雄英高は夏休みでも訓練を望む生徒に向け、特別講習を行っている。
今日はその初日だった。
講習には、私、梅雨ちゃん、飯田くん、お茶子ちゃん、轟くん、爆豪くん、緑谷くんが来ていた。
志村は別日程らしく、今日はここにはいない。やったね。
相澤先生が、教卓の前に立って講習の内容を説明する。
「この講習は少人数で何回かに分けてやるぞ。今回はこの7人だ。言っておくが通常の授業よりハードになる。覚悟しておけ」
相澤先生がそう言うと、皆の顔に緊張が走る。
すると相澤先生が講習の内容を説明し始める。
「特別講習の内容だが、対
「「ものすごくヒーローっぽいのキタァ!!!」」
緑谷くんとお茶子ちゃんがはしゃぐと、相澤先生が睨む。
すると全員が一瞬で黙った。
相澤先生は、そのまま私達に説明を続ける。
「当たり前のことだが、
相澤先生が言おうとしたその時、後ろのドアが勢いよく開く。
ドア越しでも感じる、この気迫の正体は…
「後ろのドアから私が来た!!」
オールマイトだった。
「オールマイト!」
「今日も筋骨隆々マッスル!」
「HAHAHAHAHA!!!」
緑谷くんとお茶子ちゃんがオールマイトの登場を喜ぶと、オールマイトは高笑いする。
「オールマイトだけじゃない。セメントス、ミッドナイト、プレゼントマイク。彼らも特別講師として参加してもらう」
へぇ、結構豪華なメンツだなぁ。
「では訓練を始める。全員グラウンド・βに集合しろ」
相澤先生が指示を出すと、私達はテキパキと準備をしてグラウンド・βに向かった。
◇◇◇
私達は、指示通りコスチュームに着替えてグラウンド・βに集まっていた。
緑谷くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、飯田くんは曲がり角の影からヒョコッと顔を出す。
「お巡りさんの看板が立ってる」
「ここが事件現場という事か」
緑谷くんが言うと、飯田くんがそれに続けて言った。
すると相澤先生が現れて状況を説明する。
「現場の状況を知らせておく。
相澤先生が言うと、飯田くんは手を挙げて質問する。
「相澤先生! 店内には
「「「……はい!」」」
相澤先生が飯田くんの質問を遮って言うと、全員が揃って返事をした。
「それでは捕縛訓練を開始する」
相澤先生が言うと、開始のブザーが鳴る。
すると飯田くんと緑谷くんが作戦を考える。
「さて、どうするか」
「とにかく店内にいる
「わたし確認するよ」
そう言って私は、『
「
「良かった…」
「まだ油断できねえぞ」
私は、索敵をして得られた情報をクラスメイトに伝えた。
怪我人がいない事がわかったからか、緑谷くんはホッと胸を撫で下ろし、轟くんが気を引き締めるよう言った。
店のドアのガラス越しに、
「オールマイト…じゃない、
「外にヒーローがいないか確認してやがる」
緑谷くんと轟くんは、影に隠れながら状況を確認していた。
「皆ちゃんと隠れて。見つかったら人質が危険だわ」
「どうする? 店の裏手に回るか?」
皆は、どう動くか作戦会議をしている。
そんな中、私は翼をはためかせながら言った。
「わたしなら、人質に危害が及ぶ前に
そう言って私は、ビルの方へと飛んでいく。
「あっ、待て神剱くん!」
「私達も行きましょう」
最速で事件を解決しようと飛び出した私を追いかける形で、皆も飛び出した。
だけど、その時だった。
「!!」
これって……!!
「皆、来ちゃダメ!!」
私は、咄嗟に皆に向かって叫んだ。
だけど、もう遅かった。
「どうして…」
店内に駆け込んだ皆は、目を見開いていた。
先程まで立てこもり周囲を確認していたはずのオールマイトは、血まみれになって地面に仰向けに倒れていた。
…えっ。
いや、何これ。
どういう状況?
「
緑谷くんは、倒れているオールマイトを見て呟く。
梅雨ちゃんは、オールマイトの鼻元で髪の毛を揺らす。
「フフ…Oh」
梅雨ちゃんが髪の毛を揺らすと、オールマイトが反応した。
爆豪くんは、それを見て口を開く。
「おい剣女! てめぇは念の為クソ
「う、うん」
爆豪くんに言われた私は、オールマイトを見張った。
すると、轟くんと飯田くんが口を開く。
「凶器は血のついたナイフ…」
「現場は警察官に包囲され、人の出入りがなかったと仮定すると…
あっ、何か始まった。
何これ。
いつから推理番組になったの?
「待って、飯田くん。決めつけるのは早すぎるよ。とにかく、人質だった人達から話を聞こう」
「そうね。現場の状況を知らないと」
緑谷くんが提案すると、梅雨ちゃんも賛成した。
私達は、人質の3人から証言を取る事にした。
石山堅(28)
雄英ジュエリー店員
「私はこの宝石店の店員です。いきなりやってきた
香山睡(31)
大手広告代理店勤務
「私はアクセサリーを買おうとこの店に入ったら…
山田ひざし(31)
ミュージシャン
「俺はYO! 彼女のYO! 婚約指輪を選んでTA! そしたら
轟くんは、ノリノリなプレゼントマイク先生をスルーしてセメントスに尋ねる。
プレゼントマイク先生、ドンマイです。
というか体幹いいな。
さすがプロヒーロー。
「
「はい、いました。気絶させられてしばらくは目を覚ましませんでした」
轟くんが尋ねると、セメントス先生が答える。
すると轟くんは、今度はミッドナイト先生に尋ねる。
「あなたが店に入って来た時二人はいましたか?」
「入った瞬間は見ていませんが、縛られている時別々の場所で床に座らされている2人を見ました」
「ん…証言に食い違いはないな」
ミッドナイト先生が言うと、轟くんは少し考え込む。
確かに、三人の証言に矛盾はない。
ひとつ気になるのは、ミッドナイト先生だけはオールマイトが来た後で宝石店に来たって事だけど。
すると緑谷くんは、三人に声をかける。
「すみませんが、皆さんのお財布を見せて貰ってもいいですか」
緑谷くんはプレゼントマイク先生の、お茶子ちゃんはミッドナイト先生の財布を預かって中身を確認した。
ミッドナイト先生の財布にはクレジットカードが、プレゼントマイク先生の財布には現金がびっしりと入っており、どちらも宝石を買うのに十分な資金は持っていた。
「ミッドナイトの方はどう?」
「クレジットカードがいっぱい入ってるよ」
「プレゼントマイクのも同じ。どちらにも宝石を買う資金はある」
「うん」
となると、一応『宝石を買いに来た』っていう理由でこの店に来たっていう証言は不自然じゃないわけだ。
…まあ、こうなる事を見越してお金を用意していたのかもしれないけど。
すると爆豪くんが店内を歩き回りながら言った。
「クソ
爆豪くんが言うと、轟くんが尋ねる。
「動機は?」
「んー、宝石目当てとか?」
轟くんの質問に、私が自分の考えを話す。
「そうだとしても、この場で
「それに宝石は
「物取りの線ではないとすると…」
「仲間割れとか?」
梅雨ちゃんが動機を考えていると、お茶子ちゃんが言った。
すると緑谷くんはその線で考える。
「
「なら人質達がその会話を聞いているはずよ」
「そんな話聞いてないYO!」
「私もです」
「私も」
梅雨ちゃんが言うと、プレゼントマイク先生、セメントス先生、ミッドナイト先生の順に証言した。
…さっきからプレゼントマイク先生うるさいな。
なんて考えていると、轟くんがセメントス先生に尋ねる。
「
「はい」
轟くんが尋ねると、セメントス先生が答える。
すると飯田くんが言った。
「店内をくまなく調べてみたが、裏口もないし窓も全部閉まっていた。単独犯である事は間違いない」
「じゃあやっぱりこの中に犯人が…」
「私じゃありません!」
「私もです!」
「俺じゃないYO! ホントだYO!」
お茶子ちゃんが三人を疑うと、ミッドナイト先生、セメントス先生、プレゼントマイク先生が否定する。
すると梅雨ちゃんが全員に提案する。
「状況を話して警察に任せた方がいいんじゃないかしら?」
「確かに一理ある」
「でも悔しいな。この中に犯人がいるのはわかってるのに…」
梅雨ちゃんが言うと、飯田くんが賛成しお茶子ちゃんが悔しがる。
するとその時、爆豪くんが緑谷くんの方を見て言った。
「……おいデク。お前何か考えてんな?」
「あっ、うん。ずっと気になってたんだ」
「何がだ?」
緑谷くんが言うと、轟くんが尋ねる。
すると緑谷くんが話し始める。
「何故
緑谷くんが考えていると、セメントス先生が訳を話す。
「それは、私が
「通報したんですか?」
「私はしてません」
お茶子ちゃんが尋ねると、セメントス先生は首を横に振った。
すると飯田くんと緑谷くんが口を開く。
「宝石店の外から誰かが見ていて、警察に通報した」
「だとすると通報したのは…ミッドナイト、あなたですね」
「えっ、私が?」
「
あっ、やっぱりミッドナイト先生が事件に関係してたか。
緑谷くんが言うと、飯田くんが驚き爆豪くんが反論する。
「なっ…ちょっと待て緑谷くん!」
「バカ、こじらせてんじゃねえぞ! 警察に通報した人間がなんでわざわざ
「それが…」
緑谷くんが話そうとすると、ミッドナイト先生は顔を逸らした。
きっとこの事件の真相は、ミッドナイト先生にとって、とてもつらく、悲しいものなんだろう。
緑谷くんは、それでも話を続ける。
「それが
「な…何故私がそんなことする必要が…」
「止めたかったからじゃないんですか?
緑谷くんが話すとミッドナイト先生が反論するけど、緑谷くんには彼女の真意がわかっていた。
いや、緑谷くん鋭すぎでは?
なんでそんな事までわかるの?
なんて考えていると、麗日さんと轟くんと飯田くんが尋ねる。
「あっ、待ってデクくん! 事件がデクくんの推理通りだとしても、どうして
「彼女は
「ああそうだ。彼女には
「何だって!?」
「どういう事デクくん!?」
緑谷くんが言うと、飯田くんとお茶子ちゃんが驚く。
一方で梅雨ちゃんと轟くんは、真相に辿り着いているみたいだった。
「あっ…もしかして…」
「自殺…か」
梅雨ちゃんと轟くんが言うと、緑谷が話し始める。
「恐らく、ミッドナイトの思惑を知った
「観念して自殺を…」
「違うよ」
緑谷くんの推理に対して飯田くんが推測すると、緑谷くんが否定する。
そして緑谷くんは、真相を語り始めた。
「
「うっ…うっ……うわあああああ!!」
緑谷くんが言うと、ミッドナイト先生はその場で崩れ落ちて泣き叫んだ。
えぇ…なにこの茶番。
なんて考えていると、お茶子ちゃんが緑谷に尋ねる。
「デクくん、もしかしてミッドナイトと
「うん…」
お茶子ちゃんが言うと、緑谷くんが頷く。
「悲しいわ…ミッドナイトは愛するが故に
「そして
「それがこんな結末になるとは…皮肉すぎるな」
梅雨ちゃん、飯田くん、轟くんは俯きながら言った。
唯一、爆豪くんは『何だこの茶番は』とでも言いたげな表情をしている。
今回は私も爆豪くん派かな……
すると緑谷くんも続けて口を開く。
「これが
これで事件は終わり……
かと思いきや。
「…………っていうのは全部嘘で、本当は逃げるチャンスを窺っていたんですよね、オールマイト」
緑谷くんが、私とオールマイトの方を振り向いて言った。
それに続けて、皆も私の方を振り向く。
「いや…なんか普通にオールマイトが逃げようとしてたから捕まえたけど…えっ、何これ?」
「Shit!! あと少しだったのに…!!」
私の横には、私の羽根でガチガチに拘束されたオールマイトがいた。
まさかオールマイトが普通に生きてたとは…
爆豪くんが見張っとけって言わなきゃ普通に見落としてたよ……
こうして、初日の特別講習が終了した。
「よし、そこまで」
「アハッ、面白かった!」
相澤先生が終了を知らせると、ミッドナイト先生は演技をやめて素に戻った。
変わり身早すぎでは…?
「「「「変わり身早っ!」」」」
お茶子ちゃん、緑谷くん、飯田くん、梅雨ちゃんがツッコミを入れる。
あっ、ツッコミ被った。
「三人ともお疲れ様でした。戻ってもらって結構です」
「俺の演技どうだった?」
「少し過激では?」
相澤先生が言うと、三人は解散していった。
プレゼントマイク先生が尋ねると、セメントス先生が呆れながらコメントをする。
すると相澤先生が緑谷くんに声をかける。
「緑谷」
「はい」
「お前の推理はこちらが事前に用意したシナリオ通りだ。
相澤先生が言うと、緑谷くんは嬉しそうに破顔しながら頭を掻く。
「おお! 相澤先生が褒めとる!」
「やったな緑谷くん!」
「……うん」
そんな緑谷くんを見て、飯田くんとお茶子ちゃんも笑みをこぼした。
お茶子ちゃんの笑顔を見て、緑谷くんは頬を赤らめた。
「そして爆豪、お前は
「あんた『捕縛訓練』だっつってたろ。
「ケロ、梅雨ちゃんと呼んで」
爆豪くんが梅雨ちゃんを親指で指すと、梅雨ちゃんがペロッと舌を出す。
「お前らの推測通り、
そう言って相澤先生は、訓練場から去っていった。
私も、オールマイトをガチガチに縛っていた羽根を解除して教室に戻る。
原作にこんな回あったっけ?
まぁいいや、着替えてレポート書いて帰ろ。
☆破滅まで、残り40日───