名探偵プリキュア! ~白銀の太陽は昇る~   作:nest1965

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今回は今後の話の流れを加味したオリジナル回となっております。

そんなこんなで今回もみなさんの暇つぶしの一つになると幸いです。

それではどうぞ。



第6話

 

 

 

 

 

―――素朴で優しい、お父さんみたいな人。 

 

 

 

 それが明智あんなと小林みくるがこの数日間、共に生活して感じた、ソラリスと言う男の印象だった。

 

 彼は誰よりも早く起床し、あんな、みくる、ジェットのために栄養バランスの考えられた美味しい食事を朝、昼、晩と毎日作ってくれている。

 

 喉が渇いたり、小腹が空いたと思えばそれを察して飲み物や菓子を用意し差し出してくれた。

 

 探偵として新米の自分達を見下したり、勉強をしていた際に自らの知識や経験を誇示するようなことは決してせず、寧ろ乞えば隠すことなく丁寧に教えてくれる程謙虚だった。

 

 食材の買い出しに同行した際、信号のない横断歩道で立ち往生する老人に迷わず手を貸し、転んで膝を擦りむいた子供がいれば、その隣に屈み込んで優しく絆創膏を貼ってあげていた。

 

 自分達より9歳年上の23歳。世間的に見れば若い筈なのに、側にいるだけで安心感や信頼、そして無条件の優しさを提供し、父性を感じさせる包容力と責任感を持って接してくれる人だった。

 

 そんな彼を毎日、間近で見てきた二人にとって、ソラリスは理想的な大人だと同時に本当の父親のようだと強く感じていた。

 

 しかし、そんな彼は"理想的"な大人だとは思うが、"完璧"な大人ではなかった。

 

 二人が数日間過ごして見つけたソラリスの欠点。彼は散歩が好きで良く出掛けるのだが、その出掛けている時間がとにかく長かった。

 

 ジェットに断りを入れて出かけているものの、平均して1、2時間は普通に帰ってこない。プリキットボイスメモを持ち歩いているので辛うじて連絡は取れるが、それでも中々帰路に就くことはなかった。

 

 初めは探偵の勉強やマナーを指導し終えたことで自分の時間が出来たこと、依頼人が来ないことで暇を持て余していることから、散歩の時間が必然的に長くなっているのだと思っていた。

 

『ソラリスの散歩はロンドンにいた時から長かったぞ?』 

 

 気になった二人は二年間共に仕事をしていたジェットに話を聞いてみた。彼によると、ソラリスはロンドンで働いていた時から散歩の時間が長かったそうだ。

 

『あれでも大分マシになったんだ。昔は半日帰ってこなかったことも良くあったし……一週間音信不通で行方不明になったこともあったな。流石にあの時は本気で怒ったけど』

 

『えぇっ!?』

 

『ウソでしょ……!?』

 

 

 今の献身的で真面目なソラリスからは到底想像もつかない職務怠慢な過去。

 

 同時に一週間も仕事を投げ出しておいて良くクビにされなかったなと二人は思った。それに関してはロンドン本部のお偉いさん達にジェットが頭を下げたことや溜まった一週間分の依頼を一日で終わらせた仕事の速さ、そして事務所の面々に見込まれていた強さに免じて許されていたそうな。

 

 兎にも角にもソラリスの散歩は長い。どこまで出掛けているのか興味を抑えきれなくなり、一度彼の了承を得て散歩に付いて行ったことがあった。

 

 しかし、その内容は拍子抜けする程単調で、彼は事務所の周囲の道をグルグル回っているだけだった。

 

 あまりの味気なさに耐えかね、20分程で飽きたあんなとみくる、ポチタンはソラリスに一言断りを入れて事務所に戻ってしまった。

 

『どうしてソラリス先輩はそんなに散歩が好きなんですか?』

 

『体を動かすのが好きだったり?』

 

『ポチ?』

 

 習慣なのか、身体を鍛える一環なのか。そこまで散歩が好きな理由が二人には謎だった。

 

 だからある時、戻ってきたソラリスに理由を尋ねたこともあった。

 

『昔を思い出せるから』

 

 その一言に込められた重みを測りかね、二人は身を乗り出した。

 

 昔とは一体何なのか。

 

 何を思い出し、どんな風景を見ているのか。

 

 教えて欲しい、聞かせて欲しい。

 

 興味津々だった二人は聞き出そうとした。

 

 しかし、ソラリスは唇を濡らすだけに留め、その言葉が喉から零れ出ることは決してなかった。

 

 ますます謎が深まるばかりだった。

 

 ただ、その時のソラリスはいつもの無表情が少しだけ和らぎ、哀愁漂う漆黒の瞳に輝きが灯った―――ように見えた。

 

 

 

 

―――明智あんなと小林みくるにとって、数日間共に生活して感じた、ソラリスと言う男は。

 

 素朴で優しい、お父さんみたいな人。 

 

 そして。

 

 時間を忘れるくらい散歩が好きな、ちょっと変わった人。

 

 それこそが二人の印象だった。

 

 

 

 

 

 

「―――じゃ~ん! ここがわたしが通っている”まことみらい学園”!」

 

「うわぁ~……はなまる大きいね!」

 

「ポチポチ!」

 

 時刻は15時を過ぎた頃。

 

 あんな、みくる、ポチタン、そしてソラリスは私立まことみらい学園の校門前に足を運んでいた。

 

 今は春休みと言うことで学校特有の子供の喧騒な声は潜め、どこか厳かで少々不気味さが漂う静寂に包まれていた。

 

「日本の学校は意外と広いな」

 

「同じ敷地に中学と高校があるから広いんです!」

 

「なるほど、中高一貫だったのか」

 

 納得するようにソラリスが相槌を打つ。何故、彼らがみくるが通う学園にいるのか。そのきっかけはソラリスが理由だった。 

 

 それは昼食を終え、思い思いの時間を過ごしていた時だった。前回の純一の依頼に関する報告書を纒め終えたソラリスは、また散歩に出掛けようとしていた。

 

 しかし、そこでみくるが待ったをかけた。

 

『ソラリス先輩! せっかく日本に来たんですから、もっと色んな所行ってみませんか? わたし、案内しますよ! あんなもポチタンも一緒に行こう!』

 

『えっ、良いの? やったー! わたしのいた時代とこの時代とじゃあ、風景とか道とか全然違うからちょっと見て回りたかったんだぁ。ソラリス先輩、行きましょうよ!』

 

『ポチポチ!』

 

 同じ道を歩き続けるのも悪くないが、土地勘を養うことも兼ねて自分が大好きなまことみらい市を見て、知って欲しい。そう考えての提案であり、同時にみくるなりの気遣いだった。

 

『そうだな……お願いしても良いか?』

 

『はい! 任せてください!』

 

『それじゃ、ジェット先輩。いってきまーす!』

 

『ポチ〜!』

 

『何かあったらこっちから連絡する。出来るだけ早く帰って来いよ〜』

 

 みくるの意図を組んだソラリスは静かに了承した。そうしてあんなとみくるに両手を引っ張られながらまことみらい市を観光ついでに見て回ることになった。

 

 思い出を振り返るように最初に向かったのは二人が初めて怪盗団ファントムと遭遇することになった結婚式場。それから公園、カメリアインテリア、絵画教室アトリエブレンティと続き、現在はみくるにとって事務所と同じくらい馴染みのある、まことみらい学園だった。

 

「しかし学校か……思えば、学校に通ったことがなかったな」

 

「えぇっ!? そうなんですか!?」

 

「はなまるびっくり!?」

 

「ポチ!?」

 

 唐突に語るソラリスの発言に彼女達は心底驚いた。あれほど博識で作法も洗練されているため、当然海外の名門学校出身だと思っていた。それがまさか、学校に通ったことすらなかったとは思いもしなかった。

 

「それじゃ今まで、学校の勉強とかどうしてたんですか?」

 

「……ずっと家で母に教えてもらっていたな」

 

「へぇ~、お母さんが……ソラリス先輩のお母さんって、どんな人ですか?」

 

 あんなの問いにソラリスは答える。ソラリスの知性の源が母親から来ているとなると、彼の母親も相当博識なのだと容易に想像出来た。そんなソラリスの母親が気になったみくるが更に質問を重ねる。

 

「そうだな……母は本当に優しい人だった。勉強以外に心も、優しさも……何もかも教えてもらった」

 

「「……」」

 

 己の過去を思い出すように目線を空へと向けている。その表情に劇的な変化はないものの、声色はまるで大切な宝物に触れるような、慈しみと懐かしさに満ちていた。その浮世離れした横顔に、あんなとみくるは暫く見惚れていた。

 

「……おや? みくるさんではありませんか?」

 

「あっ、理事長! こんにちは!」

 

 しばし校門前で佇んでいると、背後から品のある女性の声が鼓膜を震わせる。振り返るとそこには緑色の髪にスカートスーツを着こなす初老の女性、まことみらい学園の理事長が立っていた。

 

「こんにちは、みくるさん。今日はどうして学校へ?」

 

 本来、学園の理事長と生徒との間には接点なんてものは殆どない。しかし、二人はかなり親密な関係なのか、理事長は親愛を込めてみくるに話しかけていた。

 

「はい! 実は今、事務所の先輩と友達を色んな所に案内しているところなんです!」

 

「事務所の、先輩……?」

 

 みくるからの口から放たれた事務所と言う単語に理事長は不思議がるように小首を傾げる。理事長は視線をみくるから明らかに大人で先輩だと思われるソラリスに移すと、彼は警戒心を与えないようにゆったりと近付き、その後をあんなも続いた。

 

 そしてポケットからそれぞれ名刺を取り出し、自身の素性を明かす。

 

「小林みくるさんと一緒に探偵をしております。キュアット探偵事務所のソラリスと申します」

 

「同じく明智あんなです! よろしくお願いします、理事長さん!」

 

「あ、あら……ご丁寧にどうも」

 

 外国人が流暢な日本語を話し、みくるとそう歳の変わらない少女が流れるような美しい作法で名刺を渡してきたので一瞬たじろいだ理事長。しかし、彼女もまた淑女。この程度で大きく動揺することはなく、礼儀を持って確かに名刺を受け取った。

 

「探偵……まぁ! みくるさん、探偵事務所を開いたのですね!」

 

「はい! やっと夢に一歩、近付けました!」

 

 みくるも宣伝を兼ねて自身の名刺を渡す。どうやら理事長はみくるが探偵になる夢を知っていたようで、その夢が叶ったことを理事長は自分のように喜んだ。

 

「そちらの明智あんなさんはうちの学園の生徒ではありませんね? どちらからいらっしゃったんですか?」

 

「うぇっ!? え、えっと……」

 

「あ、あんなは最近この街に来たばかりなんです! 理事長が知らないのも無理ないですよ!!」

 

 流石に2027年から来たとは言えないので咄嗟に誤魔化す。まあ、マコトミライタウンからこの街に来た、と言えば嘘ではないので問題ないだろう。

 

「まぁ、そうなのですね。この街に来たばかりでもうみくるさんとお友達になって、一緒に探偵にも勤しんでるなんて……素晴らしいですね。頑張ってください、明智さん」

 

「……っ! はい! ありがとうございます! 理事長さん!」

 

 例え自分の学園の生徒でなくても、子供を想う気持ちは変わらない。初対面だと言うのにみくると同じように親愛を込める理事長に、あんなも自然と笑みが溢れた。

 

「ところで……ソラリスさん、貴方は日本語がお上手ですね。相当勉強なさったのですか?」

 

 今度は顔をソラリスへと向ける。しかし、その視線はあんなとみくるに向けていたものとは違い、ソラリスと言う人間を値踏みとしているような、教育者としての眼差しをしていた。

 

「えぇ、日本で仕事をするために、数ヶ月前から勉強を……」

 

「数ヶ月!? たった数ヶ月でそれだけ達者に!?」

 

 元々は名探偵プリキュアが数ヶ月前にいなくなった報告を受け、ジェットと共にキュアット探偵事務所を畳むために来日した。

 

 日本でしばらく生活する以上、仕事以外に日常生活でも必ず日本人と関わることになるため、報告を受けてからの数ヶ月間、一から日本語を勉強し、頭に詰め込んだ。

 

 その結果が今のソラリスなのだが、日本人からしても流暢に日本語を話し、しかも数ヶ月でほぼ会得していることに理事長は驚きを隠せない。

 

「素晴らしい……! ソラリスさん……貴方は教員免許はお持ちで?」

 

「……? いえ、持っていませんが……」

 

「あら、そうですか。それは残念。今のは忘れてください。オホホ」

 

 誤魔化すように口元に手を当て、軽く笑う理事長。何故急に教員免許の話をしたのか一瞬理解出来なかったが、その意図はなんとなくだか察した。

 

(私に教師をやらせようとしている……?)

 

 確かに教えることは苦手ではないし、乞われれば出来るだけ分かりやすいよう説明出来る自信はある。

 

 しかし、だからと言って教師になりたいかと言われるとそうではない。ソラリスはキュアット探偵事務所の探偵であり、怪盗団ファントムからマコトジュエルを護り、ウソで覆われた世界を創らせないようするのが使命。

 

 そのため仮に理事長に『お前も教師にならないか?』とスカウトされたとしても断るつもりではある。

 

 ……最も、教員免許を持ってないので教鞭なんて振れないし、振ってしまったらそれはそれで犯罪なのだが。

 

「おや、もうこんな時間ですか。私はこれから会議がありますので、この辺りで失礼しますね」

 

「はい、理事長! また会いましょう!」

 

 理事長はみくる達に小さく手を振ると校門を潜り、学園へと歩いていく。その後ろ姿が見えなくなるまでみくるは大きく手を振り、あんなとソラリスは見届けた。

 

「理事長……はなまる素敵な人だったね!」

 

「うん! 学園でも生徒のことをいつも気に掛けてくれてるし、わたしの夢もずっと応援してくれてたんだ!」

 

「……本当に素晴らしい人だな」

 

 生徒を第一に想うその姿はまさに教育者の鏡。理事長の人柄に触れたあんなとソラリスはただただ感心するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようお前達、よく帰って来たな。……今何時だと思ってる?」

 

 夕暮れ。まことみらい市が赤く染まっていく中、観光兼散歩を終え、事務所に戻った彼らを待っていたのは腕を組んでソファーに座り、額に青筋を立てたジェットだった。

 

「「わァ……あ……」」

 

「ポ、ポチ…ぽちぃ……」

 

「すまないジェット。寄り道をしてしまったせいで遅くなってしまった」

 

 あまりの怒気にあんな、みくる、ポチタンは泣いてしまい(泣いてない)、ソラリスは小さく頭を下げる。本来なら16時、遅くても17時には帰る予定だったが今の時刻は18時。あちこちと寄り道をしたり、洋菓子店”パティスリーチュチュ”で洋菓子を食べ、そこで働く若きパテシェ、帆羽くれあと雑談や女子トークで花を咲かせてしまったために遅くなってしまった。

 

 流石に出掛けてから三時間以上経っているため、ジェットが怒りを露わにするのも無理はなかった。

 

 しかし、そこはソラリス。こう言う時のジェットの扱いを良く知っている。

 

「ジェット。本当に申し訳ない。これで許して欲しい」

 

「あぁっ? これは……パティスリーチュチュのお菓子か」

 

「知っていたのか?」

 

「まぁ、良く通ってるからな」

 

 怒ることは想定済みだったので、パティスリーチュチュでジェットが好きそうな洋菓子をいくつか買っていた。だが、ジェットは常連だったようで反応が薄い。これは失敗したか、と思われたが。

 

「……まぁ良い。今回は許してやる」

 

 何とか許してもらえて胸を撫で下ろす。同時にあんなとみくるはお菓子を見て多少喜んでいるジェットと、嗜好をしっかりと把握し、宥めるソラリスの姿はやはり親子にしか見えなかった。

 

「……ジェット。夕食の支度はもう少し後で良いか?」

 

「……あぁ〜、別に構わないけど、お前も良く飽きないな」

 

「私にとっては大切な日課なんだ」

 

「それはまぁ、分かってるけど……」

 

 二人の間で交わされる秘密めいた対話。その内容が分かりかねるあんなとみくるは首を傾げている。

 

「あんなもみくるも、ポチタンも。もう少しだけ待ってくれ」

 

 それだけ言ってソラリスは再び事務所の外へと出て行ってしまった。

 

「あの、ジェット先輩。ソラリス先輩っていつもこの時間に出掛けてますけど、どこに行ってるんですか?」

 

 みくるが問い掛ける。ソラリスは散歩に出掛ける際、その時間に規則性はない。午前だったり午後だったり、夕食を終えた後だったりする。しかし、18時頃になると必ずどこかに出掛けてしまう。最も、ものの5分足らずで戻って来るのだが。

 

「そんなに気になるなら付いて行ったらどうだ?」

 

「えっ、良いんですか?」

 

「問題ないだろ。どうせ事務所前にいるだろうし」

 

 あんなに答えるとジェットはポケットからポップキャンディを取り出し、口に放り込むと外へと出て行く。あんなとみくるは一瞬顔を見合わせると、後を追うようにその背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 外に出るとジェットの言う通りソラリスは事務所前の芝生の上に立っていた。その身体は沈みゆく太陽に向けられていて、身に付けている首飾りの金具が光を反射して優しく輝いている。

 

「ソラリス先輩」

 

「何をしてるんですか―――」

 

 こんな場所で、この時間いつも何をしているのか。佇むソラリスに話しかけようとした時、彼の身体が静かに動いた。

 

 まことみらい市の向こう側へ落ちて行く太陽に向けて両膝を付き、胸の前で両手を合わせるとゆっくり頭を下げた。それは世界の安寧や神に赦しを乞い、願いを実現するよう請い願う行為。

 

 祈りだった。

 

「「……っ」」

 

 動作は滑らかで迷いがないことから、幾度となく祈りを捧げて来たことが良く分かる。照り返される太陽の光に包まれながら祈りを捧げるソラリスの姿はまるで絵画のように美しく、あんなとみくるは思わず息を呑んだ。

 

 目を見開いてその姿を見つめる二人に、ジェットは静かに口を開いた。

 

「ロンドンにいた時ソラリスが言ってた。子供の頃から毎日、日の出と日の入りの時に太陽の神様に祈ってるって」

 

「えっ……毎日……?」

 

「なんで、そんなことを……?」

 

 ジェットの発言に二人は大きく驚いた。時期によって違うだろうが、少なくても4月の日の入りは18時、そして日の出は5時になる。そんな朝早くに起床し、太陽の神様に祈ってる。それも子供の頃から毎日。

 

 何故そのような事をしているのか。そして何を想い、何に対して祈ってるのか。その真意が掴めずにいるあんなとみくる。

 

 そんな二人の反応はかつてのジェットと同じだった。彼もまた、初めて太陽に祈りを捧げているソラリスの姿を見た時、真意が分からなかった。

 

 だから聞いた。何を祈っているんだと。

 

 その時彼が答えた言葉を思い返すよう、ジェットは祈り続けるソラリスの背中を見つめながら答えた。

 

「―――この美しい世界に生きる、全ての人達を明るく照らしてください。幸せと笑顔を運んでください」

 

「―――今日もこの美しい世界に生きる、全ての人達に幸せと笑顔を運んでくださり……ありがとうございます」

 

「……そう想いながら祈ってるんだとさ」

 

 肩をすくめながらソラリスの真意を答えるジェットに、二人は言葉が出なかった。

 

 以前からソラリスは他者を想い、慈しみ、尊重する素晴らしい人だとは思っていた。だが……他者が幸福であることを本気で願い、太陽の神様にまで祈っているとは思ってもいなかった。

 

 あまりにも心が純粋で潔白。そして青空より広く優しい。

 

 やがて日が沈み、まことみらい市に夜が訪れるとソラリスは祈りを止め静かに立ち上がる。そしてあんな達に身体を向けると、今日の出来事を振り返るよう思いの丈を伝えた。

 

「あんな、みくる、ポチタン。今日、みんなで一緒に歩いていた時、君達はとても幸せそうだった。幸せそうな顔を見れて、私も幸せな気持ちになれた」

 

 表情に変化はない。しかし、声色は柔らかく、温かみを含みながら。

 

「ありがとう。幸せでいてくれて」

 

 二人に心の底から感謝した。

 

「「―――」」

 

 嘘偽りのない、純粋な好意を向けられて二人は息を呑んだ。本来、感謝すべきは自分達だ。一日中連れ回し、洋菓子まで奢ってもらったのだから。

 

 それでもソラリスは感謝した。他者の幸せを強く願うからこそ、幸せそうな顔を見せてくれた彼女達はまさに願いそのもの。

 

 そんな小さな願いが叶ったからこそ、ソラリスは心の底から感謝した。

 

「おーいお前達。日が暮れたからもう戻れ〜」

 

「あぁ、今行く。みんなも戻ろうか」

 

 既に事務所の扉を開け、中に入ろうとするジェット。彼に返事をし、立ち尽くすあんな、みくる、ポチタンに声をかけ、正気に戻った彼女達と共に事務所の中に戻って行った。

 

 

 

 

 

―――明智あんなと小林みくるにとって、数日間共に生活して感じた、ソラリスと言う男は。

 

 素朴で優しい、お父さんみたいな人。 

 

 そして。

 

 時間を忘れるくらい散歩が好きな、ちょっと変わった人。

 

 

 

 

 

 

 

―――太陽の神様に祈りを捧げる程、他者の幸せを本気で願う心の豊かな人。

 

 

 

 それが新たに追加された、二人の印象だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ウソノワール。

 

 ”ウソで覆われた恐ろしい世界”を創造するため、幹部達にマコトジュエルの奪取を命令し、ハンニンダーを生み出した怪盗団ファントムの首領。

 

 未來自由(ミラージュ)の書に記された約束の時まであと少し。新たな名探偵プリキュアの出現により多少計画が狂ったものの、それも一興にして想定範囲内。大した問題ではない。全ては順調だった。

 

 奴が現れるまでは。

 

『―――モン・ソレイユ』

 

 幹部達はそれぞれ任務を下しているので本拠地の劇場にはウソノワールしかいない。そんな中で巨大モニターに映し出されているのは部下の一人、ゴウエモンと名探偵プリキュアの戦闘。そして、ウソノワールが最も警戒し、計画を大幅に狂わせようとしている存在。

 

 ソラリスだった。

 

「ぬぅぅ……」

 

 ウソノワールは甲冑の上から胸や腹部を左手で抑える。

 

 あの極光を目の当たりにしてからと言うものの、全身が燃えるように熱く、痛みが蛇のように這いずり回っていた。

 

 忌々しい。今まで忘れていたと言うのに思い出させてくれた。

 

 かつてこの身を焼き尽くした、あの銀色に輝く化物の事を。

 

「……ふん」

 

 思い出すだけで腹立たしかったウソノワールはパチンッと指を鳴らす。するとモニターは現在、まことみらい市で放送されているテレビ番組が流れる。

 

 ウソノワールはキュアアルカナ・シャドウとマシュタンにソラリスの調査を命じているが、彼自身も独自で調べている。

 

 ソラリスが以前にいたロンドンに直接赴いたり、テレビや雑誌、変装して聞き込みを行うなどして少しでも気になる点や違和感を覚えればあらゆる手を尽くして調べた。

 

 しかし、成果は芳しくない。

 

 何も分からない。どこで生まれたのか、どんな人生を歩んできたのか、あの強さの根源は何なのか。そもそも何故未來自由(ミラージュ)の書に記されていないのか。

 

 ソラリスは存在そのものが謎で覆い尽くされていた。

 

「……くだらん」

 

 何の情報も得られない中、椅子の肘掛けに左肘を付き、頬杖をしながらつまらなそうにモニターを見つめるウソノワール。

 

 何度も指を鳴らし、チャンネルを変えているが何も面白くない。テレビを垂れ流しているが、何一つソラリスに関する情報は得られない。

 

「……チッ」

 

 舌打ちをし、これ以上は無駄だと判断してモニターを消すため、再び指を鳴らそうとした。

 

『―――次のニュースです。まことみらい市が運営する、まことみらい美術館にて、―――の国宝、"太陽神の涙"のレプリカが展示されることになりました』

 

 流れてきたニュースにウソノワールの指が止まる。映し出されたのは数人の警備人が四方を囲むように立ち、ガラスケースの中に厳重に展示されている濁りのない、真紅のルビー。レプリカとは言え、それは名を示す通り太陽と呼ぶに相応しい輝きを放っていた。

 

「……」

 

 違和感。

 

 ソラリスが放った赤い光弾。そしてニュースで偶然流れた宝石のレプリカ。

 

 似ている。どちらも太陽を彷彿とさせる。

 

 その違和感は徐々に大きく膨れ上がっていく。

 

 そしてそれはウソノワールを動かす原動力となる。

 

「―――か。初めて聞く国の名だが……調べる価値はあるな……」

 

 約束の時まであと僅か。障害となるソラリスの情報を少しでも得るため動き出す。

 

 ウソノワールは椅子から立ち上がると優雅にマントを翻し、違和感を覚えたかの国、―――へ向かうため本拠地を後にした。

 

 

 




Q.ソラリス先輩が祈ってる太陽の神様って?(byあんな)
A.ソラリスが生まれ育った国では古くから太陽神を信仰する風習があり、彼は
その神に祈りを捧げている。

Q.ソラリス……先生!?(byみくる)
A.るるかとかエクレールが学校に通う描写が出てきたら探偵兼教師になるかもしれん。
えっ? 教員免許? その辺は理事長が何とかするでしょ(職権乱用)


なお、次回もオリジナル回を挟みます。

それではまたね~。
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