窓から、積み荷をあげる掛け声が、聞こえてきます。
ギルド内部の天井は高く。シーリングファンが羽をひろげて回ります。
空気が流れ、日光が入り、途切れを、くりかえします。
「外はにぎやかで、明るいな」
陽光をうっとおしく思う少女は、フードを深く被ります。
「こっちの内部とは大違いだ」
巨木の内側は、静かでした。
照らされるのは、テーブルや、クエストボード、カウンター。
ですが、人の声が聞こえません。
耳をすまして捉える声は、寝息だけ。
受付カウンターにて────鼻提灯をふくらましている少女が1人。
「呑気なのか、やる気がないのか」
髪には酒瓶をからませて、羽織に涎をたらして「ガチャリ」────入口の扉に光がさしこみます。
視線をむけると少年。のびる影の長さは短く。泥だらけの長靴のようなブーツをはいています。
村人、でしょうか。冒険者にしてはずいぶん貧相です。
「こ、ここが、冒険者ギルドで、あってますか……」
震えた声につづき、ぎこちない足音が聞こえます。
音は、テーブル、クエストボード、そして受付カウンターへむかいます。
腰が引けているのでしょうか。それとも大事なモノでも抱えているのでしょうか。
右手はきらりと光ります。どうやら、銅貨をにぎりしめている様子。
右手は木切れを握りしめています。おそらく木簡(木製のメモ用紙)でしょう。削りすぎて折れてしまいそうです。
「あ、あの、すみません」
どうにも両手が震えてますから、勇気をふりしぼっているのでしょう。
そんな頑張りが通じたのか、少女のまぶたが揺れます。
「ほわあ……なんだガキンチョ、用か」
「そ、その、依頼をつくってもらうのは、ここで……」
「ああ、あってるよ。さっさとメモか、羊用紙を出しやがれ」
寝そべっているくせに、乱暴な物言いの少女です。
震える少年の手から、木簡がさしだされるように、カウンターに置かれます。
気だるそうに、頬をカウンターにくっつけて、横目でみる少女。
「まあ、ちょいと待て」
「は、はい」
起き上がる少女の頭────紅い髪。少女をつつみこむ赤羽織より、紅い。
みとれそうになる少年は、急いで首をふります。
気にせず。木簡をつまみ、眺めているのは紅髪少女。
「なるほど、これが依頼の内容か」
「は、はい、薬草を取ってくるだけの簡単なものですが」
ゴキリ。首を2、3回鳴らす紅髪少女です。
ただの癖ようなモノ。
ですが、少年はびっくりして、床に1枚銅貨を落としてしまいます。
「で、いくら持っているんだ」
「えっ、そ、その何を」
「今落とした
「その、報酬分はきっちりと」
少年の手が開かれます。
輝いている銅貨9枚、くすんだ銀貨が1枚。
「落とした1枚をひろって、報酬分600Gか」
「はい、何度も数えたので問題ないと思いますッ」
勇ましくゆれる硬貨たち。
「ああ、数はあってるな」
「よかったです。村でなんども確認してもらって、メモも何度も書き直して、間違いがないかって」
「そうだな、木簡に間違いはねえよ、だから────」
痛み。少年が反射的に手を握りしめてしまうほどの痛み。
自分の額に激突した、何か。
床から跳ね返るような、木の音。
無造作に落ちているのは、自分がさしだした木簡です。
「────さっさと帰れ」
少年のほうけた口は、とじれません。
左手の指から、すりぬけるように銅貨が落ちます。
「い、今、なんて」
「この依頼は、ウチじゃあ作らないってこった」
「なんでですかッ。お金はちゃんとありますし、内容だってしっかりと……」
「そうだな報酬分な」
「なら、なんで依頼をつくって」
「報酬分しかねえからだよ。せめて2倍にしてこい」
銅貨がとめどなく、こぼれていきます。
「病気の母がいるんです。3日以上前から咳も止まらなくなって、それで薬草が」
「女は病気程度では死にゃあせん」
「ものすごく苦しんでるんです。おとといから咳に血も混じり出して「くどい」────いッ、たッ」
少年の額に羊用紙が投げつけられます。
床にころがり、開かれると地図のようなもの。
筆で達筆にかかれており、解読は難解です。
「そこのポーション屋で、適当な薬をとって帰れ」
「でも冒険者用のポーションは、村人が買うには高くてぇッ」
少年はすでに半泣き。左手には、銀貨が辛うじて握られている状態。
「ぬすみゃあいいだろ。別にオマエが盗っても文句は言わねえよ」
「そ、そんなぁ、僕はぁ」
ですが、そんな銀貨もこぼれ落ちる刹那、彼の手が握られます。
「────そこまでだ」
凛とした声がひびきます。
少年の手をつつみこむのは、フードを被った少女の手。
大きな手とはいえません、ですが暖かい手ではありました。
「あァ? なんだオマエ」
「悪いが民を傷つけられて、座っているわけにはいかなくてな」
少女は、フードを、外套を脱ぎ捨て去ります。
堅苦しい服。服の胸元にはエンブレムが刻まれていました。
「竜の紋章か……久しぶりに見たな」
「ならばこれから嫌というほど見る事になるだろうな」
ゆれる金髪の隙間から、突き抜ける視線。
決意を秘めた青の瞳は、妖しくも美しくありました。
「国を失った軍人が、いまさら冒険者にでも成りに来たか?」
「まさか、貴様らのような侮蔑的な職業につこうとは思わない」
「なら何用だ」
「例え国の名は無くなろうとも、民を守ろうとする気持ちは変わらない、ということだ」
腰部にかかった鞘ごとをむしり取り、向けられる短剣。
側面には過度ともいえる宝石が取り付けられて「カタカタ」────よく見れば、鞘が震えています。
抜き放たれるのは、少々、嫌な予感がする武器です。
「しっているか、この都市には不思議なギルドがあるそうだ」
「ここは冒険者の街だ。不思議なことがあって十分って話だ」
「常に人がいないのに、なぜか利益をあげている、なんて噂だ」
「人がいないって所だけなら、間違えなくウチであっているな」
「それにもう1つ。軍人ギルドが掴んだ情報がある」
「この街で民から搾取し、私腹を肥やす、悪党なギルドがある、と」
装飾の宝石に、笑う紅髪少女が映ります。
「────で、オレに何がいいたい?」
「────このギルドを、詐欺罪と不正取引において調査するッ」
短剣を突きつけて、金髪の少女は啖呵をきるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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