仕事で失敗が続いて死にかけてたメンタルが少しずつ戻ってきたので、これからも精一杯作品を書いていきます!
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作者のモチベが向上します! どうか!!!
――十幾ら年ぶりの敗戦の苦い味を味わった少し後、現代最強の術師・五条悟は彼を迎えに行った八百歳比名子とともに埼玉県木呂子鉱山――死滅回游の平定を目指す呪術師一派、呪術高専戦力の集まっている場所へと足を運んでいた。
「――五条先生!」
「蒼」の応用によってワープし、その場に姿を現すや否や、すぐさま虎杖悠仁をはじめとした術師達が駆け寄ってくる。
心配だった、安心した……という感じではなく、その多くは呆れを薄く塗ったようなやれやれ顔。五条悟は最強であり、今まで勝って当たり前の存在であったが故、彼の安否を心配していたという言葉はどうしても欺瞞になる。だからこそ揃いも揃って「随分遅かったなコイツ」と言葉より先に語る表情をしているのだが……虎杖や乙骨のように再会を無邪気に喜ぶ数人を除き、本当にみな同じ顔をしているものだから、五条は頭の中で苦笑を浮かべた。
「皆内心が顔に出すぎじゃない? さっきまで僕、大陸のプレートに挟まれてたんだけど」
「あー、じゃやっぱさっきの地震って五条先生の仕業か」
「『無下限呪術』を持ってるって言ったって、プレート動かすエネルギーって核の何個分よ。規格外にも程があるでしょ」
術師どころかあらゆる生命が絶対に死ぬ超圧力空間に晒されていたことに対し、五条は何でもない日常のように愚痴り、虎杖と釘崎はそれを当たり前のように受け入れる。そのほかの面々も大体が表情を動かしていない。
「獄門疆」解放直後にいきなり深海、それも大陸に挟まれるみたいな極限状況に放り込まれていたと知った比名子は一瞬ぎょっとしたのだが、周りの人間があまりに動じなさすぎてそっちの方にも驚いていた。
「……真希さん、五条先生の認識って皆そんな感じなの?」
「そりゃ悟だからな」
比名子はそそそ、と禪院真希の横に行ってこっそり話しかける。返答はにべもない。
真希が冷たいのではなく、現代の術師の五条悟の捉え方はマジでそんな感じなので、それ以外に答えの返しようがなかった。
そうなんだ……という言葉が聞こえてきそうな引き顔をする比名子はさておき、五条はその場にいる面々を見て目を細める。
物理的時間の流れない「獄門疆」の内部は、一秒を永遠に引き延ばされる感覚と、永遠が一秒で流れ去る感覚が共存する地獄だった。そんな、人が想像しうる限り最悪の環境から解き放たれた娑婆の空気は実に美味い。自分が手塩をかけて育てた生徒達に囲まれているならなおさらだ。
封印されていた間、あの脳みそ野郎の手によって様々な災厄が引き起こされたのだろう。それでも五条と親しい術師達は変わらぬ空気で出迎えてくれて、それが五条の心に染みていく。
中には五条の知らない術師もいたが、この場で高専勢と共にいるということは、きっと協力関係になってくれたに違いない。暖かい空気に触れ心が大らかになった五条は、その雰囲気のまま彼らを受け入れる。
それが例え縦に半裸の変態であっても、天使のような姿をした受肉体であっても、渋谷の地下で一般人を殺しまくった呪胎九相図であっても――、
……………………………………ん?
「……………」
「……………」
五条が見回した視界の端に映った、高専勢力の中に当然のように混じる脹相。
渋谷の地下で一般人を殺しまくった呪胎九相図。
二人の目が合い、その場に沈黙が流れる。
「……………」
おもむろに虚式「茈」の構えを取る五条。
「待って待って待ってぇぇぇ!!!」
その直後に泡を食った虎杖が二人の間に割り込み、場の空気が弛緩した。
--------
「冗談冗談! 別にこの場にいる以上は味方だって分かってたって~」
「いやアレは冗談で済ませれる話じゃないって! 人死にが絡んだ背景をネタにするのマジでやめてくんない!?」
「わかる」
「わかる」
「ごめんなさい」
五条の何とも不謹慎なジョークに猛抗議する虎杖。それに食い気味で被せられた伏黒と釘崎の賛同に、虎杖はなぜか綺麗な土下座を見せる。美しい黄金比に折り畳まれた体を見て、比名子は首を傾げる。
「真希さん真希さん……」
「あー、アイツ夏頃に一回死んで生き返ってな。恵達と再会した時に冗談でオッパッピーとか言って空気凍らせたんだよ」
「えぇ………」
あんまりにもあんまりな真希の説明に、本日二度目のドン引きを見せる比名子。
一度死亡したことになって悲しんでいたであろう人達の前でオッパッピーは非常によろしくない。死者蘇生という生き物として意味不明な挙動はスルーして*1、比名子は一般人としての良識に則って虎杖に「それは良くないよ」の目を向けた。
「……だが、俺は本来殺されても仕方がない存在だ。ここにいるのは、九十九に人間にしてもらったからだろうな」
その、冗談のネタにされた脹相――呪霊との混血の呪胎九相図が、哀愁を漂わせながら言葉を零す。
命より大切な二人の弟を喪い、半ば自暴自棄だった脹相は、何の信念もなく渋谷の人々を虐殺した。
“呪い”として生きる道を選んだその矢先、“人”として苦しむ悠仁が現れ、異なる存在として道を分かたれたことを悟った脹相は、羂索打倒のため命を使い果たそうとした。
今彼がここにいるのは、共に羂索と戦い散った九十九由基が「人として生きろ」と言ってくれたからだ。
同じ特級術師だったとはいえ、五条は九十九との交友はあまりない。彼女がどのように脹相と関わったかは、五条には窺い知れない。
とはいえ、
「そんな脹相が仲間になるのが認められるくらい、のっぴきならない事態が起こってるんだろ?」
「――――」
「教えてくれ。僕が封印された後の出来事を、最初から」
軽薄な笑みを引っ込め、真剣な表情で、高専の術師達を見据える五条。
大変な任務、大勢の命にかかわる事態、そんなときに時たま見せる真面目な顔。元が絵に描いたような美貌であることも相まって、周りの面々は気圧されたように押し黙る。
しかしその場にいた中で唯一、虎杖だけが手を挙げて、
「最初からでいいの?」
「ああ。クソ小さい箱で寝かされてた分取り戻さないと」
「分かった」
確認を取り、返ってきた言葉に、覚悟を決めたように目を閉じる虎杖。
その表情の意味が理解できず、五条は大きな目をしばたたかせた。
「――まず五条先生が封印された後、先生の救出に向かった俺は脹相と交戦することになって、戦いの果てに負けたんだ。瀕死の状態になってその場に放置されたんだけど、その隙を突いて敵の特級呪霊が俺に宿儺の指を食わせたんだ。一度に10本も指を食わされたからアイツに体を取られちまって、宿儺が大暴れした結果、大勢の一般人諸共渋谷の一角が更地になっちまった」
「お、おう……のっけからヘビーな内容だね。じゃあ、次は?」
「その後俺は真人ってツギハギの呪霊と戦って、勝ったはいいけど羂索……夏油って術師の肉体を乗っ取ってる奴に呪霊が取り込まれて、ソイツの魂を操る術式を悪用して大勢の人間を巻き込んだ呪いを発動させやがったんだ」
「………………」
一般人虐殺という罪科を背負う羽目になった教え子に心を痛めるやら、羂索に対して「アイツマジでろくなことしねぇな」と思うやら、いろいろな感情が芽生えたせいで逆に言葉が出てこず、五条は目をつぶって首を回す。
そして今度は伏黒が手を上げ、
「俺の姉貴、津美記が意識不明だったのは先生も知ってますよね。アレの原因がまさにその呪いと関わっていて、どうやら羂索によって呪物を取り込まされていたらしいんです。奴の手によって脳にマーキングされた、脳の構造が一般人だった潜在術師も含め、その大規模呪術によって一斉に封印が解かれた。全国で同じ被呪者が千人いたみたいで、羂索はソイツらを死滅回游という殺し合いに参加させました」
「そんなモンが唐突に勃発して、しかも悟が封印されたわけだろ? 当然御三家も権力争いが激化する。禪院家当主のあのジジイは渋谷で戦死したから、次の当主選びも同時並行で行われた」
伏黒の後、矢継ぎ早に情報を投げつける真希。五条は顔を手で覆う。
「…………………………直毘人さんの次ってことは、つまりあのカス野郎? このタイミングでそれじゃ、禪院家の助力はもう絶望的か……」
「いや、禪院家当主になったのは直哉じゃなくて恵だぞ」
「えっ」
「直毘人の奴が悟が意思能力を喪失した場合は恵に全財産を譲るって遺言残しててな、そのせいでキレた家のクズどもが恵に罪を擦り付けて誅殺しようとしやがったんだ。しかも目の上のたん瘤だった私と真依をついでに処分しようと目論んでた。そのせいで真依は死んだが、その死と引き換えに私の天与呪縛が強化されたから、禪院家は私が丸ごと滅ぼした。で、その足で私は死滅回游の平定に向かったんだ」
「その死滅回游なんですけど、
「――――ちょっと待って」
真希と乙骨の発言を浴び続けた五条は眉間を指でつまみ、もう片方の手を突き出す。
五条の言葉と同じ、「待て」の意味のジェスチャーだ。彼はそのポーズを保ったまま、言う。
「情報量が多い」
確かに、五条は最初から全部話せと言った。
だが、猛烈な勢いで開示される情報の多さは五条の見積もりを遥かに超過しており、脳内はもはやパンク状態だった。
珍しく大混乱している五条の様子に、その場の面々はぱちくりと瞬きし、周りの様子に視線を向ける。
そして、
「私が死滅回游の結界を平定に回ってるときに広島結界で比名子と戦って危うく死にかけて和解したと思ったら千年前の術師に体を乗っ取られて恵の姉ちゃんが比名子を点狙いで襲ってきて戦ってるうちに比名子が覚醒して一瞬で中の術師だけ殺してその後は髙羽の術式で広島結界まで飛んできた悠仁達と合流できたけど同行してた人魚が宿儺に体を乗っ取られて」
「待てって言ってるダルルォ!!? ちょっと頭を整理させろぉ!!」
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「――そもそも今って何日よ?」
生徒たちによるおふざけ交じりの(乙骨と虎杖は天然)情報共有で頭の疲れた五条は、座り込んだ岩の上から質問を投げかける。
「11月16日ですけど*2」
「封印されて2週間ちょっとか。そんだけ時間たってればそりゃ情報も多くなるか……」
深々とため息を吐く五条、彼は自分の不在だった期間の長さに改めて気が滅入っている。
この呪術界、自分の存在によって成り立っていると言っても過言ではないくらい五条頼りだということは五条自身も知っている。
1日でも自分が欠けたら大ごとだというのに、これが2週間強。どこまで被害が出るか分かったものではない。
そしてその分かったものではない被害が目の前に晒されているのが、今この現状だ。
今、おふざけターンが終わり、ゆっくりと落ち着いて、全ての情報を共有し終わっている。
それにより、五条の頭の中ではやるべきこと、目下為すべき目標が整理されている。
それは――、
「――敵戦力の、情報分析」
腕を組み、斜め上の中空を見やりながら、五条が呟く。
その視界の端には、居合わせた面々の中でも飛びぬけて強大な力を有した術師――八百歳比名子。
正確には、五条は先程の比名子との共闘、羂索とあざみを追う鬼ごっこに思いを馳せていた。
「どんな術式にも穴はあるもんだけど……」
あざみの術式「茫洋」、世界を捻じ曲げ狂わせる異次元の津波。その穴は最後まで看破することが出来なかった。
正確には、五条や比名子のような超越的暴力があればゴリ押しで突破できるのだが、いくら何でもそれが唯一の弱点なんて言われたらたまったものではない。あまりにも完全無欠すぎる。
同様の例を挙げるとしたら、伏黒の持つ「十種影法術」、その式神の一つである「八握剣異戒神将魔虚羅」。アレもまた“初見の趙火力技による一撃必殺”という理不尽の極みのような攻略法が唯一存在するというふざけた代物だが、あの存在に関しては「術師単独での調伏」という無理難題の条件を前提として成り立っているものだと五条は考察している。
あざみの「茫洋」はそれとは全く違う。何の条件もなしに、単なる三級程度の術師が、五条と比名子の二人から逃げおおせている。
そんなこと本来あり得ていいはずがない。何か、絶対に何か、彼女を三級術師程度の存在に貶める弱点があるはず。
ただでさえ、あちら側には宿儺がいるのだ。まともな情報もなしにどちらも相手にするのは絶対に避けたい。
だから、五条達は何かしらの方法であざみの弱点を探らねばならないのだが――、
「――そうだ、美胡とかいう狐の妖怪」
あの時の、あざみと比名子の会話。
比名子には狐の妖怪の友達がいて、それが人魚の肉を喰べたせいであざみに呪いをかけられたのだとか。
妖怪と友達というのはよくわからないが、ここで考えるべきは、あざみの術式による現在進行形の被呪者が存在するということ。
不明な術式の解明には、実際に発動している状況を観察するのが最も有効だ。
勿論、口が裂けても「術式分析のために呪いは解かないままにしろ」などと言うつもりはないが――、
「比名子、その美胡って妖怪の所に案内してほしいんだけど」
「――――」
合理的な思考から導かれた簡潔な答え、しかしそれを聞いた比名子はなぜか一瞬逡巡したような様子を見せる。
彼女には何か美胡に会わせたくない事情でもあるのだろうか。五条は少し眉をひそめたが、
「わかり、ました」
つっかえながらだったけれど、比名子は五条に賛同してくれた。
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――東京都立呪術高等専門学校。
ここは強固な結界で守られ、あらゆる邪悪な外敵を拒絶する、呪術師達の砦だ。
「そこの病室に妖怪がいるってんだから、違和感が凄いけど」
真希達から話を聞く限り、どうやらその社美胡という狐の妖怪と近江汐莉という人魚は
最初に耳にしたときは「良い」という単語と「妖怪」という単語が頭の中で結びつかなかったが、真希の所持していた美胡の戦う姿――ビデオに収められた弱い泳者を救出する姿を見せられ、無理矢理納得させられた。
「――比名子」
高専の中、社美胡のいる病室。置かれたベッドの傍らには人に化けた人魚の姿。
彼女の纏う気配は比名子やあざみのそれに近い。どうやらこの人魚こそが比名子とあざみ、そして美胡に血や肉を与えた近江汐莉であるようだ。
――そして、そのベッドの上に、社美胡は横たわっていた。
「……なるほど、アイツの気色悪い気配がべっとり張り付いてる」
羂索が仕掛けたマーキングみたいな精緻なものとは異なる、粗雑かつ極めて悪質な呪い。
自己満足のために呪術を高め続けている五条にとっては、顔を顰めたくなるほど杜撰な術式のかけ方――しかしそれが、誰にも解け得ぬ強固なモノとなっている理不尽さ。
その異様な術式の秘密を暴くため、五条はおもむろに美胡へと手を伸ばし――、
「――触らないで!!!」
途端、病室内に響く比名子の金切り声。
浴びせられた悲鳴に近い制止の声に、逆に五条は驚いて美胡の腕に指が触れてしまった。
「――あ??」
――その部分が、ぼろりと崩れる。
その、今触れた感覚は、まさにあの鬼ごっこの直前、五条の「無限」を突破して腕の皮膚を溶かした時に味わった、あの感覚と同じもので。
「――汐莉さんが肉を喰べさせてから、ずっとこうなんです」
五条が崩してしまった腕の一部を反転術式で再生させながら、比名子は悲痛な声で呟く。
「ほんの少し触るだけで、バラバラに崩れちゃう……そんな状態のまま、今もまだ、目を覚ましてくれないんです――」
社美胡の受難は続く。
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