白い新妻の憂鬱   作:南天 ヤスカド

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白い新妻と夫の扉

「…あんたら、なんか知ってるやろ。

 昔からの友達やし」

 

白い稲妻が夫の友人たちに向き直る。

 

「申し訳ないが夫婦喧嘩に巻き込まないでくれないか?」

「そうそう、夫婦喧嘩は犬も食わないよ」

 

「…どの口が言ってんだお前ら?」

 

トレーナーであるにも関わらず

立派にシングれながら夫は友人を睨む。

二人はあくまで他人事として見ていたいので

巻き込まれるのは本意ではないらしい。

 

「こいつと付き合いそうだったウマ娘いたかなあ?

 しいて言うならキクノペガサスとはいい感じだったが」

「…なんであっさり名前出すかなあ?」

「ああ、その人、知っとるわ…」

大レースこそ獲れなかったものの、

ティアラ路線でも活躍したウマ娘だ。

 

タマモクロスはため息をつく。

 

美人で、控えめで、清楚。

 

だが芯の強さを思わせる

凛とした雰囲気だった。

 

─うちとは正反対の女性やったな。

 

 

「…で、見たのか?」

直球どストレートにエイジが尋ねる。

キクノペガサスは夫自身ではなく彼女の父、

夫にとっては師匠にあたる人物が指導していた。

師匠のチーム付きのサブトレーナー時代、

引退後の彼女とまだ若かった彼は

自然と交際に発展した…らしい。

「そんなとこ簡単に見せるタイプか?

 育ちのいいお嬢さんだったし、なにより

 自分の師匠の娘さんに手を出すというのは……」

自身が厳しい師匠を持つ貞ちゃんは懐疑的だ。

 

実際にはただの友人関係だというが、さて。

 

「黙秘します!!!!師匠に殺される‼

 つうかこれセクハラだろ!?

 訴えるよ本当に!」

「大丈夫だよあっちの師匠なら優しいじゃん」

 

夫には二人の師匠がいる。

 

秘伝のマムシ酒を伝授した師匠と

キクノペガサスの父親である人物がそうだ。

前者は厳しく、後者は物腰柔らかな人物である。

 

「まあお前に俺たちが知らないウマ娘の

 恋人がいたとしてだ。

 尻尾の裏見せろとか迫ったのか?」

 

さすがに恋人同士と言えど

そうそう見せる場所ではない。

 

「違う!偶然だよ!!!!

 最初からそんな際どい性癖だったわけないだろ!」

「際どい自覚はあるんですね、

 トレーナーさん…」

スーパークリークがジト目をする。

「赤ちゃんプレイする人に言われたくないよ!?

 あとうちの妻に子供のカッコさせんのやめて!

 夜寝ててうなされてたからね?

 『ウチは今から赤ちゃんにされる』って!!」

「だってタマちゃんかわいいんです!!」

「タマがかわいいのは知ってますぅー!!」

「やめときなご両人。

 あたしからすりゃあどっちもどっちだ。

 どうやりゃ見えたんでぇあんなとこ」

「尻尾のシャンプーしてあげたとき

 見えただけだよ!

 それで新しい扉が開いた感じだね」

尾の手入れというのは

ウマ娘にとって大切なケアだ。

それを任せたということはよほど

相手と通じ合っていたのだろう。

 

「そこで新時代の扉が開いたのか…」

 

貞ちゃんは感慨深げに呟く。

「開いたね」

妙にキリッとした顔で夫はうなづいた。

「来いよエイジ、扉の向こうで待ってるぜ」

すかさずもう一人の親友を巻き込もうとする。

「いや行かないよ?

 俺真性の変態になりたくないし

 あくまでイケメンキャラとおすし

 新時代の扉は戸締りしといて」

「新時代の戸柱…?」

聞き間違えたオグリが首をかしげる。

「おうオグリ、ここで横浜のベテラン捕手が

 出てくるわけねえだろうよ?」

余談ではあるがこの話の時点でヴヴヴ三姉妹

の長女ヴィルシーナは入学前である。

時系列は「こちらの世界」とは

かなり違っているのである。

 

「尻尾のシャンプーって、お風呂ですよね?

 と、いうことは…」

「彼女と一緒にお風呂入ってたからね」

若い男女が一緒に入浴して

それだけで済むだろうか。

しかも男の方は新しい扉が開いている。

 

「…そもそもさすがにね、タマ、

 君と出会ううんと前の昔のことを

 色々言われてもどうしようもないよ!?

 開き直るわけじゃないけどさ!」

「せやな。…確かにそうや。

 過去は変えられへんもん」

納得したような言葉に夫は一瞬安堵したが、

しゅん、と妻の耳が力なく垂れてしまった。

「タマ…?」

 「トレーナー、その人とは

 一緒にお風呂入ったんやね…」

 

か細く悔しそうな声でタマモクロスが呟く。

「タマちゃん…?…!!あなた、まさか…!!」

小宮山がタマモの夫を睨む。

「……誘ってもウチとは入ってくれへんのに」

「ええと、いや、あの、

 やっぱりお風呂は

 ゆっくり入りたいかなって…?

 …そもそもお風呂って夫婦でそんなに

 一緒に風呂入るもんなの?」

助けを求めるようにその場にいる既婚者に目を移す。

「…しょっちゅうではないけど……」

「……まあ、たまにゃあ入る……なあ」

既婚者2名はそれぞれ照れくさそうに答える。

 

一回り以上歳上の夫の過去に嫉妬しても

仕方がないのは頭ではわかっている。

何もない方がおかしい。

せめて、過去の女性たちと

同じように扱ってくれるならそれでよかった。

 

そうですら、ない。

 

「……ほんならなんで結婚したん…?」

 

タマモクロスの視界が滲み、歪む。

「…タマ………ごめん……」

「……何が?なににごめんなん?」

 

─ああめんどい。

 なんてめんどい女なんやろウチは。

 

「…それは……」

「アンタなんに謝ってんのそれ?

 わからんけどとりあえず謝っとこて

 誤魔化そうとしとるん?」

 

「…タマ」

 

涙の膜でそばにいるはずの

夫の顔もよく見えない。

呼ぶ声色は、静かだ。

 

─怒ってるやろか。

 呆れた顔してるやろか。

 もう嫌ってくれたらええのに。

 

「……もう嫌や……!!」

 

─嫌や。こんな自分。大嫌いや。

 

好きになるたびに

嫉妬が大きくなって

自分が嫌いになっていく。

大好きな人に

ふさわしい妻になりたかったのに。

 

─せやな、こんなめんどい奴やから

 女として扱ってもらえへんのや─

 

大粒の涙をこぼしながら

タマモクロスは先ほど破壊された

ドアから廊下に飛び出した。

 

「タマ!!待って!!」

 

夫が追いかけようにも、

相手はウマ娘、ましてやタマモクロスである。

あっという間にその背は見えなくなった。

 

「私たちが追いかける。

 トレーナーはここで待っていてくれ」

 

言うが早いか、オグリとイナリは

立ち尽くす夫を残し

風の如く駆け出して行った。




新時代の戸柱って書きたかっただけだよ。
今年のベイスターズどうしたのかなあ。
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