に頭を下げる。

 

 しかし、青年の心は動かない。中身を失った心には、他者の熱など届かなかった。

 

 私は、目標も目的もなく、無様に生き恥を晒し続けなければいけない存在だから。

 

 私には、君のような立派な使命を抱いてないから。

 

 私には、君のような素晴らしい意志を持っていないから。

 

 他を当たってくれ、と全てを諦めた虚無の瞳を向け、少年の横を無機質に通り過ぎようとした。

 

『ーーー怪盗団ファントムは、マコトジュエルを使って、ウソで覆われた世界を創ろうとしている』

 

『このままだと、世界はウソで覆われてしまう』

 

『ボク達の使命も、ボク達がしてきたことも、ボク達がーーーこの世界に生きた証も、全てウソになってしまう』

 

 青年の脚がぴたりと止まり、金髪の少年にゆっくりと顔を向けた。

 

 ーーー全て……ウソになる……?

 

『そうだ。だからこそ、ボク達は今すぐに始めなきゃいけない』

 

『ウソで覆われた世界を創らせないために』

 

『過去よりも今を、今より良い未来を遺せるように』

 

『だからーーー頼む!』

 

 再び深く頭を下げる少年の姿から、目が離せなかった。

 

 泥臭くも使命を全うしようとする姿勢。

 

 世界を護ろうとする揺るぎない意志。

 

 それが、青年にとっては失われた太陽のように眩しく、何よりも尊いものに感じられた。自分には無い意志と使命を持つ少年を、羨ましく思えた。

 

 だから

 

ーーー分かった。協力しよう

 

 青年は小さく溜息を吐き出し、重い口を開いた。

 

『ーーー! ありがとう!』

 

 弾かれたように顔を上げた少年は、歓喜に震えながら手を差し出した。

 

 青年の身体から無意識に溢れ出す熱気と圧力。それに気圧され、顔を引きつらせながらも少年は逃げなかった。

 

『ボクはジェット。キュアット探偵事務所に所属している天才発明家だ。お前は?』

 

 青年は白銀の髪(・・・・)を揺らし、白銀の瞳(・・・・)でジェットと名乗った少年を射抜くように見つめ、差し出されたその手を力強く握り返した。

 

ーーー私は……ソラリス

 

 

ーーージリリリリ

 

 机の上に置かれた目覚まし時計が静寂を切り裂くように鳴り響いた。電球の灯っていない、ロンドンの薄暗い一室。

 

 ソファーに横たわっていた青年は、深い霧のようなまどろみの中から重い腕を伸ばし、機械的にアラームを止めた。

 

(ーーー随分、懐かしい夢を見た)

 

 ふぅ、と長く熱い息を吐き出す。

 

 青年はゆっくりと上体を起こし、壁のスイッチに指をかけた。瞬く間に部屋を支配した電灯の光が、青年の姿を鮮明に映し出す。

 

 癖のない黒髪(・・)に、底の見えない黒眼(・・)。年齢は二十代前半。整った容姿は若々しさを保っているが、その眼差しには実年齢以上の深い哀愁が宿っている。

 

 ゆったりとした黒の長袖シャツに、清潔感のある白いズボン。

 

 胸元には少し歪な丸い金型に、太陽のような赤い石がはめ込まれた首飾りが鈍く光っていた。

 

 青年――ソラリスは、身体の強張りを解くように大きく背伸びをし、目覚まし時計の文字盤を凝視する。

 

 長針と短針が、ちょうど真上で重なり、午前零時を指していた。

 

(……日本は朝の八時頃か……電話をかける時間は丁度良いか)

 

 ソラリスはデスクに向かい、古めかしい受話器を取り上げる。呼び出し先はかつてこの部屋の主であり、今は日本の「まことみらい市」にいる友だ。

 

 規則正しいコール音が三回。ガチャリという音と共に、受話器の向こうから耳を劈くような快活な声が飛び込んできた。

 

『ーーーはい! こちらキュアット探偵事務所です!』

 

 

 

 

 

 

ーーーキュアット探偵事務所 まことみらい市支部

 

 潮の香りを運ぶ海風から少し離れた、緑豊かな山の中にその事務所は佇んでいた。美しい大庭園を有する白亜の二階建て建築。それがキュアット探偵事務所 まことみらい市支部である。

 

 探偵事務所という看板を掲げ、あらゆる依頼を請け負う彼らだが、その背後には真の使命が隠されている。

 

 それは「嘘を暴いて止める」こと。そして、「ウソで覆われた無秩序な世界」を創るため、人々の大切な物に宿る想いの結晶ーーー「マコトジュエル」を悪用しようとしている怪盗団ファントムから「マコトジュエル」を護ること。

 

 そんな重い宿命を背負った事務所の中で、今は三人と一匹が和気藹々と掃除に勤しんでいた。

 

「掃除が終わったらミルクにしようね!」

 

「ポチ〜!」

 

 オレンジ色の明るい茶髪を揺らし、ミントグリーンの瞳を輝かせる少女、明智あんな。

 

 そんな彼女に答えるのは、ピンク色の毛並みに紫の瞳を持つ不思議な生き物。時間と空間を越える力を持つ「時空の妖精」、ポチタン。

 

「調査時の確証バイアスの除去の重要性かぁ……」

 

「そこ! 手が止まってるぞ!」

 

 小豆色のロングヘアを揺らしながら、難解な探偵の専門書に没頭する少女、小林みくる。

 

 彼女の背後から厳しい声を上げたのは金髪を後ろで束ね、身体に合わない大きな白衣を羽織った緑の瞳の少年。実年齢222歳を数える自称「天才発明家」の妖精、ジェットである。

 

 本来、このキュアット探偵事務所は所属していた名探偵プリキュアが数ヶ月前に突然失踪し、事実上の空き家状態となったためロンドンのキュアット探偵事務所からジェットが派遣され、事務所を畳む予定となっていた。

 

 しかし数日前、名探偵プリキュアを自称するあんなとみくるが現れ、怪盗団ファントムと闘う姿を見たジェットは、彼女達を名探偵プリキュアとして認め、まことみらい市のキュアット探偵事務所を畳むことを取りやめ怪盗団ファントムと戦うことを決意した。

 

「ジェット先輩! 掃除終わりました!」

 

「どおどお! はなまる綺麗になったでしょ!」

 

 雑巾がけと掃き掃除を終え、誇らしげに胸を張る二人。埃一つない事務所の美しさにジェットは腕を組んで満足げに頷いた。

 

「まぁ、綺麗にはなったな。……途中で本読んだり、変に並べなかったらもっと早く終わってただろうけど」

 

「ポチっ!」

 

「「あ、あはは……」」

 

痛いところを突かれ、頭を掻いて苦笑いを浮かべるあんなとみくる。

 

「まあいい。お茶でも入れるから、お前達はソファーに座って休んでろ」

 

「「はーい!」」

 

「ポチ〜!」

 

 キッチンへと消えたジェット。あんなとみくるはソファーに身を沈め、ポチタンは満足げにミルクの瓶に吸い付いた。

 

「事務所も綺麗になったし、名探偵プリキュアにもなれたし、これで探偵のお仕事出来るね! みくる!」

 

「うんうん! 早く依頼、来ないかな〜」

 

 夢見ていた探偵への第一歩。みくるは頬に手を当て、まだ見ぬ依頼人に思いを馳せる。

 

 その時――。

 

 静まり返った事務所に、仕事用の固定電話がけたたましいく響き渡った。

 

 あんなとみくるは、一瞬だけ鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まり。

 

「「依頼の電話だーーっ!!」」

 

 次の瞬間、爆発的な歓喜と共に飛び上がった。

 

「……ん? 電話か? あんな! みくる! ボクが出るからちょっとまーーー」

 

「はい! こちらキュアット探偵事務所です! 」

 

「おいコラ!? 勝手に出るんじゃない!!」

 

 慌ててキッチンから顔を出したジェットだったが時すでに遅し。みくるが電光石火の速さで受話器を耳に当て、既に応対してしまっていた。

 

 因みに初めての依頼電話は、あんなの厚意によってみくるが取ることが決まっていた。みくるの名探偵になりたいという真剣な想いを知っているあんななりの、優しい気遣いだった。

 

「お、落ち着いてジェット先輩。 みくるもこう言う時のためにいっぱい練習してきたって言ってたし……大丈夫だよっ!」

 

「ポチ!」

 

 焦るジェットを宥め、親友を信じるあんな。

 

 大丈夫の根拠が薄いぞ! と心の中で突っ込みつつも、ジェットは嬉々として対応するみくるの横顔を見て、小さく溜息をつく。

 

「……変な事言い出したらすぐボクが出るからな」

 

 そう言って腕を組み、みくるを見つめるジェット。ほっとするあんなも振り向き、みくるを見つめる。

 後輩の成長の機会を奪わないジェットもまた、なんだかんだで優しい先輩なのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーキュアット探偵事務所 ロンドン本部

 

『ーーーはい! こちらキュアット探偵事務所です!』

 

 受話器の向こうから飛び込んできた、弾けるような少女の声。それを受けたソラリスはわずかに眉を寄せ、深い困惑の海に沈んだ。

 

 ハキハキとした、濁りのない透き通るような声。ハリのあるその響きから推測するに年齢は十代の前半だろうか。

 

 ソラリスは無表情ながらも内心では困惑と警戒心を露わにしていた。

 

 ジェットは数ヶ月前から日本のキュアット探偵事務所を畳むため派遣されている。本部から追加の人材が新たに送られたという報告は受けていない。

 

 だとすれば、現地で新たに雇い入れたのか?……それはあり得ない。ジェットの正体は妖精である。人間からすれば理解の及ばない未知の生物。もし知られた場合のリスクを考えれば誰かを雇うことはしない。

 

そこから考えられる結論はーーー。

 

『あの〜、もしも〜し。 聞こえてますか〜?』

 

 沈黙を破り、鼓膜を震わせる無邪気な問いかけ。ソラリスは巡らせていた思考を一度中断させ、意識を表面へと浮上させ、言語を日本語へと切り替える。

 

「……すまない。少し考え事をしていた」

 

 紡がれた言葉に鋭い刺はない。相手の声に敵意が微塵も含まれていないことを察したソラリスは、ひとまず確認すべき最低限の事項を口にした。

 

「日本のまことみらい市にある、キュアット探偵事務所で間違いないか?」

 

『はい! 間違いありません!』

 

 返ってきたのは迷いのない元気な肯定。ソラリスは小さく「そうか」とだけ短く応じた。

 

 やはり、この少女はジェットの協力者、あるいは関係者なのだろう。そう結論づけると、ソラリスは静かに警戒の解き、本来の目的を果たすべく言葉を継いだ。

 

「ジェットに用があるのだが、彼はいるか? ソラリスと言えば分かると思う」

 

『えっ? ジェット先輩、ですか?』

 

「あぁ」

 

『……探偵の依頼じゃなくて?』

 

 落胆が透けて見える少女の問いに、ソラリスはわずかな違和感を覚える。

 

「……依頼じゃない。 ただ、仕事で彼に用があるんだ」

 

『そうですか……うぅ、分かりましたぁ……今替わりますぅ……』

 

 奈落の底へ落ちるような、あからさまに落胆した声。その後、受話器から遠ざかる気配と共に電子音が室内に虚しく響いた。

 

「……?」

 

 何か癪に触るようなことでも言ってしまっただろうか?

 

 ソラリスは再び深い困惑へと突き落とされた。

 

 

 

 

 

 

「ーーーはあぁぁ……」

 

 期待に胸を膨らませて受話器を取ったみくるだったが、今は見る影もなく肩を落とし、ソファーに深く沈み込んでいた。

 

「み、みくる? 元気出して? ほ、ほら一応お仕事の話だったんでしょ?」

 

「そうだけど……私達の依頼じゃなかった……」

 

 あんなが懸命に励ますものの、膨れ上がった期待の反動は大きい。ポチタンもまたみくるの胸元に飛び込み、その小さな体で彼女の心を癒やそうと寄り添う。

 

「ポチ!」

 

「うぅ、ありがとうポチタン……」

 

「それにしてもソラリスさん、だっけ? ジェット先輩とどう言う関係なんだろう?」

 

「お仕事の話だって言ってたけど……」

 

 疑問を口にしながらあんなはジェットが淹れてくれた温かい茶を啜り、電話の主と話し込むジェットを見つめる。

 

 その横顔は、普段自分達と接する時よりもどこか親愛の情が滲んでいるように見えた。

 

「ーーーあぁ、分かった。それじゃ、明後日の午後にな」

 

 通話を終えたジェットが、ココアを片手にソファーへと戻ってくる。

 

「ジェット先輩。さっきの電話の相手……ソラリスさんって誰なの?」

 

「ジェット先輩のこと知ってるみたいだったし、知り合いなの?」

 

「ポチ?」

 

 三者三様の問いかけにジェットは一度ココアを口にし、思考を整えてから口を開いた。

 

「あぁ、ソラリスはボクがロンドンの事務所にいた時の……まぁ、後輩みたいなものだ。2年前から一緒に働いてるんだ」

 

「ジェット先輩の……」

 

「後輩……?」

 

「そうだ。元々一緒に来る予定だったんだけど、ソラリスへの仕事が結構あったから、ボクだけ先に来たんだ。それでさっき、仕事が全部片付いたから明後日こっちに来るって電話だったんだ」

 

 その一言で、事務所内の空気が一変した。少女達の瞳が宝石のようにキラキラと輝き始める。

 

「ジェット先輩以外の……先輩!」

 

「ねぇジェット先輩! ソラリス”先輩”ってどんな人なの!? 声は聞いたけど、男の人!? ジェット先輩と同じ妖精なの!?」

 

 未知の先輩への好奇心を爆発させる二人。ジェットは少しだけ鬱陶しそうに身を引いたが、その瞳にはどこか誇らしげな色が宿っていた。

 

「ソラリスは妖精じゃない、人間だ。そうだな……」

 

 腕を組み、かつての友の姿を脳裏に描く。

 

「あいつはいつも無表情で時々何考えてるか分からない時があるけど、決して悪い奴じゃない。それに、困ってる人がいたらどんな状況だったとしても必ず助ける……そんな奴だな」

 

「へぇ〜。優しい先輩なんだ!」

 

「ジェット先輩の後輩ってことは、ソラリス”先輩”も探偵なんでしょ?……なら、ソラリス”先輩”から探偵のいろは、教えてもらえるかも!」

 

「まぁ、ソラリスなら今までの体験とか経験とかは教えてくれるだろう。それと、事務所を畳まなくなったこととお前達がプリキュアだってことを、ソラリスに教えるつもりだからお前達からもちゃんと説明しろよ?」

 

「「はーい!」」

 

「ポチ!」

 

 元気良く返事をするあんな達。

 

「あっ、そうだ。ソラリスについて、一番大事なことを言い忘れてた」

 

 早く会って話してみたいなと思っていると、ジェットはふと思い出したようにココアを飲み干した後、これまでにない真剣な表情を作りながら徐に口を開ける。

 

「ーーーソラリスの奴は、プリキュアのお前達よりずっと強いぞ」

 

「「ーーーへっ?」」

 

ジェットの発した言葉に、あんなとみくるは思わず間の抜けた声を出した。

 

 

 

 

 

 

 二日後。午後一時を過ぎた頃。空が雲で覆われた薄暗いまことみらい市の駅に、小さなスーツケースを手に持つソラリスの姿があった。

 

「………」

 

 ソラリスにとって、日本への訪日は二度目(・・・)。以前と変わらない、ロンドンとは違う独特の雰囲気に若干の懐かしさを感じる。

 

 しかし、今は感傷に浸かっている場合ではなかった。

 

 ソラリスは辺りを見渡す。二日前、ジェットは電話で迎えに行くと言っていた。しかし、約束の時間はとっくに過ぎているのに、ジェットの姿がどこにもない。

 

 彼に限って時間を間違えることも、まして忘れていることなんてありえない。ジェットはいつも忙しいから急用でも出来たのだろうか。そう思いつつソラリスは顔を上げ、どんよりとした雲を見つめた後、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 瞬間、彼の世界が変わった。

 

 風の動き、大気の震え、そして生きとし生けるものが必ず放つ力の奔流。

 

 数km先まで力の気配が鮮明に感じ取れる。

 

 近辺にはジェットの気配は感じられない。ソラリスは更に感知範囲を拡大していく。

 

 そしてーーー見つけた。

 

 駅の喧騒から離れた一角。そこにはドーム状の不可思議な力によって隔離された異空間が感じられた。

 

 内部にはジェットを含めた妖精の気配が四つ(・・)。人間の気配が三つ(・・)。妖精でも人間でもない、今まで感知したことのない禍々しい負の気配が二つ(・・)

 

 そして、二人の人間と負の気配を放つ者が衝突している。この気配の高まり方は、明らかに両者が闘っているものだと理解した。

 

 更にジェットと近くにいる妖精が縦横無尽に逃げ回り、別の負の気配を放つ者が追いかけるように移動している。

 

 ジェットの身に危険が迫っている。

 

 ソラリスは瞼を開ける。

 

 そして次の瞬間、駅の通行人達は「何か」が通り過ぎたことすら認識できなかった。

 

 光すら置き去りにする移動。ソラリスは閃光となり、その場から消滅した。

 

 

 

 

 

 

 ジェットがソラリスとの待ち合わせの時間に来なかったのには理由があった。

 

 待ち合わせは午後。そのため午前中は時間があったため、インテリアと雑貨を買うためにあんなとみくる、ポチタンとジェットはアンティークショップ「カメリアインテリア」にやってきていた。

 

 しかし、そこでお店のシンボルである亀の置物が無くなる事件が発生。亀の置物は隠されており、あんなとみくるの推理で見つかったものの、隠した犯人は怪盗団ファントムだった。

 

 怪盗団ファントムは亀の置物に宿るマコトジュエルを奪うため、亀の置物を盗み逃走。

 

 そして、何とか追いついたあんな達はマコトジュエルと亀の置物を取り返すため、戦闘になってしまった。

 

 これがジェットが待ち合わせの時間に来れなかった理由だった。

 

 そして

 

「ーーーうわああぁ!?」

 

「ポチ!?」

 

 今、ジェットはポチタンを抱え、地面に転がりながら巨大な亀の怪物(・・・・)の拳を間一髪躱す。

 

「ジェット先輩!? ポチタン!?」

 

「2人が危ないのに……邪魔しないで!」

 

 あんなとみくるーーー名探偵プリキュアへと変身したキュアアンサーとキュアミスティックは、襲われている2人を助けようとする。

 

「だったらさっさと倒しちゃえば良いっしょ!」

 

 しかし、それを邪魔する者がいた。向日葵のような姿とツタのような両腕を持つ怪物。

 

 そして、それを使役するピンクがかったオレンジ色の長髪と、ギャルを彷彿させる派手な衣装を見に纏う女性。

 

 彼女の名はアゲセーヌ。

 

 キュアット探偵事務所が敵対する、怪盗団ファントムの幹部。そして、向日葵と亀の怪物(・・・)は怪盗団ファントムが新たに開発した力。

 

 マコトジュエルを媒体にウソで蝕まれることで生み出される存在。

 

 その名はハンニンダー。

 

「そのままやっちゃえ! ハンニンダー!」

 

「ハンニンダー!」

 

 向日葵のハンニンダーは両腕を鞭の様にしならせ、キュアアンサーとキュアミスティックに攻撃をする。

 

 何度も襲ってくる攻撃に2人は辛うじて躱すものの、ジェットとポチタンが亀のハンニンダーに襲われて目の前の敵に集中することが出来ていない。

 

 その一瞬の隙を突かれて、ハンニンダーの蔓の腕はキュアアンサーとキュアミスティックの足首に絡まり、2人は逆さまに宙吊りにされてしまう。

 

「あぁっ! ぐっ、うぅ……」

 

「くぅっ……このっ!」

 

 逆さまに吊るされ、脱出を試みる二人。それを見下ろしながら、アゲセーヌは派手な衣装を揺らして煽り立てる。

 

「イェーイ! これってもうアゲの勝ちじゃね? マコトジュエル盗られただけじゃなくて、あっちのチビっ子達も助けられなくて悔しい感じ?」

 

 その指が示す先。逃げ場を失ったジェットとポチタンの頭上には、巨大な岩のような拳が振り上げられていた。

 

「ポチタン! ジェット先輩!」

 

「2人共逃げて!」

 

「に、逃げ道が塞がれて無理だ!」

 

 絶叫するキュアアンサーとキュアミスティック。ジェットも頭を回転させているが、打開策が浮かばない。

 

 そうしている内に亀のハンニンダーがジリジリと近付いていき、巨大な拳を振り上げた。

 

「くぅっ、うううぅぅ!!」

 

「こっんのおぉぉ!!」

 

 このままだとポチタンとジェットは怪我どころでは済まなくなる。

 

 キュアアンサーとキュアミスティックは何とか体勢を立て直し、ハンニンダーの絡みつく両腕のツタを掴み、力一杯引き千切った。

 

「ハン、ニン……!?」

 

「うわっ!?」

 

 倒れる向日葵のハンニンダーと驚くアゲセーヌを余所に、キュアアンサーとキュアミスティックは急いでポチタンとジェットの元へ駆け出していく。

 

 しかし、遅かった。

 

「ハンニンダー!」

 

 亀のハンニンダーが、その巨拳をポチタンとジェットに振り落とした。

 

「っ!?」

 

 ジェットは咄嗟にポチタンを守るように身体を丸く縮み、背を向けた。

 

 そして、亀のハンニンダーの拳が2人に直撃した。

 

 鈍い衝撃音と共に、拳が地面を砕く。砂埃が舞い上がり、大地が震える。まともに食らえば肉体など容易く粉砕される一撃。キュアアンサーとキュアミスティックはその光景に絶句した。

 

「マジチョベリグ〜! これでお邪魔虫が2人消えた感じ〜!」

 

「ハンニンダー!」

 

 2人を余所にアゲセーヌは神経を逆撫でするような口調で煽り、向日葵のハンニンダーも引き千切られた両腕が再生し2人に近付いていく。

 

「よくもポチタンを……ジェット先輩をっ!!!」

 

「絶対に……許さない!!!」

 

 亀の置物に込められた大切な想いを踏み躙り、それを利用して自分達の大切な人を傷つけたアゲセーヌとハンニンダー達に、激しい怒りを覚えるキュアアンサーとキュアミスティック。

 

 2人はそれぞれ背中合わせに身体を向け、握り拳を作ると向日葵と亀のハンニンダーを鋭い目で睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーージェット、無事か?」

 

「「「ーーーえっ?」」」

 

 思わず、キュアアンサーもキュアミスティックも、アゲセーヌでさえ間の抜けた声が出た。

 

 それは前触れも、前兆もなかった。

 

 それは突如現れた。

 

 その声は、あまりにも場違いなほど平坦で、淡々としていた。

 

 怪盗団ファントムが創り出した「密閉」されたのはずの空間に、亀のハンニンダーから数メートル離れた位置に一人の男が膝を付いて存在していた。

 

 その左手に小さいスーツケースを持ち、右腕にジェットとポチタンを抱えて。

 

「ーーーっ!? ソラリス!」

 

 歓喜と安堵に満ちたジェットの叫び。ソラリスは表情一つ変えずに小さく頷いた。

 

「ソラリスって……」

 

「ジェット先輩が言ってた……あの人が……?」

 

 キュアアンサーとキュアミスティックは二日前のジェットとの会話を思い出す。ジェットがロンドンのキュアット探偵事務所にいた時の、彼の後輩。その人がどこからともなく現れジェットとポチタンを助けてくれた。

 

 全く見えなかった。いつ、どのタイミングで現れたのだろうか? 疑問は残るものの、ジェットとポチタンが無事なことにひとまず胸を撫で下ろす。

 

「は、はぁ!? ちょっとアンタ! どうやってここに入ってきたし! チョベリバー!」

 

 だが、アゲセーヌは納得出来なかった。

 

 怪盗団ファントムの新技術によって創られた密室空間。それは外に居る者には目視することも、まして侵入する事も出来ないはず。

 

 故に、この男がどうやって侵入したのか、全く分からなかった。

 

「ジェット……アレは何だ?」

 

 喚き散らすアゲセーヌだがソラリスは文字通り聞き流した。彼の視線は、ただ目の前の戦況だけを見据えている。

 

「アレはハンニンダー! 怪盗団ファントムが創った怪物だ!」

 

 ジェットの答えに、ソラリスは視線を巡らせる。巨体の怪物。それを使役する派手な女。

 

 そして、別の場所で自分達を見つめる、まるで家族のような良く似た力の質(・・・)を放つキュアアンサーとキュアミスティック。

 

「分かった。これを頼む」

 

 ソラリスはジェットを静かに下ろし、スーツケースを預けた。

 

 その時、抱かれているポチタンと目が合う。

 

「ポチ!」

 

「………」

 

 挨拶するように、ポチタンが右手を上げた。ソラリスは表情を変えることなく、ポチタンに目線を合わせ、その無骨な手で愛おしむようにポチタンの頭を撫でる。

 

「ポチポチ〜!」

 

 笑顔を作り、満足げに目を細めるポチタンを見届け、ソラリスは再び戦場へと向き直った。

 

「ジェット」

 

 歩みを進める直前。彼は振り返らずに、重い言葉を投げかけた。

 

「もしもの時の、許可(・・)をくれ」

 

 その言葉の真意を理解したのはこの場ででただ一人、ジェットだけだった。だからこそ、彼は叫んだ。

 

「ーーー分かった、許可する。だけど、出来るなら戻るな(・・・)!」

 

 ソラリスは短く頷き、敵へと歩み寄る。

 

「ふん! 何よアンタ、プリキュアでもない、ただの人間のくせにやるつもり? 生意気よ! ハンニンダー! やっちゃって!」

 

「ハンニンダー!」

 

 向かってくる態度が、無表情を決め込むその顔が気に入らない。ゆっくりと歩いて距離を詰めるソラリスに、アゲセーヌは苛立ちを隠さず命令を飛ばす。

 

 命令を受けた亀のハンニンダーが、岩塊のような拳を無防備なソラリスへ叩きつける。

 

「っ!? 危ない! 逃げて!!」

 

「ダメぇ!」

 

 必死の叫びを上げるキュアアンサーとキュアミスティック。

 

 ジェットからソラリスはプリキュアの自分達より強いと聞かされていたが、全くそうは見えなかった。

 

 覇気も闘気もなく、無防備を晒している。自分達もそうだが、闘いをあまり経験していない素人に思えた。

 

 あまりにも弱く見てた。

 

 助けようと駆け出す二人だったが、衝撃の瞬間はもう目前に迫っていた。

 

「ーーー」

 

 その刹那

 

 ソラリスは僅か数センチだけ、身体を左へずらした。

 

 動作はそれだけ。

 

 たったそれだけなのに、まるで最初からそこに攻撃などなかったかのように、巨拳は彼の肩先を虚しく通り抜けた。

 

 そして、返すように左腕が振り抜かれる。軽く握られただけの拳が、静かに怪物の腹部へと吸い込まれた。

 

 

 

 瞬間

 

 

 

 耳を(ろう)する轟音が、大気を震わせた。

 

 それはその場にいる者達の胸や腹に響き身体中を駆け巡る。

 

 衝撃のあまりキュアアンサーとキュアミスティックは硬直する。

 

 心臓が早鐘を打つ。

 

 喉からは掠れた音しか出ない。

 

 その場にいる者達は目が離せない。

 

 山のような巨体を支えているはずの2つの脚はわずかに宙に浮いている。

 

 その内部から全ての力が根こそぎ奪い去られ、巨体から力が抜けていく。

 

「ーーー」

 

 悲鳴すら上げられず、巨体は砂の城のように崩れ落ちた。

 

 そして巨体の影からソラリスの姿が現れる。

 

 黒髪を静かに揺らし、拳を軽く握っている彼はどこまでも無表情で、地に伏せた亀のハンニンダーを見下ろしていた。

 

 

 




Q.ジェット先輩とソラリス”先輩”はどこでどんな風に知り合ったんですか?(byあんな)
A.本編の2年前、ロンドンでジェットが暴漢に襲われていたところをソラリスが助けた。

Q.ソラリス”先輩”のプロフィールを教えてください!(byみくる)
A.名前:ソラリス
 年齢:23歳
 誕生日:6月21日
 身長:185cm
 体重:73㎏
 イメージカラー:黒
 イメージコンセプト:太陽の黒点
 一人称:私
 二人称:君(敵対している者にはお前)

Q.どうやって密室空間に入って来たし!?(byアゲセーヌ)
A.気合とパワー。やっぱり力は全てを解決するんだなぁ。


 こんな稚拙な小説ですが、温かく見守っていただけると幸いです。

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