白い新妻の憂鬱   作:南天 ヤスカド

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白い新妻の遅い馴れ初め
白い新妻と芦毛の怪物


昼下がり、ピークを過ぎたカフェテリアの

テーブルに並んだ料理の山脈の向こう側、

半ば呆れたような、諦めたような顔をした

タマモクロスの顔が覗いている。

 

「………いっつも思うけどどこに収まるんやこれ」

「腹八分目と言ったところだぞ」

「相変わらずやな、オグリ………。

 満漢全席一人で食えるんちゃう?」

中華料理でも最高級、量も多く

二、三日に分けて食べるという宴会料理だ。

「あれは美味しかったな。

 2回おかわりしてしまった」

「満漢全席を…おかわり…2回やて……?」

ツッコミも忘れて唖然とする。

値段も量も桁違いだろう。

 

一方のタマモクロスは軽めの

ランチプレートを注文していた。

軽めと言ってもウマ娘用であるのでそこそこの量だ。

「…まあええわオグリやしなあ………

 …ほな、いただきます」

「いただきます」

 

料理の山脈を掘削する

オグリキャップを眺めつつ

タマモクロスはスープを一匙口に運ぶ。

好みの味だったのか彼女は自然と笑みこぼれる。

「………タマ」

「?なんや?」

「タマはとても、きれいだな」

「…なんやいきなり。口説いても

 うちは売却済みやで?」

ややドヤ顔でオグリの言葉を躱す。

 

タマモクロスは元々、

黙っていれば大変な美女であるが

ここのところ特に艷やかさが増してきた。

 

あのオグリキャップが

食事の手を止め、見惚れるほどに。

 

「…そうだったな。…おや??タマ、

 首のところが赤くなってるぞ?

 私から見て右側…」

 

食事の邪魔にならぬよう

留めた銀髪の隙間からのぞく首筋に

赤い跡を見つけた。

 

「〜!!!!…見えるとこはやめえって

 言うてんのにあの人はぁっ……!!」

タマモクロスは小声でそう言いつつ、

顔を真っ赤にして首筋を押さえる。

 

─ああ、そういうことか。

 

さすがのオグリキャップも指摘した後に

それが野暮だったことに気が付く。

 

「……あ、なんもあらへんて……

 ほら、はよ食わな冷めてまうで」

 

「売却済み」の証をなんとか襟で

誤魔化しつつタマモクロスは食事を続ける。

 

─よく食べるようになったものだな。

 

現役時代の彼女の食の細さは

当時ライバルであった自分から見ても

心配になるほどだった。

のちに彼女の夫となるトレーナーが

その改善の為に奔走したというが。

 

「……なあ、タマ」

 

オグリキャップはこの夫婦に抱いていた疑問を

思い切って聞いてみることにした。

「なんや?」

 

「トレーナーの方はいつ、タマを

 好きになったんだ?」

 

「ふえっ!?トレーナーの方って……」

「タマがトレーナーのことを

 ずっと好きなのはわかってたんだが」

「アイエエエ!?」

タマモクロスがニンジャに

出会ったかのような声を上げる。

「わ、わかって………た………?」

「チームのみんなはわかってたぞ?」

タマモクロスとしては恋心は

胸に秘めていたつもりだった。

ずっと、秘めたままにしておこうと。

「誰にも言うてへんかったのに…??」

「うん、分かりやすかったからな」

 

「………シテ………コロシテ……」

 

そういったことには鈍い方である

オグリキャップにも

バレバレだったショックに

タマモクロスの作画が崩壊する。

 

あれで隠してたつもりだったんだろうか

と思いつつオグリキャップは続ける。

 

「トレーナーはいつも私たちに

 一生懸命ベストを尽くしてくれた。

 でもそれはみんなにだ」

彼はウマ娘の為なら全力を尽くす男だ。

だが担当ウマ娘に対しては

遍く公平にそうであった。

特別扱いはない。

 

「トレーナーは

 担当ウマ娘は恋愛対象ではない、

 とはっきり言っていたしな」

 

今や隠すことなく妻への溺愛ぶりを

披露する夫であるがトレーナーとしては

安易に担当ウマ娘を恋愛対象とするのは

否定的な立場だった。

それ故に、タマモクロスも

諦めていたのである。

結婚後もタマモクロスが

彼を「トレーナー」呼びしていたがために

「仕事モード」になってしまい妻として

接することができなくなったくらいだ。

 

 

「トレーナーはいつから

 タマを女性として好きだったんだろう?」

 

「それは…」

サラダをつつきながらタマモクロスは思案する。

 

「…ああ、あん時オグリはおらんかったんやな」

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