500日後に破滅する転生者   作:M.T.

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第14話 残り111日(3)

『1時間程の昼休憩挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!!! オイイレイザーヘッド、飯行こうぜ…!』

『寝る』 

『ヒュー』

 

 マイクを切り忘れたのか、マイク先生と相澤先生の男子高校生みたいな会話が聞こえてくる。

 ふと皆の方を見ると、轟くんが携帯を見て、一人でどこかに行く。

 もしかして、原作での緑谷くんとの話をしに行くのかな…?

 原作では、ここで過去の話をするんだよね…

 でも轟くん、入学してからずっと普通にバンバン炎使ってるよね?

 じゃあこの世界線では、エンデヴァーに虐待されてないって事?

 でも、ちゃんと顔に火傷はあるし…何よりこの世界線の轟くん、体にも古傷や痣がある。

 

 何を話しに行くんだろう…

 ちょっとついて行ってみよう。

 

 私は、新たに剣を創造した。

 今回の剣は『幻剣(イリュージョンソード)』、刃の部分に煙のような模様が刻まれた脇差だ。

 エネルギーを込めると、刃の部分が薄紫色に光り、髪の色も薄紫色に変わる。

 この剣を握っている間は周りに幻覚を見せる事ができて、当然周りから姿を見えなくする事もできる。

 周りから声や姿が認識されなくなる剣は『透剣』もあるけど、アレはどちらかというと障害物を通り抜ける用で、物体はすり抜けずに姿だけ見えなくする、みたいなのはできないから、今回は『幻剣(イリュージョンソード)』を使う。

 私は、『幻剣(イリュージョンソード)』で姿を見えなくして轟くんの跡をつけた。

 すると…

 

 

「焦凍ォオオオオ!!! よくやった、流石は俺と母さんの自慢の子だ!!!」

「親父、離してくれ」

 

 エンデヴァーが、すごい声を上げて轟くんの両肩を掴んでいた。

 轟くんは、エンデヴァーに掴まれて痛がっている。

 やっぱりこの世界線でも、轟くんはエンデヴァーに虐待されてたんだ…!!

 止めに行かなきゃ…!!

 

「やめてください!!」

 

 私は、『幻剣(イリュージョンソード)』を解除して、エンデヴァーと轟くんの間に入った。

 

「轟くん、痛がってるじゃないですか。離してください」

 

 私がそう言うと、轟くんとエンデヴァーが私の方を振り向く。

 

「神剱…?」

「な、何だ君は…!?」

 

 轟くんはきょとんとした表情を浮かべていて、エンデヴァーは怪訝そうな表情を浮かべている。

 

「そうやっていつも、轟くんを力で押さえつけて痛い思いをさせてるんじゃないですか…!? 奥さんやお子さん達のこと、ちゃんと労わってあげてるんですか!? 轟くん、なんでそんなに傷があるんですか!?」

「はぁ? 君は何を言ってるんだ?」

「おい神剱、お前何言って…」

 

 私がエンデヴァーを問い詰めると、エンデヴァーは困惑したような表情を浮かべ、轟くんも何かを言おうとする。

 すると、その時だった。

 

 

「うっわ、何この修羅場」

 

 私の後ろには、いつの間にか顔を火傷した白髪の男の人が立っていた。

 白髪の男の人は、私を見下ろして口を開く。

 

「えーと、どちら様?」

 

 どちら様って…

 いや、そっちこそ誰?

 ……あれ?

 でもこの顔、どこかで…

 

「燈矢兄、クラスメイトの神剱だよ」

「ああ、もしかしてマーリンとこの?」

 

 え……?

 燈矢…!?

 今、『燈矢』って言った…!?

 

「と、燈矢って…!?」

「あれ? 知らない? はじめまして。俺は蒼炎ヒーロー“トーヤ”こと、轟燈矢。フレイムヒーロー“エンデヴァー”の長男で、焦凍の兄です」

 

 えっ、嘘でしょ!?

 この人、荼毘だったの!?

 原作と全然顔違うから気付かなかったんだけど!?

 

 え、待って…

 荼毘がヒーローやってるって事は、轟家は崩壊してないって事!?

 じゃあ轟くんが怪我してるのは何で!?

 全然頭がついてこないんだけど…!

 

「と、轟くん…その、なんで体を怪我してるのかって、聞いてもいいかな?」

「これは親父や兄貴との組み手でできた怪我だ。でもこれは、俺が自分の意思で頼んだんだ。ぬるい組み手じゃ特訓にならねぇからな」

「じゃあ、顔の火傷は…!?」

「昔“個性”の特訓中に火力を間違えた」

「お、お母さんは…?」

「…? お母さんは今家にいるけど、それがどうかしたのか?」

 

 轟くんに質問をして頭の中で情報を整理している私を見て、轟家の三人はきょとん顔を浮かべている。

 え、じゃあ何…!?

 この世界に荼毘はいなくて、轟くんは虐待されてなくて…

 エンデヴァーが轟くんに暴力を振るっていると思ってたのも、私の勘違い!?

 それに気づいた私は、ダラダラと滝のように冷や汗が流れ、自分でも顔から血の気が引いていくのがわかる。

 

「すみませんでした!!」

 

 私は、その場で土下座をしてエンデヴァーに謝った。

 こうなったら、ひたすら謝り倒す!!

 一度失敗しちゃった以上、今はこれ以上マイナスを大きくしないようにするしかない!!

 

「早とちりしちゃったのはしょうがないけど、何も知らないのにお父さんを悪く言うのはやめてくれよ。お父さんが焦凍を虐待なんかするはずないだろ」

「ご、ごめんなさい……」

 

 私を怖がらせないように優しい言葉を選んでくれてるけど、荼毘…じゃなかった、トーヤは完全に怒っている。

 どうやら、勘違いでエンデヴァーを悪く言われたのが地雷だったらしい。

 私に向ける目は、怒りを通り越して氷点下まで冷え切っていた。

 

「焦凍、痛かったのか…すまなかった…」

「親父が熱苦しいのはいつものことだろ」

 

 エンデヴァーは轟くんを痛がらせた事を反省し、轟くんも普通にエンデヴァーを許していた。

 二人とも全然険悪じゃない…!!

 じゃあやっぱり、私が試合に勝った上で轟くんの心を救う展開は、どう足掻いても出来ないって事じゃん!

 ちくしょう、あれもこれも全部、あの女…志村瑠奈が余計な事をしたせいよ!!

 

 もうこなったら、試合でぶつかり合って戦友になるルートしか残ってない…!!

 懸念があるとすれば、私とぶつかる前に轟くんが負けちゃう事だけど…

 この世界線の緑谷くんと爆豪くんは、“個性”把握テストと障害物競走で轟くんより上の成績を取ってるから、それが無きにしも非ずなのがなぁ…

 そもそも轟くん、原作の決勝で爆豪くんに負けてるし。

 

 そんな事を考えながら、食堂でお昼ご飯を食べる。

 他の皆は、私が轟くんの話を聞いている間にお昼を済ませちゃったから、結局私一人で食べる羽目になった。

 ご飯を食べ終わって食堂を後にするとだ。

 

「あ、神剱さん! ちょうどいいところに!」

 

 百ちゃんが、私を見つけるなり駆け寄ってきた。

 

「百ちゃんどうしたの?」

「相澤先生から伝言をいただきましたの。午後のレクリエーションでは、女子全員で応援合戦をするそうですわ。急いでこの衣装に着替えてください!」

 

 そう言って百ちゃんが、私にチアリーダーの衣装を渡してくる。

 百ちゃんの後ろには、既に衣装に着替えた女子6人がいた。

 

「あれ? 女子全員? 志村さんは?」

「それが、どこ探してもいないんだよね」

「お手洗いかしら」

「もー、離珠奈ちゃんどこにいるのさ! 早くしないと午後の部始まっちゃうよ!」

 

 私が尋ねると、耳郎さんが肩を竦めながら答え、梅雨ちゃんが首を傾げ、葉隠さんがポンポンをブンブンと縦に振りながら怒る。

 

「しょうがないから、わたし達だけで先に行くしかないんじゃない? 午後の部が始まれば、志村さんもスタジアムに来るでしょ」

「そっか、それもそうだね!」

 

 私が言うと、芦戸さんが納得する。

 私は早速、女子更衣室でチアリーダーの格好に着替えてきた。

 実は皆、上鳴くんと峰田くんに騙されてるんだけど、あえて言わない事にした。

 男子にアピールするチャンスだからね。

 …にしてもこのスカート、短すぎじゃない?

 パンツ見えちゃうじゃん。

 

 なんて考えながら、皆と一緒にスタジアムに戻る。

 そこには、Tシャツとジャージを着た志村がいた。

 

「志村さん! 探しましたのよ!」

「離珠奈ちゃん今までどこにいたん?」

「んあーごめん、仮眠室で寝てた。眠くて…」

 

 百ちゃんとお茶子ちゃんが話しかけると、志村が答える。

 志村は、両さんみたいなごんぶと眉毛のアイマスクをおでこにつけていて、変なデザインの水色のTシャツを着ていた。

 Tシャツには、『ロングスリーパー』という字の下に、やたらと胴が長い羊が布団で寝ている絵がプリントされている。

 うわ、なにその服装、ダサっ。

 

「てかそのアイマスクとTシャツ何…?」

「いやその前に、何で皆チアの服着てんの?」

 

 耳郎さんが志村のダサい格好にツッコむと、志村が逆にツッコみ返す。

 

「実は、午後の部では女子全員がチアガールの服装を着て応援合戦をするそうですの」

「うんうん」

「先ほど、相澤先生からの伝言だと」

「ふんふんふん」

「上鳴さんと峰田さんに教えていただきまして…」

「ほんほんほんほん」

 

 百ちゃんが説明すると、志村が顎に手を当てながら頷く。

 

「……騙されてね?」

「…………え?」

「いや、だってさ。相澤先生ならそういう連絡はまず委員長の飯田くんか副委員長のヤオモモちゃんに伝えるだろうし、学校側で衣装を用意せずにヤオモモちゃんが作るって時点でおかしいじゃん」

 

 志村が言うと、そこで初めて百ちゃんが二人の話の矛盾に気づき、ショックを受ける。

 百ちゃんが二人に騙された事に気づいてorzになると、志村が百ちゃんの肩に手を置いて話しかける。

 

「ヤオモモちゃん、何で相澤先生に確認しなかったの?」

「その…相澤先生の伝言ならと、完全に信じ込んでしまっていて…」

「これからは、上鳴くんと峰田くんの話は簡単に真に受けない。わかった?」

「はい……」

 

 志村が百ちゃんに言い聞かせると、百ちゃんは反省した様子で頷く。

 そんな会話をしていると、ちょうど午後の部の時間になる。

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛りあげ……ん? アリャ?』

『なーにやってんだ……?』

『どーしたA組!!?』

 

 チアリーダーの格好をしている私達A組女子(志村を除く)を見て、マイク先生と相澤先生が呆れ返っていた。

 

「峰田さん、上鳴さん!! 騙しましたわね!?」

 

 百ちゃんは、ニヤニヤしている全ての元凶二人に対して怒鳴りつけた。

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」

「アホだろアイツら…」

 

 落ち込んで項垂れる百ちゃんの肩にお茶子ちゃんが手を置き、耳郎さんが呆れながらポンポンを地面に叩きつけた。

 

「まぁ、本戦まで時間空くし張り詰めててもシンドいしさ…いいんじゃない!!? やったろ!!」

「確かに楽しそうだね。ヤオモモちゃん後でアタシの衣装も作ってよ」

「透ちゃん、離珠奈ちゃん好きね」

 

 ノリノリな葉隠さんと志村に対して、梅雨ちゃんがコメントする。

 一方で耳郎さんと芦戸さんは、上鳴くんと峰田くんを睨みつけていた。

 

「あいつらどうする?」

「ん〜、どうしよっか……そうだ、いいこと思いついた! せっかくだし、発案者の二人にも応援合戦に参加してもらおうよ」

 

 志村がそんな提案をすると、上鳴くんと峰田くんが嬉しそうな顔をする。

 だけどその直後、志村が二人の肩に手を置いて、ハイライトのない真っ黒な瞳を二人に向けて言った。

 

「つーわけで、お前らバトンな」

「「えっ」」

 

 志村の発言は、二人にとっては地獄の始まりだった。

 

 

『さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目、進出6チーム総勢24名からなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!』

 

 マイク先生の声が響き、ミッドナイト先生がクジの入った箱を持って登場する。

 

「トーナメントか…! 毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ…!」

「去年トーナメントだったっけ?」

「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ」

 

 切島くんが興奮気味に言い、芦戸さんの疑問に瀬呂くんが答える。

 次はいよいよトーナメントか、楽しみだったんだよな、これ。

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります! レクに関しては進出者24人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人も居るしね。騎馬戦の時に言ってた特典だけど、トーナメントの人数は24人だから、1位の轟チームと2位の爆豪チームの8人はシード枠に配置するわ! んじゃ1位チームから順にくじを引いてちょうだい」

 

 ミッドナイト先生がそう言ってくじの入った箱を前に出す。

 轟くん、飯田くん、私、百ちゃんの順にくじを引いて、その次に爆豪くん、切島くん、瀬呂くん、芦戸さんがくじを引く。

 私達の枠が確定したら、今度はくじを足してからもう一度混ぜて、残り4チームがくじを引いた。

 

「というわけで、組はこうなりました!!」

 

 

 

 Aブロック

 

 第1試合 心操人使vs青山優雅  シード:芦戸三奈

 第2試合 緑谷出久vs凡戸固次郎 シード:瀬呂範太

 第3試合 尾白猿夫vs骨抜柔造  シード:轟焦凍

 第4試合 上鳴電気vs塩崎茨   シード:飯田天哉

 

 

 Bブロック

 

 第5試合 志村離珠奈vs吹出漫我 シード:神剱芽華

 第6試合 鉄哲徹鐵vs発目明   シード:切島鋭児郎

 第7試合 常闇踏陰vs泡瀬洋雪  シード:八百万百

 第8試合 麗日お茶子vs小大唯  シード:爆豪勝己

 

 

 

 あー、やっぱり原作とはちょっとずつ違うな。

 轟くんはAブロックか。

 って事は、決勝戦まで勝ち上がらないと戦えないのか。

 準決勝までで私の脅威になりそうなのは、爆豪くんくらいか。

 

 私は勝ち上がれるだろうけど、轟くんが緑谷くんに負けちゃうのが心配だな。

 ……こっそり『強剣』でバフがけしておこうかな。

 

「テツテツってあなたですか!?」

「ん? おう、そうだぜ! 俺ァ鉄哲徹鐵だ!」

「ひょ──!! 良かった、実はですね…」

 

 発目さんが、鉄哲くんに話しかけに行った。

 あーそういえば、こんなやり取りもあったな。

 原作では飯田くんだったけど、飯田くんはシードだから、1回戦の16人の中では一番バカっぽそうな鉄哲くんにその役割が回ってきたわけか。

 トーナメントの組み合わせが決まった後は、レクリエーションが始まった。

 

 

「A組ファイトぉ〜、F・I・G・H・T〜♡」

「「ぎゃあああああああああ!!!!」」

 

 志村は、百ちゃんが創造した荒縄で縛られた上鳴くんと峰田くんを“個性”で浮かせて、バトンの要領でトワリングした。

 二人は、ジェットコースター並みのスピードで志村に振り回されて絶叫している。

 人間をトワリングするなんて、巨女の志村だからこそできる芸当だ。

 峰田くんは、変な快感に目覚めてしまったらしく、途中から恍惚とした表情を浮かべていた。

 どんなメンタルしてんのよ、あいつ。

 

『A組なーにやってんだありゃあ!?』

『あいつら、クラスの女子を騙してチアの格好させたからな。その制裁ってところだろう。まぁ、自業自得だな』

 

 志村のトワリングを見て、マイク先生と相澤先生がコメントをする。

 その後は大玉転がしや借り物競走なんかの競技があって、レクリエーションが終わった後最終種目が始まった。

 

 

 

 

 




ろくに下調べもせずに熱苦しいだけのマイホームパパを勝手に虐待毒親扱いして名誉毀損をやらかす転生者さん、おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!!
原作を知らないこの世界の住人から見たら、エンデヴァーを勝手に毒親と決めつけてわけわからん事言ってるヤベー奴ですからね、この転生者。


◆答え合わせ
前話で言った体育祭のルール変更の原因を作った戦犯は、荼毘こと燈矢くんです。
6年前の3年の部では、彼のせいで最終種目にA組しか残らなくなった結果、来年度からは最終種目の定員を21人以上にして、確実に他のクラスが最終種目に進出できるようにしました。


◆今回の剣の解説

『幻剣』

能力:幻覚を操る
イメージカラー:薄紫色
剣の形状:刃の部分に煙のような模様が刻まれた脇差
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