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うおお、なのに時間なさ過ぎて今回短め……!!
「――――」
切れ長の瞳にすらりと整った鼻筋。後ろに縛った長い黒髪がガンガゼを思わせる鋭い毛先をしているのは気になるが、それを差し引いても全体的に美形と取って差し支えない容貌。露出した腕についた筋肉は女性的ながらも引き締まっていて、確かな鍛錬とそれを裏付ける実力が見て取れる。
美貌と洗練された肉体の同居する姿はある種の総合芸術を思わせるものがあるが……それを自らの身勝手な愛、そこから湧き起こる激情によって見るに堪えぬほど歪ませることで、ものの見事に台無しにしてしまっている。
――千年前の猛者、万。
呪術全盛たる平安の世においても突出した戦闘力を有し、藤氏直属征伐部隊“五虚将”を単独で返り討ちにすることで藤原家へと取り立てられる。
当然呪力総量・出力ともに非常に高度、ネックであった術式の燃費の悪さも身の回りの知識や生物の生態からヒントを得てカバーする柔軟さ。
間違いなく、両面宿儺を除けば時代の“顔”と呼んでも過言ではないほどの術師。それが美胡の知る万という人間だ。
その当人の顔が、何やら千年前のものとは異なっているのだが――、
「コガネ、あの人の泳者名を教えて」
[ああ! アイツは伏黒津美記ってんだぜ!]
比名子のコガネに対する要請、それにすぐに返ってきた答えに「チッ!」と真希が舌打ちする。
その名には聞き覚えがあった。先の戦いで真希が昏倒していた際、冥冥から聞かされた彼女たちの目的。死滅回游の平定・五条悟の開放・および真希らの仲間である、
「伏黒恵って子の姉の離脱、だったよね」
「あぁ。アレを見るにその目的は頓挫してるみてぇだけどな」
苛立たしげに歯を鳴らし、真希は万を睨みつける。
伏黒津美記は比名子と同様、羂索の手により死滅回游というデスゲームに巻き込まれた被害者だ。その弟の伏黒恵は高専所属の呪術師であり、他のメンバーである真希達に頼み込んで彼女の救出を可能とする<総則>を追加しようとしていた。
そのような話が進行しているのだ。勿論津美記は戦う力の乏しい術式覚醒型の泳者と思われていたのだが。
「顔がその子のままってことは覚醒型に擬態しようとしてたんだろ、卑怯者。残念だったねぇ、比名子のせいで計画がおじゃんになっちゃってさ」
「まったくだわ。余計なことをしてくれたものね、八百歳比名子。アンタのせいで宿儺との挙式が遅れちゃったんだから、その命で償ってもらわないと――ねッ!!」
瞬間、万の掌から生じた黒い液体が比名子に向かって襲い掛かる。
蛇口につけられたホースから出る水のように放射状に放たれた液体は、万の意思によってその先端部を銛のように変形させる。人体を抉る痛々しい
そのお返しにと万に突撃するは、比名子達の背後を固めていたダツの群れ。視界に収めようとしても入りきらないであろう数の式神が矢の一斉射撃のごとく空を飛翔し、鍛え抜かれた彼女の体を穴だらけにせんと四方から突き刺さる。
「――――」
瑞々しい肉が貫かれる幾百の音、濛々と立ち煙る煙。
それが晴れた頃にあったのはダツの式神にボロクズにされた成人女性の肉塊ではなく、鋭い棘を無数に生やす黒い球体と、その棘に破壊されて消えゆく式神の姿。
式神が全て消失した後、水溜まりを踏んだ時のような「ぱしゃり」という音がして、球体の中から無傷の万が悠々と現れる。
「――あいつの術式は「構築術式」、呪力を用いて無から物体を作れる。あいつはその解釈を極限まで拡げてるの。今の黒い液体は呪力によって物性を安定させたまま体積を変化させられる液体金属。だから銛や針みたいな形にもできるし、攻撃を防ぐ強固な壁にもできる」
背中にある虫の羽根も液体金属で作ったもの。美胡が簡潔に万の術式を解説する。その厄介さに比名子と冥冥が顔を顰め、厄介さではなく性質そのものに真希が驚愕し目を見開く。
真希の胸中に芽生える感情、それを抑え込もうと小さく頭を振る間に、「ふぅん」と万が興味深げに美胡を見る。
「よく知ってるのね。この術式、千年後の世界だとそんなにポピュラー? それとも、私ってばこの時代でも有名だったりするのかしら」
「自惚れんな変態ストーカー。お前の奇行っぷりも含めて今には欠片も伝わってないんだよ」
眉に深々と皺を溜める美胡の機嫌は見るからに悪そうだ。口ぶりからして美胡は平安の世から生きてきているのは察していたが、どうにも彼女と万の間には浅からぬ因縁があるように思える。
怪訝そうな視線を向ける比名子の様子を察し、美胡はげんなりとした様子でため息を吐いた。
「……まだあたしがただの野狐だった頃だからね。あたしがあいつを一方的に知ってるだけ。ゴキブリとかとおんなじでさ、嫌なものってどうしても目に入っちゃうもんじゃん?」
「あら、随分な言い様じゃない。私、あなたみたいな妖怪に何か恨まれることしたかしら?」
美胡が自分を嫌悪する理由がピンとこず、万は腕を組んで首を傾げている。
その様子に苛々として頭を掻きむしり、「チッ」と舌打ちをする。
「――あたしの親兄弟をなめして作られた毛皮の羽織。お前、それを引き裂いて捨てただろうが」
反吐が出る、美胡はまさにそういった様子で吐き捨てる。
何百年も前の話だ。妖狐たる美胡といえど家族がどのような顔をしていたかは記憶から薄れてしまっている。……それでもその半分が毛皮になったこと、その恨みはしっかりと輪郭を残している。
普段はその片鱗も見えないけれど、こうして関係者が目の前に現れれば嫌悪感はぶり返すものだ。
万はまだ思い出せないようでうんうん唸っている。その姿は隙だらけに見えて、その実全く隙が無い。
流石は平安の猛者、不意打ちの準備をしていた比名子も冥冥も攻めあぐね、戦闘態勢を取ったまま膠着状態に陥っている。
「……ああ、思い出したわ! あのクッッソ着心地悪かった毛皮! ムカつきすぎてズタズタにしてそこらの川にぶん投げたのよねそういえば。つーか大体私裸族だから服とか献上されてもいらな――」
「あっそ、死ね」
――瞬間、手足を獣化させた美胡が万に向けて飛び掛かる。
ちょうど、汐莉が敵対的な妖怪に対し、腕をもとの人魚の形に戻して攻撃する手段。それを真似て、鋭い爪で万を引き裂かんと襲い掛かる。
振り上げ、振り下ろし、当たれば重傷は免れない美胡の爪撃を、万は液体金属でことごとくいなしていく。
焦れた美胡が大ぶりの一撃を放つも、それもまた余裕の笑みを浮かべてさらりとかわして見せる。
バランスを崩して致命的な隙を晒す彼女に、呪術全盛の猛者は容赦はしない。自らの周囲を旋回していた液体金属、それを全て刃に変化させて一斉に叩きつけ、美胡の体を微塵にしようとする。
が、
「釣られたな、バーカ」
獣と化した足に溜めていた力を爆発させ、美胡は刃の襲撃から逃れる。衝撃で万の立っていた噴水が崩壊、その轟音と噴煙に紛れて美胡は距離を取る。
その勢いで周囲にあった建物を一瞬のうちに駆け回り、万の背後から組み付いてその首を万力で締め上げる。
「ぐ、ぎっ――」
詰まる息、停止する脳への血流に、万の口から苦鳴が漏れる。
このまま絞殺、なんて甘いことは言わない。全体重をかけて頸椎をへし折って――、
「――ラァ!!」
直後万の全身から液体金属が噴き出て、美胡が弾き飛ばされる。
全身に裂傷を刻まれ数mは吹っ飛ばされながらも、空中で制動して着地。そのまま万に追撃しようとし、
「――やっと」
「隙を晒してくれたね」
液体金属が万の周りから離れたタイミングで、比名子の式神と冥冥の烏が殺意を持った弾丸となり殺到。
今度こそ彼女の肉体はぐちゃぐちゃに粉砕され――、
「――――まあ、そう上手くはいかないか」
立ち上がった美胡が獰猛な笑みを浮かべ吐き捨てる。
一斉攻撃によって立ち上る煙の中からパキパキと奇妙な音を立てながら現れたのは、虫と人間の合わさったような奇妙な姿。
――虫の鎧。
蝶、蜂、甲虫、数多の生体機能を流用、特化させた液体金属の鎧を纏った超人が、ゆっくりと立ち上がった。
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