青い空の下、先導をしているのが紅髪少女。
ア少女は、青々と茂っている山を背景に、息を吸います。
「おい、どこまでいくつもりだ……」
「もうちょっと先だな。軍人さんは馬車がないと遠出も苦手か?」
「バカにするな、この程度、演習に比べればへでもないわ」
「じゃあその重そうな装備も演習のたまものか?」
紅髪少女は髪を軽くうごかして、流し目になります。
瞳に映るのは、ヘルメット、防刃コート、厚底ブーツを身につけたア少女。
重そうな。湿った地面には足跡がくっきり残っています。
「これは外に出るのだから、必要な装備だ」
「身一つってのが最適解だろ」
「そんな布きれ1枚で魔物の牙が防げるものか」
「いや、あのだな……」
無意識に赤羽織をさわってしまう紅髪少女。
袖から飛び出した札には、量産品。魔法糸使用、水魔法での洗浄はしないでください、との記載。
そういや切るの忘れてたな。手で引きちぎって、袖の中に入れる紅髪少女です。
「冒険者だからこそ、いつもの服なんだがなぁ」
「なにか言ったか?」
「いや、なんでも」
髪をゆらす紅髪少女です。
髪先が羽織にからんで、左袖があがります。
右手をつっこんで、取り出されるのは、1枚の羊用紙です。
「さて依頼内容はこうだ」
「ずいぶん達筆な字、だな」
「うるせえ、読めればいいだろ」
ア少女は、眉間にしわをよせながらも、羊用紙をながめます。
「低級の薬草3本の納品、報酬は600G、であっているか」
「まあ、だいたいはそうだ」
「不満そうな言い方だな」
「オマエ、支給品の欄を読み飛ばしたなって話だ」
ア少女の瞳には、支給品の文字がうつります。
となりの欄を見ると“空白”。
「この何も書いてない空欄に意味が?」
「この依頼には支給品がねえってことだ」
ア少女の耳にとどく、紅髪少女の言葉。
頭で反芻して、手をうごかしたあと、首をかしげます。
「────それは問題か?」
「────大問題だろ。オマエは薬草をどこでとってくるつもりだ」
ア少女は首をかたむけます。あきれた視線の紅髪少女です。
彼女はむっとして、感情の高まりをあらわすように、腕を大きく広げます。
「やはり山だ。この雄大な自然だ、薬草の1、2本あるだろ」
「そりゃ、あるだろうな。で、そいつはどこに」
「探せばいい。時間はいくらでもあるのだろう?」
「まあ時間が無限にあったとして、運良く薬草をみつけたまで許そう」
「なら目当ての薬草ではないから、もう1日かかる、というのはナシだぞ」
少女は、野草の知識ぐらいはある、といった顔。
そうではない、といった顔をするのが紅髪少女です。
意味は言葉によって明らかになります。
「────なら、その薬草は“本当”に自分のモノか?」
ア少女は口を尖らして、反論します。
「なにが言いたい、見つけたのは私だから、私のモノだろ」
「見つけたのはオマエだ。だが、土地の主は違うだろ」
名無しの国は、国単位でみれば無法な国家ともいえます。
ですが地域単位でみれば、無法な場所にもかかわらず、ルールがあります。
例えば、湾岸都市から、ここにいたる道まで、必ず所有者がいるという点。
不自由なき生活をおくるため、それが公の場で明記されているということです。
「例えば、この後ろの大きな山にも所有者がいるのか」
「まあ大体が大手ギルドの所有物だ。知ってる必要はねえよ」
「つまり……我々は今、他人の領地を踏み荒らしている?」
「踏み荒らすぐらいなら魔物でもやってる。だが盗んで売りさばくと、人の領域だ」
ア少女の顔はだんだんと、青ざめていきます。
いまさらですが、自分がやることが如何に大変なのかを認識したようです。
「で、では……いや、待て。貴様らにもギルド所有の山があるの、だよな」
「あるわけねえだろ。みかしめ料がとれるなら、真面目に仕事なんぞするか」
「な、ならどうする。我々はここまで来て帰るのか」
「あのな馬鹿。ここには、全ギルド共有管理地って場所もあるんだよ」
全ギルド共有管理地。いわゆる全部のギルドで管理しているから、みんなで使っていい場所ということです。
まあ、実態は大手ギルドが握っているため、少々のお金は要りますが、それでもみかじめ料よりマシな金額です。
ア少女は、顔色を取り戻しながら、頷きます。
「で、では、早くそこの場所を教えてくれ」
「なら、ほらだせ」
「なんだ、その手は」
開かれた右手をみせる、紅髪少女。
指をうごかして、手をこまねいています。
「まさか、タダで情報が手に入ると思っているのか?」
「いや依頼をこなすのだから、それぐらいは「支給品は無しと書いてあっただろ」……いや、そうだが」
「不満か? 安心しろ、今回は200Gでいいぞ」
肩をすくめながら、口元をゆるめる紅髪少女。
温情でしょうか? ですが、この冒険者のことを妄信するのも嫌な予感。
ア少女は、硬貨を一度握りしめてから、渡します。
「どうした、情報の値段に対して疑問か?」
「い、いや、そんなことは思っていないぞ」
「ちなみに高いぞ。普通のギルドなら100Gだ」
満開の笑み。口元をこれでもかと吊り上げる、紅髪少女です。
瞳には、顔を真っ赤にした少女が映っています。
「なっ、なぜそれを先に言わない」
「悪いが、痛くないと覚えません、がオレの信条で「なら詐欺罪でひっとらえてやるッ」────おい馬鹿、急に飛びかかってくるなっ」
迫りくるア少女。重装備をガチャガチャ鳴らしながらも、器用にうごきます。
飛ぶように逃げるのは、紅髪少女。平面な地形にもかかわらず、上下に緩急をつけて、捕まりません。
「なかなかすばしっこい奴だ。どうした冒険者、逃げるばかりか卑怯者」
「そっちこそ重装備の癖に律儀に動きやがって。100Gぐらい大目に見ろよ」
「うるさい。100Gあれば軽食ぐらいは食べれるんだぞ」
「なら、そういうこった、ばっきゃろー」
少女達の乱闘を見つめるように、上空に浮かんでいる太陽。
結果、彼女らの戦いは、太陽が中天にさしかかり、紅髪少女の“昼飯を食べよう”という提案があるまで続くのでした。
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