USJでの救助訓練から、二日が経った。
その後も、特に変わり映えもない日を送っていたわけだけど…
「皆ーーー!! 朝のホームルームが始まる! 席につけーー!!」
「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」
飯田くんが指示を出すと、瀬呂くんがツッコミを入れる。
飯田くんは相変わらずフルスロットだけど空回りしてる。
そんなやりとりをしていると、相澤先生が教室に入ってくる。
「お早う」
予鈴と同時に相澤先生が教室に入った瞬間、さっきまで喋っていた皆がシンと静かになる。
「いいか、今日は君らに大事な知らせがある」
相澤先生は出席簿を教卓に置くと、少し溜めてから言った。
相澤先生の話を聞いて、皆は臨時テストかと身構える。
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」
教室に、歓声が響き渡る。
よし、皆のテンションに乗っかれた!
「皆元気だなぁ。一昨日あんな心臓に悪いドッキリされたばっかりだってのによ」
皆がはしゃぐ中、峰田くんだけは愚痴っぽく言った。
「おい、静かにしろ」
皆が騒いでいると、相澤先生が“個性”を発動して皆を黙らせる。
皆が静かになると、相澤先生が説明を始めた。
「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した…そして日本に於いて今、かつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ!!」
「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」
「知ってるよ…」
相澤先生に続けて八百万さんも説明すると、峰田くんが若干呆れた様子で振り向く。
「
「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」
「くっ!!」
耳郎さんが辛辣な返しをすると、上鳴くんが悔しそうに黙る。
「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計三回だけのチャンス、ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」
相澤先生は、クラス皆の闘志に火をつけて、ホームルームを終えた。
◇◇◇
そんなこんなで4限目の現代文終了後。
「なんだかんだテンション上がるなオイ!!」
「活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」
切島くんと瀬呂くんは、早速やる気を出していた。
我が推し轟くんと爆豪くんはいつも通りだったけど。
皆のテンションについていけないのか、緑谷くんは戸惑っていた。
「皆すごいノリノリだ…」
「君は違うのか? ヒーローになる為在籍しているのだから、燃えるのは当然だろう!?」
「飯田ちゃん独特な燃え方ね。変」
飯田くんが姿勢を低くして両手でぐっと握り拳を作ると、梅雨ちゃんがツッコミを入れた。
「緑谷くんも、そうじゃないのかい!?」
「僕もそりゃそうだよ!? でも何か…」
「デクくん、飯田くん、離珠奈ちゃん…」
緑谷くんが不安そうに何かを言おうとすると、お茶子ちゃんが声をかける。
「頑張ろうね体育祭」
「顔がアレだよ麗日さん!!?」
うわ、顔やばっ。
「どうした? 全然麗かじゃないよ麗日」
「生…ぐえっ!?」
何だかすごい顔をしているお茶子ちゃんに、芦戸さんが話しかけている後ろでは、峰田くんが梅雨ちゃんにベロで引っ叩かれていた。
「皆!! 私!! 頑張る!!」
「おおーーーーけどどうした、キャラがフワフワしてんぞ!!」
やる気に満ちたお茶子ちゃんが拳を突き上げると、切島くんはそれに応える形で腕を挙げつつも、お茶子ちゃんを心配していた。
その後、私はいつメンで一緒にご飯を食べに行ったわけだけど…
「お金…!?」
「お金欲しいからヒーローに!?」
「究極的に言えば」
お茶子ちゃんの発言に、緑谷くんと飯田くんが驚く。
「何かごめんね、不純で…!! 飯田くんとか、立派な動機なのに私恥ずかしい」
お茶子ちゃんが恥ずかしさで顔を赤くして手で覆っていると、飯田くんが疑問を投げかける。
「何故!? 生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」
「飯田くん手の動きすごいねウケる」
飯田が明らかにおかしい手の動きをしていると、志村がどストレートにツッコミを入れる。
「うん…でも意外だね…」
「ウチ建設会社やってるんだけど…全っ然仕事なくってスカンピンなの。こういうのあんま人に言わん方が良いんだけど…」
「麗日さんの“個性”なら、許可取ればコストかかんないね」
お茶子ちゃんが家庭の事情を話すと、飯田くんが考え込み緑谷くんが言った。
するとお茶子ちゃんが振り向いて二人を指差す。
「でしょ!? それ昔父に言ったんだよ! でも…」
お茶子ちゃんは昔、お父さんに将来は自分の“個性”でお手伝いをしたいと言った事があったらしい。
でもお父さんは、お茶子ちゃんの気持ちを汲んで「お茶子が夢を叶えてくれる方が何倍も嬉しい」と言ってくれたそうだ。
「私は絶対ヒーローになってお金稼いで父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
お茶子ちゃんは、決意を固めてそう言った。
「……おぉ」
「麗日くん…! ブラーボー!!」
お茶子ちゃんが決意を語ると、轟くんがわずかに目を見開き、飯田くんが盛大な拍手を送った。
するとそこへ、明らかに画風の違うオールマイトが現れる。
「おお!! 緑谷少年と志村少女が、いた!!」
緑谷くんと志村に何か用事かな?
まあ、十中八九『ワン・フォー・オール』関係だろうけど。
「ご飯…一緒に食べよ?」
「「乙女や!!!」」
オールマイトが体に似合わない可愛いウサギ柄の風呂敷に包まれた、体に似合わないサイズの小さな弁当箱を見せながら言うと、お茶子ちゃんと志村が同時に吹き出す。
「ぜひ…」
「わかりました」
緑谷くんがキョトンとしつつもオールマイトについていき、志村も二人についていったので、残った4人で昼食を食べる事になった。
私達は、食堂で列に並びながら話す。
「デクくんと離珠奈ちゃん何だろうね」
「あの二人、何かとオールマイトに目ぇかけられてるよな」
「んー、そういえばそうかも」
「蛙吹くんが言ってたように超絶パワーも似ているし、オールマイトに気に入られてるのかもな」
お茶子ちゃん、轟くん、私、飯田くんの順にそんな話をする。
◇◇◇
「うおおお……何事だあ!!?」
「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」
放課後、私達が帰ろうとすると、教室の前に他科の生徒が集まっていた。
ああ、そういえばこんなシーンあったな。
USJ事件が茶番だったから原作ほどじゃないけど、邪魔だと感じるくらいには人数がいる。
「敵情視察だろ。体育祭じゃ、毎年ヒーロー科が注目を浴びるからな。
そう言って爆豪くんが、野次馬を押し退けて帰ろうとする。
すると野次馬どもが、私達に不服そうな目を向けながら口を開く。
「チッ、ヒーロー科だからって調子に乗りやがって…」
「あたしらのことなんか眼中にないんだよ」
「ムカつくな、本番でゴッソリ足元掬ってやろうぜ」
野次馬は、爆豪くんを睨みながら陰口を叩いた。
こいつら、どうやら自分の立場がわかってないみたいね。
ちょっとガツンと言ってやらないと、わからないかしら。
「聴こえてるわよ。言いたいことがあるなら、コソコソ陰口叩いてないでハッキリ言えよ、卑怯者」
「「「っ……!!」」」
「あのさ、あんた達、わたし達のどこが調子に乗ってるように見えるの? そう見えるなら、眼科か脳外科にでも行ったら? それと、敵情視察? あんた達、随分と暇なのね。あんた達、自分の置かれてる立場がわかってるの? こんなところで迷惑行為してる暇があったら、自主練か体育祭の作戦会議でもしたらどうかしら? その方がよっぽど合理的よ。あんた達は、ヒーロー科の入試に落ちた時点でわたし達より何十歩も遅れてんのよ。眼中にない? 当たり前でしょ? こんなくだらないことに時間を使ってるモブになんか、構っていられるわけないじゃない。わたし達は、あんた達が部活やったり放課後マックに行ったりしてる間も、ヒーローになるための訓練に時間を使ってるの。
「「「………」」」
「あのぉ〜…神剱ちゃん…? その辺にしといたら?」
「大体、入試にすら合格できずに、こうやって人の邪魔をすることしか能がないあんた達がヒーローになったところで、何ができるっていうの? わたし達ヒーロー科は、あんたたちの何十倍も努力してるの。だったらただでさえスタートラインで出遅れたあんたらは、何百倍何千倍も努力しなきゃダメでしょ? なのに自主練もせずにこんな意味ないことしてたら、永遠に追いつけるわけないじゃない。あんた達がヒーローになったところで、どうせそうやってボサっと突っ立って他のヒーローの足を引っ張るのが関の山よ。言っておくけど、常にトップヒーローを見据えてるわたし達と、ヒーロー科を追いかけることで精一杯なあんた達とじゃ、目指してるゴールが違うの。そこの認識改めないと、あんたら一生低次元のままよ。わかったら、そこどいてくれるかな?」
私が言うと、入り口の前に立っていた野次馬どもが顔を青くして後退りする。
あースッキリした!
言いたい事全部言い切った!
皆「よく言った!」って目で見てるわね、よしよし。
さーて、道譲ってくれた事だし帰ろっと。
「おい」
私が帰ろうとすると、爆豪くんが口を開く。
「てめえさっきからゴチャゴチャうるせえんだよ。いい加減黙れ」
……え?
今の、私に言ったの?
えっ、何で?
「クラスメイトが不快な思いをさせてしまい、申し訳なかった!」
「皆さん、本当に申し訳ございませんでした!」
「「ごめんなさい!!」」
「皆すまねえ、この通りだ!」
飯田くんに続けて、副委員長の八百万さん、そして近くにいた緑谷くん、お茶子ちゃん、切島くんも頭を下げる。
えっ、何で?
何で皆が、野次馬に頭を下げてるの?
「さぁ、君も早く謝るんだ神剱くん!」
飯田くんは、私に対しても謝るように言ってきた。
え、意味わかんない。
悪いのは、道を塞いで陰口を叩いたこいつらじゃん。
私、何も間違った事言ってないのに、何で謝らなきゃいけないの?
「ほんっとうにごめんなさい!!」
志村が、いきなり後ろから私の頭を掴んで、無理矢理土下座させてきた。
ちょっと、何すんのよ!?
痛い、離してよ!!
「この子、用事があるから早く退いてほしかっただけなの! 今はと〜っても反省してると思うから、許してもらえないかな?」
頭を上げようとする私を、志村が無理矢理上から押さえつけた。
志村の力が強すぎて、振り解こうにも振り解けない。
何こいつ、握力ゴリラ!?
「ま、まあそこまで言うなら…」
「俺の方こそ、さっきは失礼なこと言って悪かったよ…」
「この子の言ってることも、間違ってはなかったし…」
「あんたらも苦労してるのね…」
志村が謝ると、野次馬達がA組の皆に同情の目を向ける。
何でよ、悪いのは出入り口を塞いで陰口を叩いたあいつらじゃん!
何で悪くない私達が悪者にされなきゃいけないのよ!?
――バカは要約できないから話が長いわね。
っ…!?
――おまけに、自分の立場も理解できないのね。呆れたわ。ただでさえ戦闘訓練の借金があるあんたが、人を不快にさせるような長台詞を吐いたところで、誰も納得するわけないじゃない。
うるさい、あんたは黙っててよ!
私は何も間違った事はしてない!
「あっ、待ってよ神剱さん!!」
「神剱くん! まだ話は終わっていないぞ!!」
私は、モヤモヤを抱えたまま教室を出て、そのまま下駄箱に向かった。
下駄箱で靴を履き替えていると、ちょうど近くを通りかかった相澤先生が声をかけてくる。
「神剱、話がある。今すぐ職員室に来い」
相澤先生が、心なしか不機嫌そうに言った。
私は、先生の指示通りに職員室に行って、用件を尋ねた。
「あの、相澤先生。お話って何ですか?」
「お前、何やってんだ?」
相澤先生が、私を睨みながら地を這うような声で言った。
「複数の生徒から証言が取れてる。お前、他科の生徒達に暴言を吐いたそうじゃないか。そんな奴は、ヒーロー科には不要だ。今日限りをもって除籍処分とする……と言いたいところだが、一応お前の言い分も聞いておいてやる。何故そんなことをした?」
「あの人達が教室の出入り口を塞いだ上に、爆豪くんの悪口を言ったからです。それにわたしは別に、間違ったことは何も言ってません」
私は相澤先生の言及に対して、理路整然と答えた。
元はと言えば、悪いのはあいつらの方よ。
その事をちゃんと説明すれば、先生もわかってくれる…
「間違ったことを言ってないから許されるとでも?」
「っ!?」
相澤先生は、私の証言に納得するどころか、さらに眉間に皺を寄せて睨んできた。
思わず、背筋にゾワっと寒気が走った。
「いいか、正論なんかバカでも言える。TPOを弁えない正論は、ただの暴言だ。お前は、事件や災害で心身に傷を負った被災者にも、同じように暴言を吐くのか?」
「いや、違……」
「違わない。お前がやったのはそういうことだ。そもそも悪口や迷惑行為を目撃したんなら、暴言を吐く前に、そのことを俺達教師に報告するべきだったんだ。お前の失言の正当性なんか、どこにも無いんだよ」
「っ……」
相澤先生は、ため息をついて言葉を続けた。
「今回は厳重注意に留めておく。だが俺は同じことを二回言うのが嫌いだ。次は無いと思え」
「は、はい……」
「わかったら、もう帰っていい」
そう言って相澤先生は、私に『出て行け』のジェスチャーをした。
何でよ、私は悪くないのに…!!
何で私ばっかり怒られなきゃいけないのよ!!
ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!
☆破滅まで、残り127日───
転生者「皆『よく言った』って目で見てる!」
A組(((何言ってんだこいつ…)))
心操・鉄哲「なんか俺らがディスられてる気がするんだけど…」
非合理長文SEKKYOUに、相澤先生もブチギレ。