死滅回游 泳者 八百歳比名子   作:螺旋坊主

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 金曜投稿できず、お待たせして申し訳ありません。髙羽ワールドです。

 ま さ か の 前 編
 よもや数日かけて半分しか書けないとは……
 面白いと思ってくれた方は高評価いただけると幸いです……


第42話 バカサバイバーその2 (前)

 

 

 

「〇×▽■※?%#¥$~~♪」

 

 現在、社美胡の身柄は呪術高専の修練場、設置された祭壇の上に安置されており、まるで生贄に捧げられる生娘のように純白の布と宝石類で飾り立てられている。

 そして何故かは分からないが、邪教の司祭のような格好になった髙羽史彦が理解不能な呪文を唱えるという意味不明な状況になっている。

 

 ――話し合いの場で決定された「超人(コメディアン)」を使用した美胡の復活に関して、髙羽は一も二もなく賛成してくれた。

 

 高羽の術式「超人(コメディアン)」は自分および対象が()()()と思った事象の創造および強制という常軌を逸した権能を有する。

 この、術式対象のイメージすらフィードバックさせる部分に関して、天使は髙羽との間に「魂の共鳴」現象が起こっていると予想。

 

 ここに着目した伏黒達は、「超人」に美胡を巻き込み、彼女と魂の共鳴を引き起こすことを発案する。

 未だ起き上がることのない美胡の魂と自分達の魂を同調(シンクロ)させ、それによって二者間に魂のバイパスを繋ぎ、裡で眠る彼女の意識に語りかけることで、最終的に乙骨の言っていた「呪いを物に込め手中に収める」方法を試させる――ことが出来ないか、と考えたわけだ。

 

「×▽%#$〇×▽■※?#¥〇■※?~~♪♪」

 

 呪文を唱える声がヒートアップする髙羽は、自分の術式効果について何も知らない。

 髙羽に悪い影響があっても困るので、彼には「呪われた美胡を解き放ってほしい」とだけ伝え――そして髙羽の指示のもと、比名子の“海”の術式で大切に運ばれた美胡の体が祭壇の上に置かれたわけである。

 

(不安だ…………)

 

 あざみの術式「茫洋」の呪いにより体を苛まれる美胡の惨状と、それに著しく反比例する目の前の愉快な現状に、虎杖悠仁は内心で愚痴をこぼす。

 しかし、喉元まで出かかったそれを音として口に出すことは憚られた。――虎杖の横に立っている美胡の親友、八百歳比名子が真剣な表情で儀式を見守っているからだ。

 

「――――」

 

 虎杖らが「超人」に巻き込まれた一度目では、自分たちの狙いである「心の中での対話」は起こらなかった。

 だから実際のところ、本当に「超人」によって昏睡状態の者の精神へアプローチができるのか、真偽は定かではない。

 

 そんなわけで「超人」が美胡へのコンタクトに有効なのか、まずはその味見実験(テイスティング)を行うことが決定。

 それにあたり、髙羽に立ち向かう選抜隊が指名された。

 

 第一に10年来の親友である比名子。この儀式における最終目的は美胡の魂へのコンタクトなのだから、より美胡に近しい者であれば同調も起きやすいのではないかという予想だ。

 虎杖と伏黒は東京第1結界にて「超人」の能力に晒された経験があることから選出。それに加え、二人の同期で連携を取りやすい釘崎野薔薇もメンバーに入った。

 そしてもう一人――、

 

は ぁ 

 

 メンバーの近江汐莉は、数日前と同じように萎びていた。

 

「心の中での対話」などという事象が発生するならば、あの時以上に強く深く魂を同調させる必要がある――とは、先刻の話し合いにおける天使の言だ。

 である以上、比名子達は髙羽の能力をより長い時間起動させ、敵味方関係なく精神を削るボケ地獄に晒され続けなければならないわけである。

 脳内に爆音でボケを流し込まれ二度と奴とは関わり合いにならないと心に決めていた汐莉は、問答無用で髙羽と対面させられていることに筆舌に尽くしがたい苦痛を感じているのだろう。

 

 だが悲しいかな、汐莉は美胡とかねてより親交がある上「超人」に曝露済み。条件としては申し分ない。

 あの場に居合わせた虎杖と伏黒は、汐莉へ憐憫の眼差しを向けている。

 

 伏黒と汐莉は以前「超人」で正気を失ったので選抜隊に入れるのはどうかとの声もある。

 だが、そもそもこれは味見試験。失敗したとて、メンバーを変えて何度でも挑戦すればよい。

 

 無論、この一回で成功するのならそれに越したことはないが――、

 

「汐莉さん」

 

もうかえりたいです

 

「お、落ち着いて汐莉さん。――来るよ」

 

 際限なくやる気が零れ落ちていく汐莉を心配する比名子の声。それが急に硬さを帯び、足元に注がれていた汐莉の視線を跳ねさせる。

 その勢いで目が向いた先、そこに広がる光景に汐莉は釘付けになる――否、汐莉だけではない。そこにいる全員、髙羽と美胡の奇っ怪な儀式を見守っていた者全員が、生じた変化に目を離せないでいる。

 なぜなら――、

 

「美胡ちゃん……」

 

 妙な台座に寝かされていた、呼吸一つ漏らさない美胡の体――そこから微かな燐光が発され、ふわりと宙に浮かんでいる。

 触れれば崩れ、持ち上げれば壊れるはずの肉体だ。しかし、浮揚している影響で下へだらりと垂れた腕が、千切れて落ちることはない。考えるまでもなく「超人」の影響だろう。

 祭壇の上で神々しく浮かぶ美胡の放つ光は加速度的に強度を増していく。そしてその体がぐにゃりと縮み、骨格が折り畳まれ、毛玉のように丸まり――、

 

 

 ボンッ。

 

 

「……ん?」

 

 そして、四本の尾を揺らす狐のぬいぐるみに変化した。

 

「………………………………」

 

 ゴマ粒のような目に短い手足、獣耳というか突起物みたいな形状の耳。数百年を生きる妖怪がもっふもふのぬいぐるみに。

 先程までの光り輝く美しい光景との落差が激しすぎて虎杖達が絶句していると、

 

 ぽふん。

 

「えっ」

 

 汐莉もぬいぐるみになった。

 

 長い黒髪やら目から生えた珊瑚に尾ビレといった特徴はよく再現されているが、やっぱりもっちもちのデフォルメ形態である。

 一瞬で髙羽の術式に屈した汐莉の有様に、「やっぱ駄目か近江……」と虎杖は顔を覆った。

 

「た、大変! なんか悪い術式のアレがソレで汐莉さんと美胡ちゃんがぬいぐるみに……!」

 

「アンタもアンタで語彙がおかしいわね!?」

 

 あざみの術式を解析していた時の冴えが遥か彼方に消し飛んだ比名子の様子に釘崎がツッコミを入れる。

 いくら規格外の術師であれど、それ以上に規格外な「超人」の影響には逆らえないらしい。虎杖は比名子に大声で呼びかける。

 

「戻ってきて八百歳先輩! シリアスに『来るよ』とか言って数秒でそれはチョロすぎる!」

 

「……はぇっ!?」

 

 声に驚いたのか、比名子は肩をびくりと揺らして我に返る。

 そしてぶんぶんと頭を振って、

 

「あ、危なかった……! なんか今、言葉が全部ふわふわしてた……!」

 

「これが髙羽の術式です。真面目に対応しようとすると一瞬で吞まれますよ」

 

「「えぇ…………」」

 

 頬の硬い伏黒の言葉に、「超人」初体験の比名子と釘崎が顔を青くする。口頭で聞いていたとはいえ、こんな脳みそを掻きまわすみたいな感覚は実際味わわなきゃわからない。

 下手人の髙羽は宙に浮く美胡(ぬいぐるみ)に跪いて何やら祈りを捧げている。介入したら頭がおかしくなりそうなので一旦無視し、まずは汐莉の容態を確認する。

 

「むぎゅ」

 

「あ、鳴く仕様なんだ」

 

 もちもちぬいぐるみ汐莉を釘崎が手に取って戯れにお腹を押してみると口から鳴き声が出た。音声付きであるらしい。

 CVこそ汐莉のものだったが、その声に知性は感じられない。「超人」に被曝した瞬間に思考を放棄したのかもしれない。よっぽど嫌なんだな。

 

「オイ速攻で一人使い物にならなくなったわよ」

 

「うん…………」

 

 4人が汐莉(ぬいぐるみ)の周りを囲み、半分呆れながら釘崎がぼやく。

 

 何で俺達は天使をメンバーから外しちまったんだ……味見実験とはいえ早くも漂う失敗ムードに虎杖と伏黒が天を仰ぐ。

 その直後、

 

「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!! 本日限定四尾狐にぬいぐるみ人魚セット! 市場直送赤字覚悟だァーーーー!!!」

 

「「!!?」」

 

 神聖な祭壇の場が気づいたら巨大ゲームセンターに変貌し、マイク片手に叫ぶ髙羽に勢いよく目を向ける釘崎達。

 彼はいつの間にか店員服に身を包んでおり、隣に設置されたクレーンゲーム機には美胡(ぬいぐるみ)の姿が。

 当然のように汐莉(ぬいぐるみ)も。

 

「何で市場のセリ形式なのよ!!」

 

「近江オマエ……もう完全に呑まれて……」

 

「と、とりあえずゲームで助ければいいのかな……?」

 

 ゲームセンターにしてはミスマッチすぎる髙羽の呼び込みやら、もはや抗う様子もない汐莉を憐れむやらでツッコミの止まらない虎杖一行。

 比名子は透明なケースに閉じ込められた美胡と汐莉を助けるため、持ち合わせの100円を手に駆け出そうとする。

 

「――俺に任せろ」

 

「え……」

 

 一歩踏み出した比名子、その肩を掴んで引き留める男が一人。

 二つ結びのパンクな髪型と鼻に刻まれた横一線の刺青。他でもない脹相である。

 

「え、でも選抜隊以外は待機してるって」

 

「俺は言われた通り場を離れたぞ。術式の影響だろう」

 

「あー…………」

 

 虎杖は東京第1結界の狂乱の中、汐莉に呼ばれて(?)召喚された日車のことを思い出す。

 あれは結界内という精々数km以内にいたから呼び寄せられてしまったものと予想していたが、髙羽の術式範囲は思ったよりも広いらしい。虎杖はげんなりする。

 

 そして脹相、クレーンゲーム機に着席。

 レバーを握り、降下ボタンに手を添える脹相の目は真剣そのものである。

 

「頑張って……!!」

 

(ねぇ、比名子さ、これもう……)

(やっぱもう中止した方がよくね?)

(いや、ああも懸命に応援する八百歳さんを邪魔するのも……)

 

 馬鹿正直に脹相に声援を送る比名子は誰がどう見ても術式の影響を受けている。

 比名子の精神状態を懸念して実験の中止を提案する釘崎と虎杖。それを比名子の健気さを理由に却下しようとする伏黒。術式に吞まれたか、それとも比名子贔屓なだけか。

 

 そんなやり取りを後目に、クレーンは動き出す。

 レバーの操作に従って目当てのぬいぐるみ目掛けて移動。目標の直上に来た瞬間、ボタンによってクレーンのアームが開かれる。

 軌道をずらすことなく真っ直ぐに降りていくクレーン、そうしてアームがそのぬいぐるみをぴったりと掴み取った。

 

 青緑色でずんぐりした血塗(脹相の弟)のぬいぐるみである。

 

「なにあれ??」

 

「無かった! 最初無かったよあのぬいぐるみ!!」

 

 素でツッコむ比名子の声に虎杖の慟哭が重なる。「おめでとうございまーす!」と叫ぶ髙羽と肩を組んだ脹相は血塗のぬいぐるみを掲げて大喜びしていた。

 

「見たか弟たちよ! 俺達兄弟は不滅!!」

 

 脹相が血塗ぬいを大切に抱え、比名子達の所に駆け寄る。

 その勢いで虎杖も抱える。

 

「え、ちょ」

 

「九相図兄弟ぃぃいい、ファイヤーーー!!!!」

 

 一瞬で足元に呪力が集中し、足指と爪の間から勢いよく血が噴出される。

「超人」で形成されたゲームセンターの天井を突き破り、脹相と虎杖は高空へ舞い上がる。

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 連れていかれる虎杖の悲鳴が遠ざかるとともに、騒々しかったゲームセンターは静寂に包まれていった。

 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 比名子、釘崎、伏黒、呆然。

 一人また一人と仲間が消える惨状に、釘崎は出来の悪いデスゲームをやらされている感覚に陥っていた。

 

「…………どうする? いつまで実験続ける?」

 

「えっ、えっと、えっ」

 

 でかでかと開けられた天井の穴を虚ろな目で見つめる釘崎の言葉に、比名子は人見知りのようにしどろもどろになってしまう。

 メンバーが二人も戦闘不能になった以上、流石に比名子もおかしくなったままではいられない。距離が離れていてもワープ能力で呼び寄せが可能であることを踏まえて、この実験の継続か中断を決定せねば――、

 

「――いつまでって、自分が面白いって思ったことやり尽くすまでだろ」

 

「え……」

 

 ゲームセンターが消え失せ、風の吹きすさぶ荒野に放り出される比名子達。

 砂煙に巻かれながら登場した髙羽はいつの間にか半裸のセンターマン姿に戻っており――その表情は真摯であり、真剣だ。

 

「今やってることが本番前の様子見だってことくらい、俺だって分かってる。――でも、だからって途中で実験を中止にしちまうってのも、俺は違う気がする」

 

「髙羽さん…………」

 

「俺がお笑いを続けてきたのだって、自分がまだ全部やり尽くせてないって思ったからだ。――もうちょっと踏ん張ってみないか。味見だからって関係ない。限界まで考えて、楽しんで、諦めるのはその後だ」

 

 ――髙羽の言葉が、乾いた荒野に静かに落ちる。

 

 先程まで意味不明な呪文を叫び、ゲームセンターを建て、脹相に不毛なクレーンゲームをやらせたのと同一人物とは思えないほど、その声音は真っ直ぐだった。

 ふざけた人間だ。滅茶苦茶な男だ。けれど、その真面目さだけは最後まで嘘ではない。

 

 笑わせたい――その一点だけを抱えて、どれだけ周囲に理解されなくても走り続けてきた男の言葉には、不思議と人を納得させる熱があった。

 

「……そう、ですね」

 

 ゆっくりと顔を上げる。その瞳には、先程までの困惑ではなく、確かな決意が宿っていた。

 

「まだ終わってません。もっと頑張れば美胡ちゃんを助けられるかもしれない。だったら私は、最後までやってみたい。――味見だからって手を抜くなんて、美胡ちゃんにも失礼ですし」

 

 脳裏には、かつて料理のいろはを全力で教えてくれた美胡の姿。それを振り返る比名子の声音は穏やかでありながら、不思議と芯があった。

 

 微笑む比名子、その決断を見ていた釘崎は、

 

「…………マジかアンタ…………」

 

 頭痛に苛まれる頭を庇うように、額を押さえた。完全に乗せられている。

 いや、言っていること自体は間違っていない。むしろ今の髙羽は珍しく真っ当なことしか言っていない。……が、相手が髙羽だから信用したくない。どうしようもない感情が、釘崎の脳内で悲鳴を上げていた。

 

「…………はぁ」

 

 そして伏黒は誰より深く、長いため息を吐いていた。これから先に待つ未来が薄々見えてしまっているからだ。

 

 ぬいぐるみ化。

 ゲームセンター。

 脹相ロケット。

 ――これら全て、まだ10分も経っていない間の出来事である。

 

(ここからさらに、限界までやる……?)

 

 嫌な予感しかしない。いくら比名子のためとはいえど。

 伏黒は頭痛を覚えながら頭を掻きむしった。

 

(頼むから、これ以上訳の分からないものを増やさないでくれ……)

 

 その切実な願いが届くことは、多分ない。

 何故なら――、

 

「…………ん? あれ? ここどこ??」

 

 ――ふいに、どこからともなく間の抜けた声が響く。

 その一言に、全員の視線がそちらへ吸い寄せられる。

 

「……………………」

 

 誰からともなく、沈黙が落ちる。

 

 ――また一人。

 新たな犠牲者が、「超人」の舞台へ強制参加させられていた。

 

 

 




 次回、さらにおかしなことになるかも……?

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