サブタイで分かるかと思いますが、今回ギャグ回です。たまにはいいよね。
そして久しぶりに日間ランキングの2ケタ台に載りました。皆様ありがとう!
今後ともどうか拙作をご贔屓に!
……でももっといっぱい☆9☆10欲しい!!!!
「――――えいっ!」
と、えらく気の抜ける掛け声とともに、八百歳比名子と禪院真希の模擬格闘戦の幕が上がる。
呪術高専における授業の一環。呪力アリの近接戦闘を主軸にした実戦形式鍛錬。昨年は乙骨憂太が、今年は伏黒恵と釘崎野薔薇がしごかれてきた真希によるスパルタ教育だ。
『オマエ、術式使えなくなったらキツいんじゃねぇか?』
『えっ』
死滅回游平定のため、高専勢力およびそれと手を組む泳者達が一通りの能力確認を行っていた際、八百歳比名子の弱点――戦闘のほとんどが術式頼りで、領域等で術式が使用不能になった時の対策の少なさを真希が指摘。
あとで比名子と戦う権利と引き換えに鹿紫雲一――受肉型泳者であり、電気の性質を帯びた呪力特性を有する術師。その性質を応用した雷速の呪力放出で並みいる強豪泳者達を撃破し続けて200点もの高得点を稼ぎ、高専の術師・秤金次との死闘の果てに手を組んだ死滅回游屈指の強者。
400年前には無双の術師として闘いの日々を送っていた鹿紫雲は、無論徒手空拳も超一流。そんな彼も指南役として誘い、この模擬戦が組まれた。
比名子は、強い。今の彼女は領域など使用するまでもなくほぼ全ての敵に楽勝してしまえる実力を有しているのは間違いない。
が、今度ことを構えようとしているのは史上最強の術師・両面宿儺に加え、千年もの間呪術ノウハウを溜め込んだ羂索、広島結界で比名子を返り討ちにしたあざみ。領域を使わずに、どころか使ったとしても倒しきれるかどうかは怪しい。
だからこそ、五条悟を除けば最高戦力と言って過言ではない比名子の隙をより無くそうと、真希の鶴の一声で急遽格闘戦が始まったのだが。
「やぁー!」
「…………」
指導役の真希に向かって掌底を振りかざし、殴りかかり……呪力を込めた腕の遠心力に負けてその場で思い切り回転。足がもつれ、腰が変な方向へ捻れる。
結果として生まれた動きは、酔っぱらいの盆踊りと故障した操り人形を足して2で割ったような代物である。
真希に攻撃が届くこともなくバランスを崩してすっ転び、呪力だけは込められた手が無駄に大きな音を立てて床に破壊痕を形成。
およそこの国の人間が千年かけて積み重ねた武術、そして呪術という文化に対する冒涜的所業である。
「「やる気あんのかテメェ?」」
「ごっ、ごごっごごめんなさい……!!」
あまりに悲惨すぎて、青筋を立てながら真希と鹿紫雲が比名子に詰め寄る。
2週間前までは戦闘経験0にしたって、いくら何でも自分たちをコケにしてんじゃねぇかってレベルのモノをお出しされたらそりゃキレる。
そしてそんなモノをお出しした自覚のある比名子は平謝りするしかない。
「オマエ私と戦った時バックステップで刀避けてたじゃねぇか。あの身のこなしどこ行ったんだよ」
「違うの、あれは術式で動きを補助してたの! 単に後ろに飛ぶだけの動きだったし……」
「オマエ本当に最強格なんだろうな? 何がどうなったらこの体たらくで強くなんだよ」
「それはその、結界に入った状況が状況でゆっくり体術鍛える暇がなかったから、あのその」
真希と鹿紫雲の圧が凄すぎて、尻もちをついたまま後ずさりする比名子の言い訳はしどろもどろだ。
顔をそらして手をかざす何とも微妙なガード体勢で威圧感に抵抗する比名子を見て、美胡は遠い目をした。
「……そういえば、比名子って駄目なことはとことんダメダメな子だったわ」
魂が抜けていくような空虚な声が模擬戦の場である道場にむなしく響く。
比名子を詰めていた鹿紫雲が真っ先に反応し、つられて真希、野次馬である虎杖、釘崎、そして近江汐莉と日車寛見が美胡の方へ目を向ける。
「ちょっと前、美胡の保護者の伯母さんが関東に帰っちゃう都合で自炊しなきゃいけないことになったのね。で、今まで自分でお料理したことないっていう比名子のために、まずは卵焼きの作り方から仕込もうとしたのよ。フライパンを動かしながら卵焼きを途中まで折り畳んで、じゃあ後はやって見せてって」
「はあ、卵焼き」
ふーんと釘崎は鼻を鳴らす。お弁当に入っている典型的なだし巻き卵の作り方だ。焼いて形を作るまで見本を見せるという、初心者にしても少し過保護すぎるくらいの手厚い指導だと釘崎は感じる。
「で、比名子は卵焼きを壁に叩きつけちゃったんだけど」
「なんでだよ」
いきなり想像の斜め上をマッハ飛行していくような美胡の発言に釘崎の顔が引きつる。
あれ、コイツこんな冗談言うタイプなの? 急に飛び出してきたバカみてぇな失敗談に彼女を訝しむ釘崎。だが美胡の表情はいたって真面目で真剣だ。マジ??
「あのほら、卵焼き巻く時ってフライパンごと動かしながら手前に畳んでくじゃん? 比名子はそこで力みすぎてこう、バットみたいにフライパン振っちゃったのよ」
「マンガかよ」
「マンガでも今どき流行んねぇよ」
呆れに呆れを重ねた視線と共に辛辣にツッコむ釘崎、さらに辛辣にツッコむ真希。さすが呪術師の女、容赦が無い。
美胡はさらに続ける。
「ミートボールとウインナーは炭になるし」
「炭」
「炭」
復唱する虎杖と釘崎。比名子は顔を赤らめて下を向いている。マジかコイツ。
「あとは、お米2合用意しておにぎり作ってもらったんだけど」
「…………あぁ」
「海苔の残骸しか残んなかった」
「医者呼べ」
「いや術師だ」
一番簡単そうなおにぎり作りですら崩壊している比名子の料理センスに、いよいよ頭の問題か呪いを疑い出す鹿紫雲と真希。
ボロクソに言われすぎてその場に蹲る比名子。哀れ。
「で、でもさ! 頑張って特訓したら、比名子だってちゃんと美味しいお弁当作れるようになったんだよ!」
「美胡ちゃん……」
冷ややかな視線を向けられて際限なく落ち込む比名子の様子を見ていられなくなったか、美胡が何とかフォローしようとする。
ほんの少し顔を上げる比名子。
「……で、矯正にはどんくらいかかったワケ?」
すっかりジト目になってしまった釘崎がぶっらぼうに質問を投げ捨てる。
それを受けた美胡は目線を泳がせながら「えっとー」と指をいじりながら、
「………………………一ヶ月」
「「終わりだ」」
卍解へし折られたどっかのチョコラテ主人公のように天を仰ぐ真希と鹿紫雲。
本来コツさえ教われば誰でもできる程度であるはずの弁当作りにすら何十日もかける時点で、基本の習熟すら年単位となりうる格闘術を実践レベルまで昇華するなど夢のまた夢だった。
「ご、ごめんなさい……」
「謝んな。余計しんどくなる」
皺の溜まった眉間を揉みながら真希が疲弊した声を出した。
「……まあ、仕方のない部分もあるんじゃないか」
耳に届いた
比名子同様に異次元の呪術センスを持ち合わせた覚醒型泳者・日車寛見の分析に、その場の全員の視線が向く。
「八百歳は2週間の間、術式だけを異常に成長させてしまった。基礎的な身体操作すら術式の補助ありきの歪なものだったんだろう。足で立てない赤ん坊に自転車に乗れと言っているようなものだ」
「あー……確かに比名子、体育の授業がここまで壊滅的だった覚えは無いわ。呪力が関わってくると崩壊するのかもね」
なるほどねーと納得し、美胡はうんうんと頷いた。
虎杖は「じゃあ2週間であんなガベル捌きしてたアンタは何なんだよ」というツッコミをすんでのところで飲み込んだ。
――ふと、挙動不審気味に周囲を見回す汐莉の姿が目に入る。
「なに半魚人、打ち上げられたイワシみたいな顔色して」
日車から視線を背けた美胡が憎まれ口交じりで事情を聞いた。
「いえ……」と神妙な面持ちで汐莉が返答し、
「この一連の流れが髙羽史彦の術式の影響ではないかと……」
「トラウマになってんじゃねぇか」
東京第1結界で突如勃発した災害のようなボケ地獄、そこで受けた傷は深い。
精神ダメージが未だ癒えていない汐莉を見る虎杖の目は、もはや憐憫そのものだった。
「……美胡ちゃん、元気になったよね」
ふと、比名子が体育座りのまま美胡に微笑みかける。それに反比例して美胡の顔はビキリとひきつる。
言えるわけがない。今も心は沈んだままだけど、目の前で酔っぱらいの盆踊り見せられて色々飛んだなんて。
「あ、あたしはいいでしょ。それより比名子の方が元気じゃん! さっき出てった時はどうなることかと思ったのに!」
「う……」
美胡に言われ、比名子は言葉を詰まらせる。強引にでも話題を逸らすことに成功し、美胡は内心ホッとした。
実際気にはなっていた。壁を突き破るほどに錯乱した比名子が、この数時間の間にある程度平静を取り戻しているのだから。
「――悠仁が、比名子を慰めてくれたんですよ」
そう言った汐莉は、薄く細い笑みを美胡に向ける。
先ほどの狼狽が無かったように冷静を装っているが、相変わらず顔色は悪い。
「へぇー、虎杖が?」
目をぱちくりさせて感嘆しながら、美胡が驚きの声を上げる。
その視線の先、自分に指を差して「俺?」といった感じの顔をしている虎杖がそんなことを為した事に素直に感心したからだ。
虎杖を侮っていたわけではない。ただ、比名子の心を仮初でも救うのはちょっとやそっとでは不可能であると知っているだけで。
釘崎の病室で留守番をしていた美胡には事情はよく分からないが、まずは比名子によくしてくれたことに対してお礼を言おうとして、
「ええ。比名子が自死してもいーんじゃね? と」
「なんてこと言ってんだお前この野郎」
「待て待て待て! 近江オマエ言い方ってもんが!」
「美胡ちゃん違うの! 虎杖君は私に寄り添ってくれただけで!」
一瞬で元の妖狐の姿に戻って虎杖にかぶりつく美胡。
誤解しか生まない汐莉の発言にキレた美胡を比名子が必死に宥める羽目になった。
「――ああ! オマエか!」
と、何やら合点のいったような声が唐突に部屋に響く。
その声の主――鹿紫雲一が、「いやな?」と言葉を重ねて、
「数日前にこの高専に来てから、どっかで聞いた声だなとは思ってたんだよ。ただどうしても思い出せなくてな、ずっと喉の奥に小骨がつっかえてるみたいでイラついてたんだ」
「…………?」
「けど、その狐の姿見たら一発で思いだしたよ。いや、ガキの頃の思い出とはいえ意外と覚えてるもんだな」
世間話をするような感覚で話す鹿紫雲。彼の話している事が、いつの間にか人型に戻った美胡にも、美胡を宥めていた比名子にも、齧られていた虎杖にも、それ以外の面々にもわからない。
ただ一つ理解できるのは――彼の言葉が向けられているのは、美胡だということ。
「俺のことは覚えてねぇか? いや、こういうのはやった奴は覚えてないもんか」
「…………何を、言ってる……?」
鹿紫雲の喋り方は平静時と変わらない。変わらないからこそ、そこに言いようのない不穏さを感じ、部屋の室温が加速度的に下がっていく錯覚を覚える。
曇天の水平線を見つめた時に似た、言いようのない胸騒ぎを抱え、喉が張り付く感覚を覚えながら美胡が疑問を声にする。
鹿紫雲は、「俺はほら、アレだよ」という、気の抜けた言葉に続け――、
「――400年前にオマエが八つ裂きにした家族、その時に残されたガキだよ」
――およそ考え得る最悪の事実を、軽い口調で叩きつけた。
わたたべ原作の「わたたべっ!」でも最後にちょっと不穏さを出してくるので、本話も不穏にしてみました。
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