冥王 レイリー先生。シャーレに立つ!!   作:なにやってんだおまえぇ!

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今回は前日譚です。よろしくお願いします。




ある少年の話
第十話 BLUE ROMANCE DAWN 青春の夜明け


 

 

 

 

 ────これはレイリーがキヴォトスに赴任するよりも前のお話し

 

 

 


 

 

 

 ヒビとコケが至る所にはしった朽ち果てた建物をくぐって、廃材と壊れた銃火器が散乱している地へと足を運ぶ。

 

 壊れて使い物にならなくなった物に誰も興味なんて示さない。だから、ここに来る人は私以外いない。そもそも興味を示す余裕なんてここには無い。実際、私だってなんとも思ったことがない。周りにある物なんてどうでもいい、ただ1人になる為にここに来ている。

 

 今日は理由は定かじゃないけど、マダムが不在の日。だからほんの少しだけ訓練が早く終わった。うめき声や流れる他の子の血の量も、いつもよりは少なかった。でも、今日一日だけ。結局明日からはいつも通りの日々に戻る。 vanitas vanitatum, et omnia vanitas 世界が虚しいのは変わらない。正直、時間が余ったところで迷惑なだけだ。ただここで座り込む時間が長くなるだけだから。

 

 ……いや、できることが一つだけあった。 ナイフを手首に近づける。……今はリーダー、サオリ姉さんも不在。姫とヒヨリも今私がいる場所は知らない。私を止める人は誰もいない。

 

 血を流して、痛みを感じている瞬間が一番安堵する。その時だけは、無意味で不便な肉体から解放されたような気分になれる。生きる意味や命の価値とか、何も考えなくてよくなる。

 

 ────いっそ永遠にこの肉体から解放されようかな。

 

 ナイフがミサキの手首を今にも切り裂こうとした瞬間、突如彼女の隣にあった木箱が突き破られ、人が飛び出てきた。その人間は男で、本来キヴォトスの生徒からは形がはっきりと分かるものではないはずのヘイローが、先程までナイフで自身の手首を切り裂こうとしていた少女、戒野ミサキの目にははっきりと認識できていた。麦わら帽子のような形をしたヘイローだった。その少年は両腕を上に掲げて背伸びしている。

 

 

「あー! よく寝たぁっー!!!」

 

 

「…………は?」

 

 

 突如隣から響き渡った耳を塞ぎたくなるほどのバカデカい声に頭の中が真っ白になった。そもそも、なんでこの男は木箱から出てきたのだろうか、『よく寝た』と言っていたけど、この木箱の中で? なんで? 

 

 実はもうナイフで手首を切った後で、失血で幻覚でも見ているのか、そう目を疑いたくなる光景だった。

 

「あれ? どこだここ? もうちょっと明るい場所にいたはずなんだけどなぁー。夜になっちまったか?」

 

 男はキョロキョロと辺りを見回した後にそう呟く、そして隣の私の存在に気づいたのだろう。目が合ってしまった。

 

「……なに?」

 

「おれはルフィ。ここどこだ?」

 

「どこかも分からずにここに来たの?」

 

「おれだって来たくてきたわけじゃねぇぞ、三大学園ってとこ目指してたらわけわかんない廃墟みてぇなとこきちまってよ、とりあえず眠かったから箱の中で寝てたらここに居た。結構寝心地よかったぞ! ししし!」

 

 おそらく散策の際に木箱が発見されて物資として運ばれたが、使用用途も置く場所も見当たらずに、中身が確認されることもなくここに捨てられたんだろう。

 

 ルフィと名乗ったこの男は危機感のなさそうな声で呑気に腕を組んで考え事をしている。

 

「うーん、三大学園のどこに行こうかなー、ゲヘナはすっげぇ面白い所らしいし、トリニティにはでっけェ城があるって聞いた! でもミレニアムには大量のカッケェーロボがあるって言うしなー! どうしよっかなー! いや、まずはここから出ないといけねぇか」

 

 ここには似合わない、というか見たことのないような明るい表情をしながら大きな独り言をぼやいている。五月蝿いだけだから早めにどっかに行ってほしい。

 

「お前ここから三大学園のどこが一番近いか知ってるか?」

 

「トリニティ」

 

「どこにあるんだ?」

 

「あっち」

 

 カタコンベの方向を指差す。嘘は言っていない、実際カタコンベを通過すればトリニティの地下まで行くことができる。ただ、無事に着くのは不可能だろう。あそこは何百通りの道が定期的に入れ替わり続けている。道順を知る者でないと絶対に辿り着けない。じきにカタコンベを見張っている生徒に捕まって牢屋に入れられるのがオチだろう。でもそれでいい。そうすれば静かになるし、一番楽に終わるから。

 

「あっちか! ありがとうな! えーっと……ミイラ!」

 

「ミイラって私のこと? ふざけないで」

 

「なんだ、ミイラじゃねぇのに沢山包帯つけてておもしれェやつだなぁ。名前なんて言うんだ?」

 

「……ミサキ、戒野ミサキ」

 

 名乗る義理もなかったけど、ミイラ呼びは癪に触るからつい名前を教えてしまった。

 

「そっか! そんじゃーなーミサキ! またどっかで会おう!」

 

 また会おう…………次会う時は天国でだろうか。いや、私は地獄行きか。たぶんコイツは善側の人間なのだろう。ここまで呑気でアホらしいことを明るく言える奴はここ(アリウス)にはいない。そんな事を言う奴は全員マダムに殺されたから。

 

 

 

 

 

 

 

 アイツがカタコンベに向かって10分くらい経った後だろうか、……戻ってきた。

 

「よお、また会ったな」

 

「あんたが戻ってきたからね」

 

「道が迷路みたいになっててわかんねェ」

 

「知らない、とっとと帰って」

 

「だから帰れねぇんだよ迷子だから!」

 

「………………はぁ」

 

 思わずため息が出てしまう。マダムが帰ってきてまだコイツが呑気に歩き回っていたら、コイツが殺された後に私たちが処罰される。面倒だが、姫とヒヨリをここに呼んで確実に始末した方が良さそうだ。そう思いこの場を離れようとした瞬間、肩をがっしりと掴まれた。勘付かれた? いや、顔を見るに敵意はない。……ただ、何故だろう。今からコイツがとんでもない事をする気がしてならない。

 

「お前トリニティの場所知ってんだよな、一緒に行こう!! 案内頼むぞ!」

 

「…………は?」

 

「ゴムゴムのー!」

 

 掛け声と同時に腕が奴の腕が伸びた。……伸びた?? 

 

「は? …………はあ!?」

 

 腕の伸びた先が見えない。嫌な予感しかしない。

 

「ちょっと待っt……」

 

 

「〝ロケットォー〟!!!!」

 

 

「っああああああ!!」

 

 

 

 

5&  5&   5&   5&   5&

\\\ \\\lll/// ///

5&   ドゴォォン!!!! 5&

/// ///lll\\\ \\\

5&  5&   5&   5&    5&

 

 

 

 

 

 伸び切った腕が縮む勢いを利用してルフィは空中を飛ぶ。無論、捕まっていたミサキを巻き込んで。ロケットさながらに吹っ飛ぶ彼のエネルギーは凄まじく、カタコンベの天井を何層も突き破り、アリウスからはるか彼方へとぶっ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁ、はぁ、はぁ……!!」

 

「いやー飛んだ飛んだ〜。んで、ここどこだ?」

 

「あんたのせいでっ……! 私も分かんなくなった……!」

 

「そっか、ごめんな。でも困ったなー、これじゃ2人とも迷子だ」

 

「あんたのせいでね」

 

 ため息を吐いて、理由もなく上を見てみたら、星空が見えた。地上へ出たというのだろうか? カタコンベを突き破って? それに周りを見た感じだとアリウス自治区周辺の廃墟でもない。どうやら相当遠くへ飛んだらしい。……考えられない、これが現実だと言うのなら下手な悪夢よりもタチが悪い。

 

 

 

「おーいミサキ! すっげぇ遠くの方に明かりがあるぞ! きっと街だ!! 見た感じ相当でっけぇなぁーひょっとしてあれがトリニティそうごうがくえんなのか? ワクワクするなー! よしミサキ! 明日あそこに行こう!」

 

 コイツは幼い子供のように笑顔で遠目から見える街のようなものを指差している。一応トリニティの方向へ飛んだはずだから、明かりの大きさから考えてトリニティ自治区だろう。

 

「……今日行かないの?」

 

「空見てみろよ、もう夜だぞ。だから今日はもう寝よう!」

 

「あんたついさっきよく寝たって言ってたでしょ。それと空ならもう見た」

 

「夜ならおれはいくらでも寝れるぞ、それにお前は寝てねェだろ」

 

「別に私は必要ない」

 

「お前なぁ、ちゃんと寝ないとへいろーほるもんが出ないんだぞ?」

 

「成長ホルモンでしょ」

 

「それだそれ。じゃ、おれは寝るから。勝手にどっか行くなよ!」

 

「勝手に連れてきておいて……!」

 

「ぐか〜zzz ぐが〜zzz…………」

 

「もう寝てる……」

 

 なんの警戒心も無しに寝ている、殺すなら今がチャンスだろうか。いや、ここでコイツを殺したところで状況は何も変わらない。……そうだ、変わらないんだ。外へ出たところで、それがどうしたというのか。生活できるあてなんてない。曲がりなりにもアリウスから脱出してしまった以上、もう自治区に戻ることもできない。…そっか、もうどうしようもない状況なんだ。

 

 

 

 

 なら、もうやる事は一つしか無い。幸い飛ばされる過程でナイフを落とす事はなかった。これで首を切れば死ねる。ここでどう足掻いたところで、結局全部無駄に終わるのだから、それならもう、早いとこ楽になってしまおう。

 

 ナイフで頸動脈を切りつけようとする。──だが、ナイフが首に届く事は無かった。手首を掴まれて止められた。さっきまで寝ていたこの男に。

 

「……何?」

 

「首切ったら死ぬんだぞ! バカかお前」

 

「死のうとしてるの、分からないの?」

 

「死んだら一緒にあそこ行けねぇじゃねぇか!」

 

「それはあんたの都合でしょ」

 

「死のうとするのもお前の都合だ」

 

「うるさい……!大体勝手に連れ出しておいて何にも知らない癖に死ぬなだとか、何様のつもり……!? 私はもう死にたいの……! こんな世界に居ても何にも意味なんてない。邪魔しないで!」

 

「おれはお前と一緒に行くって決めたんだ! だからお前がどんなに死にたくてもおれが死なせねぇッ! 冒険した後に死ぬことはできるけど、死んだ後に冒険はできねぇんだぞ。 死ぬなら冒険して肉食って寝た後でもいいだろ」

 

 どんなに力強く振り解こうとしても、手首が離される事はない。

 

「死にたいとかなんだとかはおれの側でいくらでも言え。おれは暗いやつ嫌いだけど、話聞くぐらいだったらしてやる」

 

「……あっそ」

 

 私はコイツみたいな奴が嫌いだ。何にも知らない癖に勝手に人の心に入り込んで好き勝手に言って自分の意思を押し通そうとしてくる。何を言っても諦めようとしない上に、なんの了承も得ずに明るさを押し付けてくる。そんな奴が大嫌いだ。

 

 ────でも、どうしてだろう。手首を強く握られた手がほんのり暖かく感じたのは、サオリ姉さんと同じ雰囲気を微かに感じたのは。

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、戒野ミサキは折れた。ナイフをポケットにしまい、諦めて地べたへと仰向けの体勢へと移行した。ルフィもそれを確認すると再び寝っ転がる。しばらくの間、2人とも星空を見つめながら無言の状態が続いたが、沈黙を破るかのようにルフィが口を開いた。

 

「お前のその包帯、怪我してんのか?」

 

「あんたには関係ないでしょ」

 

「……自分でやったのか?」

 

「……………………」

 

「んなことして楽しいのか?」

 

「……別に、楽しくなんかない。ただこうするとほんの少しだけ安心できるってだけ。傷ついて血が流れてる時だけは、意味の無い自分の肉体から解放された気分になれる。生きる意味とか理由も考えなくてよくなる。……ただそれだけ」

 

「そっか……よし! 決めたぞ!! あのトリニティっぽい街に行ったらお前が楽しいと思えるもの探そう! そうすりゃずっと安心してられるぞ!」

 

「……見つからなかったらどうするの?」

 

「そしたら見つかるまで冒険し続けよう! ゲヘナにもミレニアムにも、この世界のずっとずっと端の方までどこまでも行ってやる!」

 

「……なんでそこまでこの世界に希望を持てるの? 不便な肉体に、闇しかない世界。それなのにどうして?」

 

「この世界のことをお前が勝手に決めんな。今だって星空があるじゃねぇか。闇なんてどこにもねぇぞ?」

 

「そういう意味で言った訳じゃないんだけど……」

 

「難しいことはよくわっかんねぇんだよ。だからとりあえずおれは寝る。おやすみ!  ぐが〜zzz」

 

「もう寝た…………はあ……疲れたし、今日はもういいや」

 

 

 

────今だって星空があるじゃねぇか。闇なんてどこにもねぇぞ? 

 

 

 ……そういえば、ここまで輝いた星を見たのは、初めてかもしれない。

 

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 朝日が寝ている少年を眩しく照らす。……いや、朝日と言うには少々日が昇り過ぎている。

 

「ふぁ〜……なんだもう朝か(ぐぎゅるるぅ〜)」

 

 背伸びをしたと同時に少年の腹は大きく鳴る。

 

「いや昼か」

 

「今お腹の音で判断したの?」

 

 どれだけ自身の腹時計に自信があるのだろう。……いや、自信というより空腹を感じたからそう判断しただけか。

 

「にしてもお前、おれが起きるまで待っててくれたのか。道教えてくれたりといい奴だな〜お前!」

 

「別に、今1人になってもどうしよもなかったってだけ。それより、とっとと遠くに見えるあの街に行くんでしょ?」

 

「そうだな、腹減ったしひとっ飛びで行っちまおう!」

 

「ひとっ飛びって……まさか……!」

 

「ゴムゴムのー!」

 

「最悪っ……!」

 

 

「〝ロケット〟!!!」

 

 

 ルフィとミサキ、2人は2日連続での空の旅という名のジェットコースターを体験するのだった。

 

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 辺り一面を取り囲む、光を反射することさえ出来そうな純白を纏った建物。シルクロードと呼びたくなる程に白く、綺麗に舗装された道。そしてそこに彩りをつける天使のような翼を持った生徒たちの談笑声や品を持ちながらもどこか力強い噴水の音。

トリニティ総合学園。三大校の内の一つであり、建物の様相からも分かるように典型的なお嬢様学校である。ただ、唯一異なる点があるとするならば学校というより国と表現すべき巨大な自治区を持っているという点である。

 

 ルフィとミサキの2人は遂にそこへ足を踏み入れたのだった。

 

 

「うっひょー! 美味そうな匂いが色んなとこからするぞ! それに奥にすっげぇーデッケェ城がある! 飯食ったらあの城行くぞミサキ」

 

「は? 勝手に決めないでよ」

 

 

「メシメシ〜!!」

 

「なっ……! ちょっとまっ……ああもうっ!」

 

 洋食料理の匂いがする方向へとルフィは駆け出していく。ミサキは錨のごとく重い足取りでその姿を追うのだった。

 

 

 2人の時代は、これから始まるのだ!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回から本編に戻ります。ねじ込む形になって申し訳ありません。

後書きでの説明にはなってしまいますがこの世界のルフィは存在的にはワンピース学園のルフィが一番近い感じです。

今回も閲覧いただきありがとうございました。
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