神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。 作:スレ主
管理小屋の深夜。
俺は網膜に投影されたレイジングハートの演算結果を凝視し、絶望的な気分に浸っていた。
(……レイジングハート、中隊の即戦力級を基準にした、3週間の完遂予測を出せ)
『了解、マスター。……シミュレーション結果を表示。最終週の「対尋問」到達時の完遂率は……0.02%以下です。……補足。このメニューは、魔導師の育成ではなく、精密な解体作業に相当します』
(……だよな。0.02%って、もう奇跡を待つレベルだぞ)
俺は意を決して、暖炉の前で優雅に書類を整理していた大尉に声をかけた。
「大尉。……今の検分データを元に試算しましたが、この3週間のメニュー、中隊の即戦力級ですら完遂できるのは万に一つです。あまりに基準点が高すぎて、志願者が全滅しますよ」
大尉はペンを止め、瞳をゆっくりと俺に向けた。その瞳に宿るのは、憐れみではなく、極めて平坦な合理性だ。
「……ふむ。確かに、オルカ少尉。君とセレブリャコーフ少尉の記録は、統計学的な外れ値かもしれん。だが、訓練の内容を下げる理由にはならんよ」
「ですが、これでは誰も残りませんよね?」
「オルカ少尉。もし、一人も残らなかったとしても、それは私のメニューが不当だからではない。……君たちができたことを、彼らができなかった。それだけのことだ。『君たちができた』という厳然たる事実がある以上、逃げ出す志願者が悪い。 彼らの意志が、あるいは生存本能が、君たちより劣っていた。それ以外の解釈が必要かね?」
(……この人は、俺たちを『動く証明終了(Q.E.D.)』として使う気だ……!)
「我々が求めているのは、平均的な秀才ではない。君たちという先例に、死に物狂いで食らいつける狂気だ。……君たちの出した結果を100点として、80点に届かない無能はすべて切り捨てる。届かないのであれば、それは単なる資源の無駄遣いだよ。壊れても文句は言わせん」
大尉は残酷なまでに「正論」を突きつけた。
俺たちが「検分」をやり遂げてしまったことが、志願者たちから「言い訳」を奪ってしまったのだ。
「……さあ、夜明けだ。セレブリャコーフ少尉を起こしたまえ。」
大尉が指し示した窓の外、雪原の向こうから、何も知らない志願者たちのトラックが、地獄の門を叩こうとしていた。
トラックから吐き出された志願者たちが、ツークシュピッツェの寒風をものともせず、不敵な面構えで整列した。各地の激戦区を生き抜いてきた自負が、その立ち姿から溢れている。目の前の「小さな少女」に対し、期待と疑念が入り混じった視線が向けられ、列にはわずかなざわめきが広がっていた。
その弛緩した空気を、俺の声が叩き潰した。
「各員、傾聴!!」
腹の底から響かせた怒号。志願者たちの背筋が、条件反射のように跳ねて伸びた。
俺は一歩下がり、大尉の背後にセレブリャコーフ少尉と並んで直立不動で控える。大尉は満足げに頷くと、整列した兵士たちを、品定めするような冷たい瞳で見渡した。
「諸君。まずは歓迎しよう。……さて、私が諸君に求めているものは、募集広告に記した通りだ」
大尉はゆっくりと歩き出し、雪を踏みしめる音だけが響く。彼女の口から紡がれる言葉は、甘い誘惑などではなく、魂を縛り付ける呪文のようだった。
「常に彼を導き、常に彼を見捨てず、常に道なき道を往き、常に屈せず、常に戦場にある。全ては勝利の為に。」
志願者たちの表情から余裕が消える。
「求む魔導士。至難の戦場、わずかな報酬、剣林弾雨の暗い日々。絶えざる危険、生還の保証なし。生還の暁には名誉と称賛を得る。 ……この言葉を理解して集まった諸君。君たちがこれから挑むのは、選別だ」
大尉の朗読が終わる頃には、先ほどまでの不敵な面構えは消え失せ、代わりに鋼のような緊張感が場を支配していた。
「まずは第一段階、一週間の『高高度順応訓練』を開始する。魔力による酸素供給を絶たれた状態で、高度4000メートル以上の空域を機動してもらう」
その宣告に、志願者の列に戦慄が走る。
「……4000を、魔力補助なしで?」
「正気か……? 肺が焼けるぞ」
プロだからこそ、その要求がいかに物理的な限界を超えているかが理解できてしまうのだ。
「不可能だと思うかね? ……安心したまえ。私の背後にいるオルカ少尉とセレブリャコーフ少尉は、事前の検分において、初日からその条件を完璧に完遂している。」
大尉の言葉に、志願者たちの視線が、鋭い刃のように俺とヴィーシャに突き刺さった。俺たちは無機質な表情で、ただ当然の事実としてそこに立ち続ける。その「異常な静寂」こそが、何よりの証明だった。
「つまり、君たちの前に『正解』は既に提示されているのだ。この一週間で、彼らが出した記録の8割――『80点』に届かなかった者は、その場で即刻、原隊復帰を命ずる。……彼等ができたことを、志願者ができない。その事実は、単なる意志の欠如を意味する」
大尉は、獲物を追い詰めた猟犬のような、美しくも残酷な笑みを浮かべた。
「――では、地獄へ案内しよう。全員、離陸!」
(……さあ、地獄の幕開けだ)
俺は、顔を引きつらせながらも覚悟を決めて浮遊を開始した志願者たちの背中を、ヴィーシャと共に地獄の先導者として追いかけた。
訓練開始から最初の3日間、ツークシュピッツェの上空4000メートルは、静かな地獄だった。
酸素供給を禁じられた志願者たちは、ただ浮いているだけで肺を焼かれるような感覚に襲われる。一人、また一人と高度を維持できず、意識が朦朧としていく。
「……はぁ、はぁ……っ、もう、限界だ……魔力を、使わせろ……!」
膝を折り、高度を下げようとした一人の兵士の横に、セレブリャコーフ少尉がふわりと並んだ。彼女は、少し心配そうな、それでいてどこか励ますような表情で彼を見つめる。
「……大丈夫ですか? 苦しいですけど、ここが踏ん張りどころですよ。頑張りましょう!」
「……少尉……」
「私たちもここを乗り越えてこれたんですから、貴方ならきっと大丈夫です! ほら、まだ飛べますよ、ね?」
ヴィーシャの、純粋に「応援」するだけの言葉。だが、酸欠で死にかけた男のプライドには、それが最高の発火剤になる。自分たちより小さな女の子に「頑張れ」と言われて、無様に落ちることなど、精鋭を自称する男にはできない。
「……っ、ありがとうございます、少尉! 俺は、まだやれます!」
「良かったです! その調子ですよ!」
彼女が笑顔で頷く横から、俺が冷や水をぶっかける。
「……おい。そんなに辛いなら、今すぐ宝珠をオフにして地上に降りろ。誰も責めやしない。……『普通』の人間には、ここは高すぎるんだよ。セレブリャコーフ少尉の手を煩わせる前に、楽になりな」
「……っ! 少尉、俺はまだ、やれます!」
「ほう。じゃあ、無様に少尉に甘えるな。……それとも何か? 志願票に書いた『名誉』とやらは、女性に介抱されることだったのか?」
俺の冷徹な「鞭」が、彼らの精鋭としてのプライドを逆撫でする。ヴィーシャの「飴」で繋ぎ止められた命を、俺の言葉が戦場へと突き戻す。
(……こうしてプライドを燃料にさせないと、こいつらは酸素の薄さに脳を焼かれて終わる)
そして、運命の4日目。
酸欠の苦しみにようやく慣れ、生存本能が「これならいける」と錯覚し始めた瞬間。地上の大尉が、楽しげに指揮杖を振った。
「――実戦では、敵は君たちが息を整えるのを待ってはくれない。……さあ、ダンスの時間だ」
空気を切り裂く高音とともに、大尉の放つ「模擬弾」が、酸素の薄い空域を蹂躙し始めた。
「……なっ!? 避弾運動だと!? この高度でか!」
「ぐわああああっ!」
初日はまばらだった弾幕が、5日目、6日目と日が経つにつれ、目に見えて密度を増していく。酸素不足で思考が鈍った脳に、回避と防御のマルチタスクが強制される。
「避けろ! 術式を組むな、直感で動け! 思考を止めるな、死ぬぞ!」
俺の怒号が響く中、弾幕の隙間でヴィーシャがまた優しく囁く。
「ほら、止まっちゃダメですよ! まだまだいけます! 頑張ってください!」
(……ヴィーシャという『男心を掴む応援』と、俺という『プライドを削る煽り』。この組み合わせだけで、志願者たちは勝手に限界を超えていく……)
空を舞う志願者たちの瞳からは余計な光が消え、代わりに、ただ「生存」と「命令」にのみ反応する、鋭利な獣のような光が宿り始めていた。
大尉は地上からその光景を見上げ、満足げに薄く笑う。
まだ、誰も落ちてはいない。だが、それは慈悲によるものではなかった。
次週から始まる「本番」……行軍と防衛戦の複合地獄に向けて、彼らを一滴残らず絞り尽くすための準備が整ったに過ぎないのだ。
俺は、大尉の放った弾幕を紙一重で回避しながら、時計の針を確認した。
高高度順応、終了。
(……前座は終わりだ。次は二週目……「行軍」に入るぞ)
一週間に及ぶ「高高度順応訓練」の最終日。
地上に降り立った志願者たちは、酸素の重みを噛みしめながら、震える膝を叩いて整列していた。俺は一歩前に出て、彼らに告げる。
「各訓練小隊は、割り当てられた宿舎で速やかに休め。事後の指示は別時とする。以上だ、解散!!」
志願者たちは、憑き物が落ちたような足取りで、支給された宿舎へと消えていった。
だが、彼らが中に入り、装備を解いて安堵のため息を漏らしたであろう、その数分後。
夜の静寂を切り裂くように、あまりに巨大で、あまりに禍々しい魔力の高まりが頭上から降り注いだ。
宿舎の中にいた志願者たちも、外にいた俺も、その「殺意」にも等しい反応に全員が同時に顔を上げた。
(……来る。狙い通り、寸分違わず)
「魔力反応! 砲弾落下っ!! 総員、直ちに防御姿勢!!」
俺の叫びと同時に、空が白く染まった。
――ドォォォォォォォォォン!!
凄まじい爆音と共に、宿舎が瓦礫の山へと変わった。
火柱が夜の雪原を照らし出し、爆風に煽られながら飛び出してきた志願者たちが、煙の中で「マジかよ……」という絶望の顔で立ち尽くしている。
実はこれ、事前に大尉が補給科と「老朽化した宿舎を訓練の一環で解体し、浮いた予算を新設費用に回す」と調整済みだった計画だ。俺も承知の上だったが、いざ目の前で爆破されると、その光景の凄惨さに流石に引く。
「もたもたするな! 速やかに点呼を実施し、人員点検を完了させろ!」
俺の怒声が響き渡る。呆然とする志願者たちを現実に引き戻すと同時に、上空から冷徹な声が降り注いだ。
「残念ながら、ここの宿舎は敵砲兵隊の観測手に狙われているようだ。――諸君、安息の時間は終わったよ」
大尉は演算宝珠の光を纏いながら、無慈悲に宣告する。
「いいかね? これから1週間だ。この演習地域内で諸君らには戦域機動訓練演習を実施してもらう」
大尉は手にした教範を冷ややかに見下ろし、追加の「ルール」を突きつけた。
「なお、注意書きにある通り、この演習場内では魔力反応に対し、即座に観測射撃および魔導誘導砲撃が行われる。……生き残りたければ、常に気配を殺し、止まることなく動き続けることだ」
「5分で準備しろ、遅れた者はそのまま敵の次発を待つといい! 行軍開始!!」
絶望に浸る暇すら与えず、俺たちは志願者たちを泥まみれの雪原へと追い立てた。
俺は遅れそうな組の最後尾に回り、脱落しそうな奴らの尻を叩きながら進んだ。だが、極限状態に置かれた志願者たちの執念は、こちらの予想を遥かに上回っていた。恐怖に突き動かされた彼らは足をもつれさせながらも、予定より数時間も前倒しで最終チェックポイントを通過したのだ。
白銀の雪原が昼の陽光に照らされ、眩いばかりに輝く。その中心で、狂気を孕んだ「いい笑顔」を浮かべた大尉が俺たちを待っていた。
「諸君、一人の脱落者も出さないとは正に喜びである。……そして」
大尉は、泥と汗にまみれた志願者の肩を優しく叩き、言葉を継いだ。
「諸君の優秀さゆえに、砲兵隊は弾を持て余しているようだ。なぁ諸君、仲間外れは良くない。砲兵隊とも仲良く遊ぼうじゃないか」
その瞬間、志願者たちの顔から血の気が引いた。
青空の下、大尉が演算宝珠を最大出力で解放すると、その莫大な魔力反応に呼応して、遠方の地平の向こうから無数の黒い点がこちらへ収束してくる。
「ここで防衛戦だ。なぁに、36時間もすれば砲弾も尽きるだろう」
降り注ぐ砲弾の雨を、大尉は片手間に展開した多重防御膜で次々と叩き落としていく。その圧倒的な光景を背に、彼女は俺とヴィーシャに視線を向けた。
「ついでに、そこにいる二人だけでも、おそらくこの訓練はクリアできると思うがな。……どう思う、オルカ少尉?」
俺は脳内でレイジングハートを起動し、その意思を同期させる。
『可能ですね。マスターの魔力供給があれば、36時間の固定防衛は理論上、容易です』
志願者たちには聞こえない、デバイスの無機質な肯定を脳裏で受け止め、俺は大尉に向かって静かに頷いてみせた。
「……だそうだ。さあ、教育の時間だ」
大尉の笑顔がさらに深く刻まれ、晴天の空を埋め尽くすほどの次発装填音が響き渡った。
「撃て! 撃て撃て撃て!! 観測、距離修正!!」
志願者たちの絶叫が雪原に木霊する。
空を覆い尽くさんばかりの砲弾の雨に対し、彼らはなりふり構わず魔導銃を構え、迎撃呪文を乱射した。
「シールド張るな、抜かれるぞ! 撃ち落とせ! 弾道観測、直撃を阻止しろ!!」
消耗しきった魔力で展開する防御膜など、直撃を受ければ紙同然に突き破られる。一発でも撃ち漏らせば、衝撃波でこの脆弱な「安全地帯」は消し飛ぶ。彼らは魂を削るようにして、魔力を絞り出していた。
一方、俺とヴィーシャ、そして大尉の三人だけは、嵐の目のような静寂の中に立ち、狂乱する彼らを見守り続けていた。
36時間が経過し、約束の時間は過ぎた。
だが、空を仰ぐ大尉の口から出たのは、無慈悲な継続宣告だった。
「残念ながら、砲兵隊の弾がまだ余っているらしい」
その言葉を聞いた瞬間、極限を超えた志願者たちの間で、乾いた笑い声が漏れ始めた。絶望を通り越し、もはや笑うしかないのだろう。追加の4時間、降り注ぐ鉄の雨に耐え抜いたところで、ついに限界が訪れた。意識が飛び、魔力の供給が途絶えた12名を、俺たちの判断で安全圏へ回収し、脱落させた。
その後、メニューは過酷を極める次のチェックポイントまでの非魔力依存長距離行軍、そして「拷問耐性訓練」へと移行した。
これについては、ヴィーシャは何をやらせても拷問にならなさそうと俺が大尉に具申した結果、適性なしと判断されて外された。結局、主に俺と大尉で実施することになった。ここでも数名の脱落者が出たが、動けなくなった者はそのまま原隊復帰させた。
しかし、この地獄を生き延びた面々を見渡せば、まだ増強大隊ほどの人数が残っている。
(ぶっちゃけ、あとは一週間歩き通すだけだしな。ここまで残った連中をここで落とすのは、軍としてももったいないよな……)
俺がそんなことを考えていた時、脳内でレイジングハートが無機質な警告を発した。
『マスター、天気の変化を確認。温度が上がっているため、雪崩の可能性が上昇しています』
「……マジかよ」
嫌な予感は、得てして的中するものだ。
遠くで「ゴゴゴ……」という地鳴りが響いたかと思うと、山の斜面が崩れ、白い津波が押し寄せてきた。あまりの光景にパニックに陥り、死を覚悟して地面にへたり込む志願者たち。だが、その先頭に立っていたのは大尉だった。
「寝るな! 立て! 走れと言っているのが聞こえないのか!」
大尉は雪に埋もれかけた隊員の襟首を掴み、文字通り叩き起こした。容赦ない罵声を浴びせ、蹴り飛ばしてでも動かそうとする。だが、彼女は決して、誰一人として置き去りにはしなかった。
(……一見、非情なシゴキに見えるが、実際の大尉はかなり真面目に救助にあたっている。彼女にとって脱落者は許容範囲でも、管理下の兵を「無駄死に」させることは、何より合理性に反するタブーなんだろうな)
その必死な、それでいて一切の妥協を許さない背中を見て、志願者たちの目つきが変わっていくのが分かった。
(この瞬間だけ見れば、最高に理想的な隊長に見えるんだろうな……。ハハ、実際その通りなんだから困るんだよ)
俺は思わず苦笑いを浮かべながら、大尉に続いて救助の輪へと飛び込んだ。
恐怖の対象でしかなかったデグレチャフ大尉という存在が、彼らの中で「信頼すべき指揮官」へと、いい意味で変質し始めた瞬間だった。
一週間に及ぶ地獄のような「戦域機動訓練演習」が、ついに終わりを迎えた。
最終チェックポイントを通過した志願者たちは、もはや泥と雪の塊のような姿だったが、その瞳には極限を生き抜いた者特有の鋭い光が宿っていた。
そこに待っていたのは、冷徹な教官の顔を脱ぎ捨て、一人の指揮官として彼らを迎える大尉の姿だった。彼女は、生き残った志願者一人一人の前に立ち、その手で直接、最新鋭の九七式演算宝珠を授与していく。
「おめでとう、諸君。これでようやく、君たちは魔導師としての最低限の資格を得た。だが、習熟訓練は移動中も続く。ここから帝都まで、この宝珠を用いて飛んで帰ってもらう」
大尉の言葉に、志願者たちは一瞬だけ顔を見合わせた。ここから帝都まで、空を飛んで帰っても……途中の休息を挟めば2日はかかる長距離行軍だ。普通の部隊なら泣き言の一つも出るところだが、雪崩や砲撃を潜り抜けてきた彼らにとっては、もはや「たった2日の空の旅」にしか聞こえないようだった。
「私は今回の訓練結果の報告と、大隊編成に向けた最終調整のために鉄道で先行して帰還する」
大尉はそう告げると、視線を俺に向けた。
「オルカ少尉、貴官に先頭を任せる。全員を無事に、かつ迅速に帝都まで送り届けたまえ」
俺は九七式を起動させ、志願者たちの前に立つ。
『マスター、全ユニットの宝珠同調を確認。飛行経路の最適化を完了しました』
脳内で響くレイジングハートの声を背に、俺は志願者たちへ命じた。
「聞いた通りだ! これより帝都への帰還行軍を開始する。置いていかれたくない奴は、死ぬ気で俺の背中についてこい!!」
「「「了解!!」」」
地鳴りのような返答が雪原に響く。
鉄道のプラットホームへ向かう大尉の背中を、志願者たちは以前のような恐怖ではなく、どこか誇らしげな、そして深い敬意の混じった眼差しで見送っていた。
俺は高度を上げ、帝都へと続く空の道を示した。かつてはただの志願者の集まりだった集団が、今や一つの意志を持った「軍隊」として、俺の背後に続いて空へと舞い上がっていく。
きっと彼らは、帝都の街並みが見える頃には、見違えるような精鋭になっていることだろう。
……と、格好よく締めたいところだったが、高度を上げ、地上にいる大尉の姿が豆粒ほどに小さくなった瞬間だった。
「おい、聞いたかよ『弾が余ってる』だぜ? 正気の沙汰じゃねえ! あの幼女、頭のネジが数本飛んでるどころか、最初から付いてねえんじゃねえか!?」
「『仲間外れはよくない』だぁ? どの口が言ってやがる! 自分が一番の化け物だって自覚がねえのが一番タチ悪いぜ!」
「雪崩の時だってよ、『寝るな』じゃねえよ! こっちは三途の川で手振ってる先祖が見えてたんだよ! あのクソガキ、死神を蹴っ飛ばして俺を連れ戻しやがった!」
さっきまでの雰囲気はどこへやら、無線機越しに志願者たちの罵詈雑言が爆発した。
よく考えれば、志願者の中には中尉や少尉といった俺より階級が上の者もいれば、軍歴でいえば全員が俺の先輩だ。大尉の前では階級と恐怖で押し黙っていた彼らも、姿が見えなくなれば我慢の限界だったらしい。
「オルカ少尉! あんたもあんただ、よくあんな歩く天災の横で平気な顔してられるな! 飯に何混ぜられたらあんな風に育つんだよ!」
「拷問訓練の時、あんた大尉と楽しそうに相談してただろ! 『これ、もう少し電気流せますね』とか言ったの、俺は一生忘れねえからな! 悪魔の片棒担ぎやがって!」
案の定、烈火のごときとばっちりが飛んできた。
俺は苦笑いしながら、手元の九七式を調整する。
『マスター、通信チャンネルにおける不適切な語彙の検出率が1200%を超えています。言語中枢の汚染に注意してください』
「……賑やかでいいじゃないか。それだけ罵詈雑言を吐く元気があれば、2日の強行軍も1日で余裕ですね、諸先輩方?」
俺が無線に割り込むと、一瞬だけ静寂が訪れ、それからまた
「げっ、少尉が聞いてた!」
「チッ、相変わらず地獄耳な野郎だ」
「いいか、帝都に着いたらまず大尉の悪口で酒を飲むぞ!」
と、悪ガキのような笑い混じりの不平不満が再開された。
口々に文句を言い合い、デグレチャフ大尉への呪詛を空高く吐き散らしながらも、誰一人として隊列から遅れる者はいない。
皮肉なものだ。共通の敵(大尉)への憎悪と、それを乗り越えた地獄の共有体験が、階級の壁すら超えて、彼らを世界で最も強固な絆で結ばれた「大隊」へと変えていた。
俺は眼下に広がる広大な雪原を背に、文句の絶えない「精鋭たち」を率いて、帝都へと翼を伸ばした。
感想あると書くペース上がります。