バスに揺られる事一時間後。
私達は見晴らしのいい空き地に辿り着いた。
「休憩だーー…」
「おしっこおしっこ…」
全員がバスから降りる中、峰田くんは股間を押さえてモジモジしていた。
先程バスで猥談をしていた際、調子に乗ってジュースを飲み過ぎたせいで、尿意を催してしまったのだ。
「つかここパーキングじゃなくね?」
「ねえあれB組は?」
「お…おしっこ…トトトトイレは…「何の目的も無くでは意味が薄いからな」
相澤先生は、トイレを探してソワソワする峰田くんを見事にスルーして話をする。
するといきなり女性の声が聞こえてくる。
「よーーーうイレイザー!!」
「ご無沙汰しています」
相澤先生が頭を下げると、二人の人物が私達の前に立つ。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
マンダレイとピクシーボブは、登場するなり猫のようなポーズを決めた。
……あれ?
洸汰くんがいない?
相澤は、ポーズを決める二人を紹介する。
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
すると緑谷くんがお約束のヒーロー解説をし始めた。
「連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年で12年にもなる…「心は18!!」へぶ!!」
「今のは出久が悪い」
緑谷くんが言い終わる前に、ピクシーボブに顔面を掴まれ鬼のような形相で睨まれる。
しれっと本人達の年齢をバラすような緑谷くんの発言を、志村が咎めた。
「ここら一体は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」
「「「「「遠っ!!」」」」」
マンダレイが遠くに見える山を指差すと、皆は一斉にツッコむ。
「え…? じゃあ何でこんな半端な所に…………」
「いやいや…」
「バス…戻ろうか……な? 早く…」
お茶子ちゃんが疑問を抱き、砂藤くんがまさかと言いたげな表情を浮かべて笑い、瀬呂くんが苦笑いを浮かべながらバスを指差す。
何かを察したのか皆が焦り始めバスに戻ろうとする。
でも…
「今はAM9:30。早ければぁ…12時前後かしらん」
「ダメだ…おい…」
「戻ろう!」
マンダレイが言うと、切島くんと三奈ちゃんが絶望する。
「バスに戻れ!! 早く!!」
切島くんは、A組を先導してバスに戻ろうとする。
でも既に遅かった。
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「悪いね諸君、もう合宿は始まってる。おい志村、避けるんじゃない。お前も行くんだよ」
「デスヨネー」
A組の前方にピクシーボブが現れ地面に手をつくと、土砂が盛り上がり、私と志村以外の全員が森の中に落ちていく。
嫌な予感がしたのか咄嗟に“個性”を発動して回避した志村も、相澤先生に掴まれて下に放り投げられた。
マンダレイは、落ちていった生徒達に向かって叫ぶ。
「私有地につき、“個性”の使用は自由だよ! 今から3時間! 自分の足で施設までおいでませ!! この…魔獣の森を抜けて!!」
マンダレイの声が響く中、A組は真下の森へと落ちていった。
私だけは、相澤先生に捕縛武器で掴まれていたので下に落ちる事はなかった。
え、私だけ助けてくれたの?
やっば、イケメンすぎ。
「わたしは行かなくていいんですか?」
「お前がいたら訓練にならねえからな。あと、お前はあんなことしてる場合じゃねえだろ。補習なんだから」
「う……」
「お前は俺と一緒に先に宿で補習地獄だ。もちろん、あいつらが時間までに辿り着けなかったら、連帯責任でお前も昼飯抜きだからな」
そう言って相澤先生は、私を引きずってバスに戻る。
私は、ひと足先にプッシーキャッツの宿泊施設『マタタビ荘』に向かった。
そこで約二時間半、相澤先生とみっちり補習をしていると…
「お〜、早いね」
11時45分。
私以外のA組20人が、ボロボロになって施設に辿り着いた。
峰田くんだけはむしろ清々しい表情を浮かべており、ズボンから異臭を放っていた。
漏らしたんだな、途中で。
「いやぁ…『三時間』って、私達ならって意味だったんだけどね、うん」
「実力差自慢の為か……やらしいな…」
マンダレイは少し気まずそうに言うと、砂藤くんはマンダレイの発言に対して不満を漏らす。
「ねこねこねこ…でも正直、誰も間に合わないと思ってた。まさか全員三時間かからずに辿り着けるとはね。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら……特に、そこの5人。躊躇の無さは経験値によるものかしらん? 三年後が楽しみ! ツバつけとこーー!!!」
ピクシーボブは飯田くん、轟くん、志村、爆豪くん、緑谷くんの5人を褒めると、同性の志村以外の4人に唾を飛ばそうとする。
私が轟くんと爆豪くんの前に立って庇おうとするより早く、志村がピクシーボブの前に立ちはだかり、180cmを超える巨体でピクシーボブの唾攻撃を防いだ。
「流子さ〜ん、ウチの男子達に何してるんですか〜?」
「ぬあああ、離せリズナぁぁぁ!!」
「マッチングアプリで知り合った男性にフラれたからって見苦しいですよ〜!」
「うるさいっ、余計なこと言うなぁ!」
「「ねこねこねこねこ…!!」」
男子達に唾をつけたいピクシーボブと、それを阻止する志村が取っ組み合いをし、文字通りのキャットファイトが始まった。
そんなピクシーボブを見て、相澤先生がドン引きした様子でマンダレイに話しかける。
「マンダレイ…あの人あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」
そして、それから約40分後。
12時半ギリギリに、B組も施設に辿り着いた。
「昼飯の時間だ。全員荷物下ろして支度しろ」
相澤先生は、時間内に施設に辿り着いた皆を感心した様子で眺めると、皆に手短に指示を出した。
相澤先生の指示通り荷物をまとめた皆は、手早く昼食を済ませ、体操服に着替えた。
全員時間内に辿り着くとか想定外だけど、ご飯抜きで補習地獄にならなくて良かった…
「明日から、本格的な強化合宿が始まる。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の心の準備だ。心して望むように。というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」
そう言って相澤先生は、ボールを爆豪くんに投げた。
するとボールを受け取った爆豪くんが口を開く。
「これ…体力テストの…」
爆豪くんが受け取ったボールは、“個性”把握テストの時に投げたボールだった。
相澤先生は入学時の記録を見せながら言った。
「前回の… 入学直後の記録は2075.2m…どんだけ伸びてるかな」
「おぉ! 成長具合か!」
「ここ3ヶ月色々濃かったからな! 3kmとか行くんじゃねぇの!?」
「行ったれバクゴー!」
皆の声援を受けながら、爆豪くんはボールを持った腕を振りかぶる。
「ぶっ飛べぇ!!!」
テストの時と同様に、ボールが衝撃波を放ちながら吹っ飛んでいく。
吹っ飛んだボールは、遠くの山の頂上付近に落ちた。
相澤先生は、端末に表示された記録を見て驚いたような表情を浮かべる。
先生の持っていた端末には、『3995.6m』と表示されていた。
前回のテストから、倍くらい伸びている。
相澤先生は、爆豪くんの記録の伸びに疑問を抱いたのか、他の生徒の成長具合を確かめる為に、他の皆にもボール投げをやらせた。
皆大体3割から5割増し、緑谷くんと轟くんに関しては、倍くらい記録が伸びていた。
「例年なら、この時点での伸びは1%未満なんだがな…正直、諸君らの成長速度は、こちらとしても想定外だ。特に緑谷、爆豪、轟、志村。お前ら4人は精神面や技術面、体力面だけではなく“個性”も大幅に成長している。例年は“個性”伸ばしの訓練をしていたんだが、予定を変更してもう一段階上の訓練をする。明日の訓練に備えて、今日はしっかり体を休めておけ」
ええ…
原作でさえハードだったのに、あれよりキツくなるの…?
◇◇◇
午後6時。
トレーニングを終えた私達は、食堂に集まって全員で夕食を食べた。
「いただきます!!」
テーブルの上には沢山の食べ物が並べられており、全員がっつきながら食べていた。
「へえ、女子部屋は普通の広さなんだな。じゃあ」
「男子の大部屋見たい! ねえねえ見に行ってもいい後で!」
「おー来い来い」
「魚も肉も野菜も…贅沢だぜえ!!」
瀬呂くんと透ちゃんが楽しそうに話し、峰田くんはあまりの美味しさに涙しながら食事をかきこんでいた。
切島くんと上鳴くんは、あまりの食事の美味しさに涙しながら白米をかきこんでいた。
「美味しい! 米美味しい!」
「五臓六腑に染み渡る!! ランチラッシュに匹敵する粒立ち!! いつまででも噛んでいたい! 土鍋…!?」
「土鍋ですか!?」
「うん…つーか腹減りすぎて妙なテンションになってんね」
上鳴くんと切島くんが尋ねると、食事を運んでいたピクシーボブがA組のテンションに呆れながら答える。
「まー色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな」
◇◇◇
食事が終わると、私達は一斉に風呂に入った。
夜景が綺麗に見える露天風呂で、温泉がここに来るまでの疲れを癒した。
「気持ちいいねえ」
「温泉あるなんてサイコーだわ」
「はぁ〜、極楽極楽」
B組も一緒に入っても広々と使えるお風呂なんて最高だわ。
「皆、何したらそんなにスタイル良くなるわけ……?」
響香ちゃんが、じっと私達を見つめてくる。
特に私はものすごく見られてる気がする。
響香ちゃんは、私達女子の中では一番胸のボリュームが小さい。
「耳郎ちゃんだってスタイルいいじゃん。いいなぁ、皆女の子らしい体型で」
そう語るのは、頭にタオルを乗せて温泉に浸かっている志村。
志村の体は、引き締まっていて腹筋はシックスパックに割れている。
こいつ、強くなる為だけに女捨ててるでしょ…
「志村は何なの…? 引き締まってるのに胸は大きいとか反則じゃん…」
「だ、大丈夫!? おっぱい揉む!?」
「離珠奈ちゃんそれ追い討ちよ」
志村の体型を見てさらに落ち込む響香ちゃんを励まそうと、志村が自分の胸を持ち上げて話しかけると、梅雨ちゃんがツッコミを入れる。
志村は、体脂肪率1桁なんじゃないかってくらい引き締まってるのに意外と巨乳だ。
胸筋が厚いのもあるんだろうけど、胸囲だけなら私や百ちゃんにも劣らない。
なんて考えていると、隣の男湯から声が聴こえてきた。
どうやら峰田くんが覗きを企んでいるらしい。
竹の仕切り一枚しかないから、向こうの声が丸聞こえだ。
「峰田くんやめたまえ! 君のしていることは己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」
当然、A組男子の中でも特に真面目な飯田くんが、峰田くんを止めてきた。
だけど峰田くんは、「やかましいんスよ」とか言って、“個性”を使って壁を登り始めた。
「壁とは超えるためにある!! “Plus Ultra”!!!」
「速っ!!」
「校訓を穢すんじゃないよ!!」
ものすごいスピードで仕切りを登る峰田くんを、他の男子達が止めようとした、その時だった。
「ぉわあああああああああ!!?」
突然、峰田くんの叫び声が聴こえる。
ふと後ろを振り向くと、志村が、男湯の仕切りに向かって拳を握った左腕を伸ばしていた。
どうやら志村が峰田くんに対して『浮遊』の“個性”を使い、仕切りから引き剥がしたらしい。
そして志村がそのまま握った左手を開くと…
「ぎゃあああああああああ!!!」
峰田くんにかけられていた『浮遊』の“個性”が解除され、ドボォン、と湯船に落ちる音が響く。
「やっぱり最低ね、峰田ちゃん」
「リズナありがと〜!」
梅雨ちゃんは仕切りを見ながら峰田くんを軽蔑し、三奈ちゃんは志村にお礼を言った。
志村は、湯船から上がって頭に乗せていたタオルで体を軽く隠すと、仕切りに爪を立ててギギギギ、と引っ掻きながら、ブリザードより冷たい声で男湯に向かって呼びかける。
「み〜ね〜た〜く〜ん♪ 次やったら餅つきするからね〜♪」
「「ヒッ…!!」」
志村のドスのきいた声に、数人の男子達が悲鳴を上げる。
どうやら、何人かは峰田くんの覗きを心の中で応援していたらしい。
男子達に飛鳥釘並みにぶっとい釘を刺した志村は、そのまま湯船に戻ってくる。
「はふぅ…つまらぬことに“個性”を使ってしまった…眠い……」
「離珠奈ちゃん、お風呂で寝たらあかんよ」
「てかあんた、見えてなくても“個性”使えるの?」
「え、普通にできるよ? 大体の座標と大きさがわかってればね。スポッターさえいれば、ブラジルの人でも浮かせられます」
皆の疑問に、志村がサラッと答える。
いや、ブラジルの人でも浮かせられるとか…
流石に盛ってる…よね?
☆破滅まで、残り23日───