500日後に破滅する転生者   作:M.T.

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第24話 残り75日

「てなことがあったんだ〜」

「へぇ…」

 

 6月の第二月曜日、授業参観当日。

 私は、轟くんの近くの席で話している百ちゃんと響香ちゃんと一緒に話していた。

 私と百ちゃんは、昨日の花粉男の話を響香ちゃんにした。

 するとその時、緑谷くんが教室に入ってきた。

 

「今日はカレーもちに……あ、おはよ! デクくん」

「緑谷ちゃん、おはよう」

「おっす出久おはよ」

「おはよう、麗日さん、梅雨ちゃん、志村さん」

 

 お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、志村が話しかけると、緑谷くんが少しぎこちなく返事をする。

 

「今日は参観日だね~。デクくんのとこは誰が来るの?」

「お母さんだよ。なんか緊張してた」

「ウチの父ちゃんも!」

「緊張ってうつるよね」

 

 四人でそんな会話をしていると、飯田くんが緑谷くんに気付いて話しかけた。

 

「おはよう! 緑谷くん! 今日は授業参観日和だな!」

「おはよう……あっ、昨日は遊園地どうだった? 行けなくて本当にごめん!」

 

 遊園地……?

 え、何?

 遊園地に行く約束してたの?

 

「気にすることはない。いろいろハプニングもあったが、満喫させてもらった。なぁ常闇くん!」

「あぁ……」

「アタシらもしっかり楽しんできたぜ。な、轟くん」

「ああ」

 

 は!?

 ちょっと待って、どういう事!?

 志村が轟くんと一緒に遊園地行ったの!?

 何それ、意味わかんないんだけど!?

 私誘われてないし!!

 私に黙って遊園地行くとかマジあり得ないんだけど!!

 

「おはよう、轟くんは手紙書いてきた?」

「あぁ、お母さんに」

「お母さんが来るんだ?」

「あぁ」

「そっか」

 

 緑谷くんと轟くんが、ぎこちない会話をする。

 すると、その時だった。

 

「聞いてくれよ、緑谷! 常闇、ロリコンだったんだよ……!」

「ええっ?」

「なっ……虚言を吐くな……!」

 

 峰田くんが重大な告発をするように言うと、常闇くんが動揺する。

 驚く緑谷くんに、上鳴くんが苦笑する。

 

「違う、違う、常闇が幼稚園児にコクられたの」

「え、なんで?」

「まぁそれは話せば長くなるのだが、出会いはどこに転がっているかわからない。だが、とりあえず言えるのは、常闇君はロリコンではないということだ」

 きちんと訂正する飯田くんに、峰田くんは食い下がる。

 

「いいや、二十年後ならわかんねーだろ! いや、むしろ今から理想の女に育てあげる光源氏計画を発動するつもりなんじゃ……!」

 

 常闇くんが軽蔑の眼差しで口を開く。

 

「それをやりたいのは峰田、お前だろう」

「あぁやれるもんならやりたいね!! 犯罪にならないギリギリな感じで!」

「否定しないんだ、ウケる」

「峰田はギリギリアウトだろ」

 

 朝から欲望むき出しな峰田くんに、志村は他人事のように笑い、響香ちゃんが耳のコードを揺らしながら振り返って言う。

 

「うるせえっ、チッパイは黙ってろ」

「ハァ!?」

 

 峰田くんに鼻で笑われ、鬼の形相になる響香ちゃんに飯田くんが首をかしげる。

 

「チッパイ? とは何なんだ?」

「ちいせえおっぱいのこと」

「上鳴っ、んな説明してんなよっ、飯田も聞くなってば!」

「それは失礼した。だが胸は胸だ。大きくても小さくても気にすることはないぞ」

 

 飯田くんの言葉に、百ちゃんも同意して深く頷く。

 

「そうですわ、耳郎さん」

「ヤオモモに言われても」

「それより、チョコお餅……これが意外とイケましたの!」

「うん、おいしかった」

「マジで~?」

 

 百ちゃんと私が言うと、響香ちゃんが半信半疑といった表情を浮かべる。

 っていうか私、ロリコンとかおっぱいとかより、志村が轟くんと遊園地に行ったってのが気になるんだけど。

 絶対後で問い詰めてやると決めた、その時だった。

 

「相澤先生、来ないね?」

 

 サッと席に着いていた全員が注目するけど、チャイムが鳴り終わってもドアは開かない。

 透ちゃんの言葉に、梅雨ちゃんが「ケロ」と首をかしげた。

 

「遅刻かしら?」 

「見本であるはずの教師が遅刻とは……! これは雄英高校を揺るがす、由々しき事態だぞ、皆!!」

 

 一大事だと飯田くんが立ち上がり腕を機関車のように回しながら叫ぶのを、瀬呂くんがなだめるように言う。

 

「まー相澤先生だって、相澤先生である前に人間だし。たまにはそういうこともあるんじゃね?」

「しかし、瀬呂くん! 我々が目指すヒーローとは一刻を争うものだろう!? 救けを求める人にとっては命をかけた時間……一秒といえど遅刻は大罪だ!」

 

 飯田くんがやかましく相澤先生を心配する中、緑谷くんが意味ありげに呟く。

 

「──何かあったのかな……?」

 

 緑谷くんの呟きに、前の席の爆豪くんが舌打ちして前を向いたまま口を開く。

 

「ボソボソ言ってんじゃねえよ、クソが」

「ごめん、かっちゃん。でもさ」

 

 結局、ショートホームルーム終了のチャイムが鳴り終わっても、ドアが開く事はなかった。

 流石におかしいと教室がざわつき始める。

 そんな中、百ちゃんが訝しげに口を開いた。

 

「──そういえば、そろそろ保護者が来てもいい時間じゃありません?」

「そだな。でもまぁ始まるまで時間はもう少しあるし……」

 

 切島くんが、考えながらも楽観的に答えた。

 

「でも、まだ一人も姿を見せないのは……」

 

 眉を寄せて続けた百ちゃんに響香ちゃんが言う。

 

「どこかで迷ってるとか?」

「雄英、広いからねー」

「あはは、そうかもね」

 

 三奈ちゃんと志村が、あっけらかんと笑って言った。

 

「よし、僕が委員長として職員室に行ってくる。皆はそのまま待機していてくれ」

 

 飯田くんがそう言って教室を出ようとしたその時、全員の携帯が一斉に鳴った。

 

「なんだ?」

 

 みんな、慌てて携帯を確認する。

 私も携帯を確認した。

 

「相澤先生からだ……!」

 

 相澤からのメッセージは『今すぐ模擬市街地に来い』というものだった。

 

「市街地?なんで……」

「……あっ、俺わかった! 相澤先生、あっちでまとめて授業……つーか手紙の朗読と施設案内するつもりなんじゃね!? 合理的に!」

 

 頭の上に電球でも浮いたようにひらめいた上鳴くん。

 合理的な相澤先生ならありそうな事だと皆が頷き、渋々移動を開始する。

 

「そういうことならばしかたがない……皆、手紙を忘れずに!」

「あーい」

 

 飯田くんが言うと、志村が返事をする。

 飯田くんが率先して引率し、乗り場で待機していたバスに乗りこむ。

 広大な敷地内を、バスに揺られながら進んでいく。

 

「最初からあっち集合にしとけっての。めんどくせえわ ~」

「ハハ……」

 

 横並びのシートに座った緑谷くんは、左隣の峰田くんの率直な愚痴に苦笑した。

 

「どうした、緑谷くん」

 

 右隣の飯田くんに話しかけられ、緑谷くんは迷いながら口を開く。

 

「うん……なんか、そういう二度手間なこと、相澤先生がするかなぁって思ってさ」

「確かに、相澤先生らしくはないな」

 

 目をシパシパと瞬きさせながら、飯田くんも頷く。

 その横に座っている轟くんが、何を言うでもなく黙って話を聞いていた。

 

「緑谷、考えすぎ、考えすぎ! ハゲんぞ? きっとうっかりしてたんだよ、うっかり相澤だよ」

「八兵衛か!」

「ファーwww」

 

 向かいでブフーッと吹き出すお茶子ちゃんと志村の隣で、梅雨ちゃんが言う。

 

「それ、相澤先生の前でも言えるの? 峰田ちゃん」

「絶対言わねえから、絶対言うなよ!」

「ダチョウかよ」

 

 峰田くんが焦ると、志村がツッコミを入れる。

 

「もしかしたら、何か先生なりの考えがあるのではないか?」

「考え?」

「あぁ、ヒーローが呼ばれる時はいつも突然。だから、そのとっさの対応を今から訓練しているとか」

「あぁ、それはあるかもしんねえな」

 

 轟くんは、飯田くんの意見に無表情に頷く。

 するとその時、飯田くんが小さく欠伸をした。

 

「眠いの? めずらしいね」

「あぁすまない、振動に揺られているとつい……昨日、夜更かしをしてしまった。手紙が長すぎると時間をとってしまっていけないだろう?40枚からなんとか20枚まで絞ってみたんだ」 

「絞ってそれ!? いや、20枚削ったのもすごいけど!」

 

 驚く緑谷くんに、飯田くんは真剣な様子で首を振る。

 

「もう絞れない……感謝の気持ちがぎゅうぎゅうすぎて、一文字も削れないんだ……!」

「どうりでポケットが膨らんでると思ったぜ」

 

 轟くんの言葉通り、飯田くんの手紙が入っているポケットはパンパンだ。

 飯田くんが取り出した膨らんだ封筒を見て、「私のサイフもそんくらいパンパンやったらな~」とお茶子ちゃんが笑う。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私達は、模擬市街地のバス停に到着した。

 だけど、そこに相澤先生の姿はなかった。

 バスは元来た道を戻っていく。

 

「この中で待っているという事なんだろう。さぁ、みんな行こう!」

「……なんか匂う」

「うん…匂うね」

 

 飯田くんが腕を上げて皆を誘導しようとした時、障子くんが自身の大きな触手の先に鼻を複製していた。

 志村が、鼻を摘みながら峰田くんの方を見る。

 

「オ、オイラじゃねえぞ!」

「いや、ごめん、冗談だってば」

 

 峰田くんが慌てて言うと、志村が笑いながら謝る。

 

「……ガソリンのような匂いだ」

「どっかで交通事故とかの演習でもやったんじゃねえの?」

 

 上鳴くんがそう言った直後、小さな悲鳴が聞こえた。

 

「なんだっ?」

 

 その悲鳴がやまぬうちに、別の人達の叫び声も聞こえる。

 慌てて声のする方へ駆け出し、ビルが建ち並ぶ道路を駆け抜けていく。

 ガソリンの匂いが濃くなっていく。

 

「っ……なんだよ、あれ……」

 

 立ち止まった切島くんが茫然と呟く。

 突然開けた視界の先には、空き地が広がっていた。

 本来、そこにあったはずのビルは倒壊したらしく、瓦礫が脇に無残に寄せられている。

 ビルの建っていたところには大きな穴。

 半径数十メートルはあるようだ。

 そして、その穴の中央にポツンと取り残された大きなサイコロのような檻。

 一見、宙に浮いているように見えるのは、丸かじりして残されたリンゴの芯のように、削り残された塔のような地面の上に檻が置かれているからだ。

 檻の中からあがっていた悲鳴が、意味のある言葉に変わった。

 

「お茶子ー!!」

「父ちゃん!?」

「焦凍……っ」

「っ……」

「天哉……!」

「母さん……!」

「離珠奈ー!!」

「パパ…!」

「出久……!」

「──お、お母さん……?」

 

 檻に囚われていたのは、私達生徒の保護者達だった。

 それぞれ怯えたように、檻から子供の名前を呼ぶ。

 

「芽華……!!」

 

 その中には、母さんの姿もあった。

 皆が慌てて駆け寄ろうとして、他の皆が穴の淵まで行く。

 

「っ、くさ……っ、ガソリン……!?」

 

 お茶子ちゃんが、穴の中を覗いて顔をしかめる。

 穴の深さは8〜9メートルあり、その底に澱んだ液体が浮かんでいた。

 

「なんだよ、これっ?  なんで親があんなとこ……」 

「つーか相澤先生は!?」

 

 その時、ざわつく生徒達を冷たく撫でるように機械的な声が聞こえてきた。

 

『アイザワセンセイハ、イマゴロネムッテルヨ。クライツチノナカデ』

 

 機械で無機質に変えられた声だけど、明らかな敵意が籠っている。

 私達はとっさに身がまえた。

 

「暗い土の中って……」

「相澤先生、やられちゃったって事……?」

 

 私は『地剣(アースソード)』と『音剣(サウンドソード)』を創造して、相澤先生を探した。

 ……いた、相澤先生。

 やっぱり、そういう事だったか…

 

「ウソだよ! なんかの冗談だろ!? もうエイプリルフールは過ぎてんだぞ! つーか、お前誰だよ!? 姿を見せろ!」

『サワグナ。ジョウダンダトオモイタイナラ、オモエバイイ。ダガ、ヒトジチガイルコトヲワスレルナ』

「人質……」

 

 皆は、事態を把握しようと声の主を探してあたりを見回す。

 そんな皆に、触手に耳を複製させていた障子くんが言う。

 

「違う、この周りじゃない。声はあの檻の中からだ」

「うん、障子くんの言うとおりだよ」

「中……?」

『ソノトオリ。ボクハココニイル』

 

 その声を合図にしたように恐れおののいて退く保護者達の後ろから、潜んでいた黒い人影が現れた。

 

「っ!?」

 

 フードつきの黒マントに黒いフルマスクをつけた人物。

 背の高い男だ。

 周りの保護者達は、檻の隅に逃げる。

 

「──っ」

 

 異常な事態に飯田くんが隙を見て、そっと携帯から連絡をしようとしたその時、男が言う。

 

『サキニイッテオクガ、ガイブヘモ、ガッコウヘモレンラクハデキナイノデアシカラズ。アァ、モチロン、ソコノデンキクントメイカチャンノ“コセイ”デモムダダ』

 

 男が上鳴くんと私の方を向く。

 

「マジか、くそっ…」

「っ………」

 

 男の言葉に、私は思わず歯噛みする。

 

『ニゲテ、ソトニタスケヲモトメニイクノモキンシダ。ニゲタラ、ソノセイトノホゴシャヲスグニシマツスル』

 

 その時檻の中で、がっしりとした体格の人の好さそうな麗日さんの父親らしき人が格子をつかみ、ガチャガチャと揺らして叫んだ。

 

「あかん! 檻が頑丈でどうにもできひんわ ー!!」

「と、父ちゃん!!」

「た、助けて、百さーん……!」

「お母様があんなに取り乱すなんて……気を確かに……っ」

 

 見事な大根っぷりを発揮している自分の母親の声を聞いた百ちゃんは、見るからに動揺する。

 百ちゃんの母親の隣で、スーツ姿の梅雨ちゃんの父親が鳴く。

 

「ゲコッ、ゲコッ」

「危険音……ケロ……」

 

 普段冷静な梅雨ちゃんが、不安そうに鳴く。

 

「うわーん、離珠奈ー!! 助けてー!!」

「パパ……!」

 

 百ちゃんの母親にも劣らない見事な大根っぷりを発揮するスーツ姿の男の人に対して、普段飄々としている志村が僅かに目を見開く。

 

「お母さん……」

 

 母親を見て、緑谷くんが不安そうな表情を浮かべる。

 

「なんで……なんでこんなこと……!?」

 

 私達を追い詰めるように、男の声が響く。

 

『ボクハ、ユウエイニオチタ。ユウエイニハイッテ、ヒーローニナルノガ、ボクノスベテダッタノニ。ユウシュウナボクガオチルナンテ、ヨノナカ、マチガッテイル。セケンデハ、ボクハタダノオチコボレ。ナノニ、キミタチニハ、アカルイミライシカマッテイナイ。ダカラ──』

「要するに八つ当たりだろうが、クソ黒マントが!!」

 

 男の言葉を遮り、爆豪くんが叫ぶ。

 

「かっちゃん!?」

「めんどくせえ、今すぐブッ倒してやるよ……!」

 

 そう不敵な笑みを浮かべて、掌で爆発を起こす爆豪くん。

 その勢いのまま、檻へ行くつもりなのか淵の前に駆け出そうとする。

 

『オット、ヒトジチガイルノヲワスレルナ』

「キャア!」

 

 男が一番近くにいた爆豪くんの母親を引き寄せる。

 その様子に、爆豪くんが「チッ」と舌打ちして二の足を踏んだ。

 

「勝手に捕まってんじゃねえよ、クソババア!!」

 

 その爆豪くんの言葉に、男に捕まり怯えていた爆豪くんの母親の光己さんの顔が一変する。

 

「クソババアって言うなっていつも言ってるでしょうが!!」

 

 その場の空気にそぐわない怒号に、一瞬、全員がきょとんとして光己さんを見た。

 

「……すげー、さすが爆豪の母ちゃん」

「ヘンな感心してんじゃねえ、クソ髪!!」

 

 啞然として呟いた切島くんに、爆豪くんがキレる。

 

「爆豪さんっ、私達、今、人質だから……」

「あっ、そうね! そうだったわね!」

 

 檻の中では、緑谷くんの母親の引子さんが光己さんに困ったように話しかけている。

 

『……オトナシクシテイロ』

 

 そう言って、男は光己さんを突き放した。

 

「ずいぶん、胆の据わった母上だな」

「うん、相変わらずだな、おばさん……」

「光己さん、怒ると怖いもんねぇ〜…でもおかげでちょっと頭が冷えたわ」

 

 驚く飯田くんに話しかけられて、緑谷くんと志村が苦笑いを浮かべる。

 

「……それで、あなたの目的は何ですか」

 

 緑谷くんは男を見据えて、なるべく落ち着いた声を意識して言う。

 男もじっと緑谷くんを見返してくる。

 

『……モクテキハ、ヒトツ。カガヤカシイキミタチノ、アカルイミライヲコワスコト。ソノタメニ、ダイジナカゾクヲ、キミタチノメノマエデ、コワシテシマオウトオモッテネ』

「……それだけのためにかっ?」

 

 尻尾を怒りのために震わせながら、憤然と尾白くんが吐き出す横で、切島くんが怒鳴る。

 

「俺達が憎いなら、俺達に来いよ! 家族巻きこむんじゃねえ!」

 

 だが、そう言う切島くんを嘲笑うように男が言う。

 

『ボクガコワシタイノハ、キミタチノカラダジャナイ。ジブンヲキズツケラレルヨリ、ジブンノセイデ、ダイジナダレカガキズツケラレルホウガ、キミタチハイタイハズダ。ヒーローシボウノキミタチナラネ』

「……あなたもヒーロー志望だったのなら、こんなバカなこと、今すぐやめなさい!」

 

 たまらず叫んだ百ちゃんに、三奈ちゃんが憤慨して続ける。

 

「そうだよ! こんなことしてもすぐ捕まるんだからね!」

『ニゲルツモリハナイ。ボクニハ、ウシナウモノハナニモナインダ。ダカラ、キミタチノクルシムカオヲ、サイゴニミテオコウトオモッタンダ。キミタチモ、ダイジナカゾクノサイゴノカオヲ、ヨクミテオクンダナ。──サァ、ダレカラニシヨウカ……?』

 

 人質に向かって手を伸ばす男。

 怯えて隅に寄る親達。

 

「やめて!!」

「っ……」

 

 お茶子ちゃんが必死で叫ぶ中、緑谷くん、轟くん、志村が作戦を考える。

 

「お母さんたちをあそこから出すには、一緒に中にいる犯人をどうにかしなきゃならない。でも、犯人をどうにかしようとする前に、絶対に人質を盾にされる…………かと言って、犯人に気づかれずにお母さんたちを逃がすこともムリそうだ……檻の周りに死角になりそうなものもないし……それにここから檻までは数十メートルはある。檻に辿り着くまでにすぐに気づかれる……」

「緑谷、もっと声小さくしろ。気づかれる」

「あっ、ごめん、つい……っ」

「要はさ、檻に近づかずに犯人をどうにかすればいいんだよね? 例えばの話だけど、鉄砲でバーンとやっちゃうとか」

「そんなことできないよ…! そもそも僕達、銃なんか持ってな……」

「だからさ、例えばの話だって」

「そうか……!」

 

 志村の発言をヒントに、緑谷くんが作戦を思いつく。

 

「緑谷くん、何かいいアイディアは浮かんだのか」

 

 飯田くんも緑谷くんの前に立ち、小声で聞いてくる。

 

「うん…でもこの作戦をやるには、犯人の気を逸らす必要があるんだ」

「うむ。皆、犯人の気を逸らしてくれないか。気づかれないように」

「わかった、任せろ」

「緑谷、作戦は任せたぜ!」

 

 飯田くんの言葉に、切島くんと上鳴くんが応えて前に出る。

 それに数人の生徒が続く。

 他の皆が、次々と犯人に話しかける。

 その間に、緑谷くんが話しかけてきた。

 

「神剱さん、体育祭の騎馬戦の時、電気を使ってたよね?」

「え? うん」

「君はあの時、狙ってくる騎馬だけをピンポイントで攻撃していた。ってことは、この距離で犯人だけを狙って無力化することもできるんじゃないかって思ったんだけど…どうかな?」

「できるよ。犯人に気づかれずに無力化すればいいんだよね? 使えそうな剣創るからちょっと待ってて」

 

 緑谷くんに言われて、私は使えそうな剣を創った。

 

「神剱さんが犯人を無力化したら、麗日さんと志村さんで、檻にいるお母さん達を救出してほしいんだ」

「OK」

「任せて!」

「八百万さんは、救助に使える道具を創造してください」

「……それが最善ですわね。分かりました」

 

 緑谷くんが指示を出すと、志村とお茶子ちゃんがスタンバイし、百ちゃんが救助用のシートを創造する。

 その間に私は、犯人を無力化するのに使える剣を創造した。

 

「できた!」

 

 私が創造したのは、『眠剣(スリープソード)』。

 煙模様が刻まれた鞭のような形状のウルミで、相手を眠らせる効果がある。

 ミッドナイト先生の“個性”に私なりの解釈をちょっと加えた剣で、ちょっとうとうとさせる程度なのか、それとも永眠させるかは自由自在だ。

 ウルミにエネルギーを込めると、刃の部分がネオンパープルに光り、髪の色もネオンパープルに変わる。

 

『イチバンウルサイセイトノ、オヤヲシマツスレバ、オトナシクナルカナ……』

 

 男が、親を見定めようと足を止めた。

 私がウルミを振るって男を眠らせようとした、その時だった。

 

『ドウヤラ、オリニチカヅカズニボクヲタオソウトシテイルセイトガイルナ』

 

 男が、私が自分を眠らせようとしている事に気付いた。

 

『ヒトリヒトリ、ジックリクルシメタカッタガ、ヤメタ。ミンナ、ナカヨク、ジゴクニイコウ』

「やめ……!」

 

 緑谷くんの叫びを待つことなく、男はライターを穴に放り込もうとした。

 だけどライターは、穴の底に落ちる事はなかった。

 

「セーフ」

 

 瀬呂くんが、テープを伸ばしてライターをキャッチしていた。

 

「おい! デカ女、丸顔! どっちでもいい、俺を浮かせろ!」

「う、うん……!」

 

 爆豪くんが叫ぶと、麗日さんが爆豪くんにタッチする。

 そのとたん、掌で爆発を連発させながら犯人へと向かった。

 それと同時に、轟くんが氷結で橋を作った。

 氷が男の足を凍らせ、爆豪くんが動けない男に馬乗りになる。

 

「この黒ずくめ野郎が!!」

「僕達も行こう!」

 

 飯田くんに促され、緑谷くんが立ち上がる。

 すると志村が飯田くんと緑谷くんの腕にヨーヨーの紐を巻きつけて自分ごと浮かせ、三人一緒に飛び上がる。

 男を氷結させながら、轟くんと常闇くんもそれに続いた。

 檻に辿り着いた緑谷くんに、引子さんが駆け寄る。

 

「出久!」

「お母さんっ、大丈夫!?」

 

 慌てて頷く引子さんに頷き返して、すぐに爆豪くんの元へ駆け寄る。

 

「かっちゃん!」

「わかってる! おい剣女!! さっさとこいつ眠らせろ!!」

「うん!」

 

 爆豪くんに促され、私はウルミを振るって男を眠らせる。

 男が眠っている間に、百ちゃんが創った救助用シートをお茶子ちゃんが浮かせ、飯田くん、常闇くん、轟くん、緑谷くん、志村がシートに保護者を乗せて檻から運び出した。

 しばらくして、爆豪くんが男の首根っこを掴んだまま爆破で飛んで戻ってくる。

 こうして保護者を全員救助し終わり、皆は無事な保護者の姿を見て安堵していた。

 

「出久っ……!」

「お母さん、無事でよかった…」

 

 保護者が助かって、皆が一安心した、その時だった。

 爆豪くんが抱えていた男の指が、ぴくりと動く。

 

「あっ、おい目ぇ覚ましたぞ!」

「気をつけろ!!」

 

 男が目を覚ますと、皆が警戒心を高める。

 だけど男には全く敵意はなく、両手を挙げて降参の仕草をした。

 

『イタタ…シテヤラレチャッタナ。オメデトウ、コレデ、ジュギョウハオシマイダ』

「は?なに言って……」 

「捕まえとけ、とりあえず学校に知らせねえと……!」

「それに相澤先生を──」

 

 そう言って全員が振り向いた、その時だった。

 

「はい、先生はここです」

 

 倒壊したビルの陰から出てきたのは、普段通りの相澤先生だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 皆が無言で見ている中、何事も無かったかのようにやってきた相澤先生は、保護者達に向かって言う。

 

「皆さん、お疲れ様でした。なかなか、真に迫っていましたよ」

「いや~、お恥ずかしい!先生の演技指導の賜物ですわ!」

 

 豪快に笑うお茶子ちゃんの父親に、責務から解放されたようにホッと息を吐く百ちゃんの母親。

 

「緊張しましたわ」

 

 その近くで、梅雨ちゃんの父親が光己さんに話しかける。

 

「爆豪さんがキレた時はどうなる事かと思いましたケロ」

「すみません~っ、つい……」

 

 少し離れたところでは、母さん、轟くんの母親の冷さん、そしてスーツを着てメガネをかけた男の人が話していた。

 

「いやぁ、熱演でしたねお二人とも」

「あはは、そうですか…?」

「私は楽しかったですよ…って、こんなこと言ったら不謹慎かしら」

「いいんじゃないですか、別に」

 

 さっきまで恐怖におののいていたはずの保護者達が、急に和気あいあいと話し出した。

 ポカンとしたままの皆の顔に、相澤先生が言う。

 

「まぁアレだ、ドッキリってやつだ」

「じゃあ、犯人は……?」

「えー……この人は劇団の人です。頼んできてもらいました」

『エッ……ア、ハイ。オドロカセテゴメンネ?』

 

 男が、可愛らしく首をかしげた。

 その様子を、私達は黙って見ていた。

 すると、何も言葉を発さず気まずそうな表情を浮かべている私達を見て、相澤先生が怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……どうした?」

 

 相澤先生が尋ねると、皆が気まずそうに顔を見合わせて、飯田くんが皆を代表して口を開く。

 

「あの…申し訳ございません、先生。僕達、気付いていました」

 

 飯田くんが言うと、相澤先生と劇団の人が黙り込み、私達と保護者が気まずそうにお互いを見る。

 ただ一人、志村だけは必死に笑いを堪えていた。

 まさか全員にバレていたとは思わなかったのか、相澤先生が尋ねる。

 

「いつからだ?」

「えっと、ごめんなさい…最初からです」

「USJん時、一度騙されたんだ。二度も騙されるかよ」

 

 相澤先生が尋ねると、緑谷くんと爆豪くんが答える。

 そして百ちゃんが気まずそうに視線を逸らしながら続けた。

 

「ですが、だからと言って授業を中断するのもどうかと思い……その…騙されたフリをしてお芝居に乗じようということになったのです。志村さんの提案で…」

「だってその方が面白そうじゃないすか」

 

 百ちゃんが言うと、志村は悪びれずに笑いながら白状した。

 

 そう、実は私達は、行きのバスの途中で、これが保護者を巻き込んだ茶番だって事に気付いていた。

 志村が、「この学校の事だから、保護者を巻き込んで盛大な茶番を仕掛けてくると思う」「何度も騙されてムカつくから、今度は騙されたフリをしてアタシ達が先生を騙してやろう」と提案してきたのだ。

 真面目な飯田くんや百ちゃんは、最初こそ志村の提案に苦言を呈していたものの、二人ともまんまと志村の口車に乗せられて提案に乗ってしまった。

 

 っていうか劇団の人、トゥルーフォームのオールマイトだよね?

 こっちの姿なら、私達にバレないとでも思ったんだろうな。

 

 私達が白状すると、相澤先生は気まずそうに頭を掻きながら口を開く。

 

「……そうか。まぁ、バレてたんならしょうがない。身近な家族の大切さは、口で言ってもわからない。失くしそうになって初めて気づくことができるんだ。今回はそれを実感してほしかった。いいか、人を救けるには力、技術、知識、そして判断力が不可欠だ。しかし、判断力は感情に左右される。お前達が将来ヒーローになれたとして、自分の大切な家族が危険な目にあっていても変に取り乱さず、救けることができるか。それを学ぶ授業だったんだよ。授業参観にかこつけた、な。それともう一つ。冷静なだけじゃヒーローは務まらない。救けようとする誰かは、ただの命じゃない。大切な家族が待っている誰かなんだ。それも肝に銘じておけ」

「「「「──はい」」」」

 

 相澤先生の言葉に、皆が気を引き締めて頷く。

 だけど相澤先生の言葉は、そこで終わりじゃなかった。

 

「で、結果的には全員救ける事ができたが、もうちょっとやりようあっただろ」

「は?」

「犯人は一人だぞ。わらわらしすぎだ。無駄な時間が多い。気付いてたんなら尚更だ。他にいろいろ言いたいことはあるが……まぁギリギリ合格点だ」

「っ」

 

 相澤先生からの一応もらった合格点という言葉に、頰をゆるませる皆。

 はい、私もメッチャ緩んでます。

 

「今日の反省点をまとめて、明日提出な」

 

 疲れきった皆が不満の声をあげるなか、飯田くんが手を上げる。

 

「やはり感謝の手紙の朗読は、ドッキリをカモフラージュするための合理的虚偽だったのですか!?」

「改めて手紙を書くことで、普段より家族のことを考えただろ?」

「確かに……!」

 

 食い下がった飯田くんが相澤先生の言葉にあっさりと深く納得した時、授業終了のチャイムが鳴った。

 あー、手紙の朗読は無い感じか、良かった良かった。

 母さんに説教されたのがムカついて、結局便箋1枚で済ませちゃったから。

 

「それじゃ、今日はこのまま解散。保護者の皆様、ご協力ありがとうございました」

 

 相澤先生の礼に保護者が礼を返して、それぞれの生徒が保護者の元へ向かう。

 志村が、さっき冷さんや母さんと話していた男の人のもとへ飛んでいく。

 

「離珠奈〜、お疲れ〜」

「パパもね。てかパパ、スーツ似合ってないんだけど。何でスーツにしたの」

「だって弧太朗くんが、どうしても着ろって言うんだよ? いつもの格好で行くなってうるさいから」

 

 志村と話している男の人は、きっちりと黒いスーツを着こなし、緑色のネクタイを締め、緑がかった黒の長い髪をハーフアップにしてメガネをかけている。

 志村と同じで、両端が吊り上がった口からは八重歯が覗いている。

 目つきは悪いけど、シャープな顔つきのイケおじだ。

 あの人、どこかで見た事あるような……?

 なんて考えていると、男の人が百ちゃんに話しかける。

 

「すみません、昨日のお嬢さんですよね?」

「え……?」

「昨日は財布を拾ってくれてありがとうございました」

「あ……!」

 

 男の人がお礼を言うと、百ちゃんが目を見開く。

 

「改めまして、離珠奈の父の離壱(りいち)です。娘がいつもお世話になってます」

 

 そこで私達は、初めて気がついた。

 昨日の不審者は、志村の父親だった。

 あの不審者がイメチェンしたら、こんなイケメンになるなんて…

 っていうかうちの父さんよりタイプかもなんだけど。

 志村を排除したら、私の逆ハー計画を邪魔する奴が消えて、あのおじ様も手に入って一石二鳥なんじゃ…?

 ウザかった転生者の瑠奈の旦那さんを奪っちゃえば、あいつへの嫌がらせにもなるし、一石三鳥じゃん。

 

「芽華、帰るわよ」

 

 私が志村の父親を見ていると、母さんが私の手を引く。

 私が今考えている事には、微塵も気づく事無く。

 

 

 

 ☆破滅まで、残り75日───

 

 

 

 




今回はマシ……かと思いきや、最後の最後でクソデカ爆弾をぶち込みました。
前話の浮浪者の正体は、リズナちゃんの父親でした。
おい転生者、寡夫とはいえ既婚者はあかん……!


◆今回出てきた剣の解説

眠剣(スリープソード)

能力:相手を眠らせる。
イメージカラー:ネオンパープル
剣の形状:刃の部分に煙模様が刻まれたウルミ
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