500日後に破滅する転生者   作:M.T.

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今回は転生者がだいぶマシです。
推しと敵(リズナ)が絡んでいない時は、比較的マシです。


第23話 残り76日

 6月1週目の中間試験も無事に終わり、試験明けの日曜日。

 私は、明日の授業参観の手紙を書く為の便箋を買いに、雄英の近くの雑貨店に来ていた。

 実田さんにお願いしようとしたら、自分で買いに行けって母さんに怒られた。

 便箋を買ってそのまま家に帰ろうとしたら、ちょうど梅雨ちゃんと鉢合わせた。

 

「ケロ? 芽華ちゃん?」

「あ、梅雨ちゃん!」

「何を買ったの?」

「便箋」

「ケロケロ、私もよ」

 

 梅雨ちゃんは、私と同じ便箋を見せながら言った。

 そのまま二人で店を出て歩いていると…

 

「あら、梅雨さんに神剱さん! 奇遇ですわね」

「百ちゃん」

 

 今度は百ちゃんと鉢合わせた。

 成り行きで、三人で一緒に歩いていると、見覚えのある茶色のボブ頭が見える。

 

「うう、ケチくさぁ〜!」

 

 見ると、お茶子ちゃんが悔しそうに歯噛みして身悶えていた。

 

「せめてお一人様、二つ……いや、三つ……いや、せめて四つ……いやいや、五つ……ええい、もういっその事十でどうだ!」

 

 なんかお茶子ちゃんが啖呵を切っていたので、百ちゃんと梅雨ちゃんが話しかけた。

 

「麗日さん、どうかしましたの?」

「何が十?」

「八百万さん! 梅雨ちゃん! 芽華ちゃん! わー! どうしたの? 珍しい組み合わせだね!」

 

 休日の街中で偶然出会ってテンションが上がるお茶子ちゃんに、百ちゃんが言う。

 

「私は本屋に参考書を探しに。その帰りに偶然、梅雨さんと神剱さんにお会いしましたの」

「私は足りなくなった便箋を買いに」

「わたしも。ちょうど雑貨店で梅雨ちゃんに会ったの」

「そういうお茶子ちゃんは?」

「スーパーに買い物! 明日、父ちゃんが来るから、食材買っとこと思ってさ」

「そういえば麗日さんは一人暮らしでしたわね。自炊しているなんてすごいですわ。大変でしょう?」  

 

 百ちゃんに感心したように言われて、お茶子ちゃんは照れて笑った。

 

「そんなことないよ~、外食とか出来合いの弁当とか買ってたら食費、えらい事になるからさ。それに手、抜きまくりだし。めんどくさい時はおもち一個とかですませちゃう……」  

 

 そう言いかけて、ハッとするお茶子ちゃん。

 

「そう、おもち~!!」

 

 一転してがっくりとうなだれたお茶子ちゃんに、私達は顔を見合わせる。

 

「お餅がどうかしましたの?」

「それがね……」

 

 お茶子ちゃんが、事情を説明する。

 何でもスーパーでお餅が半額以下で売られているけど、それがお一人様一つまでなのだという。

 それを知った百ちゃんと梅雨ちゃんは、顔を見合わせて笑う。

 

「さっきお茶子ちゃんが言ってたのは、お餅のことだったのね」

「すごい剣幕だったから、何ごとかと思いましたわ」

「う……だってね、安いおもちが一袋買えるのと二袋買えるのとは、えらい違うんよ~っ。一か月生き延びるのと、二か月生き延びるのくらい違うんだよ?」

 

 お茶子ちゃんが、恥ずかしそうに顔を赤らめながら言う。

 んな大袈裟な…

 

「なら、お餅買うの手伝うわ。一人一つなんでしょ?」

「クラスメイトの命が伸びるのでしたら、私もお手伝いさせていただきますわ」

「わたしも手伝うよ。暇だったし」

「……女神!!」

 

 お茶子ちゃんは、私達を崇めてきた。

 そんなにお餅食べたいか…

 

「おもち四袋~♪ おもち三昧~♪」

 

 スキップしそうな勢いで歩くお茶子ちゃんはご機嫌で、自分で自分を浮かさなくても、そのまま飛んでいってしまいそうだ。

 

「お餅好きねぇ、お茶子ちゃん」

「でも、お餅ばっかりじゃ飽きたりしません?」

「なに言ってるの、八百万さん! おもちには無限の可能性があるんだよ……! お醬油でしょ、海苔でしょ、海苔お醬油マヨネーズでしょ、バター醬油でしょ、砂糖醬油でしょ、きなこでしょ、納豆でしょ、納豆キムチでしょ、納豆キムチマヨネーズでしょ、大根おろしでしょ、お雑煮でしょ、お汁粉でしょ、チーズでしょ」

「そ、そんなに種類がありますの……私、お餅を甘く見ておりましたわ」

「甘いおもちなら、意外とチョコもいけるんだよ。これが」

「結構おいしいよね」

 

 私がぽろっと漏らすと、他の三人が私を見てくる。

 あっ、やべっ…

 前世でお金がなくてお餅ばっかり食べてた頃の癖でつい…

 

「神剱さん、食べたことありますの…!?」

「あ、いや…」

 

 百ちゃんの言葉に、慌てて言い訳をしようとする。

 だけどその時、お茶子ちゃんが私の両手を掴んだ。

 

「同志……!!」

 

 お茶子ちゃんは、私の手に肉球が触れないように器用に私の手を掴みながら、鼻息を荒くして目を輝かせる。

 お茶子ちゃんと私を見て、梅雨ちゃんと百ちゃんは不思議そうな顔をしていた。

 

「お餅にチョコ? 合うのかしら?」

「想像できませんわ……」

「百ちゃんにも想像できないものがあるのね」

「想像したくないと言ったほうが正しいかもしれませんわね」

「ははは…」

「あっ、おもちのお礼にチョコおもちご馳走するよ!」

「う~ん、できるなら他の種類だとありがたいですわ……」

「私はちょっと食べてみたいかも」

「任せて!」

 

 そんな事を話しつつ、スーパーに着いた。

 全国展開しているチェーン店で、食料品だけでなく、日用品や衣類なども取り扱っている大きな店だ。

 

「さっ、行こー! ……ん?」

「ここがスーパー……」

 

 自動ドアをくぐると、百ちゃんがあたりをキョロキョロと見回す。

 

「百ちゃん?」

「あ、すみません。あまりスーパーに来たことがなくて、つい……」

「おお~、お嬢様だ!」

「あ、あの、このカートは使いませんの……?」

 

 カゴの隣に置いてあるカートをちらりと見る百ちゃん。

 

「あ、使う?」

 

 お茶子ちゃんがカゴをカートに入れる。

 珍しそうにそれを見ている百ちゃんに、お茶子ちゃんがそのカートを差し出す。

 

「八百万さん、押す?」

「えっ、いいんですの? 実は、前からちょっと気になっていて……」

 

 そっとカートを押す百ちゃん。

 

「まぁ、スムーズ! これは腕が疲れなくて便利ですわね」

 

 興奮したような百ちゃんの様子に、梅雨ちゃんがどこか微笑ましそうに言う。

 

「百ちゃん、子供みたいね」

「うん…」

「なんかかわい!」

 

 私とお茶子ちゃんも、同意して頷く。

 百ちゃんは、衣類エリアを見て口を開いた。

 

「まぁ、衣類も売っているんですの? スーパーって」

「百ちゃんってホントにスーパー来たことないんだね」

「ぐるっと見てみようか。あ、でもまずは……」

「お餅の確保ね」

 

 通いなれたお茶子ちゃんが先導して「こっち」と歩きだす。

 その途中、陳列されている野菜などを百ちゃんがカートを押しながら珍しそうに見回して言った。

 

「麗日さん、人参とじゃがいもの詰め放題ですって! 何に詰めますの? バッグ?」

「ビニール袋だよ。バッグに詰めたら万引きやん!」

「確かに……」

 

 笑ってツッコミを入れるお茶子ちゃん。

 百ちゃんが少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめてから思い出したように言う。

 

「そうそう、たまにテレビでやってますわね、万引き」

「夕方のニュースとかね。物を瞬時に移動させる“個性”とか使ったものだと、発覚しにくいから小さなお店だと大変らしいわ」

「ほんとひどいよね」

「許せないなっ、小さなとこはいっぱいいっぱいでやってるのに」

 

 実家と重ねているのか鼻息荒いお茶子ちゃんに、百ちゃんも深く頷く。

 

「窃盗ですからね。凶悪な犯罪ばかり注目を集めがちですけど、犯罪は犯罪ですわ。きちんと取り締まらなければ。自分だけが得をしようとする人が多すぎます」

 

 その言葉に、お茶子ちゃんはハッとする。

 

「──今更だけど、お一人様ひとつなのに、友達に頼んで買ってもらうのっていいんかな……!?」

 

 真剣に悩むお茶子ちゃんに、私達は顔を見合わせてから考えこむ。

 

「……難問ですわ……何しろ、私、こういう事態が初めてなので……」

「実家にいた時は家族で並んで買ったことはあったけど、友達やろ? こういうのって買収とかそういう汚い大人のやり方なんかな~?」

「確かに、誰かが多く買った分、他の誰かが買えなかった……なんてこともあるかもしれないわね」

 

 え、そんなに悪い事かな。

 お金払って買ってるんだから、別に悪くなくない?

 

「あかん……ヒーロー志望なのに、他人のおもちと自分の生活費が両天秤で揺れとる……!」

「麗日さん……」

「あ、あれお餅パックじゃないかしら」

 

 蛙吹が少し離れた場所にそれらしきものをみつける。

 近づいてみると、お餅パック大袋は大量に積んであった。

 

「お茶子ちゃん、このくらいたくさんあれば大丈夫じゃない?」

「そうですわ、この中の四袋くらい大海の一滴です」

「うんうん、そんなに気にすることじゃないよ!」

「そ、そうだよねっ」

 

 そう言って一旦は一袋をカゴに入れ、二袋目に手を伸ばそうとしたお茶子ちゃんだったけど、その手を止める。

 

「う~、でももしかしたらすぐ大家族がどっと買いにくるかもしらんし……おもちパーティ計画してるかもしらんしぃ~……っ、あ、でも私もおもちパーティしたいなぁ~っ……うう、どないしよ〜っ」

「それじゃ、こうしたらどうかしら。もう少し待ってみて、全然減ってなかったら私達も買う。ちょっと減ってたら私、百ちゃん、芽華ちゃんの誰かが買う。いっぱい減ってたらお茶子ちゃんだけが買う」

「それがいいですわ。売れ残りはお店も避けたいでしょうし」

「でも、いいの? 三人も、時間は……」

「私は大丈夫よ」

「わたしも大丈夫」

「私もかまいませんわ。それに、スーパーを見て回るのは、とても興味深いですし」

「ありがとう! 三人とも~っ」

 

 かくして、私達はスーパーの中を回って時間を潰す事にした。

 お菓子コーナーで昔好きだったお菓子談義に花を咲かせたりしながら、衣類エリアへと移動する。

 

「あ、そういえば梅雨ちゃん、芽華ちゃん。便箋ってもしかして明日の手紙? 授業参観の」

 

 「パジャマまで置いてあるのですね」なんてはしゃぐ百ちゃんを微笑ましく見ながら、思い出したようにお茶子ちゃんが言う。

 

「そう。あと少しってところで便箋がなくなっちゃって。同じ便箋じゃないと気持ち悪いでしょう?」

「わたしはまだ書き終わってないよ〜。何書いてもなんかしっくり来なくて。お茶子ちゃんはもう手紙書き終った?」

「うん! バッチリ! 八百万さんは?」

「え? えぇ、もちろんですわ。ただ、やはり個人的な手紙を人前で朗読するというのは少々恥ずかしいですけど」

「だよね~。父ちゃんとか大げさにリアクションしそうで、そっちも心配」

 

 苦笑するお茶子ちゃんに、梅雨ちゃんが言う。

 

「そういえば、お茶子ちゃんの家はお父さんが来るのね」

「うん。本当は母ちゃんも来たかったらしいんだけど、話し合いとじゃんけんの末、父ちゃんに決まったみたい」

「仲のいいご家族ですわね」

「そういう八百万さんの家は?」

「母ですわ。そういう行事などは全部」

「八百万さんのお母さんか~、なんか上品そう!」

「うんうん」

 

 お茶子ちゃんの言葉に、私も頷く。

 

「よく子供の頃、友達からそんなことを言われてましたけど、私にとっては普通の母ですわ。でも、しっかりと家庭を守りながらも、自分のことにも気を抜かずにいるのは女性として尊敬しています。でも……少し……おっちょこちょいなところがあるのがたまにキズなんですけど……」

「たとえば?」

「コーヒーと麵つゆを間違えたり、歯磨き粉で顔を洗ったり、砂糖と塩を間違ったり……」

「ベタベタや!!」

 

 百ちゃんが恥ずかしそうに言うと、お茶子ちゃんが吹き出した。

 梅雨ちゃんは、百ちゃんの母親の失敗談に苦笑しつつも、百ちゃんをフォローした。

 

「完璧なお母さんより、そういうところがあったほうが親しみが湧くわ」

「そうでしょうか……そういう梅雨さんは明日、どなたがいらっしゃいますの?」

「ウチはお父さんよ」

「梅雨ちゃんのお父さんか! どんな人?」

「カエル顔だからすぐわかると思うわ。芽華ちゃんは? お母さんが来るって言ってたけど」

「うん、母さんが来ることになった」

「芽華ちゃんのお母さんか〜、もしかしてものすごく美人!?」

「うん、そうかもね。昔友達によく言われた。あとね、すっごい巨乳。来たらすぐわかると思う」

「お、おぉう…」

 

 私が胸の前で手を動かしてお椀のような形を作ると、お茶子ちゃんが目を丸くする。

 すると、その時だった。

 

「ケロ?」

 

 ふと、梅雨ちゃんが何かに気づいたように、お茶子ちゃんと百ちゃんの後ろの方をじっとみつめる。

 

「どしたの?」

「……どうかしたのかしら、あの人」

 

 その言葉に、二人が振り返る。

 するとそこには、俯きながらもまるで警戒しているようにあたりを忙しなくキョロキョロと見回している細身の男がいた。

 歳は20歳前後のように見える。

 よく見ると、大汗をかいているのがわかった。

 

「あの人めっちゃ汗かいてない?」

「……具合でも悪いのかな?」

「それはいけませんわね、倒れる前に……」

 

 百ちゃんが声をかけようと一歩踏み出そうとしたその時、お茶子ちゃんがハッとした。

 

「──ちょっと待って。あそこ、下着売り場じゃない……?」

 

 男がうろついているのは女性下着コーナー。

 女性物のピンクや白や黒やベージュや紫や赤などなどの華やかな色のお花畑だ。

 明らかに挙動不審な様子に、私達は思わずパジャマの陰に隠れる。

 そして、そっと様子を窺った。

 

「……もしかして下着泥棒……」

 

 緊張しながらそう呟いたお茶子ちゃんに、百ちゃんも緊張しながら続ける。

 

「その可能性はありますが、決めつけるのは早いですわ。もしかしたら彼女や奥様へのプレゼントを選んでいるのかもしれませんし……」

「自分用の可能性もあるわよ、百ちゃん」

「た、確かにいろんな趣味の方がいらっしゃいますしね……」

 

 いつもの様子で動じない梅雨ちゃんの呟きに、百ちゃんが動揺しながらも努めて冷静に呟き返す横で、お茶子ちゃんが呟く。

 

「無限の可能性やな……」

「……なんだか私達、万引きGメンみたい」

「本物の万引きGメンは……いなさそうですわね」

 

 男の周囲には、見る限り誰もいない。

 そんな中、パジャマに隠れて男を観察している自分にお茶子ちゃんは少し緊張しながらも苦笑した。

 

「……私ら、考えすぎかな? あの人、ただ見てるだけかもしらんし」

「ただ見てるだけなのも、ちょっとどうかと思いますけど……でも確かに、何も盗っていないのに犯人扱いするのは──」

 

 と、百ちゃんが言いかけたその時、男が純白のショーツをサッとポケットに入れた。

 

「「「「!!!」」」」  

 

 決定的現場を目撃した私達の前で、男はそそくさと歩き出す。

 

「どっ、泥棒ですわ……っ」

「で、でもこのままレジに行くかも……!?」

「いや、でもあの人ポケットに入れてたよ?」

「店の外に出たら確定ね」

 

 衝撃的なシーンに動揺してか、小声で叫ぶ百ちゃんとお茶子ちゃんに反して、梅雨ちゃんは足音も立てず男の後を追う。

 慌てて私達もついていく。

 男は足早に出入り口へと向かい、自動ドアを通り過ぎ、店の外へ出た。

 

「はい、確定」

「そこの人、ちょっと待ったぁ!」

 

 私達が駆け寄ると、振り返った男は「わっ」と顔を青ざめさせたかと思うと、転がるように駆け出した。

 

「あっ、逃げましたわ!」

「待てぇえい!!」

「逃がさないんだから!!」

「ケロ」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」

 

 男は謝りながらも止まらない。

 こうなったら…!!

 

「謝るくらいなら、最初からやるな!!」

「いけませんわ神剱さん、公共の場での“個性”の使用は……!!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、百ちゃん!」

 

 私が剣を創造しようとしたその瞬間、男が思わぬ行動をとった。

 

「なん……!?」

 

 花壇に植えられていた花を引きちぎったかと思うと、それをむしゃむしゃと食べたのだ。

 思わず呆気にとられていたお茶子ちゃん達がハッとする。

 私が『翼剣(ウィングソード)』を創造したけど既に遅く、男の鼻から黄色い空気のようなものが勢いよく流れ出てきた。

 それはあっという間に私達を包んだ。

 

「黄色の粒子……?」

「何にしろ、吸いこまない方が……ケロッ…」

「っ……!? ゴホッ、ゴホッ……」

「…!? 皆!?」

 

 男は、私達が足を止めている隙に逃げるように駆けだした。

 

「あっ、待て……!」  

 

 慌てて追いかける私達。

 だけど、ほどなく体に変化が現れた。  

 

「な、なんだか私、急に具合が……っ、クシュン!!」

「目と鼻の中がかゆい~いぃ~!! へっくしょん!」

「これってもしかして……ケロッピ、ケロッピ!」  

 

 私以外の三人は、真っ赤になった目に、鼻水をすすりながら、かゆみを我慢し顔をしかめたりしていた。

 

「今の梅雨ちゃんのくしゃみ? がわいーねぇ」

「クシュン! 麗日さんっ、そんな場合じゃないですわ……この症状って」

「ケロッピ! まるで花粉症みたい……」

「あっ、もしかしてさっきの万引き男が出した黄色いのって……」

「花粉だったのがもじれないですわね……そういう“個性”で」

「皆、花粉症だったらわたし治せるかも! 『癒剣(ヒールソード)』!」

 

 私は、『癒剣(ヒールソード)』を創造して、皆の花粉症を治した。

 『癒剣(ヒールソード)』を三人に使うと、三人の花粉症がすっかり治った。

 

「助かりましたわ、神剱さん」

「ありがとう、芽華ちゃん。それにしても、どうしても芽華ちゃんだけ無事だったのかしら?」

「あ、剣を創造してたからかも。わたしの剣、防御力を高める力があるから」

「それにしても許すまじ! あの花粉症万引き男めっ! もう絶対捕まえてやるっ」

 

 お茶子ちゃんは、男に対して憤慨する。

 だけど男はとっくにいなくなっている。

 

「あ、わたし『翼剣(ウィングソード)』で探せるよ! こっちの方に逃げてる!」

「とりあえず追いかけましょう!」

 

 羽根の感触を頼りに男を探すと、ちょっとした通りに出た。

 

「待て〜、花粉男!!」

 

 その途中で、ロングヘアの綺麗なお姉さんとすれ違う。

 お姉さんは、男を追いかける私達を怪訝そうな顔で見ていた。

 

 それから私達は、通りから少し離れた住宅街にある公園にやってきた。

 休日の午後だけど、ちょうど隙間の時間なのか誰もいない。

 小さいながらもちゃんとトイレが設置されていた。

 

「いたよ!」

 

 私は、ちょうど男子トイレに駆け込もうとしていた男を見つけた。

 その直後、男が慌てて逃げ出した。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい~!!」

「ごめんですんだら警察もヒーローもいらない!」

「下着を盗ったのを目撃しましたわ、観念なさい!」

「あ、そっちは……」

 

 男の逃げる方向を見て、梅雨ちゃんがハッとする。

 追い詰められた男の前には花壇があり、綺麗な花が咲いていた。

 男は震える手で花を引きちぎり、振り返った。

 

「お、お願いですっ、見逃してください……!」

「それ以上近づけば、また花粉をまき散らすと脅してますの……! 卑怯者!」

「ぼ、僕には、どうしても行かなきゃいけないところが……一生に一度のチャンスなんだ……!! だからっ」

 

 そう言って男は、花を食べて鼻から花粉を出す。

 

「わたしには効かないよ!! 『嵐龍剣(ストームドラゴンソード)』!!」

 

 私は、男の周りに竜巻を起こして花粉を吹き飛ばした。

 ついでに、男も一緒に風で巻き上げられて吹き飛ばされる。

 

「うわああああああ!!」

「『鳳翼鎖(フェニックスウィングチェーン)』!!」

 

 私は、羽根を鎖状に繋げて飛ばし、羽根の鎖で男を縛り上げた。

 

「芽華ちゃん、ナイス!」

「さ、お店に行きましょう」

「ま、待ってくれ!」

 

 促す百ちゃんに、焦る男。

 梅雨ちゃんとともに脇を固めるお茶子ちゃんがビシッと言う。

 

「往生際が悪いっ」

 

 だけど、男は必死な様子で訴えた。

 

「せめて、電話をかけさせてくれ……大事な人を待たせてるんだっ」

「待たせることになった原因はあなたでしょう! そもそもあなたが下着を盗んだりするから」

「ごもっとも……」

 

 まったく反論の余地もない百ちゃんの指摘に、男はしゅんとうなだれる。

 その様子はまるで雨の日に捨てられた仔犬のようだ。

 あまりに落ちこんだ様子に、お茶子ちゃんは情に厚い老刑事のように話しかけた。

 

「お兄さん、お兄さんにも家族がいるんだろう? いくら女性用の下着が欲しくても盗んだらあかん……お母ちゃんが泣いとるよ……」

「ごめんなさい……パンツはお店に返し……え? 女性下着……?」

 

 お茶子ちゃんの言葉に目を潤ませていた男がきょとんとする。

 

「レジに持って行くのが恥ずかしかったの?」

 

 きょとんとする男にきょとんとしながら梅雨ちゃんが聞く。

 

「ちょっ、ちょっと待って! 女性下着っていったい何のことを言ってるんだ?」

 

 慌てる男に百ちゃんがそっと首を振る。

 

「とぼけなくてもよろしいですわ。世の中、いろんな趣味の方がいらっしゃいますしね」

「たまにはカワイイ下着、つけたかったんでしょ?」

 

 うんうんと頷くお茶子ちゃんに、男は大きく首を振って言う。

 

「ち……違うよ! 僕が盗ったのは白のブリーフじゃないの!?」

「違うわ、ほら」

 

 梅雨ちゃんが、男のポケットから女性用の白いショーツを取り出し、男に見せる。

 その途端、男の顔がサーッと青ざめた。

 

「ぼ、僕が欲しかったのは何でもいいから普通の男のパンツだったんだ! 焦って、白いブリーフだと思って……いや、僕は普段はボクサータイプだけど!」

「なぁんだ、間違えちゃったのか」

「めくるめく趣味の人じゃなかったのね」

 

 そう言う私と梅雨ちゃんの言葉に、「なぁんだ~」となぜかちょっとだけ残念な様子のお茶子ちゃん。

 

「……だとしても、盗んだことに変わりはありませんわ」

「どうして下着が欲しかったの?」

 

 私達が問い詰めると、もごもごと言いにくそうに口を開いた。

 

「……穿いていた下着を汚してしまって……」

「は?」

 

 男は目を潤ませながら言う。

 

「大学に入学して一目惚れした彼女……みゆきさんを、やっとデートに誘えたんだ。四年間、ずっと片思いしてきたみゆきさんとデートできるんだと思うと、もう三日前から眠れなかった……今日は緊張で朝からお腹が痛くて……待ち合わせ前にトイレに行こうとしたらなかなかみつからなくて……それで……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、漏らしてしまったんだ……」

「あー……」

 

 男の告白にどうリアクションしたものかわからず、曖昧に頷いた。

 

「そんな汚れた下着のまま彼女に会うわけにはいかないだろう!? 下着を捨て、新しい下着を買おうと思ったら……サイフ、家に忘れたのに気づいて……」

「あちゃー」

 

 思わずおでこに手を当てるお茶子ちゃん。

 

「時間は迫ってくるし、早くなんとかしなきゃとパニックになって、つい……」

 

 百ちゃんは同情したように小さく首を振った。

 

「……残念な不幸が重なった末の犯行でしたのね……しかし、だからといって犯罪を犯していい理由にはなりません」

「でも別に、穿かないままでもよかったんじゃ? ズボン穿いていればわからないでしょ?」

 

 首をかしげる梅雨ちゃんに、男は叫んだ。

 

「みゆきさんの前でノーパンでいるなんて、そんな失礼なことできないよ……!」

 

 男の複雑な恋心に、どうしたものかと思ったその時、少し前に聞いたばかりの声が聞こえてきた。

 

「別にノーパンでもかまわないわ」

 

 振り返ると、さっきのロングヘアのお姉さんが公園の入り口に立っていた。

 

「み、みゆきさん……!」

 

 男が驚いて叫ぶ。

 

「えっ? みゆきさんって……!!」

「デートのお相手!?」

 

 男以上に驚くお茶子ちゃんと百ちゃん。

 その隣で梅雨ちゃんは「まぁ」と少しだけ驚いている。

 

「やっぱり、鈴木くんのことだったのね。さっき、この子達が言ってた花粉男って……」

 

 そう言いながらゆっくりと近づいてくる彼女。

 男は泣きそうに焦りながら、逃げ出そうとするが縛られているせいで無様に転んでしまった。

 

「ごめんなさい、話は聞かせてもらったわ。あなた達のことが気になって、追いかけてきたの」

 

 自分達より少し大人のカップルの修羅場の予感に、お茶子ちゃんはあわあわと、百ちゃんは緊張して、そして梅雨ちゃんと私はただ黙って見守っていた。

 

「ごっ……ごめん、みゆきさん……! 僕、僕……せっかくデートをOKしてくれたのに……僕は汚れたパンツ以下だ……ゴミ箱に捨ててくれ……」

「……ノーパンだろうが、ノーパンじゃなかろうが、漏らそうが、漏らすまいが、汚れたパンツだろうが……鈴木くんは鈴木くんよ。気が弱くて、いつもおどおどして……だから気になって放っておけないの」

「み……みゆきさん……」

 

 男を起こして、優しく微笑むみゆきさん。

 思わぬ展開に、お茶子ちゃんと百ちゃんのみならず、梅雨ちゃんの目も驚きに見開かれる。

 

「でも、犯罪はダメ。一緒に謝りにいきましょう」

「え……いいの?」

「言ったでしょ、放っておけないって」

「みゆきさん……!」

 

 急転直下。

 なんだかよくわからないが、とにかく愛が成就したらしい。

 そうして二人は私達にお礼を言って、スーパーへと去っていった。

 二人の姿が見えなくなってから、お茶子ちゃんと百ちゃんはどっと深いため息を吐く。

 

「なんか……疲れた……!」

「ええ、精神的にも……」

「でもまぁ、万引き犯も捕まえられたし、男の人の恋もうまくいきそうだし、よかったんじゃない?」

 

 ケロッとして言う梅雨ちゃんに、お茶子ちゃんが言う。

 

「結果オーライ? まぁ情けなそうな男の人としっかりした女の人で、お似合いだったかもしれないね」

「でも、私、わかりませんわ」

「何が?」

「あの女の人の気持ちですわ。男の方にはもう少し毅然としていてほしくありません? その……漏らしたあげく窃盗するような男の人に幻滅しないどころか、放っておけないなんて……」

「うーん、ごめん、わたしも百ちゃん派かも」

 

 さっぱりわからないというふうに首を振る百ちゃん。

 私もさっぱりわからない。

 漏らした上に万引きする男とか、私だったら幻滅するわ。

 

「放っておけないっていうのはわかるな。心配的な意味で」

 

 そう言いながら、お茶子ちゃんは頬を緩ませる。

 

「お茶子ちゃん? どうしたの、思い出し笑い?」

 

 自然に弛んでいた頰を押さえて、お茶子ちゃんは「なんでもない」と首を振る。

 

「でも、そういう手のかかる男の人がタイプの女の人ってけっこういるんじゃないかしら? ダメな男の人が好きな人」

「いろんなタイプがいるんだなぁ」

「私、汚れたパンツを愛せるかしら……?」

 

 そう言って不安そうに頰に手をあてる百ちゃん。

 

「汚れたパンツは捨てた方がいいわ」

「うん、わたしだったら捨てる」

 

 梅雨ちゃんと私が冷静に言うと、あっけらかんとお茶子ちゃんが続けた。

 

「キレイに洗ったらいいんじゃない?」

「パンツ自体の話ではなくてですね……」

 

 百ちゃんが困ったように顔をしかめたその時、お茶子ちゃんのおなかがキュルルと鳴る。

 

「はー、疲れたらおなかすいてきた……あー!! おもち!!」

 

 思い出して叫ぶお茶子。カゴは衣類エリアのパジャマの売り場に置きっぱなしだ。

 

「すっかり忘れてましたわね。お餅、まだ残っているといいんですけど……」

「行ってみましょ」

「うん!」

 

 私達は、スーパーに向かって駆け出した。

 お餅コーナーに行くと、まだお餅が残っていた。

 お茶子ちゃんは、お餅の袋を抱きしめて幸せそうな表情を浮かべている。

 

「おもち〜!」

「好きね、お茶子ちゃん」

「……あら?」

 

 私達がお餅を持ってレジに行こうとしたその時、ちょうど他の客がお餅の袋を手に取った。

 色褪せてボロキレのようなコートを着て、フードを深く被った、4、50代くらいの男だ。

 髪はボサボサに伸び切っていて、顎から頬にかけて汚らしく無精髭が生えている。

 ひどく猫背でわかりにくいけど、背はかなり高い。

 いかにもって感じの人だ。

 メモ用紙を見て掠れた声でブツブツと何かを呟いているかと思うと、今度はお菓子コーナーへ行き、お菓子の袋を指で摘み上げて裏面を見ながら何かをブツブツ呟く。

 靴を履いていないせいで、ひたひたと足音が聞こえる。

 どう見ても不審者だ。

 不潔な男を見て気分を害され、私が顔をしかめたその時、男がポケットから財布を落とした。

 

「あの、これ落としましたよ!」

 

 財布を落としたのにいち早く気づいた百ちゃんが、不審者に声をかける。

 すると不審者は、足を止めて私達の方を振り向き、じとっとした目で私達を見てくる。

 うっわぁ、絶対盗んだとか勘違いされて変に因縁つけられる奴じゃん。

 私がすぐにでも距離を取る準備をしていると…

 

「えっ? あっ、どうも! ありがとうございます」

 

 不審者は、パッと笑顔を浮かべてお礼を言いながら駆け寄ってくる。

 不自然に口角が上がった口からは、八重歯が覗いている。

 あれ…?

 この顔、どっかで見たような…

 

「いやぁ〜、こんなところで雄英生に会えるなんて、嬉しい偶然だ。どうも、娘がお世話になってます。それじゃ」

 

 不審者は、早口でそう言って百ちゃんから財布を受け取ると、さっきまでの重たい足取りが嘘のように軽やかに去っていく。

 何だったの、あの不審者…気持ち悪……

 

「うちらすっかり有名人やね」

「けど今、『娘』って言わなかった?」

「わざわざ『お世話になってます』って言ったってことは、私達のクラスメイトってことよね? 誰の親御さんかしら」

「あの…私、あの人が落としたお財布を見たのですが…その…『志村』って書いてありました」

 

 百ちゃんが、思わぬ発言をした。

 

「志村って…」

「まさか…!?」

 

 梅雨ちゃんと私が顔を見合わせた、その直後。

 

「ええーーーーーっ!!?」

 

 お茶子ちゃんの絶叫が、スーパーに響き渡った。

 私達が出くわした不審者が誰だったのか、次の日、私達はその答えを知る事になるのだった。

 

 

 

 ☆破滅まで、残り76日───

 

 

 

 

 

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