神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。   作:スレ主

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第7話:『査定報告、あるいは泥濘の研修期間』

 

side:ターニャ・フォン・デグレチャフ

 

数回にわたる「塹壕戦」という名の実地研修を終え、私は泥にまみれた指揮所で、手元にある二人の部下の評価を頭の中で整理していた。

正直に言って、帝国軍の人的リソースの枯渇には目を覆いたくなる。本来なら後方でじっくり教育すべき新兵を、こうして即座に最前線へ投入せねばならない現状には、中間管理職として胃の痛む思いだ。現場のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と言えば聞こえはいいが、一歩間違えれば貴重な人的資本の損失に直結する。

だが、幸いなことに、私の直属となったこの二人は、今のところ「故障」も「背信」もせず、期待以上のパフォーマンスを見せている。

 

まずは、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ伍長。

 

初陣のパニックという「初期不良」こそあったが、その後の適応は極めて順調だ。彼女の美点は、その素直な「忠誠心」と、指示に対する高い忠実度にある。私の「隣を死なせたくないなら戦え」という、やや情緒に訴えかける動機付けを完璧に咀嚼し、今では泥の中でも術式を安定させ、正確な牽制射撃を行えるまでになった。恐怖を合理的な警戒心へと昇華できている点は、非常に評価できる。

 

そして、問題はもう一人。

デュオ・オルカ伍長だ。

 

彼は、私がこれまで見てきたどの新兵とも異なる、極めて「計算高い」リソースだ。

数回の塹壕戦を経て確信したが、彼の魔力運用は驚くほど無駄がない。

 

(……この男、被弾のリスクと魔力消費の天秤(コストベネフィット)が完成されている)

 

通常の魔導師は、恐怖から過剰な防御障壁を展開し、魔力を浪費しがちだ。だが、オルカ伍長は違う。彼は、飛来する砲弾の衝撃を完全に殺すのではなく、障壁の角度を微調整して「逸らす」ことで、最小限の魔力で最大限の防護効果を得ている。まるで、一滴の魔力も無駄にすることを嫌う徹底した合理主義者のようだ。

 

しかも、例の「砂糖」の件だ。

私が一度断ったにもかかわらず、彼は「戦略的資材の有効活用」などと理屈を並べて押し付けてきた。一介の伍長が少尉に物申すなど、本来なら規律違反だが……その「甘み」が、連日の激務で疲弊していた私の脳を、確かに再起動させたのも事実だ。

 

部下の分際で上司のコンディションを管理しようとする不遜さはあるが、結果として組織の生産性は向上した。実に扱いづらく、しかし有能な男だ。

 

「……さて。泥の中での習熟度は十分、といったところか」

 

私は、底にわずかな甘みが残るコーヒーカップを置く。

無能な英雄願望者をトーチカという名の「固定資産(デコイ)」として処理し、手元に残ったのは、高い生存能力を持つ二人の「優良株」。

そろそろ、次のフェーズへ移行しても問題ないだろう。

 

「オルカ伍長、セレブリャコーフ伍長。入れ」

 

私の呼びかけに、泥を払い、軍装を整えた二人が入室してくる。

伍長の顔には、適度な緊張と、死線を潜り抜けた者特有の落ち着きが混ざり始めていた。

 

「諸君、おめでとう。泥濘の中での『研修』はこれにて修了だ。貴官らの実力は、私がこの目で確認した」

 

私は、卓上のマップを指先で叩いた。少しだけ、彼らの緊張を解くように声音を和らげる。

 

「明日からは、本来の業務……つまり、空へ戻る。歩兵に頭を下げられる高度ではなく、地上の全てを豆粒として見下ろす高度二千メートルの戦場だ。……ようやく、靴が乾く場所へ行けるぞ」

 

「……了解です。ようやく、魔導師らしい仕事ができますね」

 

オルカ伍長が、不敵な笑みを浮かべて返答する。

私は、その合理的な不遜さを嫌いではなかった。

 

「ああ。……明日からは、これまでのような『お遊び』ではない。諸君を、帝国魔導師としての真の戦場へ案内してやる。しっかり休んでおけ」

 

空は広い。

だが、その広さは、敵を効率的に殲滅するための「キャンバス」だ。

部下二人の生存率を計算に入れつつ、私は次なる作戦目標へと意識を切り替えた。

 

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