白い新妻の憂鬱   作:南天 ヤスカド

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微睡みの中で

白い白い、どこまでも白い世界。

空と地面の境目もない世界に

タマモクロスは佇んでいた。

 

「あれ、ウチどないしたんやっけ…?」

理事長を庇って、何か熱い液体を浴びせられて…

「……誰かに『大平原』言われた気もすんねんけど…」

 

手を伸ばすと、指先が僅かに霞む。

周りに白い霧が立ち込めているのがわかった。

 

「ここ、どこや…?」

薄れた霧の中に見慣れたあの、

黄色地黒い丸星が5つ入った上着が見えた。

 

「トレーナー…?」

 

しかしその背中はがっしりした体格の

トレーナーと違いほっそりとした背中である。

 

振り返ったその人は、

メガネをかけた穏やかそうな人だった。

タマモクロスは見覚えがあった。

トレーナーの、もう一人の師匠である。

 

すでに故人だ。

 

「やあ、タマモクロス」

 

その人は、静かに語り始めた。

 

─あの子は昔からなんだ。

 

時々、ここにいる自分は偽物で、

どこか別の世界に本物の自分が

いるような気がして、

消えてしまいたくなるときがあったみたいだ。

 

ひょっとしたら、君たちウマ娘の方が

この感覚がわかる子がいるかもしれないね。

 

自分は本物には決してなれない。

 

そんな言い知れようのない

自分の存在への失望から

必要以上に誰かと深く繋がる事、

誰かに拘ることを緩やかに拒絶していた。

 

誰にでも優しくして

誰にでも同じ距離を置く。

 

たとえ自分は偽物でも、

大事な存在を守りたくて強くなった。

強くなりすぎて人間卒業

してるんじゃないかと思うくらいに。

優しくて強いのは、

あの子が持って生まれたものだけど、

その分余計に、本物でないような

自分が許せなかったんだろう。

周りを裏切っているようで。

 

「……トレーナーは偽物ちゃうもん……」

タマモクロスは悔しそうに呟く。

 

……そうだ。

あの子はあの子なのにね。

 

あの子は誰にも選ばれないように、

誰も選ばないように生きてきた。

 

本来寂しがりなあの子に

本当に寄り添うことは

誰にもできなかった。

 

「やっと、それも終わりそうだ。

 ………君がいるならば、

 君といるならばね」

 

霧が濃くなり、その姿が白くぼやけていく。

 

「待って!!待ってください…!」

 

タマモクロスは霧の中に飛び込んだ。

 

霧を分け、黄色い地の服を纏った背を探す。

 

─どこにいるか、すぐわかるでしょう。

 

トレーナーの言う通り、

特徴的なその背のデザインの服を着た

トレーナーのことはどんな

人混みでもすぐに見つけられた。

 

まさに五里霧中、であったが

タマモクロスは走り続ける。

 

霧の先、あの背中を再び見つける。

 

ゆっくりと振り返るその人物は

もう一人の師ではなく、

体格もトレーナーによく似た、

彼が歳を重ねればこうなるのであろうと

思わせるような顔立ちの老紳士だ。

 

「……『アンタ』は………!!」

 

「……アイツを頼んだよ、『タマモクロス』」

 

トレーナーにそっくりな笑顔を

残して彼は霧の中に消えていった。

 

「待って!!」

 

視界を覆う白い霧は白い天井に変わっていた。

 

先程の老紳士によく似た顔が

心配そうに覗き込んでくる。

 

「………タマ…!」

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