白い新妻の憂鬱   作:南天 ヤスカド

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白い新妻と夫の秘め事

「旦那、結婚してどれくらいでぇ?」

「?ああ、今月の17日で3ヶ月だよ」

妻であるタマモクロスのたっての願いで

夫の方の誕生日に入籍したのである。

「その間タマに指一本触れてねえ、と」

「いや、普通に触ってるけど」

 

「そういうことじゃあねえんだ旦那。

 その……タマを女してやってねえだろ、アンタ」

「へ????」

 

 

─『何もしていない』─

 

「…そういうことね………

 タマ………こういうめっっっちゃ

 プライベートなコトを人に話すのは……」

 

羞恥で顔を覆う夫に妻は謝罪する。

 

「……ごめん……うちも

 今になってめっちゃ恥ずかしい」

 

まずこういうことは夫婦間で話して欲しかった、

と言いそうになったのを飲み込む。

これだけ生活がすれ違っていて、

どこでいつ話すというのか。

こういった事が離婚原因にも

なり得るという話も聞く。

 

それに、彼女の性格を考えたら

本来は誰にも話す気もなかっただろう。

我慢するあまり彼女自身でも

気づかぬうちに限界が来たのだ。

こうして相談できる友人がいて

よかったのかもしれない。

 

「旦那、男の股間、いや

 沽券に関わるかもしれねえが

 医者に相談するとかしたほうが

 良いんじゃねえか?」

「いやいやいや、健康ですよ!?」

 

そういう面での問題はやはりないらしい。

 

「トレーナーさん、その、浮気してたりは…」

クリークが躊躇いがちに問いただす。

「タマ一筋だよ!第一、

 俺がそんなにモテると思う????」 

「確かにそうですね」

 

「私も今思えば付き合ったの

 気の迷いみたいなところはあったな」

 

元カノの衝撃発言。

 

「気の迷い…………」

 

まあとりあえず浮気の線もなさそうである。

 

「タマは女性としても素敵なんだぞ。

 よし、私はタマの魅力を3時間語ってみせよう」

「甘いなオグリ俺だったら明日まで語れる」

「むっ……さすがトレーナーだ…」

 

「…嘘や、そんなん」

タマモクロスが拳を握りしめながらこぼす。

「うちに女としての

 魅力なんて感じてへんやろ」

「タマ…俺は…」

「お情けで結婚したんやろ??

 うちなんてチビやし胸もないし!!

 貰い手なんてないやろって!!」

「違う!そんなことは絶対にない!

 俺は本当に君を…」

「もうええて!!

 悪かったな平原で!!」

 

「ちょっと待ったぁ!!!!」

 

ドアをぶち破って二人の人物が転がり込んできた。

「おうおう、扉ぁ弁償してもらうぜ!?」

イナリワンは怒号を上げる。

 

「ああ、修理なら任せてくれ」

作業着の男はサラリと受ける。

「専門だもんねえ、貞ちゃん」

 

「…‼貞ちゃん、エイジ…!」

 

器物損壊をしながら入室してきたのは

夫の親友たちだ。

二人とも腕組みをしている。

 

─ああいうアスキーアートあったなあ。

などと小宮山は思った。

─なんだっけ、四次元殺法コンビだっけ。

 

「どうしてここに…?」

「水臭いなあ、俺たちが

 お前のピンチに駆けつけるのは当たり前だろ?

 な、貞ちゃん」

「おう」

「………!」

 

ウマ娘と同じく、おそらく別世界で、

タマモクロスの夫と同じように

それぞれの名を持った存在が

いるだろう同期の友人たち。

 

その「名前」の縁も当然あるだろうが

それを超えた絆をこの世界で

彼らは構築している。

 

少なくとも別の世界で

同じ名を持つ人物たちは、

全員完徹3日目で軽く発狂しながら

1人が営業時間終了後のカフェテリアで

 

「疾風のようにー!!!!!」

 

と歌いだしたのを受けて

 

「ザブ◯グル!!ザ◯ングル!!」

 

と他二人が合いの手を入れるなどという

トンチキトランス状態に陥り

そこそこ偉い人たちに

こっぴどく叱られるなどということは

絶対に、ない。

 

「二人とも俺のために…!?」

「そうだ…俺たちはお前のピンチを

 冷やかすために来たんだ」

貞ちゃんは実直そうな顔で

とんでもないことを言う。

 

「ただの野次馬かよお前らああああ!」

 

─いや、冷やかしどころか

 余計なことを言うに違いない。

 もうだめだ、俺、終わったわ─

 

 

突然の悪友たちの乱入に夫は事態がより

最悪な方向に転がることを覚悟した。

 

「親友として言わせてもらう。

 そいつは女の胸に興味はない!!」

 

「な、なんだってー!!!!」

 

エイジの発言に女性陣はどよめいた。

 

─もうどうにでもなれ畜生が。

 

タマモクロスの夫はすっかり虚無顔だ。

虚無が服を着ている状況である。

 

─あ、諦めた顔だ、あれ。

その様子を見た小宮山もそれを察した。

 

「タマモクロス…君こそこいつのことを

 何もわかっちゃいないんじゃないか…

 こいつは胸なんてどうだっていいんだぞ」

貞ちゃんは首を振る。

「な…なんやて…?」

「エイジ、教えてやろうじゃないか。

 こいつがグッとくる『絶対領域』を…」

「ああ。そう、それは…」

 

二人の声が同時に衝撃の事実を告げる。

 

「「尻尾の根元の裏だあああああああああ‼」」

 

 

─………尻尾の根元の裏─!!!!??

 

その場にいる全員に衝撃が走る。

 

「……変態ー!!!!!!!!」

 

 

女性陣、特にウマ娘はドン引きだ。

 

「…待てぃ!!俺がいつそんな性癖披露した?????」

「昔飲んでた時に」

 

─相手の、普段見せないところを見ると

グッとくる、という話になった。

 

それは勝気な女性が

しおらしいところを見せたり、

おとなしい女性が

我の強さを見せたりするといったような

そういった意外性のことだったのであるが─

 

「わかるわー尻尾の根元の裏

みたいなもんだよね!」

と、この男は発言したのである。

 

「尻尾の…」

「…根元の裏?」

 

友人二人がドン引きしてるのに気づかず

上機嫌で彼は話題を続ける。

「ウマ娘の尻尾ってあんなにふさふさなのに

 根元の裏だけほとんど毛が生えてないんだよ!

 意外だよねえ~!」

 

────

 

尻尾の根元の裏など、

センシティブもいいところである。

 

「それはたとえ話だろう!?

 普段見せてない、意外性の喩え!」

「いや、真っ先に尻尾の根元の裏を

 喩えに出したお前は真性の変態だよ」

眉一つ動かさず貞ちゃんがすっぱり切り捨てる。

「あれは引いたよなあ。酔い覚めたもん。

 こいつどういうプレイしてんだって思った」

エイジが深くうなづく。

ウマ娘たちは不審者を見るような目をしている。

 

「……えー…とりあえず…

 胸は関係ない、と…」

 

小宮山は無理やりまとめようとする。

「あ、はい、関係ないです…」

虚無どころか死んだサンゴのように

白化したタマモクロスの夫が

呆然としつつ答えた。

 

「誤解が解けてなによりだ」

やり遂げた顔をした悪友二人は満足げにうなづく。

「おかげでトレーナーとして人として

 大事なもの失ったけどなあ!!??」

「おっと、礼には及ばないぜ?」

学園一のイケメントレーナーは

サムズアップしつつ渾身のドヤ顔を決めた。

「誰が礼なんぞ言うかぁ!!」

「そうか……

 よっしゃ尻尾の根っこの裏やな!?

 最高速度でぶち脱いだるわ!!」

「タマの字!?よさねえか!!」

どこぞの他人のこと言えないくらい

人の心がなさそうなキャラの如き

セリフを吐きながら

服を脱ごうとする

タマモクロスを女性陣が止める。

「離せえええええ!

 ナニワのど根性見せたるわああああああ」

 

 

「あら、全裸になるのがあなたの故郷の

 流儀なのかしら」

 

ドアがぶち壊された檮原のトレーナー室の前を

通りかかったメジロラモーヌが

タマモクロスと同郷の自分のトレーナーに尋ねる。

「んなわけあるかい!」

「ふふ…愛ね…」

「いや、なんのこっちゃ…

 愛に全裸は関係……あるなあ。

 ちゅーか、何の騒ぎやこれ…」

 

そう言いつつ彼が覗いた室内では

史上初めて同一年天皇賞春秋制覇をした

ウマ娘が服を脱ごうとして

永世三強に羽交い絞めにされており、

傍らでその夫が同期とプロレスしている。

 

─ほんまにどういう状況なんコレ???

「…愛よ」

「面倒なると全部

 愛でかたすのやめよか、ラモーヌ」

 

部屋の中は混沌としている。

「トレーナー!!タマを止めてくれ!!」

「え…!?なに脱いでるの!?

 やめてタマ!他にも人がいるのに!

 俺以外に裸見せないで!」

夫はエイジに得意技の一つ

アルゼンチン・バックブリーカーを

決めている最中であったが放り出した。

「はっ…せやな、恥ずかしい…」

顔を赤らめつつ、乱れた服をいそいそと直した。

「尻尾の根元の裏につきましては!

 後で!じっくり‼

 見せていただければと存じます‼

 よろしくお願いします!!!!!!!」

夫はなぜか敬語である。

「結局見るんじゃん…」

「やっぱお前真性の変態だな」

「なんとでも言え!

 こうなれば性癖と欲望むき出しだよ!

 これが俺の生きざまだ!

 タマの尻尾の根元の裏を

 初めて拝むのはこの俺だああああ!」

「いややわ、アンタこそ、そんなん

 人前で言わんといてぇ…♡」

タマモクロスはタマモクロスで

直前まで人前で全裸になろうと

していたくせに

もじもじと恥じらいを見せる。

 

「おお、トレーナーとタマが

 なんだかいい雰囲気になってきたぞ」

「もうこのまま保健室か仮眠室放り込めば

 おっぱじめんじゃねえか?」

「あらあら、来年にはタマちゃん似の

 かわいい子が生まれてくるでしょうね♡」

ウマ娘たちも盛り上がる。

 

一方のトレーナー陣は

「……学園内はマズイんじゃ…

 この前も学園にミカモって一人

 無期限資格停止になったよね」

ボソリとエイジが呟く。

「ああ、それは

 さすがにこの世界の理…

 『ガイドライン』が許さないだろうしな」

貞ちゃんはなにやら意味深なことを言う。

「ミカモる??」

小宮山には聞き慣れない単語だ。

「……ええと……学園敷地内に

 部外者招き入れたトレーナーがいて…」

「部外者を?それが……」

それと夫婦がなにやら

おっぱじめそうな雰囲気なのと

何の関係があるのだろう。

「………そいつデリヘル呼んだんだよ」

学園敷地内にそういった相手を招き入れる

男性トレーナーは昔からいるそうで、

そういった行為をなぜか

「ミカモる」と言うそうな。

小宮山には無縁の話だった。

「男って言う生き物は全く…」

呆れたように彼女はため息をつく。

 

 

「尻尾の裏なんて…

 言うてくれたらいつでも

 どこでも見せたのに…」

「さすがにどこでもはマズイよタマ。

 それに言ったらドン引きされるかと思って」

「そんなことあらへん、アンタになら…♡」

「タマ………!」

 

他所でやれこのバカップル、と

そろそろその場にいた

夫婦以外の全員が思い始めたころ。

 

「…ところで、アンタ、今まで

 誰かに尻尾の根元の裏

 見せてもろたことあるん??………」

「……え!?……ええと……それは……」

「………で、誰に?うちの知ってる娘?どうなん??」

 

イチャイチャムードから一変、

最後方から猛烈な勢いで追い込んできた

突然の夫婦の修羅場ver2.0の予感に

女性陣は頭を抱え、男性陣は観戦するのに

ビールがないのが残念だな、と思った。

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