神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。 作:スレ主
「総員、配置に着け!」
教官の号令が、訓練空域の乾いた風に乗って響く。
対峙するのは、エリートの誇りを全身に纏った東方組の3人。対するは、愛機デバイスを構えたデュオ。
「これより対人演習を開始する。双方、宝珠は『非殺傷(ノン・リーサル)モード』に固定。魔導弾は着弾時に衝撃のみを発生させ、銃剣の刃は物理干渉を遮断した衝撃波出力に限定する」
教官は鋭い視線で両者を見渡した。
「勝敗は『降参』、あるいは魔導殻の出力低下による『戦闘継続不可』の判定で決する。演習中の技術使用に制限はない。実戦に必要なのは結果だ。……終われば、お互い恨みっこなしだ。以上、始め!」
合図と共に、東方組の3人が爆発的な魔力噴射を伴って空へと舞い上がった。
(……よし、始まった。さて、どう料理するかね)
デュオは、内心で冷静な計算を回していた。
負けるわけにはいかない。ここで無様に敗北すれば、推薦人であるデグレチャフ少尉の顔に泥を塗ることになる。それは即ち、今後の軍人生活が立ち行かなくなることを意味していた。
(レイジングハート、状況はどうだ?)
『マスター。……敗北および醜態による軍歴へのリスクを演算。……不利益が許容範囲を超えています。勝率を100%に固定。……また、候補生の「心身の安全」を最優先し、全ての直撃コースを最小限のエネルギーで偏向します』
(頼むぞ。あくまで『いい勝負』に見せて、最後はヴィーシャの方が凄いって印象を与えたいからな。接待だ、接待!)
「逃がさんぞ、オルカ! これが我ら東方の実力だ!」
リーダーのハンスが咆哮し、3人が流れるような連携で包囲網を形成した。
格子状に展開された魔導弾幕が、網の目のようにデュオの退路を断つ。
(……うわ、今の直撃コース。非殺傷でも当たると普通に痛いんだよな、これ。……はい、右に3センチ。……はい、次は左に5センチ。……よし、全部逸らせたな)
デュオにとって、その弾幕は脅威ですらなかった。
ライン戦線の地獄を潜り抜けてきた彼にとって、候補生たちの射撃は予測線の塊でしかない。アドレナリンが出るほどの実感すらなく、ただ「痛いのは嫌だ」という生存本能に従い、淡々と、そして確実に弾道を逸らしていく。
(……よし、ここでわざと体勢を崩して……『おっとっと!』って言えば、必死に戦ってる感が出るはずだ!)
「うわあああ! 近い近い! 危ないなー、今のマジでギリギリだったぞー!」
デュオは、自分でも大根役者だと思うほどの棒読みで叫んだ。
せめてもの「接待」として、必死さをアピールし、実力差を誤魔化そうとしたのだ。
だが、地上のモニターを見つめる観客たちの反応は、デュオの予想とは真逆のものだった。
「……おい、見たか。今、一言も発さなかったぞ」
「……ああ。あんな激しい弾幕の中を、眉一つ動かさず、最小限の動きですり抜けてやがる……」
地上の投影機には、「音もなく」かつ「一滴の汗もかかず、冷徹な無表情」で、弾丸を髪の毛一筋の差ですり抜けていく「死神」の姿が映し出されていた。
(……あ、あれ? なんかみんな、凄く引いてないか?)
自分の「情けない演技」が、なぜか「圧倒的な強者の余裕」として受け取られている違和感。
その正体を知らぬまま、演習はさらなる「最新の戦い方」へと足を踏み入れていく。
「当たらない……一発も、掠りすらしないだと……!?」
ハンスの焦燥が、通信機越しに荒い息と共に漏れる。
東方組の3人は不規則な高速機動でデュオを追い詰めるつもりだったが、視覚が捉える情報の異常さに、脳が悲鳴を上げ始めていた。
(よし、今の回避。わざとらしくふらついて、偶然避けたっぽく見せただろ。あとはこの光学系術式をバラまいて。わざと制御不能なフリをして、自分でも何体出してるか分かんないくらいデタラメに分身を出し続けてやる)
デュオは、自分と全く同じ残像を、前後左右に数十体も発生させた。
本人の意図としては、出力調整を完全にミスして、収拾がつかずに自分の分身が乱造されている無様な暴走を見せたつもりだった。
「おわあああ! 出すぎ出すぎ! 止まれって! 俺がどこにいるか自分でも見失うだろーが!」
デュオは心底困った顔で、自分でも情けなくなるほどの悲鳴を上げている。
だが、その叫びも表情も、レイジングハートの防音術式と光学補正によって完全に遮断されていた。
地上で見守る西方組の候補生たちは、その光景に戦慄し、椅子から転げ落ちんばかりに硬直していた。
「何だ、あの精密な同時多点制御は。数に頼る掃射を、さらに圧倒的な数の虚像で塗り潰してやがる」
西方組のリーダー格が、モニターを見つめたまま小刻みに震えている。
「見ろ、あの明滅の周期。ライトが点く瞬間に実体は至近距離に迫り、消える瞬間に幻影を遠くに残している。あれを不規則な数十体の分身で同時にやられたら、脳が敵との距離を計算できるはずがない。三半規管が物理的にハックされ、空間把握能力が殺されていく」
東方組のメンバーの一人が、ついにその不気味な感覚に耐えきれなくなった。
敵が目の前にいるのか、それとも遥か後方にいるのか。視覚情報と平衡感覚が完全に乖離し、パニックに陥った彼は、戦闘空域で最もやってはいけない禁忌、空中で棒立ちになるという状態に陥ってしまう。
「くそっ、訳がわからない。どこだ、どこにいるんだ。全部本物に見える」
獲物として完全に静止した候補生。
それを見たハンスが、本能的な恐怖を振り払うように咆哮した。
「撃つな! 銃は当たらん、目が腐るぞ! 全員、銃剣を抜け! 視覚を捨ててクロスレンジで引きずり戻すぞ!」
ハンスの命令により、東方組は射撃を捨て、決死の覚悟で白兵戦を挑むべく加速した。
だが、その決死の突撃すらも、デュオにとってはドタバタ劇の締めに向けた都合のいい舞台装置に過ぎなかった。
地上では、西方組がもはや引き気味の畏怖を通り越し、ある種の絶望を共有していた。
「一言も発さず、ただ淡々と、相手を精神崩壊に追い込むのか。これがライン戦線の効率的殺人術の正解だというのか」
一方、空中のデュオは、自分の熱演に確かな手應えを感じていた。
(よしよし、みんな、あいつ術式の使い方が滅茶苦茶で危なっかしいなって引いてる雰囲気だ。これでヴィーシャの綺麗な魔法との差が際立つぞ)
デュオの目論見は、皮肉にも最悪の形で成功しつつあった。
彼が卑怯で未熟なドタバタ劇を演じれば演じるほど、周囲の目には敵を弄び、音もなく蹂躙する静かな怪物として焼き付いていく。
(そろそろ、締めか。よし、思いっきり卑怯な不意打ちで決めて、評価をどん底に落としてやるぜ)
デュオの決意と共に、演習は最悪の結末へと加速する。
「……これで、終わりだあああ!!」
ハンスが全魔力を噴射し、文字通り弾丸となって突進する。非殺傷モードとはいえ、その銃剣から放たれる衝撃波は岩をも砕く。東方組の3人は、視覚を捨てて気配だけでデュオを捉えようと、死に物狂いの波状攻撃を仕掛けていた。
(よし、ラスト! ここで一気に盛り上げてから勝つのが、強敵役としてのマナーだよな。サービスだ、気合入れていくぜ!)
デュオは光学迷彩で背景に溶け、ハンスが幻影を貫いて大きな隙を見せたその瞬間、背後から現れた。本人は、最後くらい主人公っぽく決めようと、渾身の力を込めて叫んだ。
「うおおおおおっ! これで決着だああああ!!」
(よし、今の咆哮、泥臭くて必死な感じが出たはずだ!)
だが、地上のモニターに映し出された光景は、デュオの主観とは完全にかけ離れた「演算された絶望」だった。
歓喜と焦燥の絶頂にあるハンスの背後に、音もなく、死神のような冷徹な瞳で現れたデュオの姿。彼は一言も発さず、ただ機械的な正確さで、ハンスの首筋に銃口を添えた。
「……」(※音声出力:ゼロ)
実際には喉が張り裂けんばかりに叫んでいたデュオだったが、レイジングハートの設定により、外部への音声出力は完全に遮断されていた。
迷いなく引き金を引くデュオ。レイジングハートが放つ無慈悲な連鎖電撃が、残る2人も巻き込み、瞬時に3人を戦闘不能へと叩き落とした。
空中で硬直した3人が落下していくのを、デュオは爽快な笑顔で見届ける。しかし、その笑顔さえも、デバイスによる光学補正によって、ゴミを見るような冷酷な賢者の微笑に書き換えられていた。
演習場に静寂が戻る。地上に降り立ったデュオに対し、観客席の候補生たちは、もはや畏怖を通り越して戦慄していた。
「……おい、降りた位置を見たか? あいつ、一番最初に空へ登った位置から、ほとんど動いていないぞ」
西方組のリーダー格が、血の気の引いた顔でモニターを指差す。
「3対1で、あんな激しい波状攻撃を受けておきながら、最小限の軸移動だけでその場に留まり続けていたのか……。それだけじゃない。光学系術式の流行をさらに飛躍させてやがる。ただデコイを出すのではなく、デコイそのものの明滅周期で相手の脳を直接ハックし、実体を見せるまでもなく錯乱させて自滅に追い込んだ。……最後のクロスレンジすら、あいつの掌の上。ハンスたちが視覚を捨てて突っ込むタイミングまで、すべて計算済みだったというのか……」
エリートである観客たちだからこそ、デュオがやってのけた「最小限の力による完全な支配」に、吐き気すら覚えるほどの恐怖を感じていた。
おかしい、と首を傾げたデュオの脳内に、レイジングハートの淡々とした、しかしどこか誇らしげな声が響いた。
『マスター。……ブランドイメージの構築、成功です。……あなたの「非効率な絶叫」および「見苦しい焦り」は、白銀の弟子に相応しくないため、全て演算により除去・最適化しました』
(……は? お前、今なんて言った?)
デュオの視界に、実際にモニターへ出力されていた「加工済みのログ」が投影される。
『解析結果。……マスターがバランスを崩した際の「無様な挙動」は、慣性制御の逆演算により「敵を誘うための予備動作」へと座標変換。……必死な形相は、バイオメトリクス解析に基づき「感情を排した無表情」および「冷徹な微笑」へとリアルタイム合成。……さらに、無駄な回避軌跡を全てカットし、最短距離の移動のみを表示することで、「一歩も動かずに敵を屠る死神」としての演出を完了しました』
(……盛りすぎだろ!! 俺の営業努力を、俺の『凡人アピール』を返せよ……!!)
『外部出力は「完全無音」。……現在のあなたは、全観客から「効率的に敵を屠る沈黙の怪物」として再定義されています。感謝してください』
一瞬、頭が真っ白になった。
だが、時すでに遅し。教官が歩み寄り、戦慄を隠しきれない顔でデュオの肩を叩いた。
「見事だ、オルカ候補生。一滴の汗もかかず、言葉すら交わさず、ただ結果のみを出す。まさにライン戦線の化け物だな。貴様を高く評価する」
あまりの衝撃に言葉を失いかけたデュオだったが、軍人としての本能が体を動かした。彼は即座に姿勢を正し、教官に対して力強く敬礼を捧げる。
「ありがとうございます!」
「……圧倒的な実力を見せつけ、なおこの謙虚な礼節か。底が知れんな」
夕暮れの演習場。
熱烈な敬意を向けてくる観客たちの視線が、今のデュオには鋭利な刃物のように突き刺さる。
(どうして……どうしてこうなってしまった!!!)
誰にも届かない悲鳴を脳内で上げながら、デュオ・オルカは「絶対に怒らせてはいけない恐怖の天才」として、将校課程の歴史にその名を刻んでしまった。
やっぱりこの作品の様式美はこうじゃないと。
笑ってくれたら嬉しいです。感想待ってます。