「君、武道の心得があるね?」
トレーナーは確認した。
「え?はい、多少は………」
「ならついてこられるね」
確認した限りでは敵方の構成員にウマ娘はいない。
ウマ娘のフィジカルで武道を嗜んでいるなら
十分に戦力になるだろう。
それになんとなくだが、彼女は
こういう場に慣れている感じがする。
「あくまでサポートでいいから。行くよ!!」
そう言いながら立ち塞がる迷彩服軍団を
流れるように打ち倒しながら理事長室
めがけて駆け抜けていく。
あとに残るのは死屍累々の迷彩服軍団。
いや、生きてはいるが。
「あれ別にサポートいらないんじゃないかなあ……」
その後ろについて行きながら
彼女はぼそっとつぶやいた。
理事長室があるフロアまで一気に
進んで行くが、ここで違和感に気づく。
─おかしい。
テロリスト集団の割に持っているのが
銃火器でなく警棒やナイフといった
近接武器ばかりだ。
─一体どういう……
一瞬、気が緩んだところで
ヒュンッと風を切る音が現実に引き戻す。
─俺が相手だ。
そういうかのような風切音だ。
ひょっとこの面をつけた
男が理事長室正面の廊下の前に
鞭を構えて立ちはだかっていた。
「鞭って………まさか?」
鞭はURA空挺部隊や警備隊の標準装備である。
一線を退いた後も愛用するものは多い。
「…おっとぉ!?」
間合いは十分取っていたはずが
一瞬で目の前に鞭が飛んできた。
それを自らの鞭で何とか受け止める。
息つく間もなく何度か打ち合うも
相手の鞭を弾き返し、落とさせると
すかさず足払いで転倒させる。
鞭でひょっとこの面を跳ね上げ、相手の素顔を晒す。
「待った!!降参降参!!いやぁお前の勝ちだよ」
「………大将、どうして」
ひょっとこの正体は寿司政の大将だった。
動きが他の迷彩服の男たちと格段に違ったのは
彼が空挺部隊出身だからであろう。
「…どうしてって……ああそっか」
大将はニンマリ笑う。
─内通者は複数とは想定していたが
空挺部隊のOBまで─?
「タマモクロスはな、まだ校内にいるぞ」
「……!!」
「じゃあな!!」
そう言うと大将は窓を派手に
ぶち破り外に飛び出す。
「うわっ……こんな高いところから??」
「……あの人なら大丈夫」
そのトレーナーの言葉通り、
大将はくるりと回転すると華麗に着地した。
「まあ頑張れよー!!
俺今から店の仕込みあるから!!」
彼は迷彩服のまま、手をひらひらと振ると
そのまま敷地外に出ていった。
─どうなってるんだこれは。
大将は内通者??
でも仕込みあるって………
え、仕込み………?
通常営業すんの??
混乱を覚えつつも迷彩服軍団を
一通りなぎ倒すと理事長室に突入した。
『よう、来たか』
変声機を使った声だ。
大げさなプロテクターをつけた
能面の男は泰然と理事長の席に座っている。
「タマモクロスはどこだ?」
『さてなあ。ところで、なかなかいい腕だ。
我々の仲間にならないか』
「断る。タマモクロスを返せ」
『嫌だと言ったら?』
トレーナーは無言で机の上に飛び乗ると
能面の男の顔面めがけて蹴りを入れる。
「きゃあっ!!」
思わず生徒が悲鳴を上げた。
能面の男はその脚を腕で受け止めた。
─強いな。
大将と互角かそれ以上か。
蹴りを入れた脚をつかもうとする手を避け
トレーナーは机の上から
バク転で降りて距離を取る。
能面の男は椅子から立ち上がり
一気に間合いを詰めると
トレーナーの右手を裏拳で弾き上げた。
その威力に思わず鞭を取り落とす。
─しまった………!!早い!!
続けざまに膝を腹に打ち込まれた。
「ぐっ………っ」
重い一撃だ。意識が薄れる。
『タマモクロスか。
わざわざ身代金を取らなくても─
高く買う御仁はいるな』
耳元でボソリと能面の男は呟く。
「───!!!そんなことは……!」
深く入った相手の膝を
抱え込みそのまま持ち上げると
能面の男を壁に思い切り叩きつけた。
『うぐっ……』
「俺がさせない………!!」
壁に叩きつけられた衝撃からか
能面の男は意識が飛んだようだ。
「…起きろ!!…タマモクロスは…
…どこだ………!!」
再び能面の男に殴りかかろうとしたとき、
迷彩服の戦闘員が部屋に飛び込んできた。
─……まだいたのか。いつの間に?
能面の男から一旦離れると
その戦闘員の攻撃をいなす。
こちらはかなり俊敏な動きではあるが
動き自体は単純だ。
と、いうよりこちらもよく知っている。
これも、自分が教えた動きだ。
「……………はあ」
あっさりとトレーナーは後ろを取り
左手で相手を後ろから抱き上げた。
「…あっ」
足をバタつかせるが抵抗にもならない。
右手で相手の目出し帽を外す。
ぴょこり、と長い耳が現れ、
その下に銀色の短い髪が見えた。
トレーナーはその相手をそっと下ろすと
相手の前に回って顔をのぞき込む。
「………なにやってんの、タマ?」
迷彩服の小柄な戦闘員は
誘拐されたと思われたタマモクロスだった。
「あちゃあ…やっぱバレてもうたわ」
壁に叩きつけられた能面の男は
ひょっこりと起き上がると翁の面を外す。
「鈍臭いから気づかねえかと思ったがな…
…あー………いってえなぁ…
……そういえばお前、俺から初めて
一本取ったんじゃねえか?」
「師匠!!!!????」
能面の下から現れたのは他ならぬ師である。
「お師匠様!」
先程までトレーナーについて来ていた生徒が
マムシに駆け寄る。
「おお、お目付け役ご苦労だったなあアロー。
な、こいつ強いだろ」
「はい、お師匠様に勝っちゃうなんて!!
あと爆破もすごかったです!!どーんて!!」
「…師匠と……知り合い…だったの?」
「はい!改めまして、
ウイングアローと申します!!」
ウイングアローは深々と頭を下げた。
「まあお前からすりゃ年の離れた
妹弟子みたいなもんだなあ。
どうだ、なかなか肝が据わってるだろ」
どうりで、とトレーナーは頭をかいた。
随分と「場馴れしていた」
雰囲気だったのはそういうことか。
「…ええと…今回のこれはつまり……」
「訓練っ!!実戦さながら、見事であった!!」
満面の笑みの理事長が部屋に入ってきた。
「……訓練…………」