トレセン学園でも屋外に喫煙所がある。
コースからかなり離れた校舎裏に設置されている。
喫煙所、とされるが
トレーナー達がウマ娘達には
聞かれたくないような会話をする場所だ。
夕暮れどき、一人のトレーナーが
しゃがみ込んで俯いていた。
「………どうしよう、貞ちゃん……」
「どうした、あからさまに落ち込んで」
「【急募】いかがわしいDVDが
妻に見つかった時の言い訳」
喫煙所に戦慄が走る。
「……うわあ…なんで結婚した時に
処分しとかないんだよ」
「処分しとくもんなの?」
「嫁さんはいい気分じゃないだろうしなあ。
今日日DVDじゃなくても動画サイトあるだろ」
「そういうのはお世話になった
感謝を込めて供養するもんじゃね?
三女神の前でお焚き上げしろよ」
「三女神にセクハラで訴えられますよ
そんなもん目の前でお焚き上げされたら」
エイジの意見に対し檮原が反論する。
「あ、教官どうせ『同じことしてみたい』
とか奥さんに言っちゃったんでしょ
変態じゃないっすかー!!!」
空挺部隊の制服を纏った新人が
爆笑しながら直球をぶち込む。
「ヒロシお前罰走な」
「教官はいつも俺にだけ当たりがきつい!!」
そう言いつつも新人は
しぶしぶ駆け出していった。
「別にいいんじゃないかな?男の人なんだし」
この場で唯一の女性の小宮山はけろりとしている。
「タマちゃんだって『しゃーないなあ』
くらいで済ますでしょ」
「済んでたらこんなに落ち込まないんだよ………」
「あー、タマちゃんあなたには拘るから
嫉妬しちゃったのかなあ」
「あれは嫉妬とかではないかなあ……」
家でも仕事をすることが多々あるため
夫妻各々に書斎がある。
別にお互い鍵をかけているわけでも
出入りを禁じているわけでもない。
また、この夫婦の家は暇がある方が
家事をすることになっているので
お互いがお互いの書斎を
掃除することは珍しくなかった。
今日は昼に帰宅した時に
タマモクロスが掃除をしていた。
「ただいまー、あれ、タマ、
掃除してくれてるのー??」
書斎をのぞくと、
タマモクロスがぽかんとした顔で
DVDケースらしき物を持っている。
「…あ、おかえり早かったんやね」
「…………それはっ………!!」
終わった。
いかがわしいやつだ。
さようなら俺の人生。
「本棚の裏なんかあるなーって…
…これやったんやけど」
「…ええと、あの……すみませんでした………」
「怒ってへんよ?男の人やしなあ。
むしろ見つけちゃって悪いことしたわ」
妻は寛容であった。
「じゃあ今度これと同じことしてみたいけどいいかな」
「……それとこれとは話が別やろ」
と、真顔で言われたという。
「ごめん話変わってきた。それは私擁護できない」
「……お前図星突かれたからって
後輩罰走させんなよ………理不尽だろ……」
「…時間停止もの以外は再現できるなら
してみたいだろ!!男のロマンだろ!!
俺は変態じゃない!!」
「「「「………変態だー!!!!」」」」
その場にいる全員が声を揃えた。
「え、お前ひょっとして時間停止もの
信じるタイプか?3割が嘘だぞあれは」
「マジかよ貞ちゃん!俺すっかり騙されてたわ」
「残りの7割も止まってねえよ?」
「嘘だろ…もう俺は何を信じたらいいんだ…?」
「我々はむしろあなたの認識が信じられませんが?」
「真顔で言われていたたまれない気持ちになって
ここ戻ってきたんだけどどうしよう……」
「いやいたたまれないのはタマちゃんだけど?」
「お前をどうしてくれようとしか思わんが。
親しき仲にも礼儀ありだぞ。
相手が嫌がるなら辞めとけ」
「ところでさあ、どんな内容なのよそのDVD」
「さすがに女性のいるところでは……」
ちらりと小宮山を見上げる。
「今更色んな意味で女扱いされても。どんななの?」
「いやー洋物なんだけどさー。
『女スパイは快楽の罠に堕ちる』ってやつで
洋物なのに主人公ウマ娘はぶりぶりしてなくて
清楚でかわいいんだよね芦毛だし。
潜入先の独裁政権国の軍事施設で捕まっちゃって
尋問する男の方が鞭を使うんだけど
叩くとかじゃなくて先の方で上手い具合に
うらやまけしからん攻め方をするんだけど
俺だったらもっと」
「もういい。越えちゃいけない一線を
助走をつけて飛び越えるな」
「トレーナー資格以前に
お前に人権あるのが信じらんねえ」
「…タマちゃんうちでしばらく
保護したほうがいいかしら……」
「待って!最後まで聞いて!!
ストーリーも結構練られててカタルシスあるし
なんやかんやで最後二人は
結ばれてハッピーエンドだから!
後味爽やかだから!!!」
「もうお前その作品の推薦文
書いてあげられる熱量だな」
「確かにAmaz◯nでも口コミ高評価ですね」
「ポチろうとしてねえか檮原ぁ!?」
妻がタマモクロスと並ぶ
気性難であるイナリワンなのに命知らずである。
「あ、ここにおったんやね!探したわ」
喫煙所に渦中のタマモクロスが
やってきたではないか。
「……!?タマ、その格好は…!?」
タマモクロスは何やらいかつい
軍服のようなものを纏っていた。
「むっあれは『女スパイは快楽の罠に堕ちる』の
主人公と同じ衣装では…?」
「檮原!!ダメだ!お前はそっち側に行くなあ!!」
「エイジ、あいつはもうだめだ」
「………すごい再現度…。この短時間に…?」
「あのあと色々考えたんやけど……
似たような服コスプレ衣装屋で買うて来たん……」
「色々考えてその結論はだめよタマちゃん!!!???」
「……タマ…………!嬉しいよ…!」
妻を強く抱きしめた。
「嫌やわ恥ずかしい、みんな見とる前やで……
もー、見せもんちゃうで?見たいなら金取るで?」
「お前らが勝手に垂れ流しとるんだわ…
某公共放送かお前ら夫婦は」
貞ちゃんは頭を抱えた。
「ああ、タマちゃんがどんどん
変態に慣らされていく…」
小宮山は目頭を押さえる。
妻はふと空を見上げた。
「…ラストシーンもこんな夕日やったね」
「!最後まで見てくれたんだね、タマ!」
「内容知らんのに批判でけへんやん」
「最後まで見たんかーい!!!
帰ってきてタマちゃん……
…タマちゃんがそんなボケに回ったら
誰がツッコミをするっていうの…?」
「こみちゃん……ウチはもう……
ツッコまれる方なんや……うちの人限定で」
「身体の構造上それはそうかも知れないけど!!」
「タマが俺にツッコみたいなら俺頑張るよ」
「ホンマか?興味はあんねん」
そんな会話を包む夕陽が白けるほど美しい。
「こんな夕日の中、二人で
手を繋いで歩いていくんよね」
「……そうだね…今の俺達みたいにね」
「…ふふ、なんかロマンチックやな」
夫婦は固く手を繋ぎ家路について行く。
全米を泣かせたような超大作ならまだしも
エロDVDのラストシーンを
重ね合わせて感動できる人妻はいかがなものか。
もはや誰もが夫婦にツッコミを入れる気が失せ、
檮原はデータ版をポチってダウンロードした。
「……なあエイジ、俺達は何を見せられたんだ?」
「…これ単にあの夫婦のプレイに
巻き込まれただけじゃねえかな……」