名探偵プリキュア! ~白銀の太陽は昇る~ 作:nest1965
作画も良すぎ。気合入ってますね~
今からワクワクが止まらないね
そんなこんなで今回も皆さんの暇つぶしになると幸いです。
それではどうぞ。
真新しい家具の香りと、ロンドンから新たにやって来たソラリスを迎え入れた新生キュアット探偵事務所。
晴れて名探偵として輝かしい門出を迎え、胸を躍らせるあんなとみくるはこの数日間、ソラリスと共に探偵業務に勤しんでいた。
そんな彼女達の一日を覗いてみよう。
「あんな、みくる、ジェット。朝ごはんが出来た。何とか日本食を作ってみたんだが、どうだろうか?」
「んん〜、はなまるおいしい!」
「す、凄い……お手本のような日本食……!?」
「美味しいけどさぁ……この卵焼き、もっと甘くしてくれ。出来れば砂糖たっぷり」
「それ以上甘くしたら、卵焼きと言う名のデザートになってしまうのだが……?」
「ポチポチ!」
朝はテーブルを囲み、全員揃って朝食にありつける。炊き立てのご飯に具沢山の味噌汁、ふっくらとした焼き魚と卵焼き。日本食の定番であり栄養バランスもしっかり考えられている。食べ盛り真っ只中のあんなとみくるはソラリスの手料理に舌鼓を打つ。
「あんなとみくるは事務所の中を掃除をしてくれ。私は外を掃き掃除して来る」
「はい、分かりました!」
「依頼人をびっくりさせちゃうくらい、綺麗にするぞ〜!」
始業前はハタキや雑巾を手に取り三人で事務所の中と外を掃除する。ジェットは朝食の余韻もそこそこに、彼らの探偵道具の発明に没頭するため、自身の工房に籠っているので朝の奉仕活動には不参加である。
「探偵は何も事件を解決することだけが仕事じゃない。人探しや身元の調査、調査結果を報告書にまとめて依頼人に渡すことも大切な仕事だ」
「ふむふむ」
「なるほど……!」
「ポチポチ……」
業務中はソファーに座り、探偵の仕事内容や調査のコツ、礼儀作法やマナーを教えられ、あんなとみくるは名探偵の証である"プリキットブック"に一言一句聞き流さないようペンを走らせる。
「夕食が出来た。みんな、並べるの手伝ってくれ」
「わぁ〜、はなまる美味しそう!」
「り、寮にいた時よりずっと豪華……!?」
「デザートは?」
「ちゃんと作ってある」
「ポチポチ〜!」
終業時刻を過ぎ、事務所を閉めた後は夕食の時間。ローストビーフや鮮やかなサラダ、スープ……等々、とても男一人が作ったとは思えないその豪華なディナーにあんな達は驚愕する。ジェットはロンドンで共に仕事をしていた時、よくソラリスの料理を口にしていたので反応は薄いものの、出された料理は一滴のスープすら残さず全て平らげている。
「みんな、今日もお疲れ様。明日も早いから夜更かししないように」
「はい! おやすみなさい、ソラリス先輩!」
「また明日もお願いします!」
「ポチポチ〜」
「ジェット、君も早く寝た方が良い。発明で忙しいのは分かるが、寝不足で倒れたりでもしたら私は悲しい……」
「グッ……い、いやそうは言ってもだな……」
「早く寝たら明日の卵焼き、ジェットのだけ砂糖をたっぷり入れると約束する」
「お前達早く寝るぞ! 夜更かしして、朝起きられなくなっても知らないぞ!?」
((お父さんと子供かな?))
(ポチ……)
夕食を食べ終え、全員で片付けた後は風呂に入り、歯を磨く。それから思い思いの時間を過ごした後、それぞれの部屋に戻り就寝する。そうして朝を迎え、また全員揃って朝食にありつける。
これが新たな門出を迎えた、新生キュアット探偵事務所で働く名探偵達の一日である。
「いや全然名探偵っぽくないんだけど!?」
「そんなことボクに言うな!?」
ジェットがドライバーを片手に発明品の作成をしている作業台をバンッ! と叩きながらみくるは声を荒げる。ジェットも立ち上がり知らんと言わんばかりに怒鳴り返した。
ただみくるがこのような態度を取るのも無理はない。何せこの数日、みくるが想像していた名探偵らしいことは何もしていない。
食事を摂り、掃除をして、探偵とマナーの勉強をして、寝る。
これではキュアット探偵事務所に居候する前の寮と学校生活と何も変わらない。
「それに、せっかく探偵事務所を開いたのに依頼人が一人も来ないっ!」
みくるの不満はそれだけじゃない。探偵事務所を開いたのに、依頼人は今日まで一人も来ていない。想像していた難事件を次々と解決する鮮やかな名探偵の生活とは程遠い。
「それだけ平和だってことだろ?」
「そうだよ」
「むぅ~」
ジェットとソファーに座りながらポチタンにミルクを飲ませるあんなの正論にぐうの音も出ない。
みくるも頭では平和が一番なのは分かっている。しかし、夢にまで見た名探偵になれたのだから依頼を受けて事件を解決したいと思うのは仕方のないことだった。
「みくる、依頼人に関しては待つしかない。営業という手もあるが、私はこの地にまだ詳しくはないし、二人だけに営業に行かせるのも忍びない」
「うぅ、ソラリス先輩……」
探偵の専門書を読んでいたソラリスは本棚に戻し、みくるの想いを受け止めるように向き合う。ソラリスの言いたいことも分かっている。それでも、その待っている時間がみくるにとっては苦痛だった。
「はぁ……はぁ……はぁっ……!」
ジェットとソラリスの言葉を渋々心の中で受け入れ、自分なりに納得させようとした時、若い男性の荒い息遣いが聞こえ、徐々に大きくなっていく。
それに気付いた彼らは扉に視線を移した瞬間ーーー。
「た、助けてぇぇぇっ!」
肩掛けバッグを大事そうに抱き締め、悲痛な絶叫と共に一人の青年が雪崩れ込むようにして扉を開けた。
一瞬時が止まる。そして、その青年がキュアット探偵事務所にやって来た記念すべき最初の依頼人であると理解した瞬間、部屋は混沌と化した。
「うぇぇっ!? 依頼人だ!? ええとお茶っ!? 違う先に座ってもらうんだっけ!?」
「みみみ、みくる! ソラリス先輩との勉強を思い出して!? まずお茶を出してから座ってもらうんだよ!」
「そうだっけ!? そうだったかも!!?」
「いや、違う」
まず座らせてからお茶を出すんだ。順序が逆であると二人に突っ込むソラリス。
「もうだめだぁあぁぁ! おしまいだぁぁぁっ!!」
「ポチっ! ポチっ!?」
完全にテンパって右往左往するあんなとみくる。どこぞの王子のようにうずくまる青年。そんな様子を見て慌てふためくポチタン。事務所は一瞬にして騒然となる。この状況で冷静でいられたのはソラリスとジェットだけ。
「おい! みんな落ち着け!」
故にジェットがこの場を制する。幼くも威厳を感じさせる一声により全員の動きが止まり、事務所は再び静寂を取り戻す。
「……ポチタン、今の内にあそこ、地球儀の後ろに隠れなさい」
「ポ、ポチっ!」
その隙にソラリスが気配を消してポチタンに近付き小さく耳打ちする。ポチタンもそれに従いそそくさと地球儀に隠れた。
「……あんな、みくる。取り敢えず依頼人をソファーに座られて。私はお茶を淹れるから」
静かに落ち着かせるような口調で諭すソラリス。
キュアット探偵事務所の初めての依頼。それは優雅さもなければ感動的でもない。
ただただ慌ただしい、名探偵らしからぬ始まりだった。
△
「どうぞお茶です。熱いのでお気を付けください」
「あ、ありがとうございます」
あんなとみくるが依頼人の青年を客人用のソファーに座らせた後、ソラリスは静かにお茶の入ったティーカップを置く。自身より高身長で端正な顔立ちの外国人が流暢な日本語を操り、洗練された動きに圧倒され、依頼人の青年は思わずたじろぐ。
そしてソラリスは一旦身体を横にずらし、あんなとみくるに小さく手招きをする。それが何を意味するのか理解した二人は意気揚々と依頼人の青年に近付いた。
「キュアット探偵事務所の探偵、明智あんなです!」
「同じくキュアット探偵事務所の探偵、小林みくるです!」
あんなとみくるは待ってましたと言わんばかりに自身の顔の入った名刺を渡す。ソラリスによって教えられた名刺交換のマナーを連日行っていたため、その動作は驚くほどスムーズだった。
「キュアット探偵事務所のソラリスを申します。どうぞ、よろしくお願いします」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
自分より幾分か年下の女の子と外国人が礼儀正しく名刺を渡してきたため、依頼人の青年も思わず立ち上がり、三人の名刺を受け取る。
(ソラリス先輩との練習通り、名刺を渡せた! これが探偵って感じ……!)
(やったねみくる!)
(二人共、良く出来た。流石だ)
((えへへ~))
夢にまで見た探偵としての第一歩を踏み出すことが出来てみくるは感激し、あんなは達成感に満ちたように小さくサムズアップした。
そんな二人をソラリスが褒めると小さく照れた。
「ポチ!」
地球儀の裏でポチタンも全身を使って自分のように喜んでいる。
そしてあんなとみくるがソファーに戻り、ソラリスも静かに腕を組んで佇むジェットの左隣に移動する。依頼人の青年が一口お茶を飲み喉を潤わせた後、静かに口を開いた。
「改めまして、僕は小松崎純一です」
大学生、小松崎純一はどこか緊張した面持ちで名乗った。
「「それで、どうしました!?」」
声を上擦らせ、満面の笑みを浮かべるあんなとみくる。初めての依頼人と言うことで全身から嬉しさを滲み出す。その様子は背後に立っているソラリスとジェットにも分かるほど。
「ったく」
そんな二人にジェットは呆れたようにため息を付き。
(あぁ、二人共……依頼人が困っているのに嬉しそうにしてはいけない……)
ソラリスは口には出さないものの、心の中で注意をする。下手をすれば事務所の悪評に繋がってしまう行為。上手く名刺を渡して褒めたのにこれでは意味がいない。後でこっそり指摘した方が良いな、と思いながら目線を依頼人の純一に移す。
「は、はいっ! 僕のバッグの中身が、りんごとじゃがいもになっちゃったんです!!」
「「うえっ?」」
「あぁ?」
「……」
要領が掴めず、それぞれが困惑した表情を浮かべる。そんな中、純一はバッグを開け中身をテーブルに並べる。
「気付いたら中身が変わってたんです!」
「りんご、じゃがいも、玉ねぎ、パンに……エプロン?」
出された中身の物は純一が言ったようにりんごとジャガイモ。それに加えて玉ねぎとパン、そしてエプロンだった。
「元々バッグには何が入ってたんですか?」
プリキットブックに状況を整理するため書き込んでいたみくるは質問をする。
「漫画の原稿、あと着替えと……」
「漫画の原稿!? 漫画家さんなの!?」
漫画という単語を聞いた途端、あんなが目を輝かせながら身を乗り出し純一に近付く。
「ううん、目指してる最中なんだ」
どうやら純一は漫画家志望の金の卵のようだ。
「原稿を出版社の人に見てもらうために来たんだよ! 認められれば漫画家になれる……いや、絶対なってみせる!!」
「すごいなぁー!」
夢を追う熱い志と漫画家になると言う強い意志を感じさせる純一の発言にあんなはさらに目を輝かせる。それは後ろで静かに耳を傾けていたソラリスも深い感銘を受けていた。
純一の真っすぐで純粋な心にソラリスも思わず息を漏らし、その漆黒の瞳は尊敬の眼差しを向けていた。
「原稿がないって気付いたのはどこですか?」
「それが……」
△
「うちの事務所の前?」
白衣のポケットに手を入れ、ポップキャンディを咥えたジェットが意外そうに呟いた。
純一と共に原稿がないと気付いた場所にあんな、みくる、ジェット、ソラリスは移動した。しかし、意外にも異変に気付いたのはキュアット探偵事務所の目の前だった。
「出版社に行く前に気持ちを落ち着かせようと歩いてたらここにいて、それで何かバッグが重いな、と思ったら……」
キュアット探偵事務所に続く道はキチンと舗装こそされているが人通りは少ない。そんな場所でバッグの中身が変わっていることに気付いたようだった。
「バッグの中身が変わるなんて……」
もし別の場所で気付いたのなら、純一は自力でキュアット探偵事務所まで訪れることはなかった。ある意味では純一は運が良かった。
「「う~ん……」」
どのようにしてバッグの中身が変わったのだろうか。あんなとみくるは頭を捻る。その間ソラリスは静かに純一のバッグを観察していた。
「……」
注目しているのはバッグに付着した汚れ。ソラリスは僅かに目を細めると、誰にも聞こえないくらい、静かに鼻で呼吸をした。
鼻腔をくすぐったのは自然の香り。そして人工的に作られた、自然のそれとは別の臭いが交じり合って鼻を刺した。
絵の具の匂い。
それは純一がバッグの中身を出した時、エプロンから感じたものと同じものだった。
(……なるほど)
りんご、じゃがいも、玉ねぎ、そしてパン。どれもが料理に使う食材としては鮮度が悪い。加えて普通ならビニール袋に食材を入れるところをそのままバッグに入っていた。
純一は漫画家志望。絵の具を使うことはまずないし、食材もエプロンも使う理由がない。故にバッグは中身が変わったのではなく、バッグそのものが何らかの理由で変わってしまった。
そして今、純一が持っているバッグの本来の持ち主が誰なのか、その人物像がハッキリとソラリスの脳内に浮かび上がる。
「ぐぬぬぬぬ……!」
「紐、短すぎません?」
「うん? 確かに、短くした覚えないのに……?」
「……ピンと来た! 中身じゃなくて、バッグそのものが入れ替わったんじゃない?」
ある程度推理が確定した時、純一がバッグの紐と格闘しているところを見たあんなが、直感で思ったことを口にする。
「まさか……間違いなく僕の……あれ? なんか汚れてる……?」
そんなことはあり得ないと純一は自身のバッグを注意深く見ると、身に覚えのない汚れが存在し、首をかしげる。
「どっかで落としたとか?」
「ああ! そういえば、駅前で人とぶつかってバッグを落としたんだ!」
あんなの何気ない一言で、ここに至るまでの出来事を思い出した純一は思わず顔を上げる。どうやら事件の全容が少しずつ明らかになっているようだ。
(バッグを落としたとなれば、やはり入れ替わったと見て間違いない。となると純一さんが持ってるバッグの本来の持ち主は……)
事件の全容とバッグの持ち主の人物像が明らかとなる。しかし、ソラリスは決して口を開けない。
これはあんなとみくるが掴んだ、大切な初依頼。ここで自分がでしゃばってしまっては二人に悪い。
何より誰かから教えられた答えより、自分達で努力して導き出した『自分達だけの答え』を彼女達には探して欲しかった。
「よし! それじゃ、駅前まで行ってみよう!」
「うん! 純一さん、案内お願いします!」
「は、はい、分かりました!」
「失礼、私も着いて行って良いですか?」
だが、それはそれとしてソラリスも同行しようとする。二人が心配であることもあるが、もし推理に行き詰った場合、さりげなくサポートをするためだ。
「私は君達の依頼人を奪うつもりはない。ただ、そばで見守らせて欲しい」
「ソラリス先輩……はい、わたし達の活躍、見ていてください……!」
「名探偵ソラリスから叩き込まれた知識、ここで発揮して見せますよ!」
「……私は名探偵ではないのだが」
どうしてそこまで名探偵呼びするのだろうか。二人に耳打ちしたソラリスは困惑した。
「「それじゃ、ジェット先輩! ちょっと行ってきます!」」
「出来るだけ早く戻る。純一さん、お願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします! 探偵さん!」
「気を付けて行けよ~」
そうして彼らは純一に連れられ、駅前へと歩み出して行った。
△
「……ソラリスの奴、もう答えは出てるようだな」
ソラリス達を見送り、遠のいていく背中を見つめるジェットは静かに呟いた。ジェットはソラリスと二年間共に仕事をしてきた。それ故、ある程度考えは分かる。
答えが分かってる上であんなとみくるをさり気なくサポートする。決して邪魔をせず、二人の成長と経験のため見守る。
この世に存在する、ありふれた幾つもの”正解”より、彼女達だけの”答え”を探し出させるために。
「まったく、本当に……」
優しいと言う言葉が良く似合う、後輩であり友人。だからこそ嫌いになれない。
ジェットは小さく笑い、彼らの姿が見えなくなるまで見届けた後、事務所の中に戻っていった。
△
「そうだ、ここだよ! ここで向こうから走ってきた人とぶつかって、バッグを落としたんだ!」
キュアット探偵事務所の最寄り駅とも言えるまことみらい市の駅前の一角。青いベンチが並ぶ広場に到着した探偵一行は、純一からより細かく当時の状況を教えられていた。
「それってもしかして、純一さんとその人がぶつかった時に偶然バッグが入れ替わって、そのまま持ち帰っちゃったとか?」
「なるほど! それありえるかも! ぶつかった人はどんな人でした?」
「うーん、覚えてないなぁ……」
「「う~む……」」
(さて……二人はどうするか?)
顎に手を添え、考え込むあんなとみくる。覚えていないとなると捜索難易度は必然的に上がる。あくまで見守るスタンスを崩さないソラリスは二人の様子をジッと見つめる。
どうしたものかと考えるあんなとみくるに、先程からベンチにペンキを塗っていた作業服を着たおじさんが気さくに声をかけてきた。
「そのバッグ、さっき同じのを持ってる人が来たよ。間違えて持っていったお兄さんを探してた」
「あんなの推理、当たってた!」
「うん!」
どうやらまたしてもあんなの直感が冴え、思わず二人は笑顔でハイタッチをした。
「その人、どこですか?」
「さあ、あっちの方へ行ったけど……」
作業服のおじさんは首を傾げた後、飲食店が立ち並ぶ方面を指さす。
「どんな人でした?」
「えっと……若い女の人で、こんな眼鏡で……髪型はこんな感じで……」
「ふむふむ……なるほど……」
作業服のおじさんの証言を聞き、みくるはプリキットブックにスラスラとペンを走らせる。
「出来た! ズバリ、この人ですね!!」
「「この人……?」」
みくるが自信満々に提示した似顔絵。それはあんなと純一が思わず絶句し、冷や汗を流す程独特なタッチの絵だった。
「おお! 彼女だ!!」
「「えええええ!?」」
「伝わってる!?」
しかし、作業服のおじさんには伝わっているようだった。
何で? 唖然とするあんなと純一だが、その横から似顔絵を見たソラリスが感心したように口を開く。
「人探しにおける似顔絵というのは、上手さより特徴を捉えているかの方が重要だ。その点、みくるの似顔絵は良く特徴を捉えられている」
「えへへ~」
「な、なるほど……!」
「みくる……おそろしい子……!」
ソラリスに褒められたみくるは頬を赤らめ照れている。同じ”絵”でも業界が違うと見方も全く異なるのかと新たな知識を得た純一。みくるの才能? に恐れおののいたあんなは思わず白目を剝いた。
「探しに行きましょう! おじさん、ありがとうございました!」
ターゲットのビジュアルは(一応)判明した。なら後はこの人物を探すだけ。作業服のおじさんにお礼をするとみくるは自信満々に走り出す。
その後ろをあんな、純一、ソラリスは付いて行った。
△
「ーーー
突き抜けるような青空にそびえ立つ高層ビルの屋上。吹き荒れる強い風の中、眼前の人混みを見下ろす三つの影。
怪盗団ファントムの幹部、ゴウエモン。
その傍らで二段アイスをもぐもぐ食べているキュアアルカナ・シャドウこと森亜るるか。そして彼女に寄り添うおとも妖精のマシュタン。
今回のマコトジュエルの奪取はゴウエモンに下されていた。そして怪盗としてのいろはを教えるためにるるかとマシュタンはウソノワールの命令とはいえ半ば強引に連れてこられた。
そのためかるるかとマシュタンは少々やる気がない。とは言え手を抜いたらウソノワールに叱責される。致し方なく冷たいアイスを頬張りながら街を見渡せる高層ビルの屋上でマコトジュエルが宿っている物を探していた。
そうしてるるかがキョロキョロと目を動かしていると、ゴウエモンの言っていた紫の包みは簡単に見つかった。
「……ぁっ、バッグ」
「……ん? お! あれは……」
絵画教室付近を歩く、紫のバッグを大事そうに抱える純一の姿を捉える。それだけではない。名探偵プリキュアのあんなとみくる。そしてーーー。
「調査対象……ソラリスもいるわね」
「うん……」
マシュタンの言葉にるるかが小さく頷く。
ウソノワールから徹底的に調査を命じられている男。
深淵の闇を思わせる黒髪黒目。少し歪んだ丸い金型に、赤い石がはめ込まれただけの飾り気のない首飾り。プリキュア以上の膂力とハンニンダーを浄化して見せた不可思議な男性、ソラリス。
そんな彼が、マコトジュエルが宿っているであろうバッグと名探偵プリキュアと共にいる。
前回の闘いを見ているだけに、正面から奪い取るのは難しい。別のアプローチが必要だとるるかが頭の中で作戦を考えていると。
「紫の包み発見! しかも例の兄ちゃんもいるなぁ!」
ゴキゴキと首や肩を鳴らし、派手に準備運動を始めるゴウエモン。
えっ、まさか正面から行くつもりじゃないよね? あと何でソラリスを見て意気揚々としてるの? 君本拠地であの闘い鑑賞してたでしょ。下手すりゃ死ぬよ?
「よぉし、ちょっくら行ってくらぁ! 新入り、オレの怪盗の仕事、見てろよ!」」
「あっ、待って……」
るるかが止める間もなく、ゴウエモンは早々と名探偵プリキュアとソラリスの元へ向かう。その巨漢からは想像もつかない身軽さで高層ビルから飛び降りていった。
呆然と立ち尽くするるかにマシュタンが一言。
「……死んだんじゃないの~?」
縁起でもないこと言うんじゃない。あとゴウエモンが死ぬ時は多分釜茹での刑になると思うから。
「はぁ……」
こうなっては仕方ない。ソラリスの調査も兼ねて自分は出来るだけ干渉せず、見学に徹しよう。
小さくため息をこぼするるかはマシュタンを抱え、ゴウエモンの後を追う。
「見つけたぜ、紫の包み!」
「「「っ!!?」」」
「……」
そして純一と名探偵プリキュア、ソラリスの目の前に堂々とゴウエモンが降り立った。るるかとマシュタンは建物の影から様子を窺う。
(……へぇ)
(やるわね……)
ゴウエモンが眼前に現れた瞬間、純一と名探偵プリキュアであるあんなとみくるは驚き身体が硬直したのに対し、ソラリスは一切の動揺を見せず、誰よりも早く純一の前に立ち守りの態勢に入った。ゴウエモンを敵と認識しての反応。その行動力と判断の速さにるるかとマシュタンは感心した。
「そのバッグ、いや……マコトジュエルを置いていってもらおうかぁ!」
「マコトジュエルって……」
「怪盗団ファントム!?」
「か、か、怪盗団!?」
「漫画の原稿が入ったバッグを見つけるの!」
「だから絶対渡さない!!」
「……純一さん、私から離れないで下さい」
「は、はい……」
それから遅れて純一とバッグを庇うようにあんなとみくるが両腕を広げる。二人は行動力はあるが判断が遅い。ニジーであったらその一瞬でバッグは盗られていただろう。危険予知に差が出たとるるかは思った。
「熱いね~! 熱くて茹で上がっちまいそうだぁ! だが、相手が悪かったぁな!!」
ゴウエモンが扇子を一振りする。瞬間、桜吹雪と共に風が彼女達を襲う。強風と視界を覆う桜吹雪に思わず目を閉じる
その隙を突いてゴウエモンが純一の持っていたバッグを強奪した。
「ハァッ! 頂いていくぜーーー」
バッグを抱え、颯爽と逃げようとしたゴウエモンだったが、ふとバッグの紐が引っ張られる感覚に襲われる。
「へへぇっ! やっぱり兄ちゃんだけは格が違うねぇ!」
「ーーーバッグは返してもらおうか」
「「ソラリス先輩!?」」
目くらましが通用しなかったにも関わらず、ゴウエモンは喜びの笑みを浮かべていた。
バッグが強奪された一瞬、ソラリスだけは目を閉じることなくゴウエモンを視界に捉え、純一を護りつつ左手の小指をバッグの紐に引っ掛けていた。
ゴウエモンは右腕を使い、ソラリスは小指だけでバッグを取り合う。
そして、徐々にバッグはソラリスへと引っ張られていく。
「マ、マジか!?」
ハンニンダーを殴り倒した膂力は十分に理解していた。しかし、実際に体験してみると雲泥の差がある。小指の力だけで、鍛え抜かれた自身の腕力を上回っている。
その事実にゴウエモンは驚愕した。
(勝てるわけないのに、何をしているのかしら?)
(うん、うかつ)
小指だけで制するソラリスに内心驚く一方、力で勝てないと理解しているため力比べに持ち込んでいるゴウエモンにるるかとマシュタンは呆れていた。
「ハッ! とんでもねぇな兄ちゃんよぉ! ますます気に入ったぜ! だが、こっちも新入りが見てるんでなぁ、ちょいとカッコ付けさせてもらうぜ!」
どこか嬉しそうに話しかけるゴウエモンが再び扇子をソラリスに向けて一振りし、桜吹雪を襲わせる。だがそれは先程の目くらましとは違い、鋭利な花びらの刃。明確な攻撃。
「ーーーっ」
直撃すれば肌は切れ、出血は免れない。ソラリスはとっさにバッグの紐を放し後ろに下がる。この程度であれば身体が勝手に回避してくれるだろうが、今の彼にその選択肢はない。
何故なら躱してしまえば後方にいるあんなとみくる、純一に直撃してしまう。
純一は言わずもがな、プリキュアに変身していないあんなとみくるに直撃してしまえば、当たり所によっては致命傷になる。
それを理解していた上で行動したゴウエモンに僅かに顔を歪ませる。故にソラリスが取った行動は、全ての花びらを打ち落とすことだった。
「スゥ……」
小さく息を吸い、握り拳を作ると己の力の一部を拳と足に纏わせる。
そして襲い掛かる桜の花びらに対し、目にも止まらぬ速さで拳と蹴りの連撃で打ち落とし、弾いていく。
「えっ!? すごい!!?」
人間業とは思えない神速、力強く花びらを打ち落とすその姿に純一は目を丸くする。
探偵ってこんなことも出来るんだぁ……と純一の中で探偵の定義が少し揺らいだ瞬間だった。
(……)
(ふーん……)
花びら一枚一枚を的確に打ち落とし、弾いている。るるかとマシュタンが注目しているのはそんなソラリスの姿…ではなく闘い方だった。
攻撃を防いでいる中、ソラリスは何度も視線を背後のあんな達に向けている。
怪我をしていないか、傷付いてないか確認するように幾度となく。
(自分のことより、他人を心配するなんて……)
打ち落とす拳と脚は痛いだろうに。それでも他者を気に掛け続けるその姿勢。
力だけが取り柄の傲慢な怪物。そんな勝手なイメージは、音を立てて崩れ去った。
(優しいわね)
(……うん)
るるかとマシュタンの中で、ソラリスの人物像が新たに再構築されていく。
強さだけでなく他者を常に気に掛けられる、優しい人。
「それじゃぁな! 今度こそ頂いていくぜ!」
全ての花びらを打ち落としたソラリスだったが、足止めに成功したゴウエモンはバッグを抱え、身軽な足取りでその場から既に逃走していた。
「待て!!」
「バッグ、取り返してきます!」
「もし何かあってはいけないから、私はここで純一さんといる。二人共、気を付けて行きなさい」
「「はい!!」」
ゴウエモンを追うためジェットが開発した探偵道具の一つ、”プリキットライト”で桃色の光を生み出し、トランポリンを作成したあんなとみくるは飛んで行った。
そんな二人とゴウエモンの背中を見届けた後、るるかとマシュタンは再びソラリスに視線を移す。
「純一さん、怪我はありませんか?」
「あ、ありません。大丈夫です」
純一の手の平や身体を服の上から触れ、怪我の有無を確かめている。純一は少したじろいでいるものの、悪意がないので素直に受け入れていた。
そして傷一つ付いていないことを確認すると。
「ーーー良かった」
表情はどこまでも平坦。しかし、その声色は深い安堵の響きが込められていた。
(……あぁ、なんて……優しい人なの)
探偵としてはマコトジュエルやバッグを護ることの方が重要だ。しかし、使命より他者を想い、慈しむその姿は感慨深いものだった。
そんなソラリスの姿を目に焼き付けたるるかは翻し、ゴウエモンと合流するためマシュタンと共にその場を後にする。
今日は晴天。薄暗い裏路地にも太陽の光が行き届いている。
彼女の記憶にこびり付いている、身も、心も、魂も焼き尽くしたあの”白銀の太陽”とは違う、陽だまりのような温かさをソラリスから感じていた。
△
「怪盗が何で僕の原稿を!?」
バッグを取り返したあんなとみくるが戻った後、そこで起きたことを話した。
そして怪盗が自身の原稿を狙っていることに純一は驚きを隠せない。それこそ漫画や小説にしか存在しない、フィクションと思われていた怪盗が実在し自分の原稿を盗もうとしているのだ。無理もない。
「原稿は渡しません!」
「私達が先に見つけます!」
「そのために私達がいます。どうか私達を……いや、彼女達を信じてあげてください」
純一の原稿が盗まれるということは、単にそこに宿るマコトジュエルが奪われるだけではない。純一の漫画家になりたいという尊い意志、そして原稿に込められた純粋な想いが踏み躙られることでもある。
そんなことは決してあってはならない。必ず原稿を先に見つけ、怪盗団ファントムの野望を阻止して見せると意気込む。
「もう……いいですよ……」
そんなあんな達とは対照的に純一は諦めたように表情が曇り、視線を落として捜査の打ち切りを提案してきた。
「僕は、みんなを笑顔にしたくて漫画を書いてるんだ。なのに……僕の漫画のせいで探偵さんが危ない目に遭うなんて嫌なんだ!!」
原稿を諦めた理由に三人は息を呑む。依頼人であるにも関わらず、探偵である自分達の身を案じていた。
他者を想い、気遣う純一の意志に胸を打たれる。しかし、それは三人も同じことだった。
「私達も同じだよ!」
「探偵も、困った人を笑顔にしたいの!」
「……貴方の原稿と想いは、必ず持って帰ります。どうか今一度、信じてください」
「探偵さん……!」
三人の揺るぎない眼差しに純一の瞳から不安が消え、希望の光が宿る。
「二人共、私は純一さんを事務所まで送迎する。その間、バッグの調査を頼めるか?」
「はい、任せてください!」
「必ず怪盗団ファントムより、先に見つけます!」
純一には安心してもらえるよう、事務所で待ってもらう。そのためにソラリスが送迎を買って出た。これは依頼人を一人で事務所に向かわせないためであり、怪盗団ファントムから純一を護るための護衛も兼ねている。
「純一さんの漫画、後で読ませてくださいね!」
「うんっ!」
手を振り、走り行くあんなとみくるを見送る純一。曇っていた先程の表情と違い、今は太陽のように輝いていた。
「私達も行きましょう」
「はい!」
二人の姿が見えなくなるまで見送ったソラリスと純一もまた、キュアット探偵事務所へと歩みを進めた。
Q.ソラリス先輩、何であんなに料理上手なんですか?(byあんな)
A.5年くらい一人で暮らしてきたから。自然と身に付いた。
Q.ソラリス先輩の礼儀作法、どこで習ったんですか?(byみくる)
A.小さいころ、主に母親から教わった。テーブルマナーもお手の物やで。
ただし箸には悪戦苦闘中。
Q.絵の具の匂い何て分からなかったぞ?(byジェット)
A.ソラリスがおかしいだけ。普通は気付かない。
Q.兄ちゃん派手に強ぇな。筋トレしてんのか?(byゴウエモン)
A.筋トレはしてないが、トレーニングはしていた。
ただし、日本に来てからは忙しくて殆どやってない。
Q.とても優しい……どうして……?(byるるか)
A.愛情を持って母親に育てられたから。あと運命的な出会いがソラリスをより強くそうさせた。