神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。   作:スレ主

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第5話:『泥濘の洗礼、あるいは不衛生な教室』

 

side:セレブリャコーフ

 

「さぁ、走れ走れっ!! ここいらもそろそろ落ちるぞ!」

 

頭上を飛来する砲弾の風切り音が、鼓膜を直接削るように響く。

隣を走る幼馴染のデュオの声は、信じられないほど落ち着いていた。

 

「戦況的に、大丈夫……なんでしょうか……っ!」

「ここは取って取られての繰り返しだからな。定時連絡みたいなものだ」

 

散歩って、これが!?

降り注ぐ鉄の雨。泥を跳ね上げ、視界を塞ぐ爆煙。その中を、デグレチャフ少尉とデュオは、まるでお気に入りの遊歩道でも歩いているかのような足取りで進んでいく。

 

「わっ、とっ、と……!」

 

至近距離で炸裂した衝撃波に足を取られ、膝から崩れそうになる。

その瞬間、横から強い力で腕を掴み上げられた。

 

「ほい。ヴィーシャ、一応言っとくけど……転けて死体に突っ込むのだけは気をつけろよ」

「……えっ?」

 

デュオが指差した先。

ぐちゃぐちゃに混ざり合った泥の塊だと思っていたそれは、軍服を着た「味方のなれの果て」だった。上半身だけで固まり、虚ろな目でこちらを見つめる肉の塊。

 

「あっ、あああっ……!!!!」

「みっともなく騒ぐな、伍長。これが戦場だ。有意義な待機任務(おさんぽ)になったな」

 

先行するデグレチャフ少尉の冷たい声が飛んでくる。

酸素がうまく吸えない。泥と、火薬と、鉄の臭い──そして、それらを全て覆い隠すような、不快な甘ったるい死臭が鼻腔にこびりついて離れない。

 

「……デグレチャフ少尉、前方角の先。敵2名。曲がり角の先、待ち伏せです」

 

デュオが、まるでお天気の報告でもするかのように淡々と告げた。

なぜ彼に角の向こうが見えるのか、そんな疑問を抱く余裕すら私にはない。

 

「よし。諸君らでお出迎えしてやれ。訓練通りの接敵(レセプション)だ」

 

「……だってさ。ヴィーシャ、いけるか?」

 

「うっ、うぁあ……あ、ああ……」

 

首が振れない。指先が震えて、引き金に指が届かない。

頭の中が真っ白なノイズで埋め尽くされていく。

 

「あー……デグレチャフ少尉、流石に彼女はまだ──」

 

「オルカ伍長は黙ってろ」

 

少尉の小さな手が、私の頭を強引に押さえつけた。

至近距離にある青い瞳。そこには慈悲など欠片もなく、ただ「戦力」を冷徹に値踏みする深淵が広がっていた。

 

「いいか、セレブリャコーフ伍長。貴様がここで動かなければ、あの二人をオルカ伍長一人で相手させなければならない」

 

少尉の声が、耳元で呪文のように響く。

 

「貴様が今ここで義務を放棄すれば、……このまま、隣のバディは死ぬぞ」

「……っ!」

 

デュオが、死ぬ?

いつも隣にいて、さっきも私の腕を掴んでくれた彼が、私のせいで?

少尉の言葉は、私に「戦う理由」を問うているのではない。「戦わないことが引き起こす結果」を突きつけていた。

 

「貴様には守る力がある。……立て、戦え。バディを死なせたくないのならな」

「……ほら、立てるか、ヴィーシャ?」

 

デュオが、いつものように淡々と手を差し出してくれる。私は、縋り付くようにその手を握った。

 

「う、……ゔん。……は、はい」

「よし。可愛い顔が台無しだぜ。ほら、拭いて」

 

デュオが乱暴に、でもどこか優しく私の頬を袖で拭う。

少しだけ、呼吸が戻ってきた。

 

「よっし、んじゃ気合い入れていくぞ」

「デュオっ!! デュオは、死なないよね?」

「ここでは約束できないねっ!!」

 

デュオはそう言い放つと、迷いなく泥の角を曲がって突っ込んでいった。

 

「――っ、あああああああああああああッ!!」

 

喉が裂けるような、獣じみた絶叫。私は自分でも信じられないほどの声を張り上げ、重い小銃を構えて彼の後に続いた。

敵の姿が見える。着剣された小銃が迫る。

力がうまく入らない。押し負けそうになったその瞬間、隣からピンク色の光が、吸い込まれるような精度で閃いた。

デュオが放った術式が、敵の喉元を正確に貫く。

 

「……なんで身体強化を使ってないんだよっ!! アホかっ!!」

「あ……」

 

そうだ。魔導師なら身体強化を維持していれば、一般兵との鍔迫り合いなんて起きるはずがない。私は恐怖で、基本中の基本すら忘れていた。

 

「……ほう。初陣でこれほど精密に魔力を絞るとはな。オルカ伍長、貴官はやはり無駄を嫌う主義か。新兵にしては合格点だ」

 

「……了解です、少尉。次はもう少し『丁寧』にやります」

 

返圧するデュオの足元には、物言わぬ肉塊となった敵の骸。

さっきまで生きて動いていた人間が、ただの「物体」として転がっている。その間を、彼女は平然とした顔で通り過ぎていく。

 

 

こみ上げてくる熱い塊を抑えきれず、私はその場に膝をついて、胃の内容物を全て吐き出した。

デュオが黙って私の背中をさすってくれている。

自分が情けなくて、怖くて、涙が止まらない。

 

「うむ。生き残ったか。上出来だ」

 

少尉は、吐き続けて返事のできない私を見下ろし、淡々と告げた。

 

「悲惨だったな。……だが、戦争が悲惨なのは良いことだ。戦争なんてものを好きになる人間が増えずに済む。……さて、オルカ伍長。そしてセレブリャコーフ伍長」

 

少尉は、鉄錆色の空を見上げながら、決定事項を口にする。

 

「明日から、我々はスリーマンセル(三人一組)で動く。貴官らを、私の直属として再編する」

 

「「……はいっ!!」」

 

「よろしい。……配置に戻り、次の命令まで待機していろ。無駄な体力は使うなよ」

 

少尉はそれだけ言い残すと、軍靴を泥に汚しながら、指揮所の方へと去っていった。

戦場という巨大なドブの中で、私たちはただ、次の「命令」という名の死神を待つことになったのだ。

 

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