えー、前話のアンケート、髙羽ワールド展開希望者62名(現時点)……
お前ら本気出してきたなぁ!? 軽いノリで作ったアンケートがこんな投票数になると思ってなかったよ!
畜生、じゃあもうやってやろうじゃねえかよ!!
その代わり投票してくれた人はついでに高評価してくれよな!
⭐︎9⭐︎9! 私は評価バーがもう1ゲージ増えるところを見たいんだよォ!!
(あ、すでに評価していただいた方はそのままでお願いします……)
「はぇ??」
目を丸くして瞬きを忘れ、口を「あ」の形にしたまま停止した美少女、近江汐莉。
もしこの場に伏黒恵が居れば、その顔に見覚えを感じたかもしれない。あ、八十八橋の時に虎杖と釘崎がしてたアホ面だ、と。
ぽかん、という擬音が似合いすぎる間抜け面を晒す彼女には、今八百歳比名子に言われたことに全く心当たりがないらしかった。
「……汐莉さんは」
かつてない程の勢いで美しい容貌を崩壊させる汐莉の姿から微妙に目を逸らしながら、比名子がそう語り掛ける。
汐莉の顔がとても可笑しいから……というには、比名子の顔には陰が差しており、いたたまれなさから目の前の者を直視できていないような色味を纏っていた。
「気付いた時には、波間に存在していたんだよね」
この死滅回游に入る前、ふとしたきっかけで教えてもらったことだった。9月の新学期になって、残暑の残る中の笑い話として消費された程度の価値なき豆知識。
――妖怪には、その成り立ちに異なりが存在する。
呪術師が任務にあたる際、その大部分が呪霊の祓除となるわけだが、その多くは墓地・病院・学校……とかく人が負の感情を覚える場所が多い。
理由は単純、呪霊は負の感情から捻出される呪力が形を成した存在だからだ。人間が垂れ流す呪力の受け皿となる場所は、呪霊が産まれ堕ちるための孵卵器としての役割を果たす。
このように、呪霊は人の裡より漏出した負のエネルギーの集積体であることは一貫している。寄り集まる負の感情の種類は呪霊ごとに異なれど、この成り立ちだけは変質することはない。
「けれど、妖怪はこれに当てはまらない」
そもそも妖怪とは、呪術的には「呪力が無くても討伐可能な、人の五感を狂わせる言葉や文字を操る呪い」として定義される。
呪霊の等級の振り分け方は大雑把なものだが、妖怪の分類はそれに輪をかけて大味だ。なんせ、上記に当てはまればそれで妖怪なのだから。
妖怪としてカテゴライズされるものの成り立ちの多さと言ったら、実にバリエーションが豊富だ。例を挙げるなら美胡のような元は単なる野生動物だったのが力をつけた場合もあれば、ただの非術師の人間が死をきっかけに妖怪へとなり果てた場合すら存在する。
ちなみに術師が死後呪霊へと転じる場合もあるが、そういう場合は自我を失い、正気を失うものだ。それとは違い、妖怪に転じた者は死前の記憶を残しているし、人の世に平然と紛れ込めるほどの社会性すら有している場合が多い。
「直哉の野郎は死んで呪霊に転じたけど、クソみてぇな性格は全部引き継いでたぜ」
「えっ嘘、そんなはずは…………話が逸れそうだから、詳しいことは後で教えてね」
呪霊と化した個人が生前の自我を余すところなく残すという、存在としてありうべからざる事例を真希が投げ込むが、それへの興味は置いておいて比名子は話を進める。
「汐莉さんはそのひとたちとは更に異なる……自我を持った瞬間から人魚として存在していた」
美胡のように、成長と共に呪いへと転じたのとは違う。血縁関係なるものが全くなく、あらゆるものに対して
最初から“人魚”という妖怪として定まっていたのが近江汐莉という女だったわけである。
と、ここまで聞いたところで、妖怪のことをよく知らぬ一般人はそれについて疑問を抱くことはないだろう。水平線と自分との距離が意外と近いと知った人のように、「そういうものなのかな」とでも思って、それで終わり。実際最初に汐莉について聞いた、まだ術師になっていなかった時の比名子もそんな感じだった。
しかし今。数年以上術師として活動してきた真希、三輪、五条。そして術式を覚醒させて数々の呪いと相対した比名子。四人は汐莉の生まれを知り、あるいは改めて思い返し、一様にこう感じる。
親も兄弟もなく、生まれた瞬間から呪いの存在――それは、呪霊とよく似ていると。
「汐莉さんの体を乗っ取った両面宿儺と戦った時、あの人は汐莉さんの自然治癒力を呪力で活性化させて、負傷を治していた。呪霊が呪力で肉体を再生させるのに近いって」
宿儺の発言。汐莉自身が語った生まれ。
これだけ証拠を揃えられて、呪霊との関係性に思い至らない術師はいまい。
「それを踏まえて、私はこう考えてる。――人魚という存在は、呪霊と非常に近い肉体組成をしているんだって」
膝に手を置いて背筋を伸ばした比名子は、その場の全員に目を向けるように顔を上げる。
三輪に五条、そして真希は納得したように口元や顎を撫でており、比較的すんなりと比名子の仮説を受け入れている様子だ。妖怪と呪霊は呪術界における扱いが等価であるという考えが下地にあることもあるのだろう。
対照的に、人間の排泄物の塊に等しい呪霊と自らが同じであると言われて気を悪くしたのか、汐莉は腕を組んで顰め面をしていた。
「それは……確かにあり得そうな話ではあるな。私達が会った天元様も、千年以上を人間として生きた結果肉体の組成が呪霊に近いモノへ進化したって言ってた」
部屋の天井辺りを見つめ、真希は数日前の邂逅を思い返した。
呪霊とは異なりながら、呪霊に近しいモノが実在するという証言。それはまさしく、比名子の仮説の裏付けであった。
「君がさっき、妙に申し訳なさそうな顔していた理由はそれですか。あんな穢い存在と同じと言われれば確かに腹は立ちますが……発言者が君なので許しましょう」
汐莉はため息を吐きながら肩をすくめ、ゆるゆると首を振る。
お情けをもらった比名子は「ごめんね」と一言謝りながら、話をさらに先へと進めた。
「真希さんは確か、私と同じ術式を持った呪霊を知ってるんだよね」
「ああ。つってもアイツはオマエと比較すればカスみたいなもんだったぞ」
「そうなの? でも、今は強さは関係なくって……重要なのは、その呪霊は海への畏れが呪いに転じたものだっていうこと」
先述したように、呪霊は人間の負の感情の堆積物だ。そして呪霊として形を成す負の感情は多種多様であり――勿論、自然に対する恐れも含まれる。
例えば大地、例えば森……例えば、海。
真希が交戦した呪霊――「陀艮」は、人々が海へ抱く恐れが集約して産まれ堕ちた存在であった。
「その海の呪霊と同じ術式を私が持ってる。でもそんなことってあり得るかな。血縁関係が存在しない呪霊と全く同じ術式が人間に発現するだなんて」
「……そのルーツが私だと、君はそう言いたいわけですか」
こくりと、深く頷く比名子。
ここまで綴られてきた彼女の言葉は丁寧であり、そのひとつずつに確信が込められている。
そしてその確信は当然、次の言葉にも。
「さっきも言ったけど、妖怪は五感を操作する呪いを使えれば認定されるものだから、その成り立ちには沢山の種類がある。それこそ、人の負の感情が呪いに転じた……呪霊とほとんど同じ生まれ方をしてる存在がいたとしてもおかしくないと、私は思ってる。だから――」
「――――」
「海へ向けられた呪いは、呪霊に転じればその陀艮っていうのになって。……妖怪に転じれば、人魚になる。そういう事なんだと思う」
多分や恐らくといった言葉でワンクッション入れることもなく、比名子は迷わずに言い切る。
――比名子の言葉をこうも否定したいと思ったのは、汐莉にとってはあの雨の海辺、彼女が絶望して命を投げ出したいと垂れていたあの時以来だった。
「人の呪いが、私を産み堕とした……」
口に出してみると、苦虫が潰れたような気持ちの悪いえぐみが口いっぱいに広がる。
冗談ではない。この世の何とも繋がれないことを嘆いてきた汐莉とはいえ、こちらの方から繋がることを願い下げにしていたのが呪霊という存在だ。行動の軸に一貫性が無く、刹那的な欲求のままに行動する存在。自らの内包する呪いに振り回され続けるような在り方に、汐莉は唾棄すべき嫌悪感を覚える。そんなものと同じく、人間の負の感情が集まって生まれたと言われてはたまらない。
が、困ったことに汐莉は否定する言葉を一つも持ち合わせていない。そもそも、汐莉は自分が生まれた瞬間をこれっぽっちも覚えていないのだから。
「あの、比名子」
病室の中、ただでさえ静かな空間が余計に静まり返った中で、三輪霞が小さく手を上げる。
先程の恐怖体験をまだ引きずっているのか、少し上ずった声が静寂を切り裂き、全員の視線が水色髪の少女へ向けられる。
「妖怪って、そもそも術式を持たないのが基本だよね? なのにその肉を食べた比名子にだけ術式が宿るなんてことは無い気がするけど……」
手を上げたままにしながら、三輪は比名子に至極まっとうな質問をする。
被受肉者が術式を得る仕組みは、肉体が呪物と同調し、呪物の有していた術式が被受肉者の脳内にコピー
しかし、そもそも妖怪は種族単位で術式を使用しない。それが「五感を操る呪い」とトレードオフなのかは解明されていないが、ともかく術式を使用する妖怪の記録は呪術史上に一度も記録されていないのだ。
故に比名子の推察には穴があるのではないかと、三輪は指摘したが――、
「あー、なるほど。そういう事か……ダメだな、あんな封印にぶち込まれてたせいでまだ頭がシャッキリしてない」
目隠しのせいで髪の逆立った頭をボリボリと掻き毟りながら、五条は自分を戒めるように呟く。
「ルーツって比名子が言うから、血縁関係についてだって勝手に結びつけてたよ」
思い込みはいけないね。小さくため息を吐きながら、五条はゆるゆると首を振る。
その言葉の意味が呑み込めず、三輪と真希は疑問の眼差しで五条を射抜く。
その瞳に応じ、するりと外された目隠しの奥、「六眼」の青白い輝きで薄暗い病室を照らし、続ける。
「確かにまあ、汐莉は持ってるよ。――妖怪という種族の脳の構造上、絶っっ対に使用できるようにならない、術式の名残みたいなものをね」と。
時間なかったのと筆進まなかったので、書きたかったことの半分くらいしか書けなかった。今回めちゃめちゃ独自の設定盛ってるのに……!
次話ではもう少しちゃんと描写します……!
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