死滅回游 泳者 八百歳比名子   作:螺旋坊主

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 なんで私はこれを今日掲載するなんて言ってしまったんだ?
 書いてて頭が爆発しそうだったぞ……

 今までとノリが全然違うから拒否反応を起こす方もいるかもしれません。なので一応、高羽ワールドが終わるところに飛ぶリンクをここに作成しておきます。多分その下だけ読んだら今話で何が起こったか把握できると思うので……


第19話 バカサバイバー!?

 

 

 

「この場にいる全員、胃袋吐くまで笑わせてやる!! それが俺のお笑いだ!!」

 

 ――地下鉄構内。

 コンクリート片を背負いながら仁王立ちする髙羽史彦は、あたかも世界を救うヒーローが如き決め顔で天空を指差し宣言する。

 

 先刻、八百歳比名子によって追加されたルール。「<総則>11 受肉した泳者は泳者情報の名前欄に(受肉)と表示される」――この条件により、宿儺に受肉されている虎杖と受肉体を憎む天使が敵対してしまい、あれほど最悪で険悪な別れ方をしてしまったというのに。

 髙羽はまさに自信満々、失敗を想定した人間特有の揺らぎが存在せず、世界が自分に味方していると信じ切っているような笑みすら浮かべ、堂々と胸を張って大言壮語を吐いたのである。

 

 自分の勝利を疑わぬ強い視線にある種のカリスマ性すら感じさせる彼が、次に何を言うのか。全員がその一挙手一投足に注目したが――、

 

「…………………………………………」

 

 何も言わない。

 

 誰も口を開かない。

 

 会見の場の静寂にも似た重苦しい雰囲気が加速度的に増大していき、鉛のような質量をもった空気が肺の奥に沈んでいく。

 深海にでも叩き落されたのかと錯覚するような圧力が体へ押しかかる痛々しい沈黙が地下鉄の線路上を満たす。

 

 かすかな呼吸音すら拾ってしまいそうな、神経質な静けさの支配――そんな空間の停滞を、この場にいる彼女は許してくれない。

 

「――“光よ”“すべてを浄化したまう光よ”」

 

 来栖華――天使の光が、細長いラッパの形を成していく。

 その背後に、幾重もの光輪が展開された。

 

「“罪 咎 憂いを消し去り”“彼の者を導きたまえ”」

 

 聖堂で歌われる聖歌のような神秘を湛えた詠唱は、一点の濁りもなく透き通っている。

 構内を満たしていた湿った空気が一瞬で張り詰め、空間そのものが清浄化されていく圧迫感に虎杖の喉がごくりと鳴った。

 

「――『邪去侮の梯子』」

 

 告げられた言葉は厳かで、まるで断罪の処刑人。

 空に穿たれる巨大な光の柱。

 呪いを滅却する天使の術式、その奥義。

 

「――――」

 

 ――光が降り注ぐ。

 浄化、そして消滅。

 存在そのものを削り取るような神々しい輝きが、虎杖を――、

 

「Hey! DJ!もっと照明焚いてくれェェェェ!!」

 

 吞み込まなかった。

 

「え?」

「は?」

 

 思わずといった様子で間抜けな声が出る虎杖と伏黒。それは天使による終焉の光が何故か降り注いでこなかったからではなく、

 

「キラッ☆ キラッ☆ キラキラキラッ☆」

 

 どこからともなく現れた巨大ミラーボールが地下鉄の天井にぶら下がり、七色のレーザー光線が縦横無尽に飛び交っていたからだ。

 

 そしてノリのいい謎BGM、鳴り響くディスコミュージック。その出どころは髙羽史彦。全身から爆音で音楽が発せられている。何故。

 

「フィィィィバァァァァァァァァァ!!!」

 

 テンションMAXで最高潮にアガった髙羽史彦。

 服装はセンターマンのアレではなく、ラメ入りの真っ赤なスーツでセクシーに胸元全開。ゴツい星形サングラスに巨大アフロ。いつ用意した、そしていつ着替えた。

 

「く、来栖、これ天使の術式か!?」

 

「あ……あ……」

 

「ダメだ正気失ってる」

 

 必殺技をディスコ会場にDIYされた上浄化の光を全部パリピ照明にされ、カオナシみたいな声しか出せない来栖。

 哀れ彼女はしばらく戻ってこれないだろう。

 

 狂ったように腰を振る髙羽はそのままステップ、ターン、シャドーボクシング、突然ムーンウォーク。動きがうるさい。

 そしてその髙羽の横で踊り狂う影がもう一つ。

 肩から生えた四本腕、刺青の入った巨躯、異形の顔半分。これは、

 

「なにっ宿儺(だてん)!?」

 

「だて……宿儺!? え、宿儺!? なんで!!?」

 

 史上最悪の呪いの王が仏頂面でキレキレダンスを踊っていた。

 

 我が目を疑う天使、そして堕天という言葉に一瞬ピンと来ず反応が遅れる虎杖。そういえば高専で言われた宿儺の姿ってこんなんだっけ。

 その宿儺が出てきてるって、アレこれヤバくね? 慌てて虎杖が自身の体を確かめるが、その内側には変わらず宿儺の気配。

 史上最悪の呪いの王、顕現――みたいなことにはとりあえずなってなさそうでホッと息を漏らす。

 

 じゃあそこでダンスしてる四本腕はなんやねん。

 

「や……『邪去侮の……」

 

 ノリノリで踊ってる宿儺(?)をとにもかくにも消し飛ばそうと、さっきディスコ会場にされた技を性懲りもなく放とうとする天使。

 当然髙羽によって阻止される。

 

「面白いだろう? ここで踊っているのは何者か……わかる人はいるかな?」

 

「まね妖怪ボガート」

「近江?」

「近江?」

 

 天使の光をゲーミングカラーにし、陽気な声で語り掛ける髙羽の格好はスーツに変わっている。

 そして返事をした近江は裏地が赤のローブ姿になっていた。ハリー・〇ッターのグリ〇ィンドールの制服である。

 

「正解だよディーン。ヤツは相手が一番怖いものに姿を変える。幸い、簡単に退散させる呪文がある……練習してみようか、ネビル」

 

「………………………………え? 私?」

 

 髙羽(スーツ)に呼びかけられて思考放棄状態から戻ってきてしまう来栖。勿論グリ〇ィンドールのローブを着ている。

 来栖は「私ネビルじゃないですけど」とツッコミながら律儀に前に出る。それを言うんなら汐莉もディーンではないというツッコミは無い。

 

「杖を構えて」

 

 手を見る。手のひらに出現していたいい感じの棒に驚いて髙羽(スーツ)とを交互に見る。

 

「リ……ばかもの(リディクラス)!」

 

 来栖がヤケクソで呪文を放つ。

 光。

 変形。

 次の瞬間、宿儺はおばあちゃん風のドレス姿になった。

 ハリ〇タ原作のネビルのおばあちゃんの描写まんまである。

 

「ぶはははははははは!!!」

 

 目の前の存在が自身の裡にいる宿儺ではないことを認識した虎杖は爆笑。地下鉄に響く腹筋崩壊。

 宿儺(婆)がキレキレでターンしている。地獄絵図だった。

 

 それに対し、伏黒はそんな馬鹿を晒す相方を後目に「一体何が起こってやがる……」と、現在自分達に生じている事態について冷静に思考しようとしていた。

 高羽の術式――反転術式を使わぬ傷の治癒、ハリセン等の小物の出し入れ、その他不可解な事象を引き起こすソレが関わっていることまでは確信できたけども。

 

「髙羽史彦の術式は事象の想像、彼のイメージの具現化と強制……と、思っていたのだが」

 

 その想定とは辻褄が合わぬ事象の発生に、天使が内心で戦慄している。

 

 きっかけは、その場に踊りながら唐突に出現した宿儺の姿。

 全身に刻まれた文様の形状、体格、顔貌、変形した骨が耳を突き破っていることまで――その姿があまりにも、実物と酷似しすぎている。

 

 かつて宿儺が爆誕してからすでに千年が経過しているのだ。いくら奴が恐れられ、世界の全てを蹂躙していたとしても、それほど細かく再現されることなどあるだろうか。

 そんなことがあり得るのだとすれば、髙羽が刺青の形・骨の形の一切を余すところなく記憶するほどの宿儺マニアであるか――、

 

「――私のイメージすら取り込み、術式に反応(フィードバック)させているか」

 

 もしそうなら、これは術師自身のイメージの具現化と強制どころじゃない。

 周囲に存在する人間の記憶・思想・妄想がリアルな質感を持って召喚される――言うなれば魂の共鳴。

 そしてそれら全てが、髙羽のお笑い欲を満たすための方向に強制的に誘導されるのだ。

 すなわち、

 

「私は、虎杖悠仁を屠ることが出来ない……!!」

 

 高羽史彦の信条。それは「人から一生笑顔を奪うことはしない」だ。

 言い換えるならばすなわち、人を殺さないということ。彼の手が届く範囲であれば、誰かが誰かを殺すことすら阻止されるだろう。

 虎杖悠仁を殺すなら、高羽史彦の術式を止めねばならない。そしてそれは天使が虎杖に殺意を抱く限り――神への信仰を持ち続ける限り、あり得ない。

 

 だが、どんな術式にも穴はある。それは――、

 

「――なるほど」

 

 ふと、その場に凛とした声が響く。

 近江汐莉が、静かな足取りですっと前に出ていた。

 顔に浮かんだ慈母のような微笑みの裏には、深海の底ほどに深く沈殿した感情が隠れている。

 

「つまり君は、比名子のいない世界にも笑いが必要だと、そう言いたいのですね」

 

 柔らかく、怒気も威圧もない声ながら、その言葉に残る不穏な響き。

 いつの間にかセンターマン姿に戻った髙羽はその言葉に焦りながら、

 

「い、いや待ってくれ。俺は別に、そんなネガティブな捉え方をしてほしいわけじゃ……」

 

 ――いい流れだ。天使は汐莉達の話の推移を冷静に分析する。

 

 天使の見出した術式の穴、それは髙羽のお笑い欲が折れること。

 来栖自身がそれをするのは難しいが、止まらない髙羽のお笑いの勢いに水を差し、笑えるような空気でなくしてしまえばいいのだ。

 懸念点は、先程のハリー・〇ッター騒動で彼女が完全に呑まれていたことだが――、

 

「なのでまず君を八つ裂きにしますね」

 

「「理論飛躍しすぎだろ!!」」

 

 脈絡も流れも関係なく論理を斜め上に飛ばす汐莉に全力でツッコミを入れる髙羽と虎杖。あ、やっぱ駄目だこれ。天使が内心で頭を抱える。

 魂のシャウトをかます髙羽は、両腕を人魚の形に変化させた汐莉に両肩からクロスカットされた。

 

「えいっ」

 

おっこん!?

 

 爪撃を食らった髙羽は吹っ飛んで地下鉄構内の壁にめり込む。一応斬撃属性なのに何で吹っ飛ぶ。

 あとなんだその悲鳴。

 

「おっこん!? ってなんだよ!」

 

「広島風お好み焼きの愛称だよ!」

 

「知るかぁ!!」

 

 術式に逆らえない虎杖が力の限りツッコみ、返ってきた髙羽の答えにまたツッコむ。

 ちなみに広島風お好み焼きは格子状にクロスカットされる決まりです。クロスカット繋がりで「おっこん!?」っていう悲鳴を出したわけですね。分かりにく。

 

「待て待て待て! 早まるな! 俺達には言葉がある!」

 

「比名子のいない世界に価値はありません」

 

「重い重い重い!!」

 

 猛烈な感情の重圧に恐怖を覚え始める髙羽。

 汐莉は虚空を見つめる。

 

「地下鉄とは胎内。線路とは臍の緒。つまり電車は出産。人は皆切符を切られながら生まれてくるのです」

 

「え、何? 急にパプリカ始まった?」

 

「ですが改札は閉じています。Suicaが足りません。チャージして下さい」

 

「知らねぇよ!!」

 

「比名子はどこですか」

 

「話の流れがジェットコースター!!」

 

 心が弱っていたのだろうか、汐莉は完全に術式に取り込まれてこんなになっちゃった。あはっあはっ。

 オマエ元凶だろ何とかしろと視線を送る来栖だが、当の髙羽は場の主導権を握られてツッコむことしかできていない。そんなだから売れないんだ。

 そして汐莉の瞳から光が消える。

 

「私は魚類。魚類は回游する。回游とは人生。つまり比名子はマグロ」

 

「比名子をマグロにするな!!」

 

「私は冷凍保存されます」

 

「されるな!!」

 

「そのあと業務スーパーへ」

 

「なんの人生だよ!!」

 

「いや、人魚は魚類じゃなくて自然発生するって習ったぞ」

 

「恵、多分ツッコむ所そこじゃない」

 

 愉快な言葉を垂れ流す汐莉に交互にツッコむ虎杖と髙羽。その流れをぶった切って終わった話題に異論を挟む伏黒。オマエ吞み込まれた?

 そして伏黒の発言に冷静に対処する来栖。君は無事か。

 

 正気を失った汐莉の肩を虎杖が掴んでガクガク揺らす。

 

「戻ってこい近江! オマエ今夢の中で今敏監督と対談してるぞ!!」

 

「――はっ」

 

 汐莉が我に返る。

 目に光が戻った汐莉は、数秒の沈黙ののち、

 

「…………今、何を」

 

「こっちのセリフだわ!!」

 

「私は……」

 

 汐莉の肩が震える。

 感情が希薄であるはずの人魚の肌に、確かな赤みが差している。

 

「散々おちょくられました……」

 

「自分からボケ倒してただろ!!」

 

 言葉が通じるようになってもなおツッコむことしかできない髙羽。そんなだから(ry

 

「許しませんよ……よくも私をここまでコケにしてくれましたね」

 

 溢れ出る殺気に空気が重くなる。

「ヤバいぜ髙羽!!」と警戒する虎杖に「くっ!」と身構える髙羽。

 

「殺してやる……殺してやります日車寛見

 

「違ーーーーーーう!!!」

 

 やっぱり正気に戻っていなかった。虎杖は慟哭する。

 殺意を向ける人間が想定していた誰とも違う。そもそも日車はこの場にいない。というか汐莉は日車と面識あったの?

 

「いやでも、殺意の対象がいないんなら逆に無駄な争い起きないんじゃ……」

 

「ん、何だ? ここは一体……」

 

「日車いたーーーーーー!」

 

「しゃあっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 何かの作為が働いたかのように唐突に召喚される日車。いきり立った汐莉が爪をむき出しに突撃するが、日車もガベルを変形させて咄嗟に応戦する。

 流石の日車とて不死身の人魚相手では長くはもたない――あれ、もつのかな。日車だったら戦いで急成長してなんだかんだ勝つ気がしてきた。

 

「えーっと……ひ、日車が危ねぇ! 近江を止めるぞ伏黒!」

 

 呑まれかけた伏黒の体をゆすり、挙動のおかしい汐莉を止めようと呼びかける。

 

「あ、ああ、わかった……!」

 

 混乱はしていても流石伏黒は冷静だ。急な要請でもすぐに行動に移してくれる。

 

「『ブック』! 『ゲイン』! 玉犬・渾!!」

 

「いや世界観世界観」

 

 唐突にグリードアイランド編のバインダーを出してきて虎杖は頭を抱える。出てきたのが「十種影法術」の式神とはいえ出し方が全然違う上それに疑問を持ってない時点で伏黒はもうダメだ。

 とはいえ式神は強いのでこのまま加勢を頼むべきか悩んでいると、

 

「「ハンターハンターだーーーー!!!」」

 

「ぐはぁ!?」

 

 少年のようなはしゃぎ方で突撃してきた髙羽と汐莉に伏黒が吹っ飛ばされる。

 汐莉は何か10歳くらいの少女の姿になっていた。

 

「おいスゴいぜ! 犬以外にもいろいろ入ってやがる!」

 

「『ゲイン』! 岩!」

 

「あぱきょ!?」

 

 強奪したバインダーを漁っていた汐莉がゲンスルーを嵌める用のデカい岩を出現させ、奇っ怪な悲鳴を上げて髙羽が吹っ飛ばされる。

 さらに汐莉は物体を乱発。聖騎士の首飾り、バブルホース、石、石、大天使の息吹、魔虚羅、そしてついには、

 

「『同行(アカンパニー)使用(オン)! 広島結界!」

 

 光。

 暴風。

 空間が歪む。

 

「うおおおおおおお!?」

 

「どうして死滅回游でG・I(グリードアイランド)システムが動いているんだーー!!」

 

「知らねぇーーーー!!」

 

 居合わせた人間の体が光に包まれ、その光がはるか遠くへ向けて飛翔していく。

 

 高羽と来栖を除いて。

 

「「え?」」

 

 置いてけぼり。

 

「「え?」」

 

 みんな消えた。

 

「「え?」」

 

 二人(三人)だけの空間。

 

「――逃げられた」

 

 来栖の中の天使が、絶望の声を漏らす。

 

「「………………」」

 

 高羽と来栖がプルプルと震える。

 

「待って待って待って待って! なんで俺達ハブられてんの!?」

 

 叫ぶと同時、ピンポンパンポーン♪ とどこからともなくアナウンスが聞こえてくる。

 

『同行人数は4名までです』

 

「そんな設定はねぇーーーーーー!!!」

 

「恵戻ってきてーーーーーー!!!」

 

 ハンターハンターの設定違いに激昂する髙羽、想い人と引き剥がされ悲鳴を上げる来栖。

 二人の絶叫は何にも拾われず、地下鉄構内の闇に吸い込まれていった。

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 ――光。

 

 それは単なる発光現象などではなく、視界という視界を暴力的に塗り潰し、世界そのものを白一色に上書きする奔流。

 髙羽の術式によって再現されたハンターハンター・グリードアイランド編のスペルカード「同行(アカンパニー)」。

 それによって射出された飛翔体は、音を置き去りにした速度で空を切り裂き、広島の一角を筒状に覆う巨大な結界をすり抜ける。

 

 マッハを超えた移動である以上、本来ならば衝撃波が都市を薙ぎ払っているはずなのだが……そういった破壊は一切なく、光だけが静かにとある病院屋上に着陸した。

 

「――っ、はぁ……はぁ……おい虎杖、一体何が起こったんだ?」

 

 屋上に投げ出されるように這いつくばった日車寛見が、珍しく呼吸を乱しながら額を押さえる。

 無理もない。何もわからず転移させられ、いきなり爪の鋭い少女に襲われ、挙句光に包まれてどこかに飛ばされ。流石の日車とて状況を理解できるはずもなかった。

 

「えーっと、これは髙羽って泳者の術式が影響してて……」

 

 事態を際限なくややこしくした髙羽、彼について何とかどうにか説明しようとしたが、途中で「あれ?」と首を傾げる。

 

 肝心の元凶が見当たらない。

 

「……髙羽は?」

 

「いないな……そういえばさっき来栖と一緒に取り残されてたような……」

 

 伏黒がぼそりと呟く。

 言われてみれば、来栖の姿もその場にない。

 

 確かに転移の直前、地下鉄構内で「「え?」」と情けない声を上げる二人組が居た気がする。

 だが、それを思い返したところで髙羽と来栖は現れない。

 

 ――代わりに。

 

「………………や………」

 

 屋上の片隅から、消え入りそうな声が漏れた。

 

「や?」

 

「……やっと、抜け出せました………………」

 

 幼い少女の姿のまま地面にへたり込んでいた汐莉が、肺の奥に溜め込んでいた苦しさを吐き出すように、深い、深いため息を吐く。

 

 ただでさえ憔悴していた様子の彼女だったが、それに加えて今は魂が半分ほどすり減った後みたいな顔をしていた。

 実際、すり減っていたといってもいいかもしれない。なぜなら「同行(アカンパニー)」を使用したのは彼女だ。そして、その前には髙羽史彦の「超人」という災害みたいな術式に延々と巻き込まれていた。

 

 構内で繰り広げられた狂乱を思い出し、虎杖達は自然と納得する。

 彼女が「同行(アカンパニー)」を使ったのは、一つには勿論、自分が申し出た協力要請を受けてくれた虎杖と伏黒、その二人を天使という脅威から少しでも遠ざけるため。

 もう一つは、

 

「あー……めちゃくちゃ嫌だったんだな、髙羽の術式(アレ)……」

 

 同情を禁じ得ない。あれは敵味方関係なく精神を削る。

 特に生来の気質からああいうノリに弱いであろう汐莉にとっては、常時脳内に爆音でボケを流し込まれるような地獄だったのだろう。

 そんな理解を得て、全員が一様に「そりゃ逃げたくもなる」という目を向けた。

 

 ――と。

 

「なになに、今の気配……!」

 

 病院の階下から慌ただしい足音が響く。

 どやどやと集まってくる複数の気配。

 屋上の扉が勢いよく開かれ、現れたのは少女達。

 

 ――つい先刻、平安の猛者たる万を打倒し、体を乗っ取られていた津美記を救出し、この病院に運び込んだばかりの呪術師達である。

 

「……おや」

 

 先頭に立つ冥冥が、屋上に立つ人影を認めて軽く目を細める。

 

「君達は虎杖君と――」

 

「恵じゃねぇか。オマエら、確か東京第1結界に行くって言ってなかったか?」

 

 続けて声を上げたのは禪院真希。

 驚き半分呆れ半分、死滅回游において「予定通り」などという言葉はもはや存在しないのかもしれない。

 

「……半魚人!?」

 

 そして最後に、ぎょっとした声を漏らしたのは社美胡。

 

「お前今東京にいるはずじゃ……つーか何でまた子供の姿になってるわけ?」

 

 当然の疑問である。事情を知らぬ側からすれば、数分前まで東京にいたはずの彼女が、なぜか広島結界の病院屋上に幼児姿で転がっているのだから。

 

 ――だが。

 

 そんな周囲の声など、彼女の耳には全く入っていなかった。

 

「ぁ……」

 

 小さく。

 

 本当に小さく、息が漏れる。

 

 驚愕とも、安堵とも、恐怖ともつかない、小さな音。

 

 へたり込んでいたはずの汐莉が顔を上げ、ただ一点を見つめている。

 

 その視線の先。病院の扉の前に立つ、一人の少女。

 

 彼女は、掠れた声でその名を呼ぶ。

 

「――比名子」

 

「汐莉さん……」

 

 視線が交差する。

 その瞬間だけ、屋上にいた者たちは奇妙な感覚を覚えた。

 

 それは、空気が止まったような。音が遠のいたような。

 あるいは、互いが互いを視界に入れた瞬間、その一角だけ別世界へ切り離されたような。

 

 ――それは、再会。

 汐莉にとって最も望んでいた邂逅。

 

 ――同時に、最も望んでいなかった遭遇だった。

 

 

 




 高羽ゴメン!! 私の力量じゃただ事態をややこしくするしか出来なかった!!
 そして多分このノリもう二度とやらん!!

 感想・高評価をくれると作者のモチベが上がります、なんて今回ばかりはとても言えない……
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