転生者の明日はどっちだ!?
ヒーローネーム決めの後、私達は相澤先生から職場体験の説明を受けた。
「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリスト渡すから、その中から自分で選択しろ。指名の無かった者は、あらかじめこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」
そう言って相澤先生は、オファー受け入れ可の事務所の一覧表を見せた。
皆は、配られたリストを見ながら自分の行き先を決める。
「俺ァ都市部での対・凶悪犯罪!」
「私は水難に関わる所がいいわ。あるかしら」
切島くんと梅雨ちゃんは、既に自分の行きたいところをなんとなく決めているらしい。
「今週までに提出しろよ」
「あと二日しかねーの!?」
相澤先生が言うと、瀬呂くんが驚く。
「オイラはMt.レディ!!」
「峰田ちゃん、やらしい事考えてるわね」
「違うし!」
梅雨ちゃんに図星を突かれた峰田くんが、慌てて否定する。
私に来てた指名は1件だけだったけど…
我が推しホークスから来てたりしないかな?
第一種目で飛ぶ系の技見せたりしてたし…
それかエンデヴァーでもいいな。
エンデヴァーなら、轟くんと一緒に職場体験に行ける。
お願い、ホークスかエンデヴァー来い、ホークスかエンデヴァー、ホークスかエンデヴァー…!!
マーリンヒーロー事務所
ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
何で父さんなのよ、ふざけんな!!
原作キャラですらないじゃん!!
確かに父さんはイケメンだし、客観的に見ればホークスにも劣らない優良物件だけど、私は原作キャラと恋愛がしたいの!!
何でよりによって実の父親と職場体験しなきゃいけないのよ!!?
「うわ!? 離珠奈ちゃん、エンデヴァーとホークス、ミルコからも指名来てる!!」
「ウン。ほんとありがたや〜だよ」
は!?
志村、ホークスとエンデヴァーの両方から指名貰ってんの!?
何それ、ふざけんな!!
本来は私が貰うはずの指名だったのに…!!
「で、どこ行くの!?」
「いや、アタシ別の人のとこにしようと思ってるんだよね。ちょうどその人のとこ指名貰ってるし」
はぁ!?
ホークスのところにもエンデヴァーのところにも行かないって、どういう事よ!?
だったらその指名、私に寄越しなさいよ!!
なんて思っていると、志村が話しかけている。
「ねぇ、神剱ちゃんどうしたの? お腹痛いの?」
「えっ、ううん!? そんなことないよ?」
志村が私の体調不良を疑ってくるので、私は慌てて誤魔化した。
私は、志村の机の上に置かれている20枚弱くらいの紙の束を見て口を開く。
「志村さん、こんなに指名もらってていいなぁ。わたしにも何件か分けてほしいなぁ〜、な〜んて…」
私が志村をチラッと見ながら言うと、志村はスンッと真顔になって口を開く。
「いや、流石にそれはナシでしょ。他にも指名貰ってない人いるんだし、そんなことしたら不公平じゃん」
「そ、そうだよね、あははは〜…」
志村が真顔で正論を吐いてくるので、私は笑って誤魔化した。
何よそれ、こんな時に限って正論で論破してくるんじゃねえよ、このバカ!!
もう、どうすんのよ!?
このままだとホークスのところにもエンデヴァーのところにも行けないじゃん!!
◇◇◇
「父さん、どういうつもり!?」
その日の夕食の時間、私は父さんを問い詰めた。
私への指名が1件しかなかった事についてだ。
最終種目に進出した人は、全員指名を貰っていた。
ちっともいいところを見せられずに塩崎さんにボロ負けしてベスト24になった上鳴くんには300件近くの指名が来ていたし、骨抜くんに負けた尾白くんや心操くんに負けた芦戸さんにも二桁の指名が来ていたのに、第二種目までは順当に活躍してた私に1件しか指名が来ないなんておかしい。
絶対に父さんが何かしたに決まってる。
私が問い詰めると、父さんはステーキ肉をナイフとフォークで切り分けながら口を開く。
「お前の最近の行動は目に余るからな。私の手で鍛え直すべきだと判断した。だから他のヒーロー達にそのことを説明して、お前を指名しないよう言っておいたんだ」
「最低!! 何でそんな勝手なことするの!? 将来が決まる大事な職場体験なのに!!」
私は、言いたい事だけ言ってステーキ肉を食べようとする父さんに、語気を荒げて非難した。
すると父さんは、フォークを皿の上に置いて、冷たい目で私を睨んでくる。
「今、『最低』と言ったか? だったら、初授業で友達を燃やしたり、他科の子達に暴言を吐いたりするのは最低じゃないのか?」
「っ、何でそれを…!?」
「お前の問題行動の数々は、相澤先生から聞いてるよ…雄英から合格を貰って友達と一緒に過ごして、お前も成長したと思っていたんだが…どうやら私の認識が甘かったようだな」
そう言って父さんは、ステーキ肉を口に含んで咀嚼し、赤ワインを口に含む。
「何よそれ…父親だからって、そんなことしていいと思ってんの!? せっかくプロの仕事を学べるチャンスだと思ってたのに!!」
私は、父さんの言葉にカチンときて、テーブルを叩いて立ち上がった。
なんでよ、なんで父さんまでそんな事言うの!?
今までずっと私の味方だったのに、なんで…!!
「芽華」
突然、今まで黙っていた母さんが口を開く。
「座って。ご飯はお行儀良く食べましょうね」
「っ…………はい…」
母さんの言葉に、思わず背筋が凍りつき、さっきまで頭に上っていた熱が急速に冷えていく。
私が転生者だって事を思い出してから、少しずつ衰弱して、今ではほとんど家の外に出ない母さんだけど、怒った時はどういうわけか私ですら逆らう事ができない。
それにしても、どうしようかな。
このままじゃ、ホークスのところにもエンデヴァーのところにも行けない…
推しと接点作れるチャンスがないじゃん…!!
……そうだ、いい事思いついた。
◇◇◇
そして職場体験当日。
私達は、コスチュームを持って雄英の最寄り駅に集まった。
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」
皆それぞれ自分の職場体験先に向かう。
「飯田くん東京だよね」
「ムッ、志村くんも東京か?」
「ウン。一緒に行こ。出久、終わったら感想聞かせろよ。お茶子ちゃんも」
「「うん!」」
志村は、緑谷くん、お茶子ちゃん、飯田くんと仲良さそうに話している。
「楽しみだなあ!」
「お前ら九州か。逆だ」
葉隠さんがグッと拳を握りしめ、切島くんが常闇くんと私に話しかけてくる。
「常闇くん、行こ」
「ああ」
私は、同じ行き先の常闇くんに笑顔で話しかけた。
常闇くんと一緒に、福岡行きの新幹線に乗り込む。
私は、行きの新幹線の中で、常闇くんと話した。
「いやぁ〜、ほんと奇遇だよね。常闇くんもホークスに指名貰ってたんだね」
「お前もホークスから指名を戴いていたとはな」
「えへへ、集計が終わった後で急に指名が来たもんだからビックリしちゃった」
「これもまた定め……か」
私の発言には特に怪しむ事なく、常闇くんは腕と脚を組んで厨二病発言をする。
私は、新幹線の車内案内表示板を見ながら、心の中でほくそ笑む。
先週のヒーロー情報学の授業の翌日、『
先生達は、集計のし間違いだろうと判断して、私のところに追加の指名を持ってきたというわけだ。
幸い元々志村は即決で違う事務所に決めてたし、先生からもそれを志村本人に伝える事もなかった。
合理主義の相澤先生の事だから、集計の間違いなんかあったらホークス本人に確認するだろうとも考えたけど、もちろんそれも対策済み。
なんでそんな回りくどい事をしたかって?
だってどうしても推しのところに職場体験行きたかったんだもん!!
せっかく推しと関われる1週間を実の父親と過ごすなんて、マジであり得ないし!!
本来ならこんな事しなくても推しのところに行けてたはずなのに、志村のクソのせいで余計な手間かけさせられた!
でもこれで晴れて推しのところで職場体験できる事になったし、存分に楽しんでこよ〜っと♪
「俺の事務所にようこそ〜」
「雄英高校1年A組、常闇踏陰」
「同じく1年A組の神剱芽華です」
「「一週間よろしくお願いします」」
博多のホークス事務所に来た常闇くんと私は、ホークスに挨拶をした。
私が挨拶すると、ホークスが私をじっと見てくる。
「………君、マーリンさんのとこの子だよね?」
「はい、魔導ヒーロー“マーリン”の娘の神剱芽華です」
「まあいいや、知ってると思うけど、俺はホークス。よろしくね」
そう言ってホークスが笑顔を向けてくる。
うっわ、イケメン。
これが生のホークス…!
やっぱりここに職場体験に来て良かった〜!
「二人はヒーロー名なんて言うんだっけ?」
「俺は漆黒ヒーロー“ツクヨミ“です」
「わたしは魔剣士ヒーロー“スペルソード”です!」
「ツクヨミにスペルソードか、カッコいいじゃん」
わぁ…中◯悠一ボイスだぁ…!
良き……
「それじゃ、早速だけど二人ともコスチュームに着替えてね」
ホークスに言われて、私と常闇くんは早速コスチュームに着替える。
私のコスチュームは、前よりチェストアーマーのフリルと上着の裾の部分が短くなっていて、鼠蹊部から太腿の部分が見えるデザインになっている。
…いや、コスチュームを着てみたら思ったより腰回りがもっさりしてたから、機能性重視で軽くしただけだし。
別に露出したいわけじゃないし。
なんて誰に向けたわけでもない言い訳をしていると、ホークスが翼を羽ばたかせる。
「よし、行こうか」
「行くって何処へ?」
「
「パトロールじゃないんですか?」
「兼って感じだね」
そう言ってホークスは、常闇くんを抱きかかえようとする。
何で常闇くんだけ、ずるい!
…って思ったけど、そっか、私が飛べるのは体育祭でもう知ってるからか。
なんて思っていると、常闇くんがフッと笑う。
「ご心配なく。俺は飛べます」
そう言って常闇くんは、
この技ってまさか…原作の合同訓練の時の『黒の堕天使』…!?
嘘でしょ、何でもう使えんのよ!?
「それじゃ、行くよ〜」
「あっ、待ってください」
私は、その場で新しい剣を作った。
ホークスの『剛翼』を元に創った剣、その名も『
ちょうどホークスの剣みたいな、鋼の羽根でできた剣で、エネルギーを込めると羽根の部分が茜色に光り、髪の色も茜色に変わる。
そして私の背中からは、ホークスのとは少し違う形の茜色の翼が生えた。
それを見たホークスは、少し驚いたような顔をする。
「へぇすごい。君、そんなこともできるんだね」
私は翼を羽ばたかせて、驚いているホークスの隣に並んでみせた。
『
ホークスの羽根と同じように空気の振動を感じ取って索敵したり、羽根でいろんなものを持ち上げたりできる。
精密さでは流石にホークスには勝てないけど、羽根の枚数とか回復速度とかは多分私の方が上だと思う。
ホークスは、上空をパトロールしながら仕事の説明をしてくれた。
プロヒーローは一応公務員だけど、その勤務形態は一般の公務員と何もかも異なる。
ヒーローは犯罪の取り締まりや人命救助を行い、任務が完了したら貢献度を報告する。
その後専門機関の調査を経て、貢献度に応じた給料が振り込まれる。
それから、ヒーローは副業も許されているらしい。
最近化粧品のCMに出ているスネークヒーロー“ウワバミ”なんかがその例だそうだ。
「はい、行くよ〜」
ホークスは、ちょっと揉め事が起こっているっぽい港の倉庫まで私達を連れてきた。
よし、活躍するチャ〜ンス!
私は、ホークスが乗り込むより速く自分の翼の羽根を飛ばして、中にいた
「あー、ごめんなさい。もう倒しちゃいました」
ホークスより先に
「やるねぇ、俺より速いとはね。君、本当はすごく強かったりする?」
「そんなことないですよ。体育祭では、調子悪くて負けちゃいましたし」
「俺もウカウカしてると、すぐ追い越されちゃうかもね」
ホークスは、イケメンスマイルを浮かべながら言った。
その後私は、常闇くんと一緒においしい水炊きと焼き鳥をご馳走になった。
明後日はもつ鍋をご馳走してくれるらしい、やったぁ。
◆◆◆
サイドキックside
「ホークス、スペルソードにいつ言うんですか? 指名した覚えがないって」
午前0時過ぎ。
私は、ホークス事務所のサイドキックを代表してホークスに尋ねた。
神剱さん…スペルソードは何食わぬ顔でここに来ていたけど、ホークスが指名したのは志村さんと常闇くんで、神剱さんを呼んだ覚えはない。
でも雄英では、神剱さんに指名が入っている事になってしまっているらしい。
志村さんにフラれちゃったから、その分他の子が来てくれる事自体は嬉しいけど、急にもう一人増えるって言われてもねぇ…
その事をどう彼女に伝えるのかホークスに意見を求めたら、彼からは意外な答えが返ってきた。
「いいや、俺から言うつもりはないよ」
「え、伝えないんですか?」
「だって手違いで来ちゃったものはしょうがないじゃん? 今更『指名した覚えがないから帰って』〜って言うわけにもいかないでしょ」
「それはそうですけど…」
「ぶっちゃけあの子が来てくれて、俺は結構助かってるしね〜」
ホークスは、笑いながら呑気な事を言った。
確かに、彼の言い分がもっともだ。
もう職場体験が始まってしまった以上、今から他の職場体験先を探すわけにもいかない。
それに、神剱さんの“個性”が有用なのは事実だ。
仕事ぶりも多少荒いところはあったけど、全体で見れば私達は別に損はしていない。
だけど私としては、そんな神剱さんの指名を、父親であるマーリンさんがしないでくれと念押ししていた事がどうしても気になる。
最初は随分と過保護なお父さんだと思ったけど、よく考えてみればマーリンさんはそういう人じゃないし、神剱さんを
私がその事をどう伝えようか考えていると、ホークスは私の考えを察してか、いつになく真面目な顔をして口を開く。
「俺、明日
☆破滅まで、残り100日───
はい、転生者の指名が極端に少なかったのは、娘のやらかしを案じたパパさんが根回ししてたからでした。
そして父親の親心を無碍にする親不孝ェ……
相澤先生〜、早くこいつ除籍してくださ〜い。
そして今回の剣解説
『
能力:背中から翼を生やし、羽根一枚一枚を自在に操る
イメージカラー:茜色
剣の形状:羽根の形状をした太刀