名探偵プリキュア! ~白銀の太陽は昇る~   作:nest1965

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キュアアルカナ・シャドウの変身バンクを見て思ったのは

「キュアエクレール、お前の変身バンクはどうなるんだ?」です。

ハードル上がりすぎじゃな~い? 

それはそれとしてキュアアルカナ・シャドウの変身バンクを見れて大満足。

そんなこんなで今回もみなさんの暇つぶしの一つになると幸いです。

それではどうぞ。


第5話

 

 

 

 

 

 

「―――えぇっ!? ソラリスさん(・・・・・・)、漫画読んだことないんですか!?」

 

 あんなとみくるが調査のために別方向へ向かった後、キュアット探偵事務所へ向かう道中、不審な影がないか秘かに護衛を続けながらソラリスと純一は雑談をしていた。

 

「えぇ、漫画を読む機会がありませんでしたし、読める環境もなかったので……」

 

「ちょっと勿体ないですね……」

 

 純一は心底驚いた様子で肩を落とした。

 

 当初、この対話は純一の緊張を解き、彼を安心させるための何気ないコミュニケーションに過ぎなかった。しかし、会話を重ねる内にソラリスが自分と年齢の近い青年であることを知った純一は、急速に親近感を抱き始めていた。

 

『探偵さん』という硬い呼び名を捨て、名前で呼びたいという提案をソラリスが穏やかに了承したことで、今や二人の間には『ソラリスさん』という親しみを込めた響きが通い合っている。

 

「漫画と言うのはそんなに面白いのですか?」

 

「えぇっ! それはもう!」

 

 その問いに純一の情熱に火をつけた。

 

 紙の上の宇宙――コマ割りによる時間の支配、ペンの種類が描き出す感情の輪郭、そして物語が読者の心に火を灯す瞬間。専門的な知識から、彼が愛してやまない名作の熱い展開まで、純一は身振り手振りを交えて語り続けた。

 

 その瞳はキラキラと輝き、先ほどまでの怯えは霧散している。心の底から楽しそうな純一の横顔を見て、ソラリスは自然と嬉しくなった。

 

「少し、漫画に興味が出てきました」

 

「あっ、それでしたらオススメの漫画いっぱいありますよ!」

 

 

 純一は待ってましたと言わんばかりに王道のバトル漫画や探偵事務所に相応しい緻密な推理漫画のタイトルを次々と挙げていく。だが、ソラリスが求めたのは、既成の名作ではなかった。

 

「私は純一さんの漫画を読んでみたい」

 

「えっ!? 僕の!!?」

 

 不意の指名に純一の思考が真っ白になる。

 

 まだプロでもない、自分の拙い原稿。筆致も未熟で構成だって完璧とは言えない。そんな素人の漫画など、天下の娯楽作品に比べれば無価値に等しいのではないか。純一は慌てて首を横に振り、より洗練された別の漫画を必死に勧めようとした。

 

「純一さんは漫画家に絶対になると言いました。そんな素晴らしい志を持った貴方の漫画を、私はどの漫画よりも読んでみたい」

 

 数多の完成された名作よりも、夢に向かって踠き、今この瞬間を懸命に生きている”目の前”の純一という人間が、魂を削って生み出した物語。それこそが、ソラリスにとって何よりも価値のある、魅力的な宝石に映ってい。

 

「どうか、純一さんの漫画を私が人生で初めて読む漫画にして欲しい」

 

「な、何か責任重大ですけど……僕の漫画で良ければ、ぜひ!」

 

 自分の描いた世界をここまで真剣に、そして真っ直ぐに求めてくれる。その事実に純一の胸には熱い喜びが込み上げた。

 

 その後、二人は他愛のない会話を続けながら歩みを進めた。5分、10分と時間は過ぎ、事務所の看板が見え始めた頃、純一はずっと胸に秘めていた疑問を口にした。

 

「ソラリスさんって、何か格闘技とかやってるんですか? ボクシングとか? 空手とか?」

 

 鋭利な刃と化した桜吹雪を目にも留まらぬ速さで全て叩き落とし、無効化したソラリスの背中。格闘技をやったことのない純一の目から見ても、その動きは人間が到達し得る領域を逸脱していた。

 

 男として一度は夢見た最強という頂き。幼き日に憧れ、叶わぬと思いつつも幾度と夢想したそれを体現したであろう人物が目に前にいる。

 

 同じ男として憧れを抱くと共にもしかしたら今後、自分が描く漫画のネタに出来るのではないか―――そんな期待も混じっていた。

 

「いえ、私が使う"力"はそう言った類いのものではありません」

 

「それじゃ、いったい……?」

 

 ソラリスは歩みを止めず、ふと空を見上げるように目線を泳がせた。

 

 この体の中に流れる理は、まだあんなやみくるには明かしていない。理解しているのは現状ジェットのみ。だが、別に隠し立てしているわけでもない。

 

 特に話しても問題ないと結論付けるが、あの"力"をどう訳すのが正しいか決めかねた。

 

 

 意識と肉体を切り離し、無意識に任せる。

 

 

 あらゆる危機に対し、肉体が自動で攻撃と回避を繰り出す。

 

 

 【身】体が【勝手】に動く【極意】。

 

 

 少し頭を捻った後、おそらくこの言葉、このニュアンスが正しいだろうと自分が知る日本語を繋ぎ合わせて口にした。

 

 

 

 

 

 

「二人共、バッグの行方は分かった?」

 

 純一を無事に事務所へ送り届けた後、すぐにプリキットボイスメモであんなとみくるに連絡を入れたソラリスは、二人がいると言う駅前に向かった。

 

 そして合流すると、焦燥に駆られた様子のあんなとみくるがソラリスの姿を見つけるなり駆け寄ってくる。

 

「それが……」

 

「まだ分からなくて……」

 

 二人の推理によると、バッグの本来の持ち主は飲食店関係者で、食材の中身にりんごが入っていたことからカレー屋さんではないかと思い調査を進めたのだが、そもそも食材の鮮度が悪くて食材に使えないと店主に言われ振り出しに戻された。

 

 そして調査に行き詰まった二人は状況を一度整理するため、探偵の鉄則に従って駅前に戻っていたのだが、その表情には隠しきれない焦りがあった。

 

「……ソラリス先輩はバッグがどこにあるか分かりますか?」

 

 推理に行き詰まり、考え込む中ソラリスと目が合ったあんなが縋るような思いで黒い瞳を覗き込んだ。みくるもまた、期待を込めて彼を見つめる。

 

 途中まで一緒にいたソラリスなら、自分達が見落とした何かを掴んでいるのではないか。もしヒントが得られれば――そう願った彼女達に、ソラリスは淡々と、しかし衝撃的な事実を告げた。

 

「あぁ、分かっている」

 

「「えぇっ!?」」

 

 ソラリスはバッグがどこにあるのか分かっているようだった。

 

「い、いつからですか!?」

 

「純一さんがバッグの中身を出した時に、おおよそ分かった」

 

 みくるの驚愕に答えるソラリスの声は凪いだ海のように静かだった。

 

 つまり調査を開始する前、事務所にいたあの瞬間にソラリスは既にゴールを知っていたのだ。その事実に、少女達の間に戦慄が走る。

 

「な、何で教えてくれなかったんですか!?」

 

「この依頼は君達が引き受けたものだ。それに、活躍を見て欲しいと言っていたから、何も言わなかったんだ」

 

「今そんなこと言ってる場合じゃないですよ!? 怪盗団ファントムが原稿を狙ってるんです! このままじゃ原稿も、マコトジュエルも盗られちゃいます! ソラリス先輩、教えてください! バッグはどこにあるんですか!?」

 

 このままではゴウエモンが原稿を先に見つけ、盗られてしまう。純一との約束を守るため、何としても先に見つけなければいけない。必死に答えを求める二人の姿にソラリスは僅かに目を細めた。

 

 今の二人は自分達がこれまで積み上げてきた推理の足跡を捨てようとしている。ここまでの努力を無かったことにしようとしていた。

 

 その危うさをソラリスは見過ごすことが出来なかった。自分で見て、思い、感じて導き出した答えこそが、二人を真の探偵へと成長させる唯一の糧なのだから。

 

 しかし、怪盗団ファントムから原稿を守ることを考えるあまり、それらを自ら手放そうとしていた。

 

「……二人は、それで良いのか?」 

 

「「えっ……?」」

 

 言いたいことは分かる。しかし二人はまだ14歳の子供。これからもっと多くのものを学び経験していくだろう。

 

 今回の経験もその一つ。だから無碍して欲しくない。ソラリスは右膝を地面に付け、二人に目線を合わせると諭すように言葉を紡いだ。

 

「確かに原稿もマコトジュエルも盗られるわけにはいかない。でも、私が答えを言ってしまったら、それまでの君達の努力はどうなる? 無駄になってしまうだろう」

 

「そ、それは……」

 

「そうですけど……」

 

 あんなの直感やみくるの似顔絵。バッグの足跡を辿るための推理や行動は決して無駄ではない。駅前に戻ったのも状況を初めから整理するため。振り出しに戻ったのではなく、着実に真実に近付いている。

 

「答えを求めることは悪いことじゃない。だが、求めすぎると見えてるはずだった真実を見失うかもしれない。それに、これからの依頼で分からないことがあったら、その度に私に答えを聞くのか?」

 

「「……っ」」

 

 ソラリスの問いかけに二人は言葉が詰まる。今回こそソラリスが同行したものの、これから依頼を受けていく中で自分達だけで事件を解決しなければならない時が必ずある。その度にソラリスがいなかったから事件を解決出来ませんでした、では話にならない。依頼人にも迷惑が掛かる。

 

「大切なのは”答え”だけではなく、そこへ辿り着くまでの"過程"も大切だと私は思っている」

 

「"答え"だけではなく……」

 

「"過程"ですか……?」

 

 反復するように言葉を口にするあんなとみくるにソラリスは小さく頷く。

 

「取り組んだ過程での挑戦や失敗から学び、次の成功に繋げることが出来る。そうしていけば、自然と答えに辿り着くことが出来る。何故ならその答えに向かって進んでいるわけだから……違うか?」

 

「「―――!」」

 

 ソラリスの言葉は二人の心に深く刺さった。

 

 原稿もマコトジュエルも大切だ。怪盗団ファントムに盗られるわけにはいかない。ここでソラリスから答えを聞けばゴウエモンより先に原稿へ辿り着けるかもしれない。

 

 しかし、それはソラリスの答えであって二人の答えではない。自分達が頑張って進んでいる道が、ソラリスの道になってしまう。

 

 自分達は今、自分達の道を踏み外そうとしていた。それをソラリスが正してくれている。

 

「……ごめんなさい、ソラリス先輩。わたし、焦ってました……」

 

「迷惑、かけちゃいました……」

 

 その事実を理解して飲み込んだ時、二人は自身の行動を恥じ、深々と頭を下げた。

 

(……本当に良い子達だ)

 

 自分の過ちを素直に認め、謝罪する。心の底から彼女達の素直さと純粋な心を持つあんなとみくるを尊く感じたソラリスは、思わず頭を撫でた。

 

「そ、ソラリス先輩……?」

 

「えっと……そのぉ……」

 

 不意の接触に、二人の頬が林檎のように赤く染まる。14歳の少女にとって、異性に頭を撫でられるのは本来、抵抗があるはずの行為。しかし、ソラリスの手から伝わってくるのは、絶対的な安心感と深い慈愛。

 

 男性特有の大きくて分厚い手の平。しかし、その触れ方はとても優しくて温かみと慈しみを含んでいる。

 

 まるで父親の温もりに似た、包み込むような優しさ。

 

 その心地良さに二人は恥ずかしがりながらも、そっと目を瞑ってその温もりを受け入れた。

 

「大丈夫。原稿が盗られそうになったらその時は私も手を出す。だからもう少しだけ二人で頑張ってみないか?」

 

「「―――! はい!」」

 

 離れていく手の重みを名残惜しく感じながらも、二人の瞳には再び探偵としての鋭い光が宿った。

 

「純一さんはここでぶつかってバッグを落とした」

 

 そして自分達だけの答えを導き出すべく、あんなとみくるはバッグを見直しながら再び推理を始め、ソラリスは一歩下がり、彼女達の推理を静かに見守る。

 

「……ん? 落として汚れたのかと思ったけど、アスファルトだよ?」

 

「本当だ!」

 

 地面は土や砂などない、舗装されたアスファルト。人の往来で多少は汚れているがバッグを落としたとして付着している大きなシミなんて出来るはずない。

 

 つまりバッグのシミは落としたから出来たのではなく、元々付着していたもの。

 

「ポチぃぃぃ!」

 

「あ、ポチタン! ペンキ塗り立てだって!」

 

 思考に耽っていると、突如ポチタンが右手を上下に振りながら泣き叫んでいた。見れば手に青いペンキが塗りたくられている。どうやら先程作業服のおじさんが塗っていたベンチを興味本位で触ってしまったようだ。

 

「ポチ! ポチぃ……」

 

「ポチタン!」

 

「ハンカチは持ってるか?」

 

「はい。もう、ちゃんと落ちるかな……」

 

 確認をするソラリスにあんなが返事をし、ハンカチをポケットから取り出す。その際、折り畳まれた一枚の紙がするっと落ちた。

 

「何か落ちたけど……」

 

 拾ったみくるが紙を広げる。それはゴウエモンの襲撃を受ける前、女性が配っていた絵画教室”アトリエブレンティ”のチラシだった。

 

「「……あっ!」」

 

 バッグのシミ。鮮度の低い野菜。そして、このチラシ。脳内で、散らばっていたピースが凄まじい速度で組み合わさっていく。

 

「「見えた! これが、わたし達の答えだ!」」

 

 二人の中でバラバラだった点が繋がっていく。世界が青く広がっていく。

 

「……バッグがどこにあるか、分かったか?」

 

「はい! バッグはきっと!」

 

「あそこだ!」

 

 自分達だけの答え()がようやく見えてきた。あんなとみくるはバッグがあるであろう”あの場所”へ急いで駆け出し、その後をソラリスが追う。

 

 そんな三人の道を導くように、太陽が照らしていた。

 

 

 

 

 

 

「「あれって、純一さんのバッグ!」」

 

「これでは確かに見間違えても仕方ない……」

 

 三人が辿り着いたのは絵画教室”アトリエブレンティ”。そこには眼鏡をかけた紫色のセミロング、ウェーブがかかった髪型、みくるの描いた似顔絵の特徴を持つ女性がいた。

 

 そして教室に案内されるとあんなが持つバッグとよく似た、純一のバッグが窓際のロッカーの上に置かれていた。

 

「お三方、良くここだって分かりましたね!」

 

 広大なまことみらい市には無数の建物が乱立している。その中から何の手がかりもないはずのこの教室へ、ピンポイントで辿り着いた探偵達の手腕に心底感心しているようだった。

 

「バッグに付いている汚れは土じゃないし、エプロンもケチャップじゃない。ペンキが付いたハンカチを見て思ったんです。汚れはペンキじゃないかって」

 

「でも、このチラシを見て思ったんです。付いてたのは絵の具だって! バッグに入ってたものは食材として不適切……」

 

「でも、絵の練習には使える!」

 

「そうなんです。本当、良く分かりましたね?」

 

 バッグを女性に返却するあんな。

 

 きっかけは偶然落としたチラシだった。だが、そこからバッグやエプロンの汚れ、そしてカレー屋店主の「食材が古い」という些細な情報を一つに繋ぎ合わせ、答えを導き出した。

 

 それはソラリスが言った「過程」を大切にした二人が掴み取った答えだった。

 

「そう言えば、ソラリス先輩は純一さんのバッグが絵画教室にあるって、どうして分かったんですか?」

 

 みくるの発言はあんなも気になっていた。純一が事務所でバッグの中身を出した時におおよそ分かったと言っていたが、あの時点で絵画教室にバッグがあると何故確定出来たのか、その理由が全く分からなかった。

 

「匂いだ」

 

「「匂い?」」

 

 ソラリスは右手の人差し指を自身の鼻先に当て、平然と答えた。

 

「二人の推理と同じで、まず食材は料理として使うには鮮度が悪い。加えてビニール袋に入れないままバッグに入っていた。この時点で食材は料理に使うものではないと思った。極めつけは匂い。バッグとエプロンのシミから絵の具の匂いがしていた。そして鮮度の悪い食材はデッサンとして使える……このことからバッグの持ち主は絵画教室にいると判断したんだ」

 

 あんなとみくるが自力で正解に辿り着いた今、もう隠しておく必要はないだろうと、今度はソラリスが自身の推理を展開した。

 

「す、すごい……匂いでバッグのある場所を当てちゃうなんて……!」

 

 匂いから絵の具だと判別し、早い段階で自分達とは全く異なる推理で答えを導き出したソラリス。名探偵を志すみくるにとって、ソラリスの推理に驚嘆するしかなく、目を輝かせながら尊敬の眼差しを向ける。

 

「……? ちょっと待ってください」

 

 対してあんなは女性に渡したバックのシミに顔を近付け、匂いを嗅ぐ。確かに絵の具の匂いはする。しかし、鼻を間近まで近付けないと感じ取れないほど薄いものだった。

 

「……ソラリス先輩って、バッグを一度も持ってませんでしたよね?」

 

「そうだな……?」

 

「鼻をここまで近付けないと匂いが分からなかったんですけど……?」

 

「私は鼻が良いらしい」

 

「良すぎですよ?」

 

 この先輩、嗅覚鋭すぎでは? あんなは訝しんだ。

 

 ただ事件は解決し、怪盗団ファントムより先にバッグを見つけた。後は純一に返すだけだった。

 

「ほう、なかなか面白い漫画だ」

 

 聞き覚えのある声が彼らの鼓膜を震わせる。咄嗟に声の方向、窓へと視線を向ける。

 

 そこにはいつの間にか純一のバッグを抱え、漫画を読み耽る巨漢の影―――ゴウエモンがいた。

 

 その存在を目視した瞬間、あんなとみくるの脳が身体に動けと電気信号を送る前にソラリスが動いた。

 

 踏み込みも予備動作もない、ほぼノーモーションからの接近。

 

 圧倒的速度と瞬発力。

 

 ソラリスの動きはあんなとみくる、絵画教室の先生の認識を置き去りにしていた。

 

「危ねぇ! 何て速さしてやがる! だがオレの方が一枚上手だったなぁ兄ちゃん。それじゃ頂いていくぞ! とうっ!」

 

 原稿を奪還せんと伸ばされたソラリスの指先を、ゴウエモンは紙一重で躱され空を切る鋭い音が響く。

 

 原稿に手を伸ばし、取り返そうとしたが寸前のところで躱され手が風を切る。そしてゴウエモンはそのまま窓から軽やかに跳び上がり、逃走を図った。

 

「……あぁっ! 純一さんの原稿!」

 

「早く取り返さないと!」

 

 原稿が盗られたことを遅れて認識したあんなとみくるは追跡のため絵画教室を急いで出ていく。ソラリスも窓から身を乗り出し、空を飛ぶように屋根を伝うゴウエモンの背を射抜くような視線で見据えた後、二人の背中を追った。

 

 

 

 

 

「しっかしあの兄ちゃん、ホントどうなってやがるんだ?」

 

 絵画教室から街の裏路地まで跳躍したゴウエモンは興味と困惑が入り混じった表情を作りながら、ソラリスのことを思い返していた。

 

 初めて認知したのはアゲセーヌの闘いを本拠地の劇場で観賞していた時のこと。あの巨躯のハンニンダーを前にして無防備を晒すソラリスを馬鹿な人間だと思い冷めた目で見ていた。

 

 しかし、蓋を開けてみればハンニンダーを拳一つで殴り倒し、攻撃を片手で往なした挙句浄化して見せた。

 

 その地味な見た目に反して派手な強さは大いに興味が沸いた。だから少しばかりちょっかいを出して花びらの攻撃を繰り出してみたのだが、それすらも全て防いで見せた。

 

 極めつけは先の原稿を取り返そうとして接近した時の動き。とてつもない速さだった。躱せたのは奇跡に近かった。

 

「あんな人間もこの世にいるとは……世界は広いねぇ!」

 

 力と言い速さと言い、人間の域を軽く超えている。それでもゴウエモンに恐怖心はない。ただ純粋にソラリスと言う人間を評価し、存在そのものに対して子供のようにはしゃいでいた。

 

「待てぇ!」

 

「逃がさないよ!」

 

 そうして思い耽っていると前方の建物の影からあんなとみくるが飛び出し、ゴウエモンを追い詰める。

 

「ほう……もう追い付くとはなぁ!」

 

 翻して再び逃走を図るゴウエモン。しかし、あんなとみくるがここに来ているということは―――。

 

「ハッ! やっぱりか!」

 

「純一さんのバッグを返してもらおう」

 

 当然ソラリスも追い付いており、反対側の逃げ道を塞ぐように立っていた。

 

 挟み撃ちにされ、完全に退路を断たれたゴウエモンだがその顔に焦りはなくどこか余裕に満ちている。

 

「何故絵画教室に原稿があるって分かったの!?」

 

 バッグを強奪されてから返されるまでそう時間は掛かっていない。しかし、その僅かな時間で純一のバッグが絵画教室にあると特定してみせた。疑問をぶつけるみくるにゴウエモンが答える。

 

「パンだよ」

 

「パン……?」

 

「あぁ、新人が気付いたんだ」

 

「……確かに、消しゴムよりも柔らかく、紙を傷つけないと言う理由でパンが使われることはある」

 

 自分達とは違う、バッグに入っていたパンを見て答えに辿り着いたその推理力にソラリスも内心舌を巻く。

 

 少なくても怪盗団ファントムには探偵と同等かそれ以上の頭脳を持った者がいる。しかし、それ以上に引っ掛かる発言をゴウエモンがしていた。

 

「怪盗団ファントムには、以前闘った女とこの者以外にもいるのか……?」

 

 新人と言う単語。ソラリスにとって怪盗団ファントムの幹部は、アゲセーヌと目の前のゴウエモンしか知らない。それ以外に存在するのかと疑念を抱く。

 

「はい! ニジーって言うんですけど……」

 

「それ以外にもいたなんて……!」

 

 アゲセーヌにゴウエモン、そしてニジー。あんなとみくるが知る怪盗団ファントムの幹部。しかし、新人と呼ばれた存在は知らなかった。故に二人も驚きを隠せない

 

「このオレに追い付いたご褒美をやろう!」

 

 そんな彼らを他所に、不敵に笑うゴウエモンが扇子を取り出し。

 

「ウソよ覆え! 来やがれ、ハンニンダー!」

 

 扇子から放たれた桜吹雪が純一の原稿に吸い込まれる。そこに宿っているマコトジュエルがウソに蝕まれ、本来の輝きが失われていく。

 

 そして、覆われた桜吹雪が四散するとマコトジュエルを媒体に生誕した”それ”が姿を現した。

 

「ハンニンダ~!」

 

 漫画の原稿を模した異形の怪物。人の想いを踏み躙り、蔑んだ末に生まれる存在、ハンニンダー。

 

「……二人共、準備を」

 

「「はい!」」

 

 腰を低く落とし、静かに拳を握り構えを取るソラリス。あんなもみくるも呼応するように首に下げていたペンダントに手をかけ―――。

 

 ソラリスは初めて二人の変身を目撃する。

 

「「オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

 ペンダントは目も眩むほどの光を放つと、その形を七色の懐中時計からジュエルキュアウォッチへと変える。

 

 そして己のマコトジュエルを慣れた手つきでセットすると、その容姿は大きく変化していった。

 

「「プリキュア! ウェイクアップタイム! サン! 」」

 

「見つける!」

 

 二人同時に長針を3に合わせて回していく。

 

 するとあんなのオレンジ色の明るい茶髪は紫色のロングヘアーをお団子型のツインテールに纏め、ツインテールはピンク色となるグラデーションをかけ、毛先はハート型へと変化する。

 

 みくるも小豆色の髪色からピンク色のロングヘアーへと変化。三つ編みにまとめ、髪は切り揃えられ、ピンク色から薄紫色のグラデーションをかける。

 

 瞳の色もまた変化した。

 

 あんなは水色に近い青緑、みくるは瞳は紫色。どちらの瞳にもハートのハイライトが追加されている。

 

「「ロク! 向き合う!」」

 

 長針を6へと回す。

 

 みくるの服装は光が弾けると同時にノースリーブワンピースに見えるようなドレスを身に纏い、背中には水色の大きなリボンが装着される。

 

 あんなも背中に黄色いリボンとフリルの付いた可愛らしい紫を強調したワンピースタイプのドレスに身を包まれる。

 

「「キュー! 奇跡のふたり!」」

 

 長針を9へ。

 

 足先からそれぞれ紫とピンクの光に包まれ、弾けるとあんなは紫、みくるはピンクのパンプスを履き、白のオーバーニーソックスを合わせる。

 

 あんなの両手には薄い水色のフィンガーレスグローブの上に薄紫色のオープンフィンガーグローブを着用し、みくるも薄紫色のフィンガーレスグローブの上に薄ピンク色のオープンフィンガーグローブ。

 

 それぞれの髪色を思わせるネイルも施される。

 

「くるっと回して!」

 

「キュートに決めるよ!」

 

 長針を11に指し。

 

 あんなは両サイドのお団子に羽根の付いた髪飾りと両耳にピアスを添え。みくるはリボンの髪飾りと同じくピアスを両耳に。

 

 胸元にリボン型のネクタイと肩には短めのケープが重なる。

 

 そして最後に服装の腰に装着されたキャリーにジュエルキュアウォッチに収まり―――変身が完了した。

 

「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」

 

「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」

 

 決めポーズを取った二人はどちらからともなく近付き、手を取り合うと。

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

 弾ける光と共に名乗りを上げる。歴史上数人しかいなかったとされる伝説の存在、名探偵プリキュア。

 

(これが、二人の変身……名探偵プリキュアか……っ)

 

 髪色も長さも服装も、何もかも変化した。

 

 14歳の少女とは思えない、女神を彷彿とさせる美しさ。

 

 他者を想いやり、濁りのない純粋で優しい心はそのままに”力の質”は透き通るようなものに変わっている。

 

 初めて会った時は既に変身した後だったが、こうして変身過程を見せつけられると改めて二人が伝説の存在だと思い知らされる。

 

(流石に私のものとは大きく違うか……)

 

 ソラリスはプリキュアでないためキュアアンサーやキュアミスティックのような変身は出来ない。

 

 出来るとするならジェットの許しを得た時、初めて本来のあるべき姿に戻れる(・・・)ということだけ。

 

「ハン、ニン、ダー!」

 

 自分との違いを確認するようにキュアアンサー、キュアミスティックを見つめていると、飛び跳ねたハンニンダーが重力に従いながら拳を突き出してきた。

 

 ソラリスとキュアアンサー、キュアミスティックは後方に跳躍して躱す。

 

《THUMP!》

 

 拳がアスファルトにめり込み、衝撃が空気を震わせるがそれだけで終わらなかった。何やら妙な言葉のエフェクトが出てかと思えばそれが質量を持って三人に襲い掛かる。

 

 着地したソラリスは襲い掛かる言葉のエフェクトから二人を護るため、一歩前に出ると左手に己の力を纏わせ、受け止めると同時に握り潰す。たったそれだけで言葉のエフェクトは四散した。

 

「ソラリス先輩!」

 

「ありがとうございます!」

 

 自分達を護ってくれたことに感謝しつつ、キュアアンサーとキュアミスティックは息を合わせるようにハンニンダーへと跳び込み、反撃の跳び蹴りを入れようとする。

 

「ハンニンダー!」

 

「「きゃぁぁっ!」」

 

 しかし、二人の攻撃は何事もなかったかのように《POW!》いうエフェクトと共に弾かれてしまう。

 

 体勢が崩れるがそこへソラリスが駆けつけ、跳躍すると右腕にキュアミスティック、左腕にキュアアンサーを受け止め、優しく抱きしめる。

 

(はぇっ!? ソラリス先輩の腕ぇ!?)

 

(硬った……太っとぉ……)

 

 肌を見せないゆったりと余裕のある服装であるため外見ではあまり分からなかったが、抱きしめられたことでソラリスが持つ筋肉の質が直に感じられた。

 

 太い前腕と上腕二頭筋。分厚い胸板。まさに男を体現したようなそれは思春期真っ只中の少女達には少々刺激が強い。

 

 地上に降りる少しの間、さり気なく腕や胸板を触っちゃったりしている。

 

「アンサー、ミスティック、怪我は?」

 

「な、ないです……」

 

「大丈夫ですぅ……」

 

「……良し」

 

 お姫様のように優しく下されたキュアアンサーとキュアミスティックはソラリスを直視出来ず、顔を赤くして俯きながら返答をした。

 

 父親のようだと思っていたら急に男らしさが見えてしまい、闘いの最中だと言うのにちょっと意識してしまった。

 

「ハンニンダー!」

 

 ハンニンダーの叫び声により二人の意識は再び闘いに向けられる。しっかりしなければならないとまだ熱い頬を叩き、気を取り直すようにソラリスと共にハンニンダーへ身体を向ける。

 

「天晴だ! これがハンニンダーか。さすがはウソノワール様から授かった力!」

 

「ウソノワール……?」 

 

 ゴウエモンの発言にキュアアンサーとキュアミスティックが反応する。

 

「ああ、そうだ。我が怪盗団ファントムの偉大なるボス、ウソノワール様だ!」

 

 ハンニンダーが被るシルクハットの上に胡坐を掻き、腕を組むゴウエモンは自慢するかのように高らかに己のトップの名を口にする。

 

(ウソノワール……奴が関わっていたか……)

 

 その名を聞いたソラリスは静かに眉を歪める。

 

 ウソノワール。

 

 怪盗団ファントムの首領。その存在は良く知っていた。

 

 ソラリスにとっては探偵として本格的に活動するきっかけとなった始まりの人物であり、キュアアンサーとキュアミスティックが今こうして痛み、傷付き、苦しませてしまっている……己がしくじったがためにこの状況を作り出してしまった、全ての元凶。

 

「マコトジュエルはウソノワール様のために持ち帰る! だから兄ちゃん共々、お前達プリキュアには消えてもらう!」

 

「ハンニンダー!」

 

 ゴウエモンの指示によりハンニンダーは幾度となく攻撃を繰り出していく。単純な打撃なら回避してから攻撃を出せるが、その後に発生するエフェクト文字の二段攻撃はどこまでも不規則。

 

 キュアアンサーとキュアミスティックに直撃しそうになればその度に間に入って弾き、防いでいるが……それだけ。ソラリスをもってしても中々攻撃に転じられない。

 

「人を楽しませたいっていう純一さんの漫画を、こんなことに使うなんて!!」

 

「知ったことか!! ウソノワール様がお喜びになればそれでいい!」

 

 純一の原稿をハンニンダーに変え、戦いの道具に利用しているゴウエモンに怒りの叫びを上げるキュアアンサー。だが、ゴウエモン、強いては怪盗団ファントムにとってウソノワールが全てであり絶対。そこに込められた想いや被害者のことなど、どうでも良かった。

 

「……」

 

 他者の意志を尊重しないゴウエモンに目を静かに細め、自然と拳に力が入るソラリス。

 

 誰かが嬉しそうな顔をしていると自分も嬉しい気持ちになる。反対に哀しそうな顔をしていると同じように哀しくなる。

 

 人の想いは宝石のように美しい。

 

 頑張る姿は応援したくなる。

 

 故にゴウエモンやアゲセーヌ、そしてウソノワールと言った怪盗団ファントムが、何故そう簡単に人を哀しませ、想いを踏み躙ることが出来るのか。全く理解出来なかった。

 

「くぅっ、……ソラリス先輩! 前にハンニンダーを倒した時の力、使ってください!」

 

 ハンニンダーの攻撃が一旦止み、体勢を整えるため距離を取る三人。攻めきれない状況にもどかしさを感じたキュアミスティックが近付き、力の行使を提案した。

 

 思い返すは亀のハンニンダーを自分達とは全く異なる方法で優しく浄化して見せたあの”力”。接触しなければならないという点はプリキュアと同じだが、ハンニンダーの攻撃を躱すその姿は舞踊のように軽やか。

 

 自分達より、ソラリスが攻撃を躱しつつ接近してあの”力”を使えば確実に倒せるとキュアミスティックは判断していた。

 

「……すまない、あの”力”は今使えないんだ」

 

「「えぇぇっ!?」」

 

 しかし、ソラリスの答えはNO。まさかの返答にキュアアンサーとキュアミスティックは驚愕の叫びを上げた。

 

「何でですか!? も、もしかしてそう簡単に使えない必殺技だったとか……?」

 

「いや、そうじゃない。あれはジェットの許可がないと使えないんだ。彼とそう言う約束を交わしている」

 

 許可と言う言葉に二人は反応する。思い返してみれば、亀のハンニンダーを浄化出来ると言った際も「ジェットから許可は貰ってる」と言っていた。

 

 つまりはあの"力"を行使するにはジェットの許しが必要であり、そのジェットがいないこの状況では使用不可と言うこと。

 

 あの時の”許可”の意味を二人は漸く理解した。

 

 ……最も、あの”力”は強大すぎるゆえに周囲に悪影響を与えてしまうため、そうそう使えるものではないとこの時の二人はまだ知る由もない。

 

「ほう、いい事を聞いた。つまりプリキュアを倒してしまえばオレの勝ちというわけだな! やれ、ハンニンダー!」

 

「ハン! ニン! ダァァー!」

 

 ソラリス達の会話を盗み聞きしたゴウエモンが命令を下す。

 

 ハンニンダーは力を滾らせると、全身を使って《ZAP!》と文字の入った光線を打ち出した。

 

 熱を帯びたそれは速度も質量も先程の拳と段違い。直撃すればひとたまりもない。キュアアンサーとキュアミスティックがこの場にいる以上回避の選択肢は捨てる。腰を落とし、体内に宿る力の源泉を右の拳に更に集中させる。

 

 しかし、そこへキュアミスティックが前に立つと、ジュエルキュアウォッチの針を11に滑らせた後、自身の前に指先で大きく長方形を描く。

 

 やがて指先でなぞった線は実体を持ち、赤い宝石のような透明な障壁となって出現した。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

 生み出された宝石のバリアーはハンニンダーの光線を正面から受け止める。

 

「くっ……!」

 

 轟音と閃光が撒き散らされる。キュアミスティックは一瞬苦悶の表情を浮かべるが、負けじと衝撃に耐えるように両脚を踏ん張る。

 

「はあぁっ!」

 

 そして押し返すようにバリアーを突き出すと、ハンニンダーの光線は力の行き場を失ったかのように四散した。

 

「な、なにぃぃ!?」

 

 それまで打撃主体だったプリキュアがまさか防御技を使ってきたこと、光線を防ぎ切ったことにゴウエモンは大げさだが確かに驚いた。

 

「ミスティック、助かった」

 

 まさか自分が護られる側になるとは思ってもいなかったソラリス。しかし、あの光線に怯むことなく立ち向かい、防いで見せたキュアミスティックの勇敢な行動を手放しに称賛した。

 

「えへへ、私だってこういうことくらいは出来るんですよ!」

 

「よぉし、次は私の番!」

 

 気合を入れるキュアアンサーは同じく針を回す。そして両手を腰に持っていくとジュエルキュアウォッチを持つ右手に紫の光と共に力が集中されていく。

 

「ハンニンダーを倒すのは君達だ。私はサポートに回る」

 

 ハンニンダーを倒せるのはソラリスだけではない。プリキュアの二人にだってハンニンダーを、ウソに蝕まれたマコトジュエルを浄化する力を持っている。だからソラリスは後方支援に回ることを決意し、右の掌を頭上に持っていき―――。

 

 ここへ来て初めて己の力を世界へと顕現させた。

 

「な、なんだそりゃ!?」

 

 その異様な光景にゴウエモンが目を剥き。

 

「ソラリス先輩……それは……!?」

 

 摩訶不思議な現象にキュアミスティックが大きく目を見開き。

 

「た……太陽……?」

 

 凄まじい威を秘めたその存在に、キュアアンサーの身体が無意識に震えた。

 

 誰もが”それ”から目を離せない。

 

 ソラリスの掌から1m程の赤い光弾が生成されてた。

 

 熱を帯び、この場を照り付くそれはまるで太陽を彷彿をさせた。

 

「詳しくは後で話すが、今はこれがアンサーを助けると思ってくれれば良い」

 

 そう言って、ソラリスは右手に力を集中させているキュアアンサーに視線を向ける。

 

「アンサー、君のその力をぶつけてやれ」

 

「っ! はい!」

 

「何だってんだそりゃ!? そんなことも出来んのかよ!? いくら何でも出鱈目すぎやしねぇか兄ちゃんよぉ!」

 

「ハンニン、ダァァー!」

 

 即発されたキュアアンサーは溜めに溜めたその力を右手に纏わせながらハンニンダーへ直進していく。ソラリスが生み出した奇天烈な力に興奮するゴウエモンだが、今重要なのはマコトジュエルの奪取でありプリキュア達の撃破。ここでやられるわけにはいかないとハンニンダーに命令を飛ばし、それに呼応してハンニンダーが巨拳を振り上げようとした。

 

「アンサーも、ミスティックも、良く見ていなさい。力や技は発想や解釈次第でいくらでも自由に変えられる」

 

 頭上に生成された赤い光弾をゆっくりとハンニンダーへ向ける。その力の質はより濃密になっていき、臨界点に達した瞬間、光弾を解き放った。

 

「―――モン・ソレイユ」

 

 衝撃と共に光路の軌跡が描かれる。直線に放たれた光弾はそのままキュアアンサーに向かっていき、その存在は背中から感じられた。このままでは直撃してしまうが、不思議とキュアアンサーは恐怖も不安も抱かなかった。

 

 必ず自分を助けると言っていた、ソラリスへの絶対的な信頼がキュアアンサーをそうさせた。

 

 そして、ハンニンダーの拳が頂点へと振り上げられた時、ソラリスは光弾を打ち出した右掌をグッと握った。

 

 瞬間、1mサイズだったそれは無数に分裂し、キュアアンサーの小さな体躯をすり抜けその全てをハンニンダーに命中させた。

 

「うぉ! とっと!?」

 

「ダダダダダ~!?」

 

 直撃の瞬間、ゴウエモンはハンニンダーから離れたことで難を逃れた。しかしハンニンダーは攻撃が中断されるほどの威力を持つ光弾の雨に晒され、爆炎と共に身体が大きくよろける。その隙をキュアアンサーは逃さなかった。

 

「アンサーアタック!!」

 

 地面を強く踏み込み、ガラ空きになった身体に全ての力を集中させた拳がハンニンダーを捉えた。

 

「ハンニンダぁぁっ~!?」

 

 巨躯が宙を舞い、遥か先のビルに頭部が直撃し、ハンニンダーは目を回す。キュアミスティックの障壁とキュアアンサーの圧倒的火力。そしてソラリスの奇想天外の光弾により、ハンニンダーを追い詰めた。

 

「ハ……ハンニンダぁ……」

 

「漫画の原稿と!」

 

「純一さんの笑顔を!」

 

「「取り戻すんだ!」」

 

 ハンニンダーは再び立ち上がるが既に身体は限界に達し、フラフラとよろめいている。そんな隙だらけの状況を見逃すはずもなく、二人の名探偵プリキュアはジュエルキュアウォッチの針を回すと桃色の閃光と化した。

 

「「これが私達の! アンサーだぁぁぁぁっ!!!」」

 

 目も眩む程の奔る閃光は一瞬にしてハンニンダーを貫き、天にも昇る光の柱に包み込まれた。

 

「「キュアット解決!」」

 

「ハン……ニン……だぁ……」

 

 ウソで覆われたマコトジュエルが浄化されたことにより、ハンニンダーもその姿を維持することが出来ず光の粒子となって消滅。

 

 残されたのは本来の輝きを取り戻したマコトジュエルと純一の原稿。マコトジュエルはキュアアンサーが手に取りポチタンへと吸収。原稿はキュアミスティックが優しく受け止めた。

 

 同時に戦闘によって破壊された建物やアスファルトは元に戻り、密室された空間は消え世界は本来の色が戻っていった。

 

「中々面白いものを見せてもらったぞ、兄ちゃん、プリキュア! また相見えよう!」

 

 マコトジュエルを取り返させたと言うのに、悔しがるどころか満足そうに笑みを浮かべるゴウエモンは桜吹雪を舞わせ身を包むとその姿を消していった。

 

「良かった……原稿は無事だ!」

 

「うん! 早く純一さんに届けよう!」

 

 その場が一瞬の静寂に包まれる。しかし、変身を解除し、元の姿に戻ったあんなとみくるが飛び跳ねながら喜びを表現したことで、ソラリスは何気ない日常が戻ったのだと実感することが出来た。

 

「二人共、よく頑張った」

 

 そんな二人を褒めるようにソラリスは再び頭を撫でる。やはりまだ恥ずかしいのか先程まではしゃいでいた姿が嘘のように静かに、しおらしくなる。ただ、手つきはどこまでも穏やかで優しく、父性を感じられたため顔を赤くしながらも受け入れた。

 

「それじゃ、純一さんに原稿を届けに行こう」

 

「「はい!」」

 

 離れる手の温もりを惜しみつつも、怪盗団ファントムとの闘いに勝利し、純一の原稿を護れた三人は依頼達成の報告をするため、キュア探偵事務所へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「これは……かなり厄介ね……」

 

 キュアット探偵事務所に戻る三人の背中を、ビルの屋上でアイスを頬張りながら静かに見つめるるるかとマシュタン。

 

 二人はずっと彼らの戦闘を観察していた。

 

 今後、彼らと対峙する時が必ずある。その時に備えて事前に観察することでその戦闘スタイルを分析し、攻撃パターンを先読みする。それがるるかの戦術だった。

 

 闘いは力や技だけで勝てる程甘くはない。敵を知ることこそ、勝利への近道であることをるるかは知っている。

 

(プリキュアは……動きが単純すぎ。攻撃も大振りでワンパターン)

 

 思い返すはキュアアンサーとキュアミスティックの戦闘シーン。ハンニンダーを倒せはしたものの、攻撃一つ一つの答えが透けて見えるほど真っ直ぐで捻りがない。プリキュアになる前は戦いから遠い世界で生きてたのが良く分かる。

 

 最も、その迷いのない真っ直ぐな攻撃は彼女達の精神を表したかのようで、見てて微笑ましかった所もあったが。

 

(あの人は……綺麗なくらい動きに無駄がなかった……)

 

 反対にソラリスの闘い方は武人のそれだった。

 

 攻撃面では不可思議な点(・・・・・・)があったものの、防御・回避面に関しては目を見開くものがある。身体の重心や軸のずらし、攻撃に対する接点の回避。それらの動きを途切れさせることなく、まるで繋げているかのように正確で、かつ最小動作で行っていた。

 

 極め付けはあの赤い光弾。るるかをもってしても理解の埒外だったそれは、凄まじい威を放っていた。

 

 そして、あれ程の力を打ち出しておきながら消耗した様子がないことから、全力から程遠いことが窺える。

 

 当初は打撃主体だと考えていたため、もし戦闘になったとしても近付けさせないよう遠距離で攻めれば勝てるかもしれないと思っていたが、あの回避精度と遠距離攻撃を見てしまうと、自身の戦略が通用しないかもしれないと分からせられる。

 

 しかし、同時に強い希望を見出していた。

 

(あの人なら……ファントムを……)

 

 倒せるかもしれない。

 

 るるかは怪盗団ファントムに所属しているが、他の幹部達との仲間意識なんてものは皆無。ウソノワールに至っては切っても切れない深い因縁がある。それでも確固たる意志と目的があって誰にも悟られないよう怪盗団ファントムに席を置いている。

 

 その目的の過程で、ソラリスがファントムを倒してくれるのなら……そんな淡い期待と希望が入り混じり、胸の奥底で広がっていく。

 

 それが彼女―――怪盗団ファントム、キュアアルカナ・シャドウとしての彼らの評価だった。

 

(本当に……優しい人)

 

 そしてここからは森亜るるかとしてのソラリスに対する評価。

 

 彼は戦闘中、自分の身を顧みず、キュアアンサーとキュアミスティックを護り続けていた。

 

 一歩間違えれば大怪我を負うかもしれないのに、傷付かせないよう間に入って彼女達を庇っていた。

 

 あの赤い光弾も、その気になればもっと高威力のものを創れたただろうが、ハンニンダーに直撃した際の爆炎と衝撃から察するにキュアアンサーに被害が及ばないよう力を調整していたのだと考えられる。

 

 他人を気遣い、護り、温もりを持って接する。

 

 世の中は優しさだけではどうすることも出来ないこともある。

 

 それでも……ソラリスの無償の優しさは、この世界にとって必要なものであり、何よりも慈しむものだとるるるかは感じた。

 

(いいなぁ……)

 

 少しばかり、あの優しさを向けられている二人のプリキュアが羨ましかった。

 

「るるか、これからどうする? もう少し観察してみる?」

 

「うん……でも、そのうち接触しないといけないから……」

 

 これからも調査は続けていくが、観察だけでは得られる情報に限界がある。いつの日か接触し、より深く彼のこと知り理解して、ウソノワールに情報を流さなければいけない。

 

 ……その過程であの優しさを少しで良いから自分にも向けて欲しいと思ってしまった。

 

(少し……胸が痛い……)

 

 目的達成のために様々な覚悟は出来ているものの、情報収集のために稀に見る程の温厚なソラリスを騙し近付くのは気が引ける。

 

 それでもやらなければならない。

 

「行こう、マシュタン」

 

 アイスを食べ終えたるるかはマシュタンを抱え、今日得た情報を報告するため本拠地へと戻っていく。

 

 その際、一瞬だけソラリスの背中を見た。

 

 男性らしい、広がりのある背中。でも威圧感は感じられない。温もりと優しさが滲み出ていて、見ているだけで心が暖かくなる。

 

 そんなソラリスの背中を見て、一瞬微笑んだるるかは彼らに背中を向け、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「わぁっ! ありがとぉぉぉ名探偵さぁぁん!」

 

 事務所に戻った三人は原稿を純一に届けると、彼はうっすらと涙を浮かべて感謝した。探偵として初めての依頼を無事達成し、純一の想いと笑顔を守れたあんなとみくるも、笑顔でハイタッチした。

 

「ジュンジュン・コマッツ?」

 

「うん! 僕のペンネーム!」

 

「なるほど、純一の”ジュン”と小松崎の”コマツ”から取ったのですね?」

 

「はい、そうなんです!」

 

 あんなが原稿の入った封筒に書かれた文字に反応する。ソラリスは最初、それが良く分からない言葉だと思っていたが純一を事務所に送り届ける際に漫画の専門用語を教えてもらったことを思い出し、封筒に書かれたジュンジュン・コマッツが純一の筆名、ペンネームだったのかと理解した。

 

「えぇっ!? あ、あああの!? あのジュンジュン・コマッツ先生!?」

 

 ペンネームを聞いた途端、興奮したあんなが立ち上がり、期待と憧れの眼差しを純一に向けた。

 

「知ってるの?」

 

「うん! 先生の漫画、大好きなの! 純一さん、有名な漫画家さんになるよ!」

 

「えっ、本当!? それって名探偵さんの推理?」

 

「推理じゃなくて分かってるの! 何て説明して良いのか⋯…」

 

 あんなは2027年からやってきているため、この時代から言わせれば”未来”を知っている。そのため純一が『サイボーグ探偵団』と言う漫画を連載する有名漫画家になることを知っているのだが、そんなことをおいそれと言えないためどう言えば良いのか頭を捻る。

 

「そんな凄い漫画家さんの作品なら、私も読みたい!」

 

「ボクも読む! 読みたい!」

 

 あんなとみくるが座るソファーの後ろで、先程から静かに腕を組み佇んでいたジェットまでも純一の漫画に興味を示した。

 

 まだ漫画家じゃない自分の漫画にここまで興味を持ってもらい、誰が先に読むのか言い合いになっている様子に純一は嬉しそうに笑った。

 

 騒がしくなっていく事務所は日常を取り戻したように笑顔と喜びで溢れている。そんな様子をソラリスは漆黒の瞳を輝かせながら静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良し! こうなったらじゃんけんだ!」

 

「分かった!」

 

「ソラリス先輩も純一さんの漫画、読みますよね!」

 

「あぁ、私も読みたい」

 

「それじゃ、ソラリス先輩もじゃんけんしましょう!」

 

「あっ、ダメだ! ソラリスはじゃんけん禁止! お前は最後に読め!」

 

 あんながソラリスをじゃんけんに誘ったが、ジェットがそれを止める。

 

「えぇ~、何でですか! ジェット先輩のいじわる!」

 

「そうだそうだ!」

 

「いやだって……ソラリスの場合、手の動きを見てボク達が何を出すか分かるんだぞ? 勝てるわけないじゃないか」

 

「「……えっ?」」

 

「……私は目も良いらしい」

 

「「良すぎですよ!?」」

 

 見てから余裕とは恐れ入る。

 

 じゃんけんすら超人なのかとあんなとみくるは震撼するのであった。

 

 

 




Q.ソラリス先輩はも、もっと肌を見せた方が良いと思うの!(暴論)(byあんな)
A.そんなことしたら君達探偵業に集中出来なくなるからダメ。

Q.あ、あの赤い光の玉はなんですか!? 必殺技ですか!!?(byみくる)
A.いわゆる気弾で、「モン・ソレイユ」は本作のオリジナル技。
 イメージは打ち出す時はスーパーノヴァ。拡散させる時は赤いスターダストフォール。
 ちなみに事務所の帰り道に気のことを二人に教えた。

Q.ソラリスさんから教えてもらった”力”、漫画のネタにしますね!(by純一)
A.多分あんなのいた2027年の「サイボーグ探偵団」に登場してるかも?

Q.兄ちゃん強すぎだろ! 弱点はどこだ弱点は!!(byゴウエモン)
A.弱点はある。その弱点は現状、るるかとニジーが知っている。
 そしてそれがソラリスを追い詰めることになる。

Q.私、あの人の優しさに触れたらどうなっちゃうの……?(byるるか)
A.惚れはしないが、ものすごく心地良いと思うようになる。
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