神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。   作:スレ主

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第9話:『伍長の意見具申、あるいは軍人の本懐』

 

 

「疲れたし、寝よ……」

 

泥にまみれた長靴を脱ぎ捨て、狭い毛布に潜り込む。連日の掃討戦で、ライン戦線の空気に身体が馴染んできた証拠か、砲声すら子守唄代わりに聞こえ始めた頃だった。

 

――ッ、ピィィィィィィィィィッ!!

 

わずか二時間の仮眠。鼓膜を突き刺す緊急呼集の笛が鳴り響く。

途端に身体は覚醒し、全力で服を着る。

 

(装具は準備してあるし点検済み、よし行ける。……ったく、いい目覚ましだよ、全くだ)

 

『おはようございます、マスター。心拍数上昇を確認。……さっさと服を着てください。無様な醜態を晒すのは、私のプライドに関わります』

 

脳内に、レイジングハートの冷静な合成音声が響く。

教育期間の朝のラッパと緊急呼集は身体がしっかりと覚えていた。一秒遅れる度に、腕立ての回数が増える恐怖も、骨の髄まで染み付いている。

 

集合場所に全力疾走すると、そこにはまだ中隊長補佐しかいなかった。

 

「うっし、2分切った」

「おっ、早いなデュオ伍長」

「……まぁ、教育明けなので。……死ぬ気で走れば、案外なんとかなるもんですよ」

「3分以内だったな。……デュオ伍長は最高何回だった?」

「120回くらいでしたね、入隊初日の出来事でしたよ。あの時は、こんなところに入ったことを死ぬほど後悔しました」

 

約2分の遅刻でその場で腕立てをした。あの時の屈辱と筋肉痛は、今でも昨日のことのように思い出せる。

 

「お、お待たせしましたっ!!」

 

ヴィーシャが息を切らしてこちらにくる。

 

「2分45秒、反省なしだな」

「うっ、装具の点検が終わってなくて」

「まぁ、間に合ったならいいさ。これ以上遅れたら、俺が代わりに腕立てさせられるところだったぞ」

 

30秒前くらいになると全員揃っており、整列も完璧だ。

ツカツカと中隊長が歩く姿を見て、「不味いな」と思ったのは恐らく俺だけではないはずだ。こういったお固い空気をしている時は大体、ロクでもない貧乏クジが回ってくる訳で。

 

「さて中隊諸君、よろしくない知らせだ。第403強襲魔導中隊が、浸透してきた敵魔導2個中隊と不意遭遇戦に突入した」

「……2個中隊」

 

誰かが低く唸る。敵後続の進軍を確認した砲兵隊が叩いているが、観測手が敵に追われ、碌に弾着観測も出来ていないので上は403と合流するとの指示だ。

「同時に弾着観測手の救援だ、こちらも敵に追われている」

 

(救援か。行くとしたら、うちの小隊だよなぁ……)

 

銀翼をぶら下げ、二つ名を持ってるデグレチャフ少尉が妥当だが。

 

「銀翼をぶら下げている貴官ならば救援は可能か?」

「……小官は兎も角、部下のセレブリャコーフ伍長は限界でしょう。救援に赴いた挙句、部下と救援対象を死なせる無能にはなりたくありません」

 

少尉の言葉は冷徹だが、極めて合理的だ。彼女はヴィーシャを危険にさらさないよう、あえて戦力外として切り離そうとしている。

 

「ならば、セレブリャコーフ伍長を抜き………デュオ伍長とのツーマンセルでなら問題ないか?」

 

「問題ないでしょう」

 

(RH、どう思う。二人で足りると思うか?)

 

『……マスター。少尉の判断は、ヴィーシャ伍長の安全を考慮した上での配置ですが、救援対象の確保と後退支援を同時に行うには、ツーマンセルではリソースが不足します。彼女を警戒要員として加えるだけで、あなたの生存率は四〇%向上します。……「可能性」を捨てないのが、賢い選択ではないですか?』

 

RHの少し刺のある進言に、俺は小さく息を吐いた。少尉は彼女を死なせないために外そうとしているが、レイジングハートの演算としては3人の方が「任務完遂」に近い。……と、考えていると、隣で魔力がグンと上がった。

 

「中隊長、意見具申許可お願いしますっ!!」

ヴィーシャが声を上げた。普段大きな声を出さない彼女が、珍しく鬼気迫る表情で訴えかける。

 

「志願しますっ!! 私も救援任務に志願しますっ!!」

「伍長っ!!」

「私とて、帝国軍人ですっ!! 僭越ながら、小官は任を完全に耐えうると確信しますっ!!」

 

少尉の短い叱責にも萎縮せずにハッキリと言う。……ちょっとだけ涙目だけど。

昔からだが、彼女は優しいが、友達や家族の仲間の事になると絶対に引かない所がある。

 

「自分も意見具申いいですか」

 

「デュオ伍長もか……許可する」

 

「敵の消耗、および機動距離を考えれば、三人の連携で十分に有利を維持できると考えられます。……セレブリャコーフ伍長を組み込んだ方が、任務の完遂率は上がりますよ」

 

「ふむ、意気込み良し、理性的判断も良し………これ以上は過保護じゃないのか少尉?」

 

少しだけ嫌そうな顔をするデグレチャフ少尉が、フッとため息のようなものを吐いた。

 

「了解いたしました、最善を尽くします」

 

「危機あらば駆けつける。魔導師の本懐だな。武運を」

 

中隊長たちが去り、俺たち3人だけが残される。

 

「さて、2人とも覚悟は出来てるだろうな?」

「はいっ!! 少尉」

「むしろ少尉の邪魔をしないよう頑張りますよ。……ヴィーシャも、死なない程度にな」

「……うん、頑張るよ。ありがとう、デュオ」

「よろしい、では仕事の時間だ、総員装具点検、特に宝珠の点検を怠るな」

 

荷物を降ろし自分の宝珠を点検する。

 

(RH、システムチェック。しっかり頼むぞ)

『了解。……回路、出力、魔力バイパス、共に正常。……ご安心を。不具合を起こすような三流OSではありません。……さっさと終わらせて、次こそまともな睡眠時間を確保してください』

「……ああ、全くだ」

 

俺たちは、燃えるような緊張感を抱えながら、再び空へと舞い上がる準備を整えた。

 

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