神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。 作:スレ主
誰しも、一度くらいは空想したことがあるんじゃないだろうか。
それこそ、眠りにつく前のまどろみの中で、自分だけの特別な力を思い描くような──そう、「魔法」についてだ。
呪文一つで重力を振り切り、杖を振れば夜空を裂くような高収束の熱線をブチ放つ。概念の壁を幾重にも築いて、理不尽な攻撃を涼しい顔で完封する。
そんな、誰もが一度は夢見るような、どこまでも自由で美しい絵空事。
俺だって、その夢に魅せられた一人だった。
特に「魔法少女リリカルなのは」のように、魔法と科学がシステマチックに融合した世界観には、男のロマンがこれでもかと詰まっている。
「とある魔術」や「Fate」の世界も魅力的だが、もっとこう、相棒(デバイス)と対話しながら、自分専用にカスタマイズした術式で戦場をハックしていく……そんな、自由度の高い魔導師になりたかったんだ。
だから、あの真っ白な空間で「神」を自称する存在に問いかけられた時、俺は積年の憧れを込めてこう答えた。
「もし生まれ変わるなら、魔法少女リリカルなのは『みたいな』世界を! ついでにレイジングハート『みたいな』最高の相棒(AI)と、可愛い幼馴染もセットでお願いします!」
──今にして思えば、あの時の自分を全力で説教してやりたい。
「みたいな」なんて便利な言葉で誤魔化したツケが、今この瞬間の、救いようのない現実だ。
ガタッ、ゴトッ、と一定のリズムで身体を揺らす不快な振動が、俺を現実に引き戻す。
「……『みたいな』って言った過去の自分、言葉選びには気をつけろよマジで。解釈の幅が広すぎるんだよ」
帝国軍用列車の、ケツを破壊するために設計されたような硬い木製ベンチ。
窓の外に広がるのは、桜色が舞う魔法世界などではなく、灰色の空と、重油の臭い。そして、今にも雨が降り出しそうな泥沼の戦場へと向かう、陰鬱な景色だ。
確かに魔法はある。空も飛べる。
だが、手渡されたのは流暢な英語で守ってくれるインテリジェント・デバイスではなく、無骨で重い「演算宝珠」という名の鉄屑。放つのはロマン溢れる砲撃ではなく、効率的に人間を挽肉にするための、可愛げのない「軍事用術式」。
『……マスター。過去の自分を呪うよりも、現状のポートフォリオを最適化することを推奨します。なお、本日の生存確率は現在のところ、極めて不透明です』
脳内に直接響く、聞き慣れた──しかし少しばかり辛辣な合成音声。
俺の意識に同居している「レイジングハート(仮)」。
俺の魔導演算を完璧に補佐してくれる素晴らしい相棒だが、主人のメンタルケアに関しては、どうやら初期設定で「毒舌」が選択されていたらしい。
(分かってるよ。……それより、隣のこの『可愛い幼馴染』、どうにかしてくれ)
「……はぁ。ねえデュオ。私、さっきから震えが止まらないんだけど。これって武者震いかな?」
隣で生まれたての小鹿みたいにガクガクと膝を震わせている少女──ヴィーシャこと、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ伍長が、消え入りそうな声で俺を覗き込んでくる。
軍服の襟元から覗く白い肌と、まだあどけなさが残る顔立ち。確かに可愛い。だが、彼女の瞳に宿っているのは「恋の予感」ではなく、「戦場への剥き出しの恐怖」だ。
「いや、どう見てもただのビビりだ。……あと、ヴィーシャ。いい加減に肩から離れろ。等温環境を求めているなら、毛布でも被ってろ。俺は湯たんぽじゃねえ」
「え、あ……ごめん。でも、なんか……こうしてないと、今にも心臓が口から出ちゃいそうで……」
彼女は申し訳なさそうにしながらも、縋るような手付きで俺の二の腕をぎゅっと握りしめてきた。
厚手の軍服越しだっていうのに、伝わってくる彼女の異常なほどの熱と細かな震えが、俺の脳内演算リソースを余計なことに割かせようとする。
『……マスター。セレブリャコーフ伍長の心拍数が上昇しています。接触による安心感の確保は、現時点での部隊全滅リスクを0.02%減少させます。我慢を推奨します』
(お前はどっちの味方だ……)
神様、一つ言い忘れてました。
「幼馴染」とのラブコメを望んだのであって、「死への恐怖で震える女の子を介護しなきゃならない戦友」を望んだわけじゃないんですよ。
俺は再び車窓に目を向け、どんよりとした空を見上げた。
ガタゴトと揺れる列車のリズムだけが、俺たちの「穏やかな老後」という名の夢を、一歩ずつ地獄の駅へと運んでいく。