神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。   作:スレ主

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第6話:『英雄の墓標、あるいは泥濘のプライバシー』

 

初陣の興奮が冷めやらぬ泥濘の中、泣きじゃくるヴィーシャを連れて帰還する道中、俺は不覚にも「いいな」と思ってしまった。不謹慎だが、泥にまみれて泣いている女の子というのは、どうしてこうも画になるんだろうか。

 

『……マスター。対象の精神状態は不安定ですが、生存本能は維持されています。なお、先ほど排除した敵兵2名については、魔導師と一般兵の戦力差が「天と地」ほどあるため、順当な結果です。感傷に浸るリソースは不要かと』

 

(ああ。蟻を潰すようなもんだ。……それより、あそこの『ノイズ』をどうにかしてほしいな)

 

視線の先では、同期の志願組(C大出身)の二人が、顔を真っ赤にしてデグレチャフ少尉に詰め寄っていた。

 

「……少尉! 納得がいきません! なぜ我々が、一ヶ月も毎朝このドブさらい(塹壕戦)に付き合わされねばならんのですか! 我々は空を飛べる帝国の翼ですよ!?」

 

彼らは、幼年学校で「実技」という名の万能感だけを教わり、「軍隊に英雄は必要ない」というD大の鉄則を知らずにここへ来た。少尉の瞳の奥に「ゴミを見るような光」が宿ったのを、俺は見逃さなかった。

 

「……なるほど。ならば諸君らには、魔導師にふさわしい『不動の要塞』を任せよう。前線のトーチカへの配属だ」

「感謝します、少尉! 我々の価値を理解していただけて光栄です!」

 

意気揚々と「棺桶」へ向かう二人を見送り、俺は思わず小声で漏らす。

 

「……やることエグいなぁ」

「オルカ伍長。……何か、言いたいことでもあるのか?」

 

少尉が、にっこりと──氷のように冷たい笑みを浮かべてこちらを見る。

 

「いえ。……まぁ、アイツら好きじゃなかったんで、丁度いいんですけどね」

 

俺がそう答えると、少尉は満足げに頷いた。

もちろん、トーチカという防衛施設が全く使えないわけじゃない。分厚いコンクリートで固められた銃座は、正面から突撃してくる歩兵からすれば絶望的な壁だ。機関銃の餌食になるだけで、突破なんて容易ではないだろう。

 

だが、それはあくまで「歩兵相手」の話だ。

 

魔導師が観測手(スポット)として空を舞うこの戦場において、固定された防御陣地は、ただの「動けない的」に過ぎない。

 

(RH。敵の観測魔導師が、あそこの座標を特定するのにどれくらいかかる?)

 

『……マスター。上空の敵魔導師による光学・感応観測を想定。特定から砲兵陣地への伝達、および初弾の着弾修正を含め、10分以内と推測。一度座標を握られれば、動けないトーチカは「鉄の蓋をした棺桶」と定義するのが妥当です』

 

(そうだよな。空飛ぶ魔導師に上から覗かれてるんだ。動かなければ、そこに座標を固定されて、あとは迫撃砲をボコボコと撃ち込まれるだけだ。重いコンクリートの破片と一緒にサヨナラバイバイ。……皮肉なもんだ、空を飛ぶ自由を捨てて、自ら墓穴に入りにいくんだからな)

 

砲弾は精密じゃない。だからこそ「数」でくる。そして、その「数」を正確に誘導するのが空の魔導師だ。一度場所がバレれば、逃げ場のない狭い箱の中に、コンクリートを粉砕する衝撃と熱風がひたすら叩き込まれる。

 

「ふふ。言葉を慎め。彼らは彼らで、必要な役目(デコイ)を果たしてくれるさ。……無能な味方よりは、動かない盾の方がまだ計算が立つ」

 

「HAHAHA! 違いありません。適材適所というやつですね」

俺と少尉は、ブラックジョークを交わして笑い合った。

後ろを歩くヴィーシャは、少尉が同期を頑丈な施設へ逃がした「優しい上官」だと思っているかもしれないが……現実は非情だ。

 

そのまま解散となり、俺は自分の「城」へと戻った。

かつて、軍隊は男性のみで構成されていた。ゆえに軍規には今も、『女性士官は民間のベッド、および軍関係施設を優先的に使用してよい』という皇族保護の名残がある。

その結果、少尉とヴィーシャは後方施設へ。

 

さて、翻って現実の俺のテントは、狭く、暗く、そして硬い。

だが、本来二人用のテントを一人で占有している俺にとっては、そこは意外なほどの「聖域」だ。一人ならそれなりの広さになる。俺はそこで、RHを介して密かな「内職」に励んでいた。

(RH、軍靴の防水・抗菌術式を確認。……しかし、あの幼女少尉といいヴィーシャといい、女性が戦場のドブに浸かっている現状、この軍規もそのうち形骸化しそうだな)

翌朝、夜明け前。

「オルカ伍長、起きているな。朝だぞ」

少尉の声にテントを這い出ると、そこにはすでに軍装を整えた少尉と、隈を作ったヴィーシャが立っていた。配給は乾燥パンと、泥水のような代用コーヒーだ。

 

(……これじゃあ次の機動で倒れちまうぞ)

 

俺は、後方で買い込んでいた「個包装の砂糖」を二つ、ポケットから取り出した。

 

「ヴィーシャ。……これ、入れろよ」

「えっ? ……いいの? 貴重なものなのに……」

「持て余してたんだ。……少尉、少尉もいかがですか?」

 

俺は一応、上官にも差し出す。だが、少尉は冷徹な瞳で一瞥しただけで、無造作にブラックのコーヒーを啜った。

 

「不要だ。嗜好品による余計な刺激は、判断力を鈍らせる原因になる」

「……ですが少尉、これは単なる嗜好品ではなく『即効性のエネルギー源』です。脳のグルコースを補充し、反射速度を0.1秒底上げするための戦略的資材ですよ。腐らせておくのはリソースの無駄遣いかと」

 

少尉の手が止まる。「無駄」という言葉に、彼女の合理主義が反応した。

 

「……いいだろう。貴官の言う通り、供給された資材を死蔵させるのは経済的ではないな」

「ええ。どうぞ」

 

俺は半ば強引に、少尉の手元へ砂糖を押し付けた。少尉はそれを無言でコーヒーに溶かし、一口飲む。……一瞬、彼女の眉間の険しさが、ほんのわずかに緩んだ気がした。

 

「……ふん。悪くない効率だ。……さて。補給が済んだのなら、今日の『お散歩コース』を説明しよう」

 

ヴィーシャが砂糖の甘さに少しだけ頬を緩ませる中、少尉が冷徹な声で告げる。

 

「標的は敵の第一ライン。……昨日と同じ、泥這いの塹壕戦だ。諸君、しっかり食え。これが『日常』になるまで、私は貴官らを叩き込むぞ」

 

俺はRHに命じ、脳内マップに敵の防衛線を投影させた。

派手な夜戦も、華々しい空戦も、まだ先だ。今はまず、このクソ高いコンクリートの棺桶(トーチカ)に閉じこもる連中を尻目に、このドブ川のような最前線で「生き残るためのルーチン」を完遂しなければならない。

 

「……了解しました。泥遊びなら、お手の物ですよ」

 

俺は、一人用で広々と使えたテントを素早く畳み、鉄と泥の臭いが充満する戦域へと、再び一歩を踏み出した。

さあ、地獄の第二ラウンド――「研修期間」の始まりだ。

 

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