500日後に破滅する転生者   作:M.T.

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第22話 残り86日

 救助レースから1週間後、5月最終週。

 

「次、緑谷」

 

 荒廃した街の中で、地上から相澤先生が私達のいるビルの三階に向かって声をかけた。

 ビルは今にも崩れそうなありさまだ。

 

「はいっ」

 

 呼ばれた緑谷くんは、少し緊張した面持ちでそう返事をする。

 

「デクくん、がんばって!」

「うん!」

 

 お茶子ちゃんが朗らかに声をかけると、緑谷くんは頰を赤らめながら頷き、三階から地上へと繫がっている垂直式救助袋の中へ入っていく。

 

「っと」

 

 緑谷くんが無事降りると、相澤先生は今度は私達女子に声をかけた。

 

「よし、男子は全員終わったな。次は女子。八百万」

「はいっ」

 

 相澤先生が声をかけると、今度は百ちゃんが降りる。

 百ちゃんが下に降りると、峰田くんがなんで体操服なんだとかパンツが見えないとか言っていた。

 峰田くんの最低発言に対して、飯田くんがごもっともな正論を言い、相澤先生も峰田くんを注意した。

 そんな中、緑谷くんは救助器具を見て何かをブツブツ呟いていた。

 

「そうだ、大勢を避難させるのに救助器具と“個性”を組み合わせるのはどうだろう……? 例えば麗日さんや志村さんの何かを浮かせる“個性”とか瀬呂くんのテープとか……峰田くんのくっつくボールも使えそうだ。神剱さんなら色んな能力を使えるし…プロヒーローなら……うひょお、組み合わせは無限のバリエーションがあるな……!」

 

 相変わらずだ、緑谷くんのブツブツ……

 

「じゃ、次は……」

 

 その時、相澤先生の声を遮るように、空から空を切るような音が響く。

 上空を見上げると、一台のヘリコプターが降下してきた。

 そしてそのヘリコプターから、巨体がバッと飛び降りてくる。

 

「空から……私が来たー!!」

「オールマイト!?」

 

 ズシンッと大地を轟かせて着地したのは、マッスルフォームのオールマイトだった。

 オールマイトは、白い歯を見せてニカッと笑った。

 

「やぁ遅れてすまないね、諸君! ちょっと出がけに(ヴィラン)を捕まえてきたものでね!」

「全くですよ。本来ならあなたの担当時間だったんですから」

 

 呆れ返る相澤先生とは対照的に、緑谷くんは目を輝かせながらオールマイトに話しかける。

 

「もうネットニュースになっています! お昼休みにチェックしました! 銀行強盗を捕まえたんですよね!?」

「おや、もう一つの立て籠もりの方はまだニュースになっていないようだね」

「っ…流石オールマイト!」

 

 オールマイトが感心したように言うと、緑谷くんはさらに興奮する。

 するとオールマイトは、緑谷くんを諭すように言った。

 

「緑谷少年、賞賛はありがたいがもうおなかいっぱいさ。ヘリをいつまでも待たせておくわけにはいかない」

「ヘリ? オールマイトを運んできただけじゃ……」

「緊急時でもあるまいし、私の登場だけで使うワケないだろう?」

「確かに、オールマイトだったらヘリで移動するより走った方が速いですもんね」

「あっ」

「HAHAHA、よせやい!」

 

 志村の指摘に緑谷くんがハッとすると、オールマイトが高らかに笑う。

 

「さ、これからヘリによる救助訓練さ! アーユーレディ!?」

「さっすがヒーロー科……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後は、ヘリによる雪山、水辺での救助訓練を終え、私達は教室に戻ってきていた。

 

「オイラ、海で溺れたら人工呼吸は女子にしてもらうんだ……思わず息の根止まっちまうようなディープなヤツを……!」

「その前に、もう止まってんじゃねえ?」

「煩悩の塊……」

 

 なんか峰田くんと上鳴くんと常闇くんが話していた。

 するとその時、相澤先生が教室に入ってきた。

 その瞬間、全員が席に戻り背を伸ばす。

 

「はい、おつかれ。さっそくだが再来週、授業参観を行います」

「「「授業参観ー!?」」」

 

 相澤先生の言葉に、皆は一斉に声を上げた。

 

「ヒーロー科でもそういうのあんだな」

 

 切島くんは、皆を代表するように呟いた。

 相澤先生は、授業参観のプリントを後ろに回すように言いながら前の席に配っていく。

 

「プリントは必ず保護者に渡すように。で、授業内容だが保護者への感謝の手紙だ。書いてくるように」

 

 その発表に教室は一瞬静まり、それからドッと笑い声が響いた。

 

「まっさかー、小学生じゃあるまいし!」

 

 明るい調子で上鳴くんが言ったクラスの総意を、相澤先生が切る。

 

「俺が冗談を言うと思うか?」

 

 相澤先生の静かな威嚇に瞬時に静まり返る教室。

 

「いつもお世話になっている保護者への感謝の手紙を朗読してもらう」

「マジでー!? 冗談だろ!」

「流石に恥ずいよねぇ……」

 

 教室がざわつく中、飯田くんがサッと立ち上がり腕を直角に振りながら叫んだ。

 

「静かにするんだ、皆! 静かに! 静かにー!!」

「飯田ちゃんの声が一番大きいわ」

「ム、それは失礼」

 

 梅雨ちゃんの指摘に、飯田くんは素直に謝罪した。

 

「しかし先生、皆の動揺ももっともです。授業参観といえば、いつも受けている授業を保護者に観てもらうもの。それを感謝の手紙の朗読とは、納得がいきません! もっとヒーロー科らしい授業を観てもらうのが本来の目的ではないのでしょうか!?」

 

 鼻息荒く話した飯田くんに、相澤先生が答える。

 

「ヒーロー科だからだよ」

「それはどういう……」

 

 相澤先生がクラスを見回し、話し出す。

 

「お前達が目指しているヒーローは、救けてもらった人から感謝されることが多い。だからこそ、誰かに感謝するという気持ちを改めて考えろってことだ。ま、プロになれるかどうかまだわからないけどな」

「……なるほど! ヒーローとしての心構えを再確認する、そしてヒーローたる者、常に感謝の気持ちを忘れず謙虚であれ、ということを考える授業だったのですね! 納得しました!!」

「「納得はやっ」」

 

 飯田くんの変わり身の早さに、お茶子ちゃんと志村が吹き出した。

 もはやクラスは、諦めムードだった。

 

「ま、その前に施設案内で軽く演習は披露してもらう予定だが」

「むしろそっちが本命じゃねえ!?」

 

 相澤先生が言うと、上鳴くんがツッコミを入れる。

 授業参観かぁ……

 どうしようかな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 お昼休み。

 私は梅雨ちゃん、葉隠さん、志村と一緒にトイレに行くついでに授業参観の話をした。

 

「授業参観かぁ〜…」

「梅雨ちゃんのとこは誰が来るの?」

「お父さんじゃないかしら。私と同じ蛙顔だから、来たらすぐわかると思うわ」

「葉隠ちゃんは?」

「多分お母さん! ねぇ、芽華ちゃんは?」

「母さんかな…」

「へぇ〜」

 

 私の場合は、ほぼ間違いなく母さんが来ると思う。

 父さんはヒーロー活動があるし、実田さんは家事で忙しくて家を空けられない。

 

「離珠奈ちゃんは?」

「ん〜、多分叔父様か叔母様じゃないかなぁ」

「あれ? 離珠奈ちゃん、お父さんいないんだっけ?」

「いや、パパ今海外だからさ。望み薄だと思う」

 

 志村が、石鹸で入念に手を洗いながら葉隠さんの質問に答える。

 

「離珠奈ちゃんのお父さんって何してる人なの?」

「ん〜、わかんない」

「ケロ? わからない、というのはどういう意味?」

「一応学者ではあるんだけど、何の研究してるのかとか全然教えてくれなくて。滅多に家に帰ってこないし、お金の出所もわかんない。流石に法に触れるようなことはやってないと思うけど」

 

 それって他所に女作って遊んでるんじゃ…

 同じ事を葉隠さんも思ったのか、気まずそうに話しかける。

 

「……ごめん、聞いちゃまずいことだった?」

「いやいや、全然そんなんじゃないよ。LINEはしょっちゅうしてるし、誕生日は毎年祝ってくれるし」

 

 葉隠さんが申し訳なさそうにしていると、志村は笑って手を振りながら否定する。

 授業参観かぁ。

 原作にあったイベントじゃないから、どんなか知らないんだよなぁ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その日の夜、私は母さんと一緒に夕飯を食べた。

 父さんは、今日は仕事で家に帰れないらしい。

 私が授業参観の話を母さんにしたら、母さんは私が普段どんな授業を受けているのか知りたいと言っていた。

 母さんは、夕飯の豆腐ハンバーグをナイフとフォークで切り分けながら話しかけてくる。

 

「芽華。学校ではどんな授業受けてるの?」

「いろいろやってるよ。戦闘訓練とか、救助訓練とか」

「そう…」

 

 私が授業の話をすると、母さんはご飯を食べながら黙って私の話を聞く。

 私がちゃんと授業を受けている事に安心したのか、母さんはいつもより食事が進んでいた。

 食事を半分ほど進めたところで、母さんが私に話しかけてくる。

 

「離珠奈ちゃんとは、仲直りしたの?」

「するわけないじゃん。わたし、あいつに嫌がらせされてるんだよ?」

「嫌がらせ? 具体的に、何をされたの?」

 

 私が話すと、母さんは冷静に質問をしてきた。

 え、何でこんな冷静なの?

 娘が嫌がらせされてるって知ったら、普通もっと怒らない?

 

「わたし、同じクラスに好きな男の子がいるの。でも、あいつに邪魔されてるんだよね。席も隣同士だし、この前の訓練だって同じグループだったし。委員長決めの時なんか、その子に委員長に推薦されてたしさ」

「それってただの偶然なんじゃ…」

「それだけじゃないよ! サバサバ系みたいな態度取ってるくせに、体育祭で優勝した二人にベタベタすり寄って、男子に色目使ってんの。しかも他の女子の皆とグループ作って、「私女子にも好かれるんです〜」アピしてさ、ほんっと狡い女」

「えっと…言ってることがよくわからないのだけれど…皆と仲良くするのは良いことじゃない?」

「ちっとも良くない! わたし、あいつに蹴られて全国に恥を晒されたんだよ? 骨だって折れてたんだから! 母さんも知ってるでしょ?」

 

 私は、志村がどれだけ私に悪影響を及ぼしているかを母さんに説明した。

 すると母さんは、食事の手を止めて口を開く。

 

「私、ヒーロー科はやめておけって言ったわよね? 大怪我するかもしれないし、他の学校の子みたいに恋やオシャレを楽しめなくなる。少しでもミスをすれば、心無い人達に叩かれる。それでも行きたいって言ったのは芽華じゃない。私はてっきり、それも覚悟の上でヒーロー科を選んだのだと思っていたのだけれど、違ったの?」

 

 は……?

 何それ。

 母親なんだから、ちょっとは娘の心配してくれたっていいじゃん!!

 

「覚悟!? 何それ! ヒーロー科だからって、人を骨折させてヘラヘラ笑っててもいいわけ!?」

 

 私は、頓珍漢な事を言っている母さんに向かって、声を張り上げて怒鳴り散らした。

 怒りのあまり、フォークでハンバーグを刺す左手の力が強くなる。

 志村の顔に見立てて何度も、何度もフォークを突き刺しているうちに、ハンバーグが崩れてグチャグチャになる。

 

「大体、あいつのヘラヘラ笑って人を見下した態度が気に入らないのよ!!」

「ちょっと芽華」

「オールマイトの弟子だからって理由で、オールマイトや相澤先生だってあいつには甘いしさ!! 怒られる時も、あいつは一言注意されるだけなのに、わたしは呼び出されて説教されてばっか!!」

「……芽華」

「体育祭の時だって、あいつがフライングしたせいで──」

「芽華!!」

 

 私が志村の卑劣さを訴えると、母さんが声を張り上げた。

 

「芽華…あなた、本当にヒーローになりたいの?」

 

 母さんが、まっすぐ私の目を見て聞いてくる。

 突き刺すような視線を向けられて、さっきまでの熱がいやでも冷えていく。

 静かになった食堂の中で、母さんがナプキンで口元を吹いてから口を開く。

 

「決めました。私、再来週の授業参観に行きます」

 

 母さんがそう言うと、実田さんが母さんを心配して歩み寄る。

 

「ですが奥様、お体が…」

「体調が悪くなったらすぐに帰るわ。芽華の言っていることが本当かどうか、この目で確かめに行きます」

 

 体の弱い母さんを心配する実田さんに対して、母さんは微笑みながら言った。

 

「そんなことしたって意味ないよ! わたしに嫌がらせしておいて、ちゃっかり皆を味方につけるような女なんだよ!? 親の前では猫被るに決まってるじゃん!!」

「もう結構。あなたの意見は聞いてないわ。あと、フォークでご飯をグチャグチャにするのをやめなさい。見ていて不愉快です」

 

 私が母さんに反論すると、母さんは私の反論をバッサリ切り捨て、低い声で言い放つ。

 全然私の味方をしてくれない母さんに我慢ならなくなって、私は怒りに任せて席を立った。

 

「まだご飯の途中だけど」

「いらない、お腹いっぱい」

 

 私は、母さんや実田さんの制止を振り切って、自分の部屋に戻った。

 何よあのババア、私の言う事に反論してばっかで、全然私の心配をしてくれないじゃない!!

 昔は私に対して怒ったりなんかしなかったのに!!

 ほんっと、どいつもこいつも意味わかんない!!

 

 

 

 ☆破滅まで、残り86日───

 

 

 

 

 

 

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