今回は転生者が拷問を受けます。
職場体験4日目、午後。
「オ゛エ゛ッ……ゲホッ……ゼェ、ゼェ、カヒュッ……!!」
「ハァ…ハァ……強い…流石はNo.7……」
私と常闇くんは、ジムのリングの上で汗だくになってへばっていた。
目の前には、黄金色のオーラを輝かせた父さんが立っている。
私達は、ホークス事務所のジムのリングを借りて父さんとスパーリングをしていた。
というのもさっき、父さんが「午後の間は私が二人の面倒を見る」とか言い出して、そのせいで私は父さんにボコボコにされる羽目になったのだ。
今日の訓練の内容は、“個性”で身体強化をした父さん相手に、“個性”を一切使えない状態の私達が正面戦闘で5分間持ち堪えるというものだった。
5分どころか、1分間すらもリングの上に立っていられず、酸欠で過呼吸を起こす。
肩で息をしている私と常闇くんを見兼ねてか、父さんは私達にチラッと目をやると、タオルで汗を拭きながらロープに体を預ける。
「よし、今日はここまで」
父さんの言葉を聞いて、私はほっとため息をついてリングから降りた。
私がベンチに座ってスポーツドリンクをがぶ飲みしていると、父さんが身体検査の結果を持って私のところにやって来る。
「筋力、敏捷、柔軟性、持久力…どれもヒーロー科女子の平均値は超えているはずなんだがなぁ。お前に何が足りないのか……」
父さんは、私の事をジロジロと観察しながら口を開く。
そして何かを思いついたのか、小さく口を開いて「あ」と声を漏らす。
「わかった。お前の欠点は、現状認識の甘さだ。お前はこう思っているんじゃないか? 『私には強い“個性”があるから、怪我をするようなことにはならない』『いざとなれば“個性”を使えばなんとかなる』…と」
「っ…………」
父さんは、私を指さしながら欠点を指摘した。
私は、父さんの言葉を強くは否定できなかった。
チートがあるから殴られるような事にはならないと思っていたのは事実だし、体育祭の時は油断していたと言われれば否定はできない。
フライングして私が剣を生成する前に殴りかかってきた志村が悪いけど、まさかあいつが勝ちたいからってフライングして不意打ちを決めてくるなんて思わなかった。
「そういう舐めた考えが、致命的な油断を生むんだ。体育祭の時、お前は腹を蹴られて敗退したが…あれが悪意のある
そう言って父さんは、満面の笑みを浮かべる。
私は悟った。
ここからが地獄の始まりだと。
「はぁ……疲れた」
訓練が終わって、ご飯を食べ終わった後、私はホテルの部屋で着替えをした。
白いキャミソールタイプのワンピースに着替えて、ベッドに体を預ける。
するとその時、私のスマホから通知音が鳴った。
「ん、何だろ」
ベッドから飛び起きて、スマホの通知を確認する。
どうやら、ネットニュースが更新されたらしい。
一番新しいニュースは、保須市で起こったものだった。
保須……って事は、もしかしてステインが現れたの?
原作では、轟くんと緑谷くんと飯田くんが三人でステインを倒したんだよね。
う〜、行きたかった!!
私も轟くんと一緒にステインと戦いたかった!!
そう思いながら、私がベッドの上でジタバタしながらネットニュースを開くと、だ。
そこに書かれていたのは、私が予想していた記事と180°真逆の記事だった。
記事のトップには、ステインと志村が一緒に写っている写真が掲載されていて、見出しには『返り血ヒーロー“スタンダール” 保須で大活躍!!』『雄英の超新星“ブラックムーン”にも注目!!』と書かれている。
志村とステインが、インゲニウム事務所と協力して、
は……!?
何これ…!?
何で志村がステインと一緒に写ってんの!?
っていうか、この世界線ではステインってヒーローやってんの!?
意味わかんないんだけど、あいつ原作では話の通じないキチガイだったじゃん!!
何で普通にヒーローやってんのよ!?
記事を下の方にスクロールすると、ステインと一緒にその場にいたヒーローのインタビューが掲載されている。
そこには、飯田くんと、お兄さんのインゲニウムの姿があった。
インゲニウムも飯田くんも、ステインについてのインタビューには、『彼がいなかったら園児達の命はなかった』『スタンダールは素晴らしいヒーローだ』と答えていた。
何よこれ、原作と言ってる事真逆じゃん!!
えっ、この世界線ではステインがヒーローやってて、インゲニウムと保須でタッグを組んでるって事!?
何それ意味わかんないんだけど!?
また原作の大事なシーンが無かった事になっちゃったじゃん、どうしてくれんのよもう!!
ほんっとに志村が絡むとロクな事が無いんだけど!!
何なのあいつ、轟くんには委員長に推薦されて、爆豪くんとは雄英に来る前からの友達で、ヒーロー基礎学の授業で相澤先生に褒められて、エンデヴァーやホークスに指名貰って……私が欲しかったポジションを悉く全部持っていくじゃん!
宙に浮く事しかできない、いくらでも替えが利く“没個性”のくせに!!
あークソクソクソ、マジでムカつく!!
ズルして準決勝まで勝ち進んだからって調子に乗りやがって!!
あいつさえいなければ、私があいつのポジションに収まってたのに!!
◇◇◇
職場体験5日目。
私と常闇くんは、朝早くからホークスと一緒にパトロールをしていた。
「『
私は、翼から大量の羽根を飛ばして
午前中は、ホークスと一緒にパトロール。
推しと一緒に過ごせる貴重な時間も、一秒たりとも気が休まらない。
何故かって、父さんが常に私を監視できる位置にいるから。
ちょっとでもヒーローとして間違った行動をすれば、昼休憩中にネチネチ説教される。
ありがた迷惑ったらありゃしない。
常闇くんは、父さんのファンだから父さんに指導してもらえるのを好意的に受け取ってるけど、こっちは地獄でしかないんだっつーの。
っていうか、常闇くんはあんまり言われてないのに、私だけネチネチ言われてるの何で!?
「ゲホッ……!! ヒュウ、ヒュウ…ゼェ…ゼェ…!!」
「どうした? もう息が上がってるのか? まだあと4分以上あるぞ」
午後からは、父さんによるスパルタトレーニング。
今日は昨日と同じスパーリングに加えて、私だけ特別課題が課された。
それは、“無個性”状態で父さんの『
父さん曰く、現状認識の甘さを克服する為の訓練らしい。
ろくに防御もできない状態で、無数の矢が次々と飛んでくる。
私は素の身体能力で避けていたけど、それも10秒ほどで限界が来て、とうとう肩に矢が掠った。
「あ゛あっ!!」
光の矢が肩に掠ると、私は痛みのあまりその場に尻餅をついた。
肩の傷からは血が流れ出て、リングに滴った血が赤いシミを作る。
父さんは、その場ですぐにタイマーを止めると、矢を撃つのをやめて私の肩に触れ、“個性”を発動した。
すると私の体が金色の光で覆われ、みるみるうちに肩の傷が治り、さっきまで息があがって苦しかったのも楽になってくる。
私の体が一瞬で完治すると、父さんは何事もなかったかのようにタイマーをセットし直し、再び矢を構えた。
「また一からやり直しか。こりゃ時間がいくらあっても足りないな」
父さんがため息をつきながらそう言うと、思わず全身から冷や汗が流れ出る。
一度でも矢が擦れば訓練は中断、父さんの『
父さんの『
周囲をライトで囲まれ眩しいくらいに明るくしてあるリングの上では、自分のエネルギーを消費する事なくほぼ無制限かつノータイムで矢を生成できる。
元はと言えば常闇くんの地力を上げる為にわざと明るくしてあるリングは、結果的に父さんにとってベストコンディションとなってしまっているのだ。
そして父さんの『
それだけのチート級の技なのに、対象のエネルギーを増幅させて回復力を上げる技だから、擦り傷やスタミナ切れ程度の治療なら、エネルギー消費はそこまで多くない。
私と父さんの二人分の回復なら、吸収した光のエネルギーと3時のおやつで十二分に賄える量のエネルギー消費しかないのだ。
父さんが『
おまけに『
“個性”は父さんの『
つまり5分間矢を全部避け切れるまで、私はどう足掻いてもこの地獄の特訓から逃げられないという事だ。
「ほら、早く立て。『
父さんが、ニッコリと笑みを浮かべながら矢を構える。
何でよ…何でこんな事になるのよぉ!?
◇◇◇
職場体験6日目。
私はホークスとのパトロールを終えた後、また父さんとのスパーリングの後、昨日と同じ訓練をした。
「ゲホッ、ゼェ…ゼェ……!!」
「ほ〜ら逃げろ逃げろ、父さん止まっていいなんて言ってないぞ〜」
「ひっ、ひぃっ!!」
この日の午後も、私は父さんの拷も…訓練を受けた。
せっかく推しのところで楽しい思いができると思ってたのに、こんな目に遭うなんて聞いてない!!
早く終われ、職場体験…!!
◇◇◇
職場体験7日目。
「いやぁ、ここのラーメンは美味いな」
「でしょう? 俺のオススメです」
「俺替え玉頼もうかな、ツクヨミくんとスペルソードも要るか?」
「はい、戴きます」
「………要らないです」
パトロールと訓練を終えた後、私達は博多の屋台ラーメンをご馳走になった。
ホークスと父さんが談笑しながら豚骨ラーメンを食べる中、私は始終無言で豚骨ラーメンの細麺を啜っていた。
他の三人は楽しそうだけど、私にとっては地獄でしかなかった。
この4日間、何とかして父さんをホークス事務所から追い出そうとしたけど、私の努力は全て水の泡に終わった。
今となってはこの食事の時間すら、早く終われとしか思わない。
「「1週間、ありがとうございました」」
屋台ラーメンをご馳走になった後、私と常闇くんはホークスと父さんに礼を言った。
「二人ともお疲れ様。二人ともこの1週間どうだった?」
「とても有意義な1週間でした。お二人にご指導いただき、己の未熟さを痛感しました」
「……同じくです」
「いいね、期待してるよ」
ホークスの質問に常闇くんが答え、私はそれに頷く事しかできなかった。
父さんから拷問紛いの指導を受けて、もはや受け答えをする気力すらなくなっていた。
ホークスから有難い言葉を貰って終わりかと思いきや、父さんが前に出る。
「私からも一言ずついいか?」
「ええ、どうぞ!」
ホークスから許可を貰った父さんは、まず常闇くんに話しかける。
「ツクヨミくんには、この4日間で教えられることは全部教えた。その調子でこれからも鍛錬を続けるといい」
「……御意」
「うん、いい構えだ」
父さんがスッと手を挙げたのを合図に常闇くんが構えると、父さんは満足げに笑った。
常闇くんにコメントした後は、私の前に来て、真顔で話しかけてくる。
「スペルソード。これで少しは頭を冷やしたか? プロの仕事は遊びじゃないんだぞ」
「…………」
父さんの説教に、私は黙って頷いた。
何で私だけ怒られてるわけ?
意味わかんない!!
「それじゃ、インターンでまた会おう」
そう言ってホークスは、翼をはためかせて飛んでいき、父さんも風の魔法で浮き上がってホークスについて行った。
こうして、私の地獄の職場体験は幕を閉じた。
☆破滅まで、残り95日───
◆パッパの技説明
・『
光の矢を撃つ技。
光のエネルギーを吸収して矢に変えるため、光が強ければ強いほど生成速度や生成数、威力が増す。
・『
対象の傷や疲労を100%回復させる技。
対象のエネルギーを増幅させる技であるため、技の便利さの割にエネルギー消費はさほど多くない。
・『
対象の“個性”を一定時間使用不可能にする技。
対象の“個性”因子の活性化とエネルギーの解放のプロセスを無限ループさせ、文字通りの膠着状態を生み出し、“個性”の使用を不可能にする。
発動するには対象に一度触れる必要がある他、精密なエネルギー操作が必要なため、一度に複数人に対して発動はできない。
◆A組の職場体験行き先
芦戸三奈:不明
蛙吹梅雨:海難ヒーロー《セルキー》
飯田天哉:ターボヒーロー《インゲニウム》
麗日お茶子:バトルヒーロー《ガンヘッド》
尾白猿夫:不明
上鳴電気:不明
切島鋭児郎:任侠ヒーロー《フォースカインド》
口田甲司:不明
砂藤力道:不明
志村離珠奈:返り血ヒーロー《スタンダール》
障子目蔵:不明
耳郎響香:《デステゴロ》
瀬呂範太:不明
常闇踏陰:ウィングヒーロー《ホークス》
轟焦凍:フレイムヒーロー《エンデヴァー》
葉隠透:不明
爆豪勝己:ファイバーヒーロー《ベストジーニスト》
神剱芽華:魔導ヒーロー《マーリン》ウィングヒーロー《ホークス》
緑谷出久:《グラントリノ》
峰田実:《Mt.レディ》
八百万百:スネークヒーロー《ウワバミ》