神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。 作:スレ主
百合展開希望してた人ごめんなさい。
整列した新兵たちの間に、剃刀のような鋭い緊張が走る。
一人ずつ、喉を潰さんばかりの勢いで所属と姓名を叩きつけていく。
「ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ伍長! イーダル=シュタイン幼年D大隊第三中隊から参りました!」
隣のヴィーシャが、震えを殺した精一杯の声で吠える。次は俺の番だ。
ここで「適当に流す」なんて選択肢は、俺の演算ロジックには存在しない。
軍隊という場所では、時間は絶対、装備の不備は罪、そして上官への応答が微弱なのは「規律違反」だ。
そうした細かなミスを犯せば、かつての野蛮なビンタの代わりに、この世界でも「反省」としての腕立て伏せが待っている。
一回、二回と号令に合わせて身体を沈め、終わりの見えない回数を強要される肉体的苦痛。それは軍事的なリソースの無駄遣い以外の何物でもない。
俺は真っ直ぐ前を見据え、腹の底から声を絞り出した。
「オルカ・デュオ伍長! 同中隊より参りました!」
声量、姿勢、視線の角度。すべてを「模範的な兵士」として最適化して出力する。
不必要な「反省」で体力を削られるのは御免だ。目の前にいるのは、愛でる対象としての幼女ではない。俺たちの生殺与奪の権を握り、なおかつ「効率」のみを愛する化け物だ。
『……マスター。対象、デグレチャフ少尉がこちらを凝視。微細な表情筋の動きから、貴方の「応答の質」を査定していると推測されます。……合格圏内です。不必要な筋力トレーニングを回避しました』
(……ふん、当然だ。ここで無駄な乳酸を溜めるのは、生存戦略に反するからな)
少尉はツカツカと軍靴を鳴らし、ヴィーシャと俺の間に立った。
徴募組(D大)出身の俺たちに対し、何か見せしめでも始まるのかと周囲の空気が強張る。だが、彼女はトントンと、俺たちの肩を軽く叩いた。
「貴官らの、義務に対する誠意に敬意を示そう。セレブリャコーフ伍長、オルカ伍長」
意外にも、そこにあったのは労いの言葉だった。
一瞬、彼女の中に「人間味」を見出しかけたが、続く言葉でその幻想は粉々に粉砕される。少尉はそのまま、俺たちを嘲笑っていた志願組(C大)の二人組の前に移動した。
「そして、好き好んで志願した両名。……志願したのだ。間違っても、この徴募組の二人より後に死ぬなよ」
少尉の声が、一気に氷点下まで下がる。
「一言言っておく。帝国には無能な士官候補生を養う余裕などない。それは害悪ですらある。祖国に詰め寄り軍衣を纏った以上は、相応の貢献を成せ。成せぬのならば……死ね」
(……出た。徹底した契約社会の住人だな)
『……マスター。彼女の言動は、軍事組織における「人的資源の最適化」を極端に突き詰めた結果です。志願した権利の代償として、過酷な義務を求めています』
「以上です」
「よろしい少尉。陣地待機中は任せる」
上官の許可を得た少尉は、くるりとこちらを振り返った。その瞳には、すでに次の「業務」への段取りが浮かんでいる。
「はっ。……さて、諸君。速やかな装具点検の後、野戦装備にて集合。そこらを『散歩』して、親睦を深めようではないか」
散歩。その言葉の響きとは裏腹に、俺の脳内ではRHが即座に戦域マップを展開していた。
行き先は明白だ。ライン戦線の象徴、あるいは「巨大なドブ」とも形容される、泥濘の塹壕(トレンチ)だ。
銃火器の進化により、剥き出しの突撃が「自殺」と同義になったこの時代。兵士たちは土を掘り、ネズミのように潜むことでしか生き長らえない。
だが、そこは安全地帯ではない。
上からは大砲が降り注ぎ、狭い穴の中では至近距離での刺し合いが日常だ。そして何より、絶望的な衛生環境が牙を剥く。
『……補足。塹壕内の湿度は飽和状態。防腐処置なしでは、末端組織の壊死、いわゆる「塹壕足」の発症確率は極めて高値です。マスター、足元の防水・抗菌術式の強化を推奨します』
(わかってるよ。……軍の補給も届かないような場所で、水虫から指を失うなんて、俺の人生設計にはないからな)
「……行くぞ、ヴィーシャ。泥遊びの時間だ」
俺は、青ざめるヴィーシャを促し、鉄と泥の臭いが充満する戦線の深部へと足を踏み出した。