死滅回游 泳者 八百歳比名子   作:螺旋坊主

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投稿が1日遅れてすみません。
お待たせしました。11話です。


第11話 話を続ける少女達、プランが壊れて吠える阿呆

 

 

 

 

 

 あまりにも想定外のことが起こった時、人はどういった反応をするだろうか。

 例を挙げるなら状況が理解できず、パソコンの処理落ちのような思考停止状態。あるいはパニックと焦燥に駆られた衝動的な奇行。あるいは強いストレスによる現実逃避、あるいは……色々考えられるが、ここに挙げたものはいずれも人間の尺度で答えられたものだ。

 これを妖怪に当てはめるとどうなるか。大体の妖怪はひとでなしなので、想定外のことに驚愕するという感情が欠落しているか、そもそも感情が欠落しているか、多くの場合は人間よりも悪いリアクションになるのは間違いないと思われる。

 

 ただし、大体という言葉の表すように、もちろんそこには例外も存在する。例えば今、八百歳比名子の話を聞いていた大妖・社美胡。彼女は現在、比名子の言葉によって上述の思考停止状態に陥っており、目と口があんぐりと開かれた間抜けな姿を晒している。

 仮にも数百年以上を生きた六尾の狐たる美胡がこのような醜態を晒すのは、長い時の中で人間の世に馴染んできた証か。

 

 ――はたまた、「近江汐莉が広島結界内にいない」という事実が、彼女にとってそれほどの重大事だったか。

 

「――ッ!! コガネ、近江汐莉の情報を出せ!!」

 

 フリーズした脳内が再起動し、怒号に等しい声量で美胡がコガネに命令する。

 彼女は結界内に入って以来、比名子と真希が領域の中で死闘を繰り広げていた時に次ぐ焦りが心を満たしている。それもそのはず、美胡には汐莉と共に結界内に侵入した記憶がある。

 広島結界の前に来て、陽気なテンションで殺し合いの説明をするコガネの声に幽鬼のような表情になっていた汐莉。意を決した美胡が結界内に入ろうとした時も「比名子がこんなところに入るはずがない」と、見たこともないほど弱弱しく縋りついてきた彼女の姿は脳裏にこびりついている。

 

 それでも最終的に汐莉はコガネの言葉に了承し、二人同時に黒い壁に突入した。故に美胡はこの結界内に汐莉がいると確信していたし、それを疑うことなど欠片もなかった。

 しかし、今、まさにその前提が根本から崩れている。

 

近江汐莉 得点 25 変更 00回

滞留結界 東京第1

 

「東京第1……?」

 

 総則9によりコガネに追加された泳者情報、それに記載されている滞留結界の欄には、ここ広島から直線距離にして600kmを優に超える地点が記されている。

 名前欄の横には生存を示す「☻」マークが頭部に据えられた棒人間が表示されているため、一応命に別条はないらしい……が、汐莉は不老不死の人魚であるため、そんな情報は何の慰めにもならない。

 

「いやマジで意味わからん……なんであいつ東京に行ってんだ、比名子が急にハロウィンパーティに出たくなったとでも思ったのか?」

 

「美胡ちゃん、私行くにしても流石に一人じゃちょっと……」

 

 美胡の冗句に律儀に返す比名子もまた、自身と美胡の認識の齟齬に大いに戸惑っている。比名子は美胡の話を聞くまで、二人は手分けして侵入しているものと思っていたからだ。

 汐莉も美胡も強い妖怪だ。呪霊の等級に換算するなら立派な特級、呪術師としても一級に相当すると断言していいだろう。結界内においても、汐莉は当然として美胡もそう簡単には死なないだろうと思っていたので、そういう手を打つことも無くはないと勝手に考えていたのだが、

 

「美胡ちゃん達、一緒にこの結界に入ったんだ……じゃあ、何で汐莉さんだけ遠くに……?」

 

「――一応、考えられる可能性はあるぜ」

 

 と、手を上げたのは全身を火傷のケロイドに覆われた少女、禪院真希。

 他三人の視線が自分に向いたのを確認した彼女は、上げた手を組んだ膝の上に下ろして、ずい、と顔を美胡のほうへ近づける。

 

「確認なんだが美胡、オマエがこの結界に入ったのは近江汐莉って人魚と同じタイミングだった。断言できるか?」

 

「……そりゃあ、入る前にひと悶着はあったにしろ、最終的にあいつも腹くくってたし、コガネの問いかけに「問題ありません」って言ってるのも聞いたし」

 

「了承の言葉を聞いただけか? 実際に入る瞬間は? ソイツが結界に侵入するのを横目で見ることは無かったか?」

 

 畳み掛けるように質問攻めする真希の勢いに若干押される美胡。

 彼女がなぜ「聞いたか」ではなく「見たか」にこだわっているか、その意図は理解し難いが――言われてみれば確かに、

 

「そういえば、見てないわ。だってそりゃ、入る寸前なんだから結界に視線向けるじゃん? それにいきなりワープで変な場所に飛ばされるとか思ってなかったし……」

 

「――その、入る瞬間を抜かれたんじゃねぇのか」

 

 膝の上に置いた手、その人差し指を美胡に向ける。

 いたって冷静で平坦な真希の言葉に、狐の妖怪であるはずの美胡が狐につままれたような顔をした。

 

「それは、何か? つまり半魚人は、あたしの意識が逸れるタイミングで誘拐されたってこと? 結界に入るほんの一瞬の間に?」

 

「ああ。状況をまとめると、あり得るのはその可能性くらいだ」

 

「それは……正直どうなの? 言っても半魚人の実力はあたしと五分だよ? あんな極短のタイミングで連れ去れる存在なんて考えにくい」

 

「私もそう思う、かな。汐莉さんが強いのは私もこの目で見てる。美胡ちゃんに気付かれずにそんなことするなんて今の私でも無理だよ」

 

 自身の実力にそれなりの自信を持っている美胡と、そのことを知っている比名子は当然、真希に懐疑的な視線を向ける。しかし、そんな態度を取られても真希は自説を曲げず、「できる奴もいるぜ」と言葉を続ける。

 

「五条悟なら、そういうこともできる」

 

「……五条悟?」

 

 きっぱりと断言する真希と、そこで口に出た人間の名にこの場で唯一首を傾げる比名子。

 その存在をよくわかっていない彼女に、横にいた美胡が断片的に情報を教えてあげる。

 

「現代最強の呪術師だよ。あたしも見たことはないけど、この国くらいなら余裕で墜とせるんだって」

 

「まあ、今は羂索に封印されてるんだけどね」

 

 美胡の言葉に補足するように、今まで静観していた冥冥が口をはさむ。

 比名子はまだピンと来ていない様子だが、「汐莉を一瞬で連れ去れる」という言葉を冥冥が否定しないあたり、そこに間違いはないのだろうと納得する。

 

「でも、封印されてるなら汐莉さんを誘拐なんて無理なんじゃ……」

 

「悟に関してはただの例えだよ。……悟レベルじゃないにしろ、そんなことができそうな存在なら、オマエは心当たりあるんじゃねぇか?」

 

 真希は、今度は比名子に視線を向けた。

 その目と言葉に顔を顰める比名子。どうやら図星であったらしい。

 その心当たりについて、比名子は口にする。

 

「……私をずっと視てた、あの人……」

 

「同時に、オマエの領域の中で声をかけてきた奴だ。恫喝や絶叫でもねぇ、静かな語り掛け一つで私とオマエをビビらせる程強力な術師が、少なくとも回游内に存在すると見て間違いないだろう」

 

「……そいつが、半魚人を連れ去った根拠はあるの」

 

「いや、そこまではねぇ」

 

 ただ、オマエや近江の実力が高いことが、この説を否定する根拠にはならねぇってだけだ、そう真希は締めくくった。

 

 ない話ではない、比名子はそう考える。

 実際、比名子は術式に目覚めて2週間で相当なレベルに達した自覚はある。美胡が呪術界の中でも上澄みに値する実力者であると認識したうえで、今の自身の実力が明確にそれを上回っていると確信できる。

 で、あるならば。

 

「私以上に強いか、強くなった泳者がいる可能性だってある。そういうことだよね」

 

 明確な証拠のないふわふわした憶測と言われれば否定できない。が、その推論を否定しきれないのもまた事実。そしてこの場において間違いなく最も強い比名子から零れた弱気な発言。

 この話し合いの場に、数刻ぶりの重苦しい雰囲気が漂う。

 さっきまでのかしましくも暖かかった雰囲気が消え去ってしまったことに比名子は短くため息を吐こうとし、

 

 

 

 ――突如侵入してきた強大な気配に、弾かれるように振り向いた。

 

 

 

「――! 真希さん!」

 

「……あぁ、来やがったな。相当やばそうなのが」

 

 呪いに対する感覚の鋭い二人がいち早く()()に気づき、はじめは目を白黒させていた美胡と眉をひそめていた冥冥も気配を察知し始める。

 

「……近づいてきてるね」

 

「しかもなんだこのスピード……! 明らかにこっちを狙ってない!?」

 

 結界の縁近くに位置するこの場のおそらく正反対方向から侵入してきたその気配。それがほぼ間違いなく明確な敵意を持って接近してきていることに、場の四人はにわかに殺気立つ。

 

「真希さん、もう見える?」

 

「あぁ。しかしなんだありゃ、虫の羽が生えた、女? 顔、は……」

 

 と、そこまで言ってなぜか口ごもる真希。目を見開いた彼女の表情は明らかに同様で彩られている。

 口に手を当て、眉に皺を寄せ、数度瞬きして、忙しなく表情を変えながら零した言葉は、

 

「……アレ、恵の姉ちゃんじゃ――」

 

 

 

「イケメンも 干せばカピカピ いとおかし」

 

 

 

 ………………………………え? 何? なんて?

 

 

 

「何か、わかるかしら?」

 

 そう言って四人がいる場所、そのそばにある停止した噴水の上に降り立つ女。

 耳障りな羽音を立てゆっくりと降下してきた姿は、それだけ見るのならば、その者の整った容姿も相まって天女が舞い降りてきたような錯覚を覚えるかもしれない。

 

 比名子達への問いかけ、女はその答えを待たずに――、

 

 

「宿儺との挙式で私が詠もうとしてた俳句よ!!!!」

 

 

 

………………………………………………。

 

「えっえっ、えっ」

 

「………………」

 

「季語は?」

 

 目を血走らせ般若の形相で吠える、その女の勢いに比名子達は四者四様の反応を見せる。

 勢いにすっかり押され、人見知りのようなリアクションを取ってしまう比名子。完全にげんなりして冷ややかな視線を送るだけの真希、どう考えてもツッコむところはそこじゃない所にツッコミを入れる冥冥。

 そんな三人の後ろで手で顔を押さえ「コイツかーー……」という反応をしているのは美胡だった。

 

「死滅回游とその離脱プラン、この器の弟がせこせこ点を集めてくれるっていうからありがたく100点貰おうってプランだったのに! アンタのせいで台無しよ、八百歳比名子!! 千年ぶりの受肉だから? せーっかく初戦(ハジメテ)は宿儺って決めてたのに? 待ち望んだ逢瀬が遠ざかった気持ちがアンタ達にわかる? いーやわかるはずないわ、私の宿儺への! 愛! を!!」

 

 自分で自分の感情をヒートアップさせ早口でまくし立てる女。一人でしゃべり続けているため誰も口を挟めない。挟む気も無いけど。

 

「けどいいわ、回游のルールを見たらアンタを殺せば100点手に入るみたいだし。いややっぱりよくないわね最初に相手するのがこんな貧相な小娘だなんて。黄泉返ってハジメテの相手がこんな子だなんて尻軽かしら?クッ……でも仕方ないわ! これがあなたに逢う最短距離! 脇目も振らずあなたへ向かう、私の愛の証明!」

 

 駄目だもう何言ってるのかわからない。というか早口すぎて途中の言葉が聞き取れない。

 だが、

 

「……とりあえず、貴女が私を狙っていることはわかりました」

 

 言葉と共に比名子が術式を開放し、次々と式神を召喚する。

 それに合わせて真希が刀を構え、美胡が手足を獣化させ、冥冥が烏を呼び寄せ、各々臨戦態勢をとる。

 術師の等級に換算して一級以上の4人の殺気。それを浴びても女――身勝手な愛に狂う狂人・万は小動もせず、むしろ「フン!」と鼻息荒く雄たけびを上げた。

 

 

「覚悟しなさい! ここにいる女共全員、宿儺との挙式でポタージュにしてあげるわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




万が出てきた部分めっちゃ筆が進んだ。

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