神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。 作:スレ主
少尉が離脱し、戦域の空気が一変する。
三次元的な機動を理解していない連中をハメるには、単純な「釣り」が一番だ。
「ヴィーシャ、俺が釣るから撃ち落としてくれ!」
「……うん、やってみる!」
俺はあえて分かりやすく魔力を放射し、アフターバーナーを吹かすように急上昇に移った。
『マスター、敵二個小隊が反応。……推測通り、高度優位を確保すべく追従してきます。……計六機、彼らは背後に残したヴィーシャ少尉候補を完全に視界から外しました』
「敵魔導師発見っ!! 追えっ!!」
RHの予測通り、面白いように六機の影が俺を追って高度を上げる。
吸い込まれるようなコバルトブルーの空。……つまり、下方に潜むヴィーシャに背中を丸出しにするということだ。
「まだ……まだだ……。RH、同期率を上げろ。……ここだっ!!!!」
高度六千付近。酸素が薄くなり、宝珠の出力が限界を超えて悲鳴を上げる。防護結界が希薄になるその一瞬の隙を突き、俺が強引に機首を反転させた瞬間、地上付近からヴィーシャの術式が火を噴いた。
「なっ、後ろから!?」
「しまっ……うわぁぁぁぁあ!!」
激しい爆光が空に咲く。
だが、不意を突いたはずのヴィーシャの狙撃を受けても、爆炎の中から現れたのは二機の残骸だけだ。残りの四機は、機体を捻るような曲芸じみた機動で致命傷を避けていた。
「………にゃっろ、二人だけか!!」
完全に死角を突いたはずなのに、即座に反応するとは。……流石に練度が高い、ただの数合わせじゃない。
「あと、四人っ!!」
ヴィーシャが追撃の術式を展開させるが、体勢を立て直した敵には中々当たらない。
二機が一気に地上へダイブしてヴィーシャを潰しにかかり、残る二機が俺の足を止めに突っ込んでくる。……クソッ、二対二の並列(パラレル)か。ギリギリだなっ!!
「当たって当たってっ!! 当たって!!!!」
下からヴィーシャが半ばパニック気味に放つ、デタラメな連射。だが、その数打ちゃ当たるの弾幕が、俺の眼前の敵の回避経路上に偶然重なる。
『マスター、敵機の意識が下方へ分散。……チャンスは0.8秒』
「逃さねぇよぉぉっ!!」
千載一遇。高高度からの重力を味方につけ、自由落下に近い速度で肉薄する。宝珠が熱を帯び、視界が加速のGで赤く染まる。
至近距離。敵が防御結界を最大展開するより早く、魔導銃の銃身をその喉元に叩き込むようにしてトリガーを引いた。
光の塊が敵の胸部を貫き、爆散させる。そのままの勢いを殺さず、残る一機の背後を掠め、地上のヴィーシャへと牙を剥いている連中へ機首を向けた。
「おっ、なんだかんださらに二人落としたか! やるじゃんヴィーシャっ!!」
混乱する敵の背後に食らいつき、ヴィーシャの細い首を狙っていた残党を次々と空から排除していく。
回路が焼き切れる寸前の熱気を吐き出しながら、俺はヴィーシャの隣に滑り込んだ。
「うっし、なんとか間に合った……!」
「あ、ありがとデュオ。助かったわ、本当に……」
「なーに、そういう作戦だからな。さて、もう一個小隊は………あー、こりゃデグレチャフ少尉の方に釣られてるな」
空の向こう。一カ所だけ、まるで雷雲が荒れ狂っているかのような異常な魔力反応が渦巻いていた。
そこはもはや、個人の魔導師が立ち入っていい領域ではない。
「……うわ、あれ全部敵の弾幕か?」
俺の発言にヴィーシャが息を呑む。
少尉を包囲した敵4個小隊、計12機。放たれる魔法光の豪雨が、一斉に一点へと収束していく。だが、その中心で踊る小さな影は、まるで未来を予見しているかのように弾道の間をすり抜けていた。
『マスター、解析を。……デグレチャフ少尉、敵の初期照準(ロックオン)を完全に無効化。……物理的な干渉ではなく、発射前の殺気を「察知」し、弾道軸を紙一重でずらしています。……これでは、いかなる火器管制も意味を成しません』
「……マジかよ。物理的に曲げてるんじゃなくて、撃たれる前に『そこ』にいないってことか。あんなもの、機械でも計算しきれないぞ」
ヴィーシャが、引きつった顔で俺を見た。
「……デュオ。これ、本当に人間がやってることなの……? 魔法で防いでるんじゃなくて、全部避けてるなんて……」
『……さらに、反撃を開始。……マスター、見てください。彼女は敵の回避行動の終着点に、あらかじめ術式を「置いて」います』
次の瞬間、少尉の手元の宝珠から、無数の魔法光が「散弾」のように撃ち出された。
「え……!? 避けた先に、もう弾が置いてある……?」
ヴィーシャの声が震えている。
それはただの乱射ではない。拡散された術式が、敵の予測回避地点にピンポイントで配置されていたのだ。
『肯定。トラップ型広域殲滅。……一、二、三……。……三機、同時撃墜を確認』
爆炎が空に咲く。
だが、少尉は止まらない。残る九機の包囲網の「結節点」へ、弾丸のように突っ込んでいく。敵が慌てて防御結界を重ねるが、彼女はそれを嘲笑うかのように、零距離で魔導銃の銃身を叩きつけ、物理的な衝撃波で結界ごと粉砕していった。
「うひゃー、アレを躱すのか。とんでもない機動力……というか、初期照準を躱してるのね、アレ」
「……デュオ。これ、本当に人間がやってることなの……?」
ヴィーシャが、引きつった顔で俺を見た。
彼女の瞳には、少尉の圧倒的な武勇への心酔よりも、生理的な「恐怖」が勝っているように見えた。
だが、遊びはそこまでだった。少尉が高度を上げ、戦域の全ての魔力を吸い込むように、不自然なほどの静寂が訪れる。
「さて、避難避難。デグレチャフ少尉の全力攻撃が来るぞ。……ヴィーシャ、耳を塞げ!」
俺たちは全速で危険区域から離脱する。
直後、少尉の掲げた宝珠から、集束された破滅の光柱が放たれた。
それは「爆発」という生易しいものではなかった。
一直線に伸びた光の奔流が、残った敵を、その向こう側の雲海ごと消滅させたのだ。
「よしっ!! やっぱりライブラリで見た通りだ。相手もエース集団だったみたいだけど……。これで敵の魔導師も手痛い損失をしたはずだから、多分これからは楽な仕事が続くぞ」
「……何言ってるの? あんなものを見せられて……これから『楽』なんて、本気で思ってるの……?」
ヴィーシャの声は、もはや呆れを通り越して、ドン引きしている。
彼女からすれば、化け物じみた戦いを見せた上官と、それを平然と分析して「次からは楽だ」と宣う俺、その両方が「異常」に見えているのかもしれない。
「楽な仕事があればなお良し。俺たちが働かない方が、きっと世界の為だからな」
「……正論っぽく聞こえるけど、デュオの感覚、どこか壊れてるわよ……」
ヴィーシャは力なく首を振った。
そんなやり取りの間に、残火が舞う空の中心から少尉が戻ってくる。
「二人とも無事か?」
「ええ。少尉の方に1小隊多く釣られて、それでもギリギリでしたよ」
俺の報告に、少尉はフンと鼻を鳴らした。
「む、こっちに釣られたか……。まあ、あまり関係は無かったがな。9機だろうが12機だろうが、誤差の範囲だ」
4個小隊、12機を相手にして「誤差」。
ヴィーシャはもはや言葉を失い、蒼白な顔で立ち尽くしている。俺は苦笑しつつ、この最強の上官を持ち上げた。
「流石エース・オブ・エースですね。自分はそんな方の部下をやらせて貰って光栄ですよ、本当に」
「……あ、同じくですっ……!」
ヴィーシャはワンテンポ遅れて、ひきつった笑みを浮かべながら必死に頷いた。少尉は冷淡な瞳を俺たちに向けた後、どこか満足げに、だが厳格な声で告げた。
「……まあいい。戦果の確認は帰ってからだ。さっさと帰隊するぞ。帰るまでが遠足だからな」
「「了解ですっ!」」
俺はRHの出力をアイドリング状態に落とし、震える手で機首を立て直すヴィーシャと、前を行く小さな背中を見つめた。
(……まあ、彼女が引きたい気持ちも分かる。でも、この『異常』に慣れないと、この世界じゃ生きていけないからな)
楽な仕事が続く……なんて、口に出した俺でも信じちゃいない。
この『怪物』の隣にいる限り、俺たちの安息日はまだ先になりそうだった。
漫画版見てください。
完全にスターライトブレーカーです。