「紅の冒険者、この依頼が終わったらどうするんだ」
「オレはしばらく休業だ」
「辞めるのか」
「やめねえよ。ただ冒険者ってのは冒険をするものであって、人を殺す仕事じゃねえだろ」
「その、軍人共のおびただしい死体は嫌いか?」
「別に魔物も人間も、斬ってしまえば、ただのクソ袋ってのは変わらん」
「なら、これから冒険者の国を作るのを「断る」……そうか」
「まず、オレが頭を使うような職業に向いていると思うか?」
「関係ないさ、どんな仕事もやってみればできるのが、人の可能性だ」
「それが例え、人殺しの英雄でもか?」
「俺の場合はみんなに、望まれちまったんだ。仕方ねェだろ」
「ふっ……なら今回の報酬は、自堕落をしながらも楽して稼げる仕事でお願いしとくか」
「そうかそうか。ならオススメのやつがある」
◇
大地をへだてるように、大河(雄大な道しるべ)が流れていました。
その名は口伝にて。大河をたどれば、国に戻れると、古い冒険者がいったからです。
西をむけば、流れの始まり。未開地が広がる世界樹の麓。
東をみれば、流れの終わり。化物はこびる極東の島々。
そして、中央に位置する国を────
正式な名称ではありません。名前がないのも不便、という理由だけで付けられた“呼び名”です。
当然です。住んでいる連中が、群よりも、個で勝っているのです。真っ当な国になるわけがありません。
人口の比率は、国民5に対して、冒険者が5。
均等に見える関係は、国土を流れる大河に近づくにつれて、崩れることになります。
冒険者の出発地とよばれる、ファーストポイントの港。
国家の法よりも、冒険者の法が意味をもつ都市では、今日も荒くれ共の声がひびくのでした。
◇
「馬車がきたぞォ」
叫んでいる人間を越えた車輪をもつ、荷馬車です。
軋みをあげる大路地の石畳。凹んだ跡が何本にも残っています。
ガコン、石畳が途切れ、黄土色の大地がむきだしな広場に、車輪が着きます。
「積み荷を移し替えろ。船が待ってる」
“古樹の横”といわれる載積置き場では、肥った男達の姿がありました。
きっと上等な食事だけをしているのでしょう。
「商人のおっさんたち、そうはいうな。こっちも長旅でつかれているんだ」
「商品は雨季こそは需要のある雨具なんだ。金なら増すぞ」
「そりゃあギルドの方に言ってくれ。俺達は、ただの冒険者だ」
冒険者と名乗った男は、細身でした。
痩せているというより、筋肉質。長旅を越えるにあたって、筋肉は必要です。
「それは隣のギルドでか?」
「馬鹿言え、こんな過疎ったギルドじゃねえよ。港前の商業ギルドでだ」
商人はとなりを見ます。
古樹とよばれる大木には、不思議なことに小窓がついています。
ぐるっと木の幹をまわるように。そして正面に位置する場所には、亀裂。
深い亀裂です。のぞきこめば、木製の扉がみえたりもします。
「あそこは営業しとんのか?」
「しているさ、もの好きしか集まらんところだがな」
「だが看板すらかかっておらんだろ」
「かかっているぞ。上にな」
「上?」
商人が思い切り見上げれば、古樹の枝に絡むように、看板が吊られています。
鉄でメッキされた板。刻まれている文字は、青色です。
────国営冒険者ギルド(ファーストポイント支店)
斜めに傾いている看板は、思いのほか綺麗でした。
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