死滅回游 泳者 八百歳比名子   作:螺旋坊主

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 前話のアンケートで票をたくさんいただいたので書きました、かわいいたぬきの仙台地獄珍道中。
 そして1話で収まりきらず、前後編になりました。自分のまとめ力の無さが恨めしい……

 例によって、呪術キャラとわたたべキャラの過去の関係を捏造してます。今までにないくらい大盛りかも。
 あと、今回と次回限定で一人称視点で書いてます。


番外編 ※本編とは特に関係ないです
第49.1話 かわいいたぬきの仙台地獄珍道中(前)


 

 

 

 ――なんであたしが死滅回游に参加してるのかって? そんなん巻き込まれたからに決まってるじゃん!

 

 

--------

 

 

 だって1000人以上の術師が参戦するデスゲームとか、まともな神経してたら入るわけないもん!

  まあ、比名子ちゃんくらいやばい人間とかならともかく……ぎゃーー! やめろ暴力人喰い狐ーー!

 

 はぁ……はぁ……え、どこの結界にいたか? 一番近場の広島結界だと見かけなかった?

 そりゃそーに決まってるじゃん。だってあたしがいたの仙台結界だし。お前がいた広島より何百キロも離れてるもん。

 

 ……は? あたしにそんな遠くまで旅できるバイタリティがあるなんて思ってなかった?

 うるさいうるさい! あたしだってがんばったらそれぐらいできるもん!

 …………まあ確かに? 比名子ちゃんの高校に遊びに行くのにバス停の位置わかんなくて心折れかけたこともあるけど? でもおばあちゃんにルート選定とか色々手伝ってもらったし?…………そのあきれ顔やめろー!! むがー!!

 

 ……なにその顔。あたしだって命の恩人の墓参りのためならそれくらい行くもん。

 ん? そーだよ。あたし、昔仙台まで行ったことあるの。そこで人間に命を助けられて、そいつのお墓参り。

 

 確かにあたしは人間なんて嫌いだけど、その理由は300年前におばあちゃんが今まで尽くしてきた人間達に裏切られたから。人喰い狐も知ってるでしょ?

 でも、あたしがそいつに助けられたのは400年前。その時のあたしは今ほど人間のことが嫌いじゃなかった。

 

 あいつが差し伸べた手を割と素直に取れたのは、それが一つ。

 もう一つは――、

 

 

--------

 

 

『おばあちゃんのばかっ! ばかーーー!!』

 

 400年前、あたしはおばあちゃんとケンカしてた。

 ケンカの理由は覚えてない。たぶんしょーもない理由だったと思う。だって全然思い出せないもん。

 

 でも、その時のあたしはなんか意固地になってて、頭に拳骨されても絶対引かなかったんだ。

 それであたしはケンカした果てにそんなセリフを吐いて家出して……

 

「それであたし、その勢いで陸奥(みちのく)まで行っちゃったんだよね」

 

「マジか、よく死ななかったなお前」

 

 馬鹿を見る目で見るな馬鹿狐!

 ……うう、けど今考えるとあんまり反論できない。だって400年前なんて今より人間が凶暴な時代だったし。でっかい戦は無かったけど、戦いの空気感はまだまだ残ってたし。

 

 何より今の時代よりみんな貧乏だったから、あたしみたいな狸が歩いてたら一も二もなく喰べようってかかってくるんだよ。

 そんな奴らから逃げて逃げて、海まで渡って。気づいたらおばあちゃんの縄張りがどこかもわかんなくなっちゃって。

 

 何日も何日も何か月も逃げて逃げて逃げて、それでも結局人間に捕まっちゃって。

 まさに狸汁にされちゃうって時に――、

 

『――狸の妖怪か。こりゃあいい。俺の女がちょうど狸を飼いたいって言っててな』

 

 ――キセルをふかしたちょんまげの呪術師がふらって現れて、あたしを喰べようとしてた奴らをぶっ飛ばしてくれたの。

 

 

--------

 

 

 そいつは伊達藩……仙台藩? あれ、どっちも同じ藩だったよね? まあいいけど、とにかくあいつはそこに住んでてね。人間みんなが口に糊してるみたいな時代の割には妙に小綺麗なカッコしてた。お奉行様? お殿様? 知らないし別にどうでもよかったけど。

 最初はちょんまげ大砲の連れの女に愛でられるだけだったんだけど、そのうちちょんまげ大砲の方もあたしの事をなんか気に入ったみたいで、自分の屋敷に住ませてくれたんだ。

 

「……ちょんまげ大砲?」

 

 え? ああ、あたしを拾ったあいつのあだ名だよ。あたしが命名したんだ!

 名前の由来? んー……あいつと出会ってひと月くらい経った後かな。確か藩に叛意を抱く術師共を掃討するとか何とかでちょんまげ大砲が駆り出されて、あいつの気まぐれであたしもそこに連れてかれたんだけど……

 

『グラニテブラストォォォ!!!』

 

『うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 ………あいつ、なんかちょんまげからビーム出して敵全部消し飛ばしてた。

 もうすごいよ? ちょんまげの先がピカーって光ったと思ったらビババババーって青いビーム連射してて、ガンダム? とかアニメで見るみたいな攻撃でどっかーんって。

 

 その時思ったよね。(あっ、こいつ人間の規格に当てはめちゃダメだ)って。

 

 あいつの手を取ったのは人間嫌いが今よりましだったからって言ったけど、もう一つの理由がそれ!

 だってビームで城ぶっ壊したりエネルギーぐるぐるアリーナ作って気に入った術師と殴り合いデスマッチしたり、そんなことできる奴普通の人間だって思うとか無理だもん!

 

 いばって言う事じゃない? ふん! 口悪い狐キライ!

 どーせお前もあいつのグラニテブラスト見たらおんなじこと考えるもん! あいつほぼ妖怪……ていうか歩く兵器か何かだもん! 大砲だもん!

 

 とにかく、あいつはもーーやばい奴なんだけどね。強さがやばいのはもちろんなんだけど……たぶん、何よりやばいのは精神なんじゃないかな。

 だって聞いて!? あいつってばずーっと強いヤツと戦いたがってるんだよ!? おっきな戦も終わってやっと平和になり始めてたのに!

 東の弱いヤツを蹴散らしたら不満げな顔して、西の強いヤツと戦ったら骨のある術師だったってニヤニヤ喜んで! 頭の中決闘しかないんじゃないの!? ホントに!

 

「……随分しっかりした分析だね。お前、その人間のことよく見てるじゃん」

 

 …………………まあ、否定は、しない。

 実際、あいつにはよくしてもらったし。

 

 ちょくちょく戦いに連れてかれるのはやだったけど、お布団はあったかかったし、ご飯も美味しかったし。

 あと、ご飯の後にグラニテも出てくることあったなぁ。味の濃い魚料理を食べたら、ザラザラの氷に甘いものたっぷりかけて食べるの! あれ、あたし大好きだったんだ!

 

 あいつの気まぐれで始まった共同生活だったけど、その頃のあたしには不満はなかった。

 取って食おうとする人間なんていなかったし。食べ物はみんな美味しかったし。本当に、不満なんてなかったんだよ……あたしには。

 

『――俺の人生は“腹八分目”ってとこだ』

 

 そんなことを言われたのは、あたしがちょんまげ大砲の家に住み着いて1年くらい経った頃だったっけ。

 今から思えば、ちょんまげ大砲のやつ、ずっとどこか不満げだった。

 

 綺麗な女と夫婦(めおと)になって、毎日お酒と美味しいもの食べて。あたしにはよくわかんないけど、色んな奴とも戦ってて。

 あの時代にしては贅沢すぎる人生を送ってるって、あたしの目からも分かって。でもあいつ、笑顔の裏でなーんか足りなさそうにしてた。

 

 いつだったかに聞いてみたんだ。こんなにいい生活してるのに、何が不満なの? って。

 

『満ちてねぇから、不満なんだよ』

 

 あいつは、そんな風に返してきた。

 

 その時のあいつがあんまり昏い目で言ってくるから、最初はちょっと気圧されちゃったけど……でも、どういう意味だかは何となく腑に落ちたんだ。

 あいつの中にはきっと満足する“基準”があって、はたから見た生活が満ち足りてても、その基準に達してないから満足したって言えない。

 なまじあの時代で手に入る全部をあいつは手に入れちゃってたから、あいつの絶望はすごく深いものなんだって。

 

 きっとこれを理解できたのは、あたしが妖怪だったからだと思う。だって、妖怪っていう種族は欲しい物とか喰べたい物、やりたいことがあったら、どんな手段を取ることも厭わない種族だから。

 身勝手に嘘ついて、騙して、誑かすのは妖怪の本能だって言っていい。おばあちゃんは例外だと思うけど。

 

 人喰い狐もわかるでしょ? 何百年も前とはいえ、ただ愉悦に浸るために人間を嬲り殺してたもんね。

 坊主に力を封じられて、片田舎の村を守る手伝いをさせられるなんて、どーせ苛立ちしか感じなかったんじゃない?

 

 ……いだだだだだだ!! わかったわかったよ! 悪かったからやめろ暴力狐ーー!

 

 ……コホン。とにかく、そんな風に寂しい目で話されるもんだから、あたしの方もつられて寂しくなってきちゃって。

 あたしの中には満ち足りてない部分……つまり、おばあちゃんに会いたいって気持ちが芽生えて、それがどんどん存在を主張してきたんだ。

 

 最初は許されないことだと思った。些細なケンカで勝手に出てったくせに、どの面下げて戻れるんだって思った。

 ――でも、戻ることを許してくれたのは、意外にもちょんまげ大砲のほうだった。

 

『俺と暮らしてるんじゃ満足できねぇんだろ? だったら、親の所に戻っとけ』

 

 直接言ったわけじゃないんだけどね。その頃あたしの中に芽生えてた不満を、あいつは汲み取ってくれたみたい。

 

『……あたしがいなくなったら、お前、満足からもっと遠くなっちゃうんじゃない?』

 

『いいさ。俺はこの時代で満腹になることは諦めた。――後は、未来に期待するさ。俺を満たしてくれる奴をな』

 

 なんて言って、割とあっさり、あいつはあたしを手放してくれた。

 その時あいつが言ってたこと、結局意味はわからず終いだったけど……今にして思えば、死滅回游のこと言ってたのかも。

 羂索の奴、あたしのいないトコでいつの間にか契約を結んでたんじゃないかな。

 

 聞いてみようか? 今あいつ、乙骨の奴の取り引きに乗って高専までついてきてるし。

 ……別にいい? あっそう。

 

 え? どうやって戻ったか? ふふん、聞きたい聞きたい?

 ……じゃあ別にいいって、ちょっとそこは喰いついてきてよ! わかりやすい盛り上がりどころじゃん!……帰るな! 話聞けーー!

 

 

 

 ――「呪霊操術」って知ってる? 名前のまんま呪霊を調伏して使役する術式だけど、自分の呪力で使用する呪霊を強化することもできるんだって。

 

 それと似た事をしたんだ。昔おばあちゃんが教えてくれた手段でね、妖怪と人間が結ぶ血の契約の逆利用!

 

 血の契約――あの人魚と比名子ちゃんが結んだのと同じやつ。

 基本は妖怪と人間が血を交わすことで、妖怪主体で契約を結ぶ手段……だけど、人間側が妖怪よりも圧倒的に強すぎた場合、契約の主体が人間に入れ替わっちゃうんだって。

 

 そうなった場合、結んだ契約関係は「呪霊操術」と似た振る舞いを見せるようになる――つまり、人間側からの呪力強化を、妖怪が受けられるようになるの。

 

 つまり、あたしとちょんまげ大砲が血の契約を結んで、ちょんまげ大砲からあたしが呪力強化を受けて、その力でおばあちゃんの所まで帰ったの!

 すごいでしょ! おばあちゃん、こんな事まで知ってるんだよ! お前なんかとは大違いだよね!

 

 ……? やめてよ、なんで急に撫でるの、気持ち悪い……

 宿儺と激突する時に利用できそう? ふーん……

 

 とにかくそんな感じでパワーアップしたあたしは、襲ってくる人間とか呪霊をばったばったとなぎ倒し! あっという間におばあちゃんの所に帰り着いたのでした!

 ……ゴメンちょっと盛った。ほんとは超迷ったし、なんなら数年くらいかかった気がする……

 

 …………それでいざ、おばあちゃんの縄張りに入ってみたら、すぐにおばあちゃんが駆けつけてくれてさ。

 ぶっちゃけあたし、帰り着くまですごく怖かった。何年も家出して、忘れられてたらどうしよう、って。

 

 もちろん再会して早々拳骨喰らったし、あたしが生きてきた中で一番説教されたよ。

 ……それでも、最後には、あたしのこと抱きしめてくれて。『どれだけ心配したと思ってんだい』って、言ってくれて……

 

 ほんとに、優しいひと。そんなひとを、裏梅は……

 

 …………ごめん、変な空気にしちゃった。

 

 

--------

 

 

 ……人間からそんなに大きな恩をもらってたのに、何で比名子ちゃんとお前を絶縁させようとしたのかって……

 

 ………………………………えっと、その、ほんとに言いにくいんだけど。あたし、ちょんまげ大砲のこと、最近まで忘れてた……

 

「…………」

 

 ゴミを見る目やめて!? こればっかりは流石にあたしも悪かったって思ってるよ!?

 仕方ないじゃん! 300年前のおばあちゃんへの仕打ち、それくらいひどかったんだもん! ずっと擦り寄ってきてたくせに裏切って恩を仇で返してきて、それを間近で見たせいで人間全部にバイアスかかっちゃってたんだもん!

 

 でも比名子ちゃん、お前の過去の所業を知っても友達でいてくれるような優しい人間だったじゃん?

 そういう人間もいるんだってこと、あの時に改めて認識して。……それで、比名子ちゃんの高校の文化祭に遊びに行った後くらいかな。そういえば、おばあちゃんが裏切られる前、あたしによくしてくれた人間がいたなって思い出したんだ。

 

 さっきも言ったけど、あんなに大きな恩を受けたことを最近まで忘れてたのは流石に申し訳なさ過ぎて。

 だからあたし、おばあちゃんに言ったの。――ちょっと、お墓参りに行きたいって。

 

 ぶっちゃけた話、あたしはあいつの本名すら知らないから、現在までお墓が残ってたとしても、それがどれかなんてわからない。

 けどどこに住んでたかくらいは分かってたから。せめてそこまで足を運んで、手を合わせるくらいはしたい。あたしにはもう、それくらいしか出来ないけど、って。

 

 おばあちゃんは……もう、すーーーーーごい心配してた。そりゃそうだよね、バス停わからなくて心折れるあたしが仙台行きたいだなんて。

 でも、こればっかりはどうしてもあたしがやりたいことだったから。説得には時間かかったけど、最後にはおばあちゃんも納得してくれた。

 

 ……その代わりおばあちゃん、めっちゃ綿密にルート作成してくれたの。

 ほら見て、飛行機の時間帯とか、仙台駅の最寄りのバス停とかバスの本数とかまで全部……

 

 そんな感じでいっぱい手伝ってもらっちゃったから、何とかどうにか仙台まで来れたんだ。

 ……そこに行くまでやっぱり超迷ったのはナイショの話だけど。

 

 けどやっぱりちょんまげ大砲のお墓がどれか、そもそもあるのかもわかるわけなかった。

 だから昔、あいつの屋敷があった場所……今は別の建物が立ってるけど、そこで手を合わせて、あの時はありがとうって、心の中でお礼を言って。

 

 それでその晩、おばあちゃんが取ってくれた仙台の宿で一晩宿泊して。

 その後、朝になったら飛行機で松山に帰る…………ハズ、だったんだけど。

 

 

『ごめんね』

 

 

 …………なんか、その晩の夢に、額に縫い目のある袈裟着た人間が出てきて。

 

 それでなんかあたし、死滅回游に巻き込まれちゃったみたい……

 

 

 

 




 たぬきの地獄珍道中、後編から本番。

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