白い新妻の憂鬱   作:南天 ヤスカド

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きみの記念日
最強の強火オタク


「なんじゃこりゃああああああああああ」

 

悲痛な叫び声が学園内に響き渡る。

「うるさいぞトレーナー。どうしたんだ

 殉職間近の刑事みたいな声を出して」

ナリタブライアンが書類から顔を上げると

トレーナーがフィギュアの専門誌を手に

わなわな震えていた。

 

─アイツあんな趣味があったのか。

 

「タマのフィギュアの売り文句がねっ……」

 

─引き締まったウエストライン─

 

「間違ってはいないっ!!

 間違ってはいないけれどもっ……」

 

たしかにそこを強調されるのは

配偶者としては複雑だろう。

 

「…我々についてはそういう目で見られるのは

 ある程度は仕方なかろう。不本意だがな」

 

「タマを性的な眼で見ていいのは

 俺だけに決まってるでしょうが!?」

 

トレーナーは真顔だ。

レースを見ているときと同じ視線である。

「……お、おう」

ブライアンは勢いに押された。

 

なぜか水着や際どい衣装で走るウマ娘も多い。

そこまで露出はないが

ブライアンもタマモもオグリキャップも

基本の勝負服はヘソ出しであった。

「たまにお腹冷えないか心配になるんだよね」

「人間の陸上選手だってヘソ出して走ってるだろう」

 

「まあ、タマはヘソ出し魅惑の

 ウマ娘ではあるんだけど

 勝負服については初期案の

 セーラー服もとても素敵だったんだ。

 神楽衣装のあのスリットは際どいけど

 いやらしさを感じさせない

 凛として神秘的な感じがまさに神。

 基本の勝負服は一番彼女の活発さを

 表現していると思うんだよね。

 彼女の銀髪にはどんな色でも

 合うと思うんだけどやっぱり赤と青が似合うよ。

 アニバの各衣装も全部タマの為に作ったのかと

 思うくらいにしっくりくる。ひょっとしたら

 この世界はタマの為にあるのかもしれない」

 

最近は随分と詠唱も長くなった。

 

「……ツッコミなら嫁に頼め」

「あ、ごめんついつい語っちゃった。

 俺最近ますますタマのファンになっちゃってさ」

お前は何を言ってるんだ、という顔で

ブライアンはため息をつく。

「元々そうだろうが」

「最初のファンではあるけどね」

トレーナーとして支えてた頃は

逆にそういった目線で見る余裕はない。

元は真面目な彼の性格からすれば

トレーナーとしてきちんと

分別をつけていたことの裏返しだ。

チームを率いる以上、

全てのウマ娘を公平に扱わねばならない。

結婚し、彼女を唯一無二の存在とした

今だからこそ心置きなく彼は

彼女の推し活が楽しめるのだろう。

 

なんだかんだで出来の良さを気に入ったのか

「保存用……観賞用……

 …人類が滅亡した後の新たなる

 地球の支配者にタマモクロスの

 素晴らしさを伝える用……」

 

と、言いながら己の妻のフィギュアを

ポチる姿を見るとタガが外れ過ぎて

取り返しがつかなくなってるようにも思えるが。

 

事実、対外的にも影響が出てきていた。

 

彼がレース解説でレース中継に呼ばれた際に

予想そっちのけで延々とタマモクロスの話を続け、

炎上含めSNSは大いに盛り上がった。

 

 

『旦那やべえwwwガンギマリwww』

『嫁の話しかしてねえwww』

「なんで高松宮記念の解説で

 タマモクロスの話してんだよw」

『レース番組で新婚さんい◯っしゃいするな

 新婚さん◯らっしゃいでレースするぞ』

 

もはや彼の解説という名の

惚気は名物となりつつある。

 

また、タマモクロスが解説等、

番組収録に呼ばれることもあるのだが

トーク番組では下世話な話を

振られることもある。

そういったときには必ず

カメラがパンした瞬間の画面端に

すぅ、っと鞭の先が通る。

 

そうなるとSNSの実況が盛り上がる。

 

『おわかりいただけただろうか』

『心霊より怖い映り込み(物理)』

『タマモクロスのSEC◯M

 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

 

 

タマモクロスに生放送中明らかな

ハラスメントをした芸能人に対してはSNS上で

 

『おいおいおい◯んだわアイツ』

 

というコメントで溢れた。

 

事実関係は不明だがCMが挟まった直後に

その芸能人が座ってた位置に

いつの間にかぬいぐるみが置かれていた。

以降、件の芸能人は

ハラスメント芸を封印している。

|

そんな夫にあるバラエティ番組の

出演依頼が来た。

 

その依頼を受けた時、トレーナーは不敵に笑った。

 

「…狩りの時間だ」

「人のセリフを取るな」

 

即座にブライアンのツッコミが入った。

「一度言ってみたかったんだよぉ」

そう言いつつ彼は『狩り』に向かった。

 

 

「僕たちは〜

 タマモクロス芸人でーす!!!」

 

「某トーーク」番組の収録である。

 

その挨拶のあとただ一人、彼は悠然と答えた。

 

「私はタマモクロスのトレーナーで

 配 偶 者 で す」

 

冒頭から全開で飛ばし場をキンキンに冷やした。

 

「私は学長です」案件と互角である。

 

タマモクロスの旦那って

面白いトレーナーっぽいから

今度の特集で呼んでみようか、と

軽い気持ちで出演依頼したのを

番組関係者は今更激しく後悔した。

 

誰が彼に勝てるというのか。

 

番組でも並居る自称タマモクロス芸人たちの

披露する知識に対し、なぎ倒し蹴倒し張り倒し

ちぎっては投げちぎっては投げる

ワンサイドゲームとなった。

 

「旦那さん……同担拒否ですか?」

 

最後に司会者に問われた夫はにっこり笑い─

─目の奥は笑ってないが─平然と答えた。

 

「いいえ。

 みなさまに置かれましては今後も是非

 うちの『妻』を応援していただければと思います。

 う ち の『妻』も喜びますので」

 

圧倒的強者の余裕だった。

 

 

「……こいつを止めなくていいのか」

さすがに放送を見たナリタブライアンが

タマモクロスに夫を注意するように働きかける。

まだバラエティならいいが、

レース番組で真っ当なレース解説を求める層には

あの惚気話は評判は良くない。

 

「ウチ、ここまで愛されとるんやなって…」

唯一止められるであろう妻がこの調子だ。

「重量物かつ危険物だろこの愛は。

 航空輸送禁止だろもはや。

 …オグリキャップ、アンタも何か言え」

タマモクロスの旧知のオグリキャップに

ブライアンが話を振る。

「うーん、でも幸せならOKだ」

オグリはサムズアップをする。

「どいつもこいつも………」

本来ツッコミ属性であるタマモクロスが

それを放棄してしまった以上

このチームはOG含めツッコミが不在だ。

 

「よくわかんないけどなんか言われたら

 一発ぶん殴ればいいのでは」

新人のウイングアローもこのように

暴力で物事を解決しようとしがちなので

あまり期待はできない。

 

「アロー、一発ぶん殴ってだめだったらどうするの?」

書類を整えながらトレーナーが尋ねた。

「効くまで殴ります!」

「その通りだ」

「いやどこの蛮族の掟だ。

 ……ところでなんの書類だそれは」

「これ?今度首相に渡す

 タマモクロスの誕生日を国民の祝日に

 してもらう陳情書」

「年休申請書みたいに気軽に

 祝日制定の陳情を出すな」

そもそもなんで首相に簡単に会えるのだろう。

 

「やはり祝日か…いつ出発する?

 私も同行する」

「オグリ院」

 

「タマモクロスの誕生日を国民の祝日にする会」の

誕生の瞬間である。

「アンタらタマモクロスが絡むとアホになるのか?」

ナリタブライアンは頭を抱えた。

 

「ほな、始めよかあ」

 

剛腕と呼ばれるトップクラストレーナーと

国民的アイドルウマ娘をアホにできる

魔性を持っているとはとても思えない

「ごつい猛虎弁(メジロラモーヌのトレーナー談)」

を操りながらタマモクロスは

ちゃっちゃと手際よくたこ焼きの準備を始めた。

 

本日はOGも交えたトレーナー夫妻による

たこ焼きパーティーの日だ。

 

「なんか最近、ブライアンがツッコミ役やね?」

たこ焼きをポコポコと焼きながら

タマモクロスは肩の荷が降りたような

晴れやかな顔をして言った。

 

「勘弁してくれ………」

 

ナリタブライアンは自分でも思ってもいなかった

ツッコミの才能に戸惑いつつ、

夫婦が焼く15個目のたこ焼きを頬張った。

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