今回、最後の方が駆け足になりました。
後日時間があれば加筆修正します。
人外魔境までに書きたかった話は今回で終了となります。
また、短めですが、次話は水曜に投稿します。
『ごめんね』
なんて言いながらそいつが現れたのは、あたしが宿の布団でぬくぬく寝てる時だった。
五条袈裟、だっけ? 人間がお葬式とかで着るときでしか見ないような着物のくせに
まあビビったよね。
『ぎゃーーー!! なんだお前ーーー!!』
『ここに結界を張った術師だ。ここは選ばれたんだ、
『しかもなんか怖いこと言ってる! 周り全部真っ暗だしまたなんか変な悪夢!?』
『初対面でこんなうるさい子は初めてだなぁ。いや、厳密には夢じゃないよ? 君が望めば一度だけこの結界の外に……』
『ヤダーーーッ!! もー助けておばあちゃーーーん!!』
こんな感じで、格好は変だし言ってることもわけわかんないし、夢だって分かってても怖すぎてぴゃーって逃げちゃった。
後ろでそいつが『逃げちゃった……まあいいか』ってため息吐いてた気がするけど、それも全部無視してとにかく一目散にその場から離れて……
……で、あたしは布団からがばって飛び起きた。
最初に目に飛び込んだのは、昨日泊まった宿の部屋のテレビ。散らかした荷物とか脱ぎっぱなしのソックスとか、食べかけのファストフードとかもみんなそのまま。昨日寝た時の光景そのまんま。
その時のあたしは、なーんだ、やっぱり夢だったんじゃん! って呑気に胸を撫で下ろしてた。
それで、変な夢を見た気晴らしに朝の陽ざしを浴びようとして、閉めたカーテンを開けたら――、
『……えっ?』
……なんか、超でかいハダカデバネズミとプテラノドンが街を破壊してた。
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[よぉ、俺はコガネ!! この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ!!]
『エッ? エッ??』
なんかあたしの横に唐突に表れたちいさくてこわい顔のやつ(略:ちいこわ)はコガネって名前の式神みたい。
外を闊歩してるでっかい化け物も含めてわけわかんなくて、あたしはもう変な声しか出せなかったんだけど……コガネは親切にも今の状況を教えてくれた。
曰く、死滅回游では結界内の人間や呪霊を殺して点を取らなきゃ生き残れないこと。
曰く、あたしは妖怪だから配点が高くて、強い奴らが優先して襲ってくるかもしれないこと。
曰く、死滅回游で定められたその他のルールはコガネに言えばいつでも参照可能であること。
ところどころコミカルな喋り方だったり急に丁寧語になったり聞きにくかったけど、それでもコガネが話す内容の悪さに、あたしの頭の中は真っ白になってた。
気づいたらただでさえぐちゃぐちゃだった部屋がもっとめちゃめちゃになってたから、話を聞いてからしばらく泣きわめいたりしてたんだと思う。今考えたらよく生きてるなぁ、あたし。
でもそのおかげで、あたしはなんぼか頭が冷えた。その場に留まってたら殺されちゃうから、とりあえず荷物とか全部ほっぽり出して逃げて――、
突然着てた服がゾリって削げて、駆けだした足を急停止させる羽目になった。
勢いよく玄関を飛び出してから、3秒くらいの話だと思う。
さっき言ったハダカデバネズミとプテラノドン……あいつらって術師の使役する式神らしいんだけど、なんか通った軌跡を術師の領域に変えるっていう激ヤバ能力だったみたい。
横にいたコガネに試しに聞いてみたら、ドルゥヴ・ラクダワラっていう泳者の式神だった。
そのドルゥヴ……本名は別の名前なんだろうけど、なんかそいつ、1800年以上前の戦争で日本を制圧しちゃうくらい強い術師なんだって。
全国に10ヶ所も結界があるのに何でよりにもよって一番ヤバそうな奴がここに、なんて言ってる場合じゃないことはあたしだって分かってた。
触れると体が抉れるゾーンから離れようにも、あたしの目じゃそもそもそれが見えやしない。だから呪力強化で何とか突破できないかな? って思って試しに指先に呪力を集中させて触ってみたら、何の抵抗もなく爪の先が消滅して『フ!!』って変な笑い声が出た。
一刻も早くその場から離れなきゃな状況なのに、急いで走ったら体が消し飛んじゃうかもしれない地獄。
出来る限り体の大きさを小さくするために狸の姿に戻って、産まれたての小鹿みたいに足をプルプルさせながらそ~っと離れて……さっきも言ったけど、正直、今あたしが生きてここにいるのは奇跡でしかないと思う。
それでもあたしが狸の姿になってたことは、術師達の標的にされにくくなるっていう点では功を奏したかもしれない。
でっかい狐の妖怪のお前とは違って、あたしの姿って本当にただの狸じゃん? だから呪力を極限まで抑えながら移動してたら迷い狸だって勘違いしてもらえたみたいで、殺気立つ血塗れの泳者の横を歩いてても無視してくれた。
取って喰われるかも? とも考えたけど、殺し合いの場とはいえ現代日本の街が舞台だし、肉が不味いって言われる狸に手を出そうとする酔狂な奴はいなかった。
結果的にあたしは他の泳者よりも狙われにくい立ち位置になれてたのかもしれないけど……でも、ドルゥヴの式神の脅威は何も変わらない。
日に日に仙台結界全体を侵食する式神に怯えながら、あちらこちらで勃発する術師の戦いに巻き込まれないように息を殺して逃げ回る毎日。正直、今まで生きてきた中で一番地獄だった。
転機になったのは、死滅回游に閉じ込められてから12日後。
弱い泳者があらかた狩り尽くされて、人間の姿自体目撃するのも稀になってた頃。
今まで街を蹂躙してたドルゥヴの式神が突然消滅したんだ。
――――誰かがドルゥヴを殺したんだ!
街を覆ってた禍々しい呪力も消えて、さっきまでデスゾーンがあった場所に触っても大丈夫になってて、誰かは分からないけど十日以上続いた支配を破壊してくれたんだって分かった。
耳を澄ませても嗅覚を尖らせても人間の気配はない。ドルゥヴの脅威もなくなった以上は足の遅い狸の姿でいる必要は無い。
あたしは人間の形になって、12日間たどり着けなかった結界の縁に向かって駆け出して――、
『私ハ鉄ノ味ガ好キダ!!!』
ドルゥヴ並みにやばい泳者の所に突撃しちゃって、戦いに巻き込まれた。
確かに、あの時のあたしはドルゥヴが死んでだいぶ気が緩んでたと思う。でもそれにしたって一番近い結界の縁の方向に向かってドルゥヴを殺した術師が飛んでくるとは思わないじゃん?
その術師……あそこにいる乙骨がそうなんだけど、あいつがすごいスピードでこっちに向かって走ってきて、それを追ってとんでもない数のゴキブリの群れが襲ってきてて。
しかも乙骨がそのゴキブリに対処したかと思ったら、乙骨を追撃するみたいに2人の泳者が登場して。
そのうちの一人が、さっきあたしの言ってたちょんまげ大砲……今は石流龍って名前らしいから石流って呼ぼうかな。
なんかポンパドールになってたとはいえ、2週間前に冥福を祈ったはずの恩人が目の前に現れたもんだから、びっくりして思わず声を上げちゃって。
『えっ……ちょんまげ、』
『グラニテブラストォォ!!』
『わァーーーーーッ!!?』
そして、気づかれることなくグラニテブラストで吹っ飛ばされた。
その時あたしは思った。そーいえば400年前もあんな感じだったなあいつ、って。
一般人を狙いもしないけど巻き込むのも躊躇しないスタイル。あたしが一緒に暮らしてた時も伊達藩の連中にさんざんぼやかれてたのが懐かしい……話が逸れたや。それであいつが何も考えずにグラニテを連発するもんだから、あたしもその場から離れる機会を失っちゃって。
『やった気になってんじゃねぇ!!!』
『イヤーーーーーーッ!!?』
全裸変態女の地面をトランポリンにする術に巻き込まれて車と一緒に空を飛んだり。
『私ハ!! 鉄ノ味ガッ、好キダ!!!』
『ヤダーーーーーーッ!!!』
復活してきたゴキブリ呪霊の召喚したゴキブリに齧られかけたり。
地形やらなにやらがガンガン変わっていくような、あたしにとってはもう何が何だかわかんない戦場だったよ。
だったって言うのに、
――――――出し切ろうぜ。
あいつの目は、400年前じゃ見たことないくらい、堪らなく熱い眼差しだった。
――乙骨と石流の最後のタイマンは、戦いというか怪獣映画みたいに見えた。
ビームがバンバン飛んで、道路が拳で陥没して。
あたしなんか近づくだけで死ぬから、瓦礫の影から震えて見てるしかなかったけど。
結局あたしは、二人の決着がつくところまでずっと見てた。
石流のグラニテが乙骨の術式で曲げられて、それを石流が喰らって、それがとどめになって、石流が負けたんだ。
『……ありがとう。満腹だ!』
って、それだけ言って、意識を失ったんだ。
400年前、「俺を満たしてくれる奴を待つ」って言ってたあいつが、やっと、探し続けた相手に出会えたんだなって。
あたしは、感慨深く思ったんだ。
……お前の過去を比名子ちゃんにばらして嫌がらせしたくせに、自分は随分石流に入れ込んでるじゃんって、そう思う?
あは、あたしは結構思ってるよ。おばあちゃんが迫害される前の知り合いとはいえ、今のあたしも人間と縁を結べるんだって。
お人よしの隠神刑部の血のせいかな。それか人間とは言え、ほとんど妖怪みたいな奴だからかも。
――決着がついたとき、きっと、石流は自分を満足させてくれた相手に殺されるなら本望だろうって思った。
別に情が薄いってわけじゃないよ。そこそこ長い付き合いだから、少しくらい気持ちを汲み取れるだけ。
だからあたしはその場を離れようとした。
『なにしてるのォ』
ダメだった。
乙骨に背を向けてそ~っと離れようとしてたんだけど、石流にぶっ飛ばされたはずの乙骨の式神「リカ」がいつの間にか背後に回り込んでて、抵抗する間もなく首根っこ掴まれた。
猫の子みたいにぶらーんってされたよ。狸なのに。
『君は石流さんの仲間?』
乙骨が近づいてくる。血まみれなのに声だけは妙に穏やかで、そのギャップが逆に怖い。
『ちちち、違う違う違う! ただちょっと逃げる機会がなかっただけで!』
『そう。けどどの道妖怪は放置できない』
『わァ……ぁ……』
終わった。乙骨、こいつ現代の術師だ。妖怪を呪霊なんかと同等と扱って問答無用で殺しに来る奴だ。
殺される。あたし絶対殺される。今日という今日は狸汁だ。
……って、思ったんだけど。
『――よぉ、ソイツは俺の昔の飼い狸なんだ。勘弁してやってくれ』
タイミング良く起き上がった石流が、ゆっくり体を起こしてぶら下がったあたしを見ていた。
命乞いにしてはあまりにも軽い口調に、あたしと乙骨はしばらく固まる。
『久しぶりだなぁ仔狸。オマエ松山に帰ったんじゃなかったか?』
『え……いや、今回はたまたまお前のお墓参りに来てて……』
『それで死滅回游に巻き込まれたのか。400年前から不憫な奴だよなぁ』
さっきまであれだけ殺し合いしてたくせに、石流の様子は呑気なもんだった。
一応あたしまだリカに捕まったままなのに。
そんな感じのあたし達にすっかり毒気を抜かれた様子で、乙骨はこんな提案を石流にしてきた。
『……石流さん。もし僕らに協力してくれるなら、その子も見逃します』
『……お? いいのか?』
『構いませんよ。これから羂索と戦わなきゃいけないので、戦力は多いほどいい。妖怪1匹で協力してもらえるなら安いもんです』
んーっと伸びをしながら、乙骨は晴れやかな顔で笑っていた。
――こんな感じで、石流は高専側に協力することになって。
巻き添えみたいな感じであたしも保護されて。
今こうして、お前らの拠点にいるってわけ。
――以上!
あたしがお前らと一緒にいる理由の説明、おしまい!
次回から人外魔境!
まさか全部合わせて50話以上もかかるとは……自分のまとめ能力のなさが憎い……