神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。   作:スレ主

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第29話:「魔導大隊、前途多難な船出」

 

数日後、俺は帝都中央にある会議室の重苦しい空気の中にいた。

目の前には、厳しい表情を崩さないゼートゥーア准将。そして、自慢の精鋭を「不合格」と突き返され続けて不機嫌さを隠そうともしない東部方面軍の参謀たちが並んでいる。

 

本来なら副官である俺は外で控えているべきなのだが、なぜかデグレチャフ大尉の「客観的な観測者も必要だ」という強引な理屈で、この針のむしろのような席に同席させられていた。

 

「――では、試験を再開する。次」

 

大尉の冷徹な声と共に、実演による選抜試験が始まった。

試験内容は、拍子抜けするほど単純なものだ。目の前にある空の椅子に、あたかも人が座っているかのように見せる幻影。これだけだと気づかない者もいるだろうが、大尉はさらに、広い会議室の壁を意図的に内側に寄せ、部屋全体を狭く見せる幻影を重ねていた。

特にこの「部屋を狭くする幻影」は、魔導師としての感知能力以前に、普通の人間でも「……おや?」と空間の歪みに違和感を感じるほど不自然な設定になっている。

だが、結果は散々なものだった。

 

「……不合格。次」

「……話にならん。不合格だ」

 

志願者たちは、目の前の「いないはずの人間」に敬礼し、迫ってくる壁に気づく様子もなく、大尉の冷ややかな視線に晒されて次々と脱落していく。

 

(……だよなぁ。将校課程の俺の同期なら、部屋に入った瞬間に術式の気配で気づくだろうけど。そもそも卒業の内示が出てからまだ一ヶ月も経ってないんだ、優秀な奴ほど原隊に戻るか新しい任地へ向かってる最中だろ。こんな時期に応募してくる変わり者はそうそういないか)

 

結局、東部方面軍の志願者は二十九組中、二十七組が原隊復帰。比較的練度の高い中央組ですら十組中五組が落とされた。合わせても中隊規模にすら届かない惨状だ。

重苦しい沈黙が会議室を支配する。ゼートゥーア准将が、組んだ指の隙間から大尉を見据えた。

 

「……デグレチャフ大尉。要求水準を少し下げることは可能かね?」

 

その問いに、大尉は待ってましたと言わんばかりに、一点の曇りもない事務的な口調で答える。

 

「准将閣下。戦場で足を引っ張り合うのは、無能ではなく『練度の不均一』です。再訓練を施せば使い物になる、という明確な基準設定が必要不可欠です。それには……相応の編制時間が必要となります」

 

偉い人たちが少しの間、黙り込む。

 

(……正論だ。運用上、足並みが揃わない部隊ほど扱いづらいものはない。均一化を優先すれば、そりゃあ編制に時間はかかる。つまり大尉の狙いは、訓練を名目に後方での編制期間を最大限に引き延ばすことか。相変わらずやり口が鮮やかすぎる……)

 

ゼートゥーア准将が、重い腰を上げるように問いかけた。

 

「……具体的には、どの程度の期間を要する?」

 

「――一月ほどあれば」

 

「…………え?」

 

俺は思わず、その場で声を上げそうになった。

一月? 一ヶ月? 聞き間違いか? 単位は「年」じゃなくて?

 

(おい、レイジングハート。今の、俺の聞き間違いじゃないよな?)

 

『……マスター。心拍数の上昇を確認。聞き間違いではありません。デグレチャフ大尉は明確に「一月」と発言しました』

 

(おいおい、正気かよ。自衛隊のレンジャー教育ですら三ヶ月はかかるんだぞ? たった一ヶ月で、あのバラバラの練度を基準まで引き上げるなんて……)

 

『推測します。大尉は教育ではなく、極限状態での選別――すなわち、脱落者が出ることを前提とした、超高負荷の圧縮訓練を想定しているものと思われます』

 

(マジかよ……。それ、訓練っていうよりただの生存競争だろ……)

 

「一月か。ならこの際構わない、多少手荒でも再教育してやれ」

 

「はっ!」

 

准将の決断が下された。

短く、力強く応諾した大尉の横顔を見ながら、俺は胃のあたりがキリキリと痛み出すのを感じていた。一ヶ月後、この世のものとは思えない地獄のメニューが待っている。そしてその「地獄」の管理をさせられるのは、間違いなく俺とヴィーシャなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

試験会場の重苦しい空気から解放され、俺とヴィーシャは大尉の後に続いて、参謀本部の訓練用演習場へと移動していた。

 

ようやく本日の選抜も終わり、これから地獄の一ヶ月に向けた訓練メニューの内容をどう詰めていくか……と考えていた矢先のことだ。大尉は固まった身体をほぐすように肩を回しながら、なんでもない日常会話のようなトーンでこう切り出した。

 

「気分転換に、模擬戦をやらないか?」

 

「……はい?」

 

俺は思わず、間の抜けた声を返してしまった。いや、なんで今から?

これからたった一ヶ月で訓練メニューを組んで、大隊の戦力化を完了させなきゃならないっていうのに……。デグレチャフ大尉に何か考えがあるのか? と思いつつ、俺とヴィーシャは顔を見合わせた。

 

「今までずっと書類仕事をしていた気晴らしだよ。それに、君たち二人の実力はある程度認めてはいるが、どれくらいのものか知るための練度判定というやつだ。今後の教育計画の基準にさせてもらう」

 

気晴らしと言いつつ、しっかり実戦データも取るつもりらしい。ヴィーシャの瞳にも「避けては通れないね」という諦めと覚悟の色が浮かんでいる。

 

「二対一……いや、一対一だな。ツーマンセルの能力の高さはもう分かっている。地力がどれくらいあるか見せてもらおう。……さぁ、どっちからくる?」

 

相変わらず、いい笑顔で威嚇してくる人だ。その瞳の奥には、獲物を待ち構えるような鋭い光が宿っている。

 

「……じゃあ、順番を決めようか、ヴィーシャ」

 

「そうだね、デュオ。……やろうか」

 

俺たちはその場でじゃんけんをして、先鋒をヴィーシャ、後が俺に決まった。

 

「……大尉、胸を借りさせていただきます」

 

ヴィーシャが宝珠を起動させ、静かに滞空を開始する。普段の穏やかな彼女は消え、一人の鋭い魔導師としての顔がそこにはあった。

 

「いいだろう、セレブリャコーフ少尉。……私の『気晴らし』を退屈させないでくれよ?」

 

夕闇に染まり始めた演習場に、火花を散らすような緊張感が走り抜けた。

 

 

 

sideヴィーシャ

 

「始めますよー、よーい始め!」

 

デュオの号令が空に響いた瞬間、全身の肌を刺すような、鋭い初期照準の感覚が突き刺さる。

心臓が跳ねるより速く、私はその場から爆発的に加速した。回避行動と同時に、牽制目的で計算し尽くした数発を放つ。

 

「流石に初期照準には反応するな」

「大尉がラインで徹底的に教えてくださいましたから!!」

 

大尉の言葉に叫び返しながら、私は空を駆ける。お互いに初期照準を交わし合う高度な機動戦。だが、大尉の放つ術式の物量が徐々に増え、直撃コースの弾道が網の目のように私を追い詰め始めた。

しかし、その弾は私に当たる直前で、ふいと横へ逸れていく。弾道の横に薄く縦長の防壁を置くように配置することで、弾丸の軌道を強制的に逸らす技術――デュオは「弾き飛ばし」なんて即物的な呼び方をしているし、エーリャは「屈折術式」って洒落た命名をしていたけれど、今はそんなことを思い出している余裕はない。

 

「しっかりと『それ』も教わったみたいだな!!」

 

「将校課程で習得できたのは、私とデュオだけでした!!」

 

大尉の碧い瞳が楽しげに細められた。

 

「なら、これならどうだ?」

 

直後、空気が震えた。一人で出せるはずのない、物理法則を無視した弾幕の奔流。

弾を逸らせる限界を遥かに超えている。私はロールと進路変更を限界まで繰り返し、必死に回避の糸を探る。だが、その回避先の空間に、置物のようなトラップ型の術式弾が待ち構えていた。

 

(しまっ――!)

 

紙一重。防壁の破片を散らしながらそれを躱すと、通信宝珠から大尉の感心したような声が届く。

 

「ほう……これも躱すのか」

 

躱して、逸らして、ロールして、ジグザグに軌跡を描く。常に動き回り、一瞬たりとも予測させない。その極限の回避の中でも、私は必死に牽制の射撃を絶やさなかった。

 

大尉はまた少し笑ったように見えた。そして、一気に距離を詰めてくる。

 

互いの初期照準と射撃がほぼ同時になるほどの至近距離。回避はもう間に合わない。私は出力を防壁に集中させ、火花を散らしながら耐える。

足が止まった。それは自分でも理解していた。

 

(来る――!)

 

大尉は間違いなく、このまま距離を詰めてゼロ距離から私を仕留めにくる。そう予測した私は、目の前に大尉と同じようにトラップ型の弾を用意した。

だが、大尉はその罠をするりと抜け、私の視界から消えた。

 

――背後!

 

圧倒的に不利な場面。

私は即座に腰の銃剣を抜き、逆手持ちに構え直して後ろへと対応するが。

 

「残念。私は、そこまで大きくないのでな」

 

私の脇をすり抜けるように潜り込んだ小さな影。

銃剣を鮮やかに躱され、私の喉元に黒い銃口が突きつけられた。

 

「そこまで!!」

 

地上からデュオの鋭い制止の声が響く。

演習場に静寂が戻り、私は激しい鼓動を抑えながら、自分の完敗を悟った。

 

 

sideデュオ

 

地上に降り立ち、荒い息を整えるヴィーシャと、涼しい顔で着地した大尉のもとへ駆け寄る。

三人で演習場の中央に集まり、即座に今の戦闘の反省会が始まった。大尉は手袋を直しながら、まずはヴィーシャへの評価を口にする。

 

「防壁、機動、射撃の正確さ、どれも高い水準でまとまっていた。だが、少し決定力不足が否めないな」

 

「……最後は、仕留めたと思ったんですけど」

 

ヴィーシャが耳を垂らした子犬のようにしょんぼりと肩を落とす。あれだけ動いて最後の一手まで読み合っていたのだから、ショックなのも無理はない。

 

「もうちょっと、デコイとかを織り交ぜて出せたら、相手の判断を遅らせる変化をつけられたと思うかな。ヴィーシャは実直すぎるんだよ」

 

俺が横から口を挟むと、大尉はわが意を得たりとばかりに頷いた。

 

「確かにな、オルカ少尉。セレブリャコーフ少尉の戦闘自体、真っ直ぐすぎるきらいがある。こちらの思考を削る、あるいは奪うような不規則な行動を増やせば、もう少し粘れる戦闘になれただろう」

 

「……以後、精進します」

 

「しかしながら」

 

大尉は言葉を継ぎ、少しだけ表情を和らげた。

 

「一つ一つの動作、選択自体は決して悪くなかった。もし、ラインの時のように隊の加速についていくのが精一杯だったあの頃のままだったら、今回の一ヶ月の選抜試験に組み入れる予定だったからな」

 

「えっ、そうだったんですか!?」

 

ヴィーシャが驚きで目を丸くする。

 

「合格基準をヴィーシャに合わせなくて正解でしたね、大尉」

 

俺が苦笑いしながらそう付け加えると、大尉は否定しなかった。

あの「壁が迫ってくる幻影」どころではない、余裕を奪われた極限状態での判断力テスト。もしそんなものが選抜に組み込まれていたら、今の志願者たちは一人残らず不合格になっていただろう。

 

「……さて、次は俺の番ですか」

 

俺は肩を回しながら一歩前へ出た。ヴィーシャの戦いを見て、大尉の「キレ」は十分に把握したつもりだ。だが、分かっているのと対応できるのは別の話。

 

「期待しているぞ、オルカ少尉。将校課程では次期エース・オブ・エースとまで評価された君の地力、私にどうぶつけてくるのかをな」

 

大尉の碧い瞳が、再び鋭い光を宿す。

「不条理」を体現するような「白銀」を相手に、俺がどこまで食らいつけるか。演習場に、先ほど以上の圧力が満ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと地面を蹴り、滞空状態へと移行しながら、俺は意識を深く内側に沈めた。

目の前で不敵に微笑む「白銀」の圧力に呑まれないよう、自らの内にある相棒を呼び起こす。

 

(……レイジングハート。今のヴィーシャの戦闘データから、大尉の『癖』は抽出できたか?)

 

『……了解。マスター。蓄積された戦闘ログより、デグレチャフ大尉の思考パターンを再構成。彼女は効率性を重視するあまり、最短経路での刺突、および心理的死角を突く機動を優先します。……ただし、現状の彼女の出力は、明らかに余裕を残しています』

 

(だろうな。気晴らしと言いつつ、こっちの限界を値踏みしてるんだ。……まずは様子見。初期照準の速度を一段階上げるぞ。いいな?)

 

『……All right. 物理・魔導両面での最適化を完了。全システム、戦闘モードへ移行。……マスター、幸運を』

 

相棒の落ち着いた声が脳内に響き、視界に透過的な戦術インターフェースが展開される。

その瞬間、周囲の空気が一変した。

 

午後の日差しが照りつける演習場の空気が、物理的な質量を伴って肌に張り付く。ピリピリとした静電気が弾けるような緊張感。

 

先ほどまでのヴィーシャとの模擬戦では、まだどこか「教育」の側面があった。だが、俺が前に出た瞬間、大尉から放たれる殺気は、戦場で対峙する「敵」へのそれと同質のものに変質していた。

 

「……ほう。いい集中力だ、オルカ少尉。その眼……将校課程で数多の教官を黙らせただけのことはある」

 

大尉がわずかに顎を引く。その背後で、魔力密度の急上昇を知らせる警告音が脳内で鳴り響いた。

 

「準備はいいな? ……始めよう」

 

「――っ!」

 

合図と同時。

大尉の姿が掻き消え、俺の全方位から同時に「直撃コース」の初期照準が突き刺さる。

ヴィーシャの時とは、初手の密度が違う。

俺は即座に重心を低くし、レイジングハートの演算を借りて、最小限の機動でその火線をくぐり抜けた。

 

「……! さっそく避けるか。ならば、これでどうだ?」

 

大尉の詠唱なしの多重起動。空中に無数の術式陣が展開され、一瞬にして演習場が魔光で塗り潰される。

逃げ場を消し、判断を強要する暴力的なまでの効率的攻撃。

俺はその光の奔流を見据え、口角を上げた。

 

(レイジングハート! ――『弾き飛ばし』全開だ!)

 

『起動』

 

俺の周囲に展開された縦長の防壁が、大尉の放った弾丸を次々と弾き飛ばし、甲高い音を空中に響かせる。

静寂と狂気が入り混じる空間で、俺と大尉、二つの影が火花を散らしながら激突した。

 

空中を激しく交錯する中、今度は俺から仕掛ける。

 

(レイジングハート、デコイ飽和展開!)

『Yes, my master.』

 

俺の周囲に、俺と全く同じ熱源と魔力波形を持つ幻影が十数体、一斉に膨れ上がった。それぞれがバラバラの方向へ機動し、大尉の視界を物理的・情報的に埋め尽くす。

 

「ふむ、数で押すか。だが甘いな」

 

大尉が冷徹に呟いた瞬間、空中に展開された無数の術式が精密なレーザーのごとく四散した。一瞬。文字通り一瞬で、俺が放ったデコイたちが次々と弾け飛んでいく。その正確無比な殲滅速度には舌を巻くが、これも計算のうちだ。

 

(今だ!)

 

最後の一体が撃ち抜かれる直前、俺は自身の姿を透明な幻影(光学迷彩)で覆い、本命の接近を仕掛けた。デコイの爆発に紛れ、大尉の背後、死角へと一気に潜り込む。

だが、あと数メートルというところで、大尉の首が不自然にこちらを向いた。

 

「……そこか!」

 

直感か、あるいは空間の僅かな揺らぎを察知したのか。大尉は紙一重で俺の突撃を回避し、至近距離から牽制の連射を叩き込んでくる。俺はそれを強引に防壁で受け流しながらさらに食い下がるが、大尉は距離を取ろうと後方へ跳んだ。

 

「逃がすか!」

 

その瞬間、大尉の足元に仕掛けておいたバインドの術式が発動し、彼女の足を光の輪が捕らえた。

 

「ちっ……!」

 

大尉は即座にその拘束を魔力で粉砕したが、そのコンマ数秒の遅れが致命的な隙になる。俺は一気に攻勢に出るが、追撃の瞬間、今度は俺の足首に熱い感触が走った。

 

「――お返しだ、オルカ少尉」

 

いつの間に仕掛けたのか。俺もまた、大尉が設置していたトラップ型のバインドに足を掬われる。

 

(レイジングハート!)

『拘束解除まで0.5秒。……全方位、高エネルギー反応!』

 

「逃がさんぞ、逃がすものか!」

 

大尉の容赦ない追撃。全弾が俺を粉砕せんと殺到する。俺は歯を食いしばり、防壁の出力を最大まで引き上げてその全てを防ぎ切った。爆炎を突き破り、俺は胸元から、特注の「97式改」を抜き放つ。

それを見た大尉の瞳が、歓喜に近い戦慄で大きく見開かれた。

 

「……ほう。ならばこちらも、相応の礼を尽くさねば失礼だな」

 

空中を震わせる異様なプレッシャー。

大尉が胸元の「95式」を握りしめた瞬間、その碧い瞳から人間らしい光が消え、透き通った神性とも言える冷徹な輝きが溢れ出した。

世界が鳴動している。

彼女の唇が、呪いか祝福か分からぬ言葉を紡ぎ始めた。

 

「主よ、救いを与えたまえ。迷える子らに、慈悲深き導きを……」

 

(……またか。神様なんてこれっぽっちも信じてないくせに、なんでこの人は起動のたびに神に祈りを捧げるんだ? この矛盾、いつ見ても最高におかしいぜ)

 

皮肉な思考を隅に追いやり、俺は胸元の演算宝珠を強く意識する。それと連動するように、右手に握った魔導銃が、物理的な重さを伴う熱を帯び始めた。

 

(レイジングハート、出力全開! リミッター解除、カートリッジロード!)

 

『Yes, my master. 警告。カートリッジ・ロードを確認。すべての安全マージンを撤廃します。マスター、物理的な回路圧力に備えてください』

 

ズガン! ズガン!

 

重厚な排莢音が二度、演習場の空気を震わせる。

魔力を極限まで圧縮したカートリッジがチャンバーに送り込まれ、魔導銃の銃身が軋むような悲鳴を上げた。胸元の演算宝珠から送られる膨大な情報をレイジングハートが処理し、俺はすべての魔力を銃口の一点へと集約させる。血管を焼き、神経を逆撫でするような魔力の奔流に歯を食いしばる。

大尉の詠唱が最終段階へと至る。

 

「……光あれ。御心が行われますように――」

 

(来るぞ、レイジングハート!!)

 

『Setup... Divine... BUSTER!!』

 

大尉の放つ、神罰にも似た純白の閃光。

それに対し、俺は魔導銃の銃口を真っ直ぐに固定し、臨界を超えた紅蓮の魔力を解き放つ。

 

「主よ!!」

 

大尉の叫びと同時に、世界が真っ白な光に呑み込まれる。

俺は一歩も引かず、意識を一点に研ぎ澄ませてトリガーを引き絞った。

二つの「不条理」な魔力が正面から衝突し、周囲の空間がガラスのように砕け散る。凄まじい衝撃波が地上を駆け抜け、ヴィーシャの髪を激しくなびかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習場を包んでいた爆炎と砂煙がゆっくりと晴れていく。視界が開けるにつれ、俺たちの目の前に広がっていたのは、見るも無惨に深く抉り取られた地面の姿だった。

 

「ちょっと! アンタら、いい加減にしなさいよ!」

 

怒鳴り声と共に、土煙をかき分けてやってきたのは、腰に手を当てて顔を真っ赤にした年配の女性管理官だった。長年、参謀本部の裏方を支えてきたのであろう、肝の据わった「おばちゃん」という言葉がぴったりの迫力がある。

 

上空でその声を聞いた瞬間、俺と大尉は反射的に顔を見合わせた。

 

(……やばいですよね? これ)

(……ああ、非常にまずい)

 

言葉はなくとも、互いの視線だけでそう通じ合った。戦場の死線では微動だにしない二人が、地上で激怒するおばちゃんの剣幕に、示し合わせたような速度で高度を下げ、急いで着地する。

 

「……申し訳ありません」

 

俺とヴィーシャ、そしてデグレチャフ大尉。帝国軍の精鋭たちが、管理官のおばちゃんの前に綺麗に一列に並び、揃って頭を下げていた。

 

「申し訳ありませんで済むと思ってるの!? 模擬戦だって言うから貸したのに、今の魔力反応は何よ! 隕石でも落ちてきたのかと思ったわよ。修繕予算だってタダじゃないんだからね、オルカ少尉!」

 

「面目次第もございません……つい、熱が入りまして」

 

俺が冷や汗を流しながら弁解すると、おばちゃんは今度は隣の大尉を指差して声を荒げた。

 

「特にアンタ! 階級が上だからって、こんなめちゃくちゃな撃ち合いを許可してどうするの! この演習場の防壁プレート、特注なんだからね。壊すのは一瞬でも、直すのは大変なんだから!」

 

デグレチャフ大尉は大抵の大人を理論武装で黙らせるが「正論」という強力な武装で、しかも組織運営の根幹である「予算」と「維持管理」を盾にしたおばちゃんの剣幕には、さすがの「白銀」も分が悪いらしい。

少しばかり気圧された様子で、殊勝に首を横に振った。

 

「……申し訳ない。教育計画の策定に必要なプロセスだったのだが、配慮が足りなかった。必要な経費については私から参謀本部に報告し、適切に処理させる。……だから、そう怒らないでくれ」

 

「ふん、報告書一枚で済めばいいけどね! 明日からは別の部隊がここを使うんだから、アンタら、ちゃんと綺麗にしてもらうからね! 全く、近頃のエリート様は壊すことしか考えないんだから……」

 

おばちゃんはブツブツと文句を言いながら、手に持った台帳をパタパタと振り回して去っていった。

その背中を見送って、俺たちはようやく深く息を吐いた。

 

「……二人とも、いい動きだった。実地での教育計画は、今のデータを基にさらに『濃密』なものに書き換える必要があるな」

 

「あの、大尉……。これ以上の『濃密』は、志願者たちが死んでしまうのでは?」

 

ヴィーシャが不安そうに尋ねるが、大尉の碧い瞳には一切の容赦がなかった。

 

「死なない程度に追い込むのが教育だ。……さて少尉たち、まずはあの管理官に言われた通り、ここを元の状態以上に綺麗に片付けるぞ。これもまた、規律という名の教育の一環だ」

 

「了解です」

 

俺が苦笑いしながら魔法で瓦礫を浮かせ始めると、大尉とヴィーシャも無言で術式を展開し、散らばった破片を一つずつ丁寧に集め始めた。帝国軍の誇る魔導師三人がかりによる、前代未聞の超高速「お片付け」が始まった。

 

地獄の選抜試験は、まだ幕を開けてすらいない。

嵐の前の静けさは、瓦礫を片付ける音と共に過ぎていった。

 




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