白い新妻の憂鬱   作:南天 ヤスカド

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夫、落ち込む

「タマがそうしたいならいいんだよ、

 いいんだけどさあ……」

 

なんとかネオエク◯デスにはならぬまま

トレーナーはデスクに座り直す。

 

「出張やならなんやらで何日も

 離れることもあるだろう。1日くらいなんだ」

「それは涙を呑んで我慢できてるけど…」

その日、彼はタマモクロスと一緒に

過ごしたかったのだろう。

カレンダーのその日につけられた

赤丸がなんとなく寂しい。

 

「あの子はさ、ああ見えて

 自分の欲求はあまり表に出せないから

 意思を示してくれるのは

 いいことではあるんだけどね」

 

「…おい、トレーナー」

 

細かい指摘かとも思ったが

ブライアンは敢えて苦言を呈した。

 

「自分の嫁に『あの子』はなかろう。

 あまり子供扱いするな」

 

トレーナーはハッとした顔になった。

 

「………ああ、そうか、そうだね」

 

俺のこういうとこかな、と

トレーナーはため息をついた。

歳が一回り以上離れていれば

子供のように扱ってしまうのも

無理はなかろうが、あくまで対等なはずだ。

 

想像以上にしょぼくれてしまった

トレーナーを見てブライアンは

余計なことを言ってしまったかとやや後悔した。

 

「…まあ、アンタに愛想尽かしたというより

 純粋にひとり旅がしたいだけだろう」

 

ひとり旅、と言った時に

ブライアンはタマモクロスもさすがに

夫の愛の激重ぶりに胸焼けを起こしたか、

とも思ったが、それなら仕事の手すきに

そんな夫の顔を見に来ることはあるまい。

 

この男の嫁への溺愛自体が

かなり常軌を逸した部分はあるが

それすらもタマモクロスは

 

「愛されとるなあ♡」

 

と、本来のツッコミ属性を発動させず

むしろ嬉々として受け入れていた。

 

もしブライアンが一連の異常行動を

配偶者にされたら秒で

蹴り倒しているだろうが

タマモクロスはそういうタイプではない。

そもそも夫が異常過ぎて目立たないだけで

彼女もまた相当重たい感情を夫に向けている。

 

 

「ホンマにごっつい男前やで。

 今流行りのうっすい顔立ちとちゃうやろ。

 まずな、目元がええ。

 キリッとこう切れ上がっててな。

 目力があるんや。

 あの目がな、こっち向くときは

 目尻が下がって優しくなんねん。

 あれはタマランでホンマに。

 鼻筋もはっきりしとるし整ってる。

 あの人背が小さいように思うやん?

 でも肩幅広いし胸板も厚いんや。

 筋肉もあるんやで。

 お見せできんのがもったいないくらいや。

 あとな、ウチとあの人理想的な身長差なんよ。

 ホンマにウチの運命の人なんやなって思うわ。

 手もごつごつしてて男らしいやろ。

 あれで結構指先は器用というか、

 その、優しくてな。

 こっから先はR−18やし詳細省くけども

 その、ウチとは色々とぴったり合うてな、

 こんなに相性ええんやなって♡

 ウチはきっとあの人と一緒になるために

 このなりで生まれてきたんやなって思うわ」

 

と、タマモクロスはタマモクロスで

最近はとても長い詠唱をするようになった。

 

彼女のコンプレックスであった

小さな体格についても

ポジティブに考えられるようになったのは

良いことではあるだろうが

惚気を聞かされる側はたまったものではない。

 

普段がこの調子故に、

何故彼女が誕生日という特別な日に

ひとりになりたがったのか

ブライアンにはよくわからない。

しかも、新婚ともいえる期間の誕生日だ。

 

「どこに行く気なんだろうな」

「温泉とかじゃないかなあ。元々好きだし」

「くれぐれもストーキングはするなよ」

 

「……………………………………………

 ……………………………………………

 …………………………わかってるよぉ」

 

明らかに渋々、というのがわかる言い方だ。

 

「今の間はなんだ。するなと言ったらするな。

 嫁に嫌われたいのか」

「日本には『押すなよ、絶対押すなよ』という

 ふりをされたら押さなければならないという

 礼儀作法が古来からあるよね?

 確か古事記にも書いてあったと思う」

「それは熱湯風呂のみの作法だ」

 

余談であるが熱湯風呂の作法に

ついて古事記に記述はない。

 

「俺が直に出向くのはNGでもさ、

 追跡にヘリ飛ばすのはあり?」

 

トレーナーは立場を利用して

妻の追跡にURA空挺部隊を動かす気である。

 

「なしに決まってるだろう。迷惑なOBだな」

「そこはアイツらの訓練と称して……」

「称  す  な」

 

「じゃあどうすればいいんだよおおおおおお!!」

トレーナーは涙目で机に突っ伏した。

 

「大人しくしていればいいだろう!!!!!」

 

─不安だ。

 

当日、彼が大人しくして過ごすというのは

ゴールドシップやルーラーシップが

ゲートをすんなり出るくらいのレベルで

難しい話のような気がしてきた。

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