神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。 作:スレ主
ノルデン駐屯地の司令部は、騒がしくはあったが、まだ「崩壊」と呼ぶには早すぎた。
ただ、歯車が噛み合っていない。本来ここを統括すべき大隊規模の指揮官たちは前線の防衛ポイントへ張り付いたままで、司令部には次々と飛び込んでくる敵魔導師の接近情報と、絶望的な補給の遅延報告だけが積み上がっていた。
「鉄道はどうした! さっきから止まったままではないか! 弾薬庫はあと半日分も残っていないんだぞ!」
中尉の階級章をつけた男が、血走った目で受話器を叩きつけている。
動脈である鉄道が沈黙し、頼みの綱であった緊急補給も届かない。目の前の弾薬箱が空になれば、この駐屯地はただの「標的」に成り下がる。その焦燥が、室内の空気を重く沈殿させていた。
だが、その沈滞を一喝が切り裂いた。
「――そこまでだ、中尉。見苦しいぞ」
背後から響いたのは、鋼のように硬い声だった。
混乱する司令室の空気が、一瞬で引き締まる。現れたのは、ゲオルグ・フォン・バウマン大尉。かつてこの北方の国境守備隊を率いたベテランであり、現在は将校課程の教官を務める男だ。
「大尉殿!? しかし、我々は補給もなしに……!」
「指揮権を一時的に私が預かる。不平不満は後で軍法会議で聞け。中尉、貴官は通信を確保し、前線の各部隊に『三日間の持久』を徹底させろ。……弾が足りないなら、一発の精度を上げろ。死にたくなければな」
バウマンの有無を言わせぬ圧力が、混乱していた将校たちを引き戻す。彼は迷うことなく地図を指し示し、俺たち候補生の方を向いた。
「候補生諸君、よく聞け。今の貴公らはただの学生ではない。帝国の綻びを埋めるための、最後の予備隊だ。……デュオ、ヴィーシャ、エーリャ。貴公らを含む北方組と実戦経験者は、独立遊撃隊として再編成する。私の直卒だ。残りの者は駐屯地内郭の防衛につけ。――遅れるなよ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
俺たちの返唱が重なる。
だが、北方以外の出身者……東方や南方の候補生たちは、この異常事態に明らかに動揺していた。広大な平原や穏やかな気候しか知らない彼らにとって、物資が途絶し、敵が目前に迫る北方の冬は未知の恐怖だ。
「……どうしよう、弾薬が届かないなんて……」
「こんな泥だらけの場所で、本当に戦えるのか?」
震える彼らの肩を、エーリャをはじめとする北方組が迷いなく叩いた。その顔に悲壮感はない。むしろ、どこか呆れたような、慣れっこの顔だ。
「ほら、しゃきっとしなさいよ! 鉄道が止まるなんて、この辺じゃ冬の日常茶飯事でしょ?」
エーリャが笑い飛ばすと、別の北方出身者も平然と魔導銃を肩に担ぐ。
「そうだよ。線路が死んだら馬で運ぶ。馬が死んだら自分たちで運ぶ。北方の戦い方は、いつだってそうやってきたんだ。東方や南方の『お上品なルール』が通じないだけ。今さら慌てることじゃないって」
彼らにとって、この状況は「絶望」ではなく、単なる「いつもの不便」の延長線上に過ぎない。一番最初に戦争を経験し、厳冬と戦ってきた北方の人間たちの強かさが、周囲の動揺を急速に沈静化させていく。
ヴィーシャもその空気に乗るように、震える新兵たちの銃を確認しながら静かに言った。
「足元に地面があって、空に敵がいる。……それだけ分かっていれば、ラインに比べればよほど単純な話です」
だが、現実はその落ち着きを試すように加速する。
「報告! 敵魔導師の遊撃分隊、防衛線の隙間を突破! 座標102、第一砲兵陣地へ直進中!」
通信兵の声が響く。座標102。俺たちが、文字通り肩を壊す思いで砲弾を運び込んだ、この駐屯地の「心臓部」だ。そこを叩かれれば、反撃の火蓋を切る前にすべてが終わる。
「……野郎、一番効率的な場所を狙いやがったな」
俺は魔導銃のグリップを握りしめ、バウマン大尉の背を追って司令部を飛び出した。
泥濘を蹴り上げる軍靴の重み。三時間の強行軍で焼き付くような熱を持った魔力回路が、再起動の負荷に悲鳴を上げている。だが、止まっている暇はない。
「――独立遊撃隊、私に続け! 泥を食ってでも砲兵陣地を守り抜け!」
大尉の怒号が、冷え切ったノルデンの空気を切り裂く。高度を絞り、駐屯地の施設を遮蔽物代わりに使いながら座標102――第一砲兵陣地へと急行する。
「……デュオ、あの時と同じだね。泥と、硝煙と、足りない物資」
隣を低空で併走するヴィーシャが、視線を前方に固定したまま静かに告げた。その横顔には、ライン戦線の地獄を共に潜り抜けてきた者だけが共有する、乾いた覚悟が宿っている。
「ああ、状況のクソさはあの日と同じだ。……だが、俺たちはあの時のままじゃないだろ? 運んできた砲弾が、あそこで俺たちの反撃を待ってるんだ」
「……うん。そうだね。今は私たちに、自分たちの手で守り通すべき『弾』があるもの」
ヴィーシャの瞳に、ラインの生き残りとしての鋭い光が宿った。
「ちょっとデュオ、私も忘れないでよね。これでも一応、成績優秀な『観測班』なんだから」
エーリャが、高度な姿勢制御を見せながら割り込んできた。余裕を見せているが、演算宝珠を握る指先がわずかに震えている。
「わかってる。広域観測をこなしながら、その魔導銃で精密射撃まで叩き込む。……観測も戦闘も、なんでも器用にこなすお前が頼りだ、エーリャ」
「……あったりまえじゃない。私の目と銃からは、誰も逃がさないわよ」
エーリャが索敵網を広げ、戦闘態勢に入る。その背後には、北方出身の候補生たちが続いていた。
「おい、エーリャ! 観測なんて地味なこと言ってねえで、俺の突撃を援護しろよ! 撃ち漏らしは全部叩き切ってやる!」
大柄な体躯を揺らし、近接魔導戦を得意とするゲッツが荒っぽく笑う。
「ゲッツ、声がでかい。……敵の遊撃分隊、捕捉した。数は六。散開して陣地を囲むつもりだ」
冷静に分析を告げたのは、眼鏡の奥で冷徹に戦況を読むヨハンだ。
「……効率的に潰しましょう。無駄弾は、この駐屯地には残っていませんから」
小柄な身体を弾丸のように加速させ、殿を務めるミカが短く「了解」と頷いた。
(レイジングハート。残余魔力をすべて『瞬間的な加速』と『照準補正』に回せ)
『Yes, my master. 出力限定解除。防衛ラインの綻びを修復します』
脳内に響く無機質な肯定。
眼下には、俺たちが運んだ砲弾を今まさに装填しようとしている、泥まみれの砲兵たちの姿。そして上空からは、その「希望」を粉砕しようと急降下してくる協商連合の影。
「……効率化のツケを、俺たちの血で払わせるなよ、帝国」
俺は空中、慣性を無視した急旋回で敵の先頭をサイトに捉えた。
魔力は空に近い。肉体は悲鳴を上げている。
だが、簡単に壊させてたまるか。
「大尉殿! 俺が死角から肉薄します。正面の注意を引き受けていただけますか!」
加速する思考の中、俺は前方を行くバウマン大尉へ通信を入れた。
残余魔力は乏しい。三時間の強行軍で演算宝珠は熱を持ち、循環する魔力は枯渇寸前だ。広域防護で敵の弾を弾き飛ばす余裕などない以上、一点突破の奇襲こそが最短の最適解だ。
「……フン、学生が指図するか! だが名案だ、行け、デュオ! 貴公の『最短経路』を見せてみろ!」
バウマン大尉の声に、躊躇はなかった。
大尉自身、俺たちが限界まで砲弾を担ぎ続けてきたことを誰よりも理解している。この「ボロ雑巾」のような状態で、持久戦など成立しない。多少の無茶を承知で、最短時間で敵を排除するしかないのだ。
大尉が魔導銃を掲げ、あえて高度を上げて派手な威嚇射撃をバラ撒く。協商連合の遊撃分隊――その意識が、圧倒的な魔圧を放つベテランへと吸い寄せられた。
今だ。
俺は地形の起伏に合わせ、地面を這うような超低空で一気に加速した。
視界の端では、ヴィーシャとエーリャが鮮やかな連携を見せている。エーリャが放った牽制の熱線が、敵一番機の逃げ道を塞ぐように空を焼き、緻密な計算に基づいた「追い込み」が始まった。
「ヴィーシャ、右! 追い込むわよ!」
「了解、エーリャ!」
ヴィーシャがラインで培った、敵の嫌がる位置への正確な置き撃ちを繰り出す。逃げ場を失い、陣地直上の対空火網へと吸い込まれるように機首を上げた敵の一番機。
その機体の真下、完全に死角となっていた位置から、俺は垂直に突き上げた。
(照準固定。一射で終わらせる)
『Target locked.』
加速の慣性をすべて銃弾に乗せる。
レイジングハートが弾き出した座標に従い、俺の指が引き金を絞った。
放たれた魔力弾は、無防備な敵機の腹部を真っ向から貫き、灰色の空に一輪の火花を咲かせた。
「一番機、撃墜確認! ――残り五!」
エーリャの鋭い報告が響く。だが、敵も素人ではない。即座に二機がこちらへ機首を向け、魔導銃の銃口が光った。
「デュオ、突っ込みすぎよ! 下がって!」
「いや、このまま削る……ゲッツ、ヨハン! 左右から挟むぞ!」
俺は焼けるような肺の痛みを無視し、次なる標的へと魔力を練り上げた。効率化のツケを払わされるのはごめんだが、守り抜いたこの「弾薬」が咆哮を上げる瞬間を見るまでは、ここで落ちるわけにはいかない。
「逃がすかよ……!」
反転し、距離を取ろうとする敵の二番機。だが、その機動はすでにヨハンの計算内だった。
「デュオ、十時方向。追い風を利用して機速を上げろ。……そこなら、奴の死角だ」
「了解!」
ヨハンの冷徹なナビゲートに従い、俺は演算宝珠をさらに酷使する。警告音が脳内で鳴り響くが、今は無視だ。右翼からゲッツが肉弾戦を挑むかのように突っ込み、敵の編隊を強引に引き剥がす。
「おらぁ! 泥を食ってでも離さねえぞ! 帝国の『在庫(たま)』はまだ切れてねえんだよ!」
ゲッツが咆哮し、肉弾戦を挑むかのように敵機へ突っ込む。三時間の強行軍でボロボロのはずだが、北方の過酷な環境で鍛えられた彼の動きには、理屈を超えた執念が宿っていた。
ゲッツが振り回した魔導銃の銃身が、敵の防壁宝珠を力任せに叩き割る。その衝撃で姿勢を崩した標的へ、俺は最短距離の機動(ショートカット)で肉薄した。
零距離。
引き金を絞る指先に、確かな手応えが伝わる。二発目の魔力弾が敵の喉元を貫き、爆炎が俺の視界を白く染めた。
「二番機、轟沈! ……ミカ、三番機を抑えて!」
「やってる……逃がさない」
小柄なミカが、重力無視の急降下で三番機の背後に張り付く。敵が必死の回避機動(マニューバ)を試みるが、地元の地形を知り尽くした北方組の連携からは逃れられない。
「バウマン大尉、敵残存機、高度を上げます! 逃がすつもりはありませんよね!」
俺の叫びに、大尉が不敵な笑みを浮かべて魔導銃を構え直すのが見えた。
「当然だ。一兵たりとも生かして帰すな。……これが、ノルデンにおける『挨拶』の返礼だ!」
大尉の放った極太の熱線が、逃走を図った四番機を文字通り消滅させた。
残るは二機。だが、その時だった。
眼下の砲兵陣地から、地響きのような怒号が響き渡った。
「装填完了! 弾薬、魔導師諸君に感謝する!」
「撃てぇッ!!」
凄まじい衝撃波が空気を震わせ、俺たちの体を揺さぶった。
俺たちが泥にまみれて運び込んだ、あの105ミリ砲弾。その第一射が、ノルデンの灰色の空を切り裂き、遥か遠方の敵本隊へと向かって放たれた。
「……あいつらが、吼えたな」
俺は空になった薬莢を吐き出し、遠ざかる火光を見つめた。
肺の痛みはまだ引かない。だが、この一撃を届けるために俺たちはここまで来たんだ。
「……デュオ、終わったよ。遊撃分隊、全機撤退もしくは撃墜を確認」
ヴィーシャの報告を聞きながら、俺は泥の浮いた陣地に降り立った。膝が笑っている。演算宝珠は熱を持ちすぎて、触れれば火傷しそうなほどだ。眼下では、俺たちが運んだ弾を次々と飲み込む105ミリ榴弾砲が、狂ったように火を噴き続けている。
「……一発で、俺たちの三時間の苦労が飛んでいくな」
俺の独白に、隣に着地したエーリャが力なく笑った。その時、上空からボロボロの魔導師たちが次々と舞い降りてきた。ノルデン地方を死守していた本隊――ノルデン魔導大隊の生き残りだ。だが、その数はあまりに少ない。
「バウマン大尉! 貴公か、よくぞ弾薬を届けてくれた!」
一人の魔導師が大尉に駆け寄る。階級章は少佐だが、片腕を吊り、飛行服はあちこちが焼け焦げていた。
「少佐、状況は」
「最悪だ。……大隊の三割を失った。残った連中も宝珠が限界だ。敵の次波が来れば、この陣地ごと飲み込まれる」
少佐の言葉に、周囲の空気が凍り付く。少佐の視線が、俺たち「学生」に向けられた。
「バウマン、背に腹は代えられん。貴公の力が必要だ。この陣地の防空指揮と、再編した大隊の先頭に立ってくれ」
「……しかし、私はこの雛共を連れてきている。こいつらを置いて前線に出るわけにはいかん」
バウマン大尉が、苦渋に満ちた表情で俺たちを振り返った。大尉は知っている。俺たちが強行軍の直後で、魔力も体力も底を突いていることを。だが、大尉がここで指揮を執らなければ、この駐屯地全体の防衛網が瓦解するのも事実だった。
「……大尉殿」
俺は一歩前に出た。
一歩踏み出すごとに、泥が軍靴にまとわりつき、鉛のような重さを伝えてくる。肺を焼くような痛みも、演算宝珠が鳴らし続ける耳障りな警告音も消えてはいない。
だが、この「沈黙」が続けば続くほど、大尉の肩にかかる重圧が増していくのが分かった。ここで「学生だから」と口を閉ざして守られることを選べば、次に待っているのは、防衛線が崩壊した後の「効率的な全滅」だけだ。
「俺たちを、実戦部隊として数えてください。……補充兵が必要なんでしょう?」
俺の言葉に、バウマン大尉の眉がピクリと動いた。その鋭い眼光が俺を射抜く。
隣ではヴィーシャが、そしてエーリャが、言葉には出さないが静かに銃を握り直し、俺の横へと並んだ。北方組のゲッツたちも、泥を拭いながら視線を大尉へ固定している。
「……デュオ。貴公、自分が何を言っているか分かっているのか。一度『戦力』として台帳に載れば、二度と学生扱いはされんぞ」
「最適解を選んでいるだけです」
俺は震える指先を隠すように、熱を持った魔導銃のグリップを強く握り込んだ。
「大尉がここで指揮を執り、俺たちが空を埋める。……それが今、この場所で最も生存率を上げる手段だ。俺たちの命を効率的に使いたいなら、ここで温存するのは損失でしかないはずだ」
沈黙が流れる。
背後では、俺たちが運んだ砲弾を装填する金属音が響き、105ミリ榴弾砲が空気を震わせて咆哮を上げている。
バウマン大尉は深く、深くため息をつき、天を仰いだ。それから、野獣のような鋭い眼光を俺たちに向け、覚悟を決めたように唇を歪めた。
「……分かった。これより独立遊撃隊の呼称を廃止する」
大尉が、手近にあった砲弾の空箱を力任せに蹴り飛ばした。乾いた音が戦場に響く。
「本日付で、貴公らを本隊へ臨時配備とする。ノルデン魔導大隊、第四中隊予備隊だ」
大尉の声は、もはや教官のそれではなく、戦場の指揮官としての冷徹な響きを帯びていた。
ただ、「予備隊」という言葉を選んだのは、教官としての彼が示せる最大限の譲歩だったのだろう。最前線で使い潰される消耗品としてではなく、あくまで最後の詰めの一手として、俺たちの命を繋ぎ止めようとする意志がそこにはあった。
「学生気分は泥と一緒にそこに捨てろ。貴公らは今日から、帝国の勝利を買い取るための『実弾』だ! 臨時だろうが何だろうが、戦場に甘えは存在せん。……放てば殺し、当たらねば死ぬ。それだけだ!」
「了解、教官殿……いえ、バウマン大尉殿!」
俺たちの返唱が、冷たい雨の混じるノルデンの空に響いた。
「……はは、効率化の極致だな。教育課程を飛ばして即実戦投入かよ」
自嘲気味な独白と共に、俺は指先に張り付くような熱を持つ演算宝珠を握り直した。
レイジングハートが脳内で無機質な警告を繰り返しているが、もはやログを確認する必要すらない。
(レイジングハート。これより『臨時配備期間』の演算を開始する。目標は、生存と勝利の同時達成)
『Yes, my master. 戦域データを更新。長期消耗戦モードへ移行します』
俺はふと足を止め、背後に続く五人を振り返った。
俺が「最適解」だと言って勝手に進めた話だ。その一言で、彼らを「学生」という安全圏から「使い捨ての増援」へと引きずり込んでしまった事実に、胸の奥が微かに疼く。
「……すまない。俺が勝手に配属を願い出たせいで、お前たちまでこんな最前線に立たせることになった」
俺の謝罪に、最初に鼻で笑ったのはゲッツだった。
「謝るなよ、デュオ。弾を運ぶだけで終わるより、空で暴れる方が俺の性に合ってる。それに、お前が言わなきゃ俺が言ってたぜ」
「……効率を考えるなら、ここで待機している時間はありませんからね」
ヨハンが眼鏡を指で押し上げ、冷淡ながらも確かな同意を含めて頷く。ミカも無言で短く「……平気」とだけ答え、静かに空を見上げた。
「そうよ、デュオ。観測班の私を置いていくなんて言ったら、それこそ承知しなかったんだから」
エーリャが強気な笑みを見せ、頼もしげに胸を張る。
「謝る必要なんてないよ、デュオ」
最後にヴィーシャが、ラインを経験した者特有の落ち着いた、それでいて慈愛に満ちた笑みを浮かべて横に並んだ。
「私たちは、あの日からずっと戦場にいるんだもの。場所がノルデンに変わっただけ。……そうでしょ?」
五人の視線に、俺を責める色は微塵もなかった。あるのは、ここで共に生き残るという共通の意志だけだ。
「……ありがとう。助かる」
短く、だが心からの感謝を伝えると、ゲッツが俺の肩を力任せに叩いた。
「おうよ! 頼りにしてるぜ、デュオ!」
遠く、協商連合の次波を告げる進軍ラッパが、灰色の空を切り裂いた。
「……デュオ、行こう。私たちが運んだ『弾』が、まだあんなにたくさん残ってるんだから」
ヴィーシャの言葉を合図に、俺たちは再び、泥濘を蹴って冬の空へと舞い上がった。
感想あるとモチベ続いて書くペース上がります。