白い新妻の憂鬱   作:南天 ヤスカド

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狙われた者

いくつもあるモニターには

各教室や廊下の状況が克明に映し出されていた。

校舎内はうろつく迷彩服の軍団以外はどこも無人だ。

 

あれだけいたはずの生徒や教職員は

体育館に集められているようである。

そこには理事長と、駿川たづなの姿もあった。

「カメラ、こんなにあるんですか…」

カメラは膨大な数だ。

「お手洗いと更衣室以外はほぼ

 防犯カメラが付いてると思っていい」

「安心なような監視されてるような……」

「まあ捉え方だよねえ。

 あと、部室にはついてないんだ。

 つけようって話も出たけど

 嫌がるトレーナーが多くてさ」

「トレーナーさんはどっちなんですか?」

「俺はやましいことないからね。

 ……うーん、反対してる人は

 戦略とか作戦とか漏れる可能性あるのが

 嫌なのかもねえ」

実際は部室で飲酒をしたり

いかがわしいコトに及ぶトレーナーが

部室の防犯カメラ設置を

嫌がっていたのであるが、生徒にする話ではない。

「とりあえずみんな体育館にいるね。

 危害を加えられてはいな……っ…!?」

 

モニターのひとつに信じられない光景が映った。

 

簀巻きにされたウマ娘が迷彩服の軍団に

運ばれて行く姿だった。

 

「……あれは!!」

 

髪は短く切り揃えてはいるが、タマモクロスだ。

「どこに向かっているんだ?」

連れ去られる姿を

モニターを順に追っていくと、

とある部屋に連れ込まれていった。

 

「理事長室…!!」

 

ここもまた、室内に防犯カメラが設置されていない。

「今の、タマモクロスさんじゃ??」

「……そうだね」

 

─生徒たちの移動は囮か?

狙いは最初からタマモクロスだったのか。

彼女を誘拐して身代金を要求する気だろうか。

 

テロリストにさらわれ、

未だに遺体すら見つからない一方で

世界中のウマ娘の育成施設に

4月1日の幽霊という伝説として

縛り付けられているウマ娘。

 

史上最悪のウマ娘誘拐事件が

トレーナーの脳裏を過る。

「させない………!」

無意識のうちに鞭を強く握りしめた。

 

「いたぞ!!やっぱりここだ!」

 

警備室のドアが乱暴に開かれた。

迷彩服の男たちがなだれ込んでくる。

 

「伏せて」

「きゃあっ!?」

トレーナーはそういうや否や

生徒をモニターのコンソールの下に押し込んだ。

上着を彼女に渡す。

「これ被って。向こう向いて口押さえててね」

 

パン、と破裂音がした。

 

白い靄がコンソール下にも漂ってくる。

どうやら煙幕か何かのようだ。

 

煙が漂っているであろう背後から

打撃音と男の悲鳴が聞こえる。

 

「ぎゃあっ」

「ぐふっ」

「痛えっ」

 

10分ほど経っただろうか。

最後に何かが倒れ込む音がしたあとは

僅かなうめき声以外は聞こえなくなった。

 

恐る恐る振り返ると、

薄まる煙の中に倒れた複数の男たちと、

ただ一人立つトレーナーの姿が浮び上がる。

彼女にはその姿が迷彩服の男たちよりも

恐ろしく見えた。

 

残るのは指示役と見られる男だ。

 

俊敏な動きでトレーナーに掴みかかるが

トレーナーにすれば見慣れた動きだった。

 

「自分」が指導した通りの動きだ。

 

軽くいなすと自分より大柄なその男を

一瞬で組み伏せる。

倒れたその男にトレーナーは

馬乗りになるとその覆面を剥いだ。

 

「やっぱり……」

昨日の、トラック侵入事件の際の担当者だった。

「これは返すよ。君のだろう」

懐から先ほど拾ったナイフを取り出す。

「っ……!!」

トレーナーは組み伏せた相手に

思い切りそれを振り下ろした。

 

「トレーナーさん!!いけません!!」

悲鳴にも似た声が室内に響く。

 

グサリ、と特別製のナイフは

隊員の頭のすぐ脇の床に

深々とその硬度を誇るように突き刺さっていた。

「やるわけないでしょう。(ウマ娘)がいるのに」

改めて相手の喉元に鞭の先を突きつけながら問う。

「………目的はなんだ。タマモクロスか」

「……………」

「彼女に傷ひとつあってみろ、

 今度は外さんぞ!!」

 

指導でも出さないようなその怒声に

思わず組み伏せられた男は目を見開く。

 

ザザッ……と不快な音がした。

 

モニターの一部に砂嵐が走る。

カメラがないはずの理事長室内が映し出された。

ハッキングかと思ったが

強烈な妨害電波が出ている状況である。

有線で無理やり繋いだのだろう。

 

翁の能面をつけた迷彩服の男が

理事長の席に座っている。

その手には赤と青の特徴的な

リボンが握られていた。

タマモクロスのトレードマークともいえる

頭の飾りだ。男はそれを机に落とす。

「……………!!!!!!」

まるで、トレーナーを嘲笑うかのようだ。

見ていることが分かっているのだろう。

別のモニターには理事長室の

応接用のソファが映った。

赤い耳当てと赤と青のヘアバンド。

赤いハチマキ。

真新しいスーツ一式がそこに

無造作に置かれていた。

 

まるで中身だけ消えたように。

 

「………タマ…………!!!!????」

 

組み敷いていた男ががくりと意識を失う。

 

モニターに気を取られているうちに

最初に出会った少年のように

仕込んであったのであろう

睡眠薬を使ったようだ。

 

「………みんな寝てるみたいです……」

周りに倒れた男たちも同様だった。

これでは事情は聴けない。

 

「……クソが!」

床を蹴りながら立ちあがるトレーナーから、

普段の彼なら言わないであろう言葉が出た。

よほどの怒りなのだろう。

 

「………行こう」

「り、理事長室へですか」

「ああ。それともここに残る?」

「…いえ、行きます。でもどうやって?」

理事長室前にも廊下にも

迷彩服の軍団が溢れている様子が

モニターに映っていた。

 

「…あ、隠し通路!」

あれだけ張り巡らされた通路だ。

理事長室から緊急避難通路もあるだろう。

だがトレーナーは首を振る。

「理事長室の避難通路は理事長室側から

 ロックを外さないと通れない」

「じゃあ、どうしたら……」

 

「もちろん、正面突破だ」

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