赤羽織を身に着けた、紅髪の少女が見あげていました。
空に浮かんでいるのは、雲よりも、枝から伸びた葉っぱになっています。
ゆれる少女の瞳に、緑ではなく、青い葉っぱがうつります。
葉を辿ると、青い葉の木々が、まっすぐに生えていました。
魔物を使った境界線────紅髪少女は、後ろを振り向きます。
「おい、ついたぞ」
「ちょ、ちょっとだけ休憩しないか……」
重装備の人物は、枯れた木に座りこみます。
頭部装備を持ちあげると、汗をふくんだ金髪がこぼれ落ちます。
「疲れるのが当然だろうな」
「私の訓練不足か。鍛錬をおろそかにしすぎたか」
「馬鹿、靴が悪いに決まってんだろ」
泥だらけになった厚底靴を、指さす紅髪少女です。
ア少女の視線は、一歩も動けない厚底靴にむきます。
「むっ、これは歴とした軍用の安全靴だぞ」
「あのな、こういう時は、うごきやすい靴を履いてくるもんだろ」
「だが、それでは魔物に出会ったときどうする」
「うごきやすいんだから、逃げりゃあいいだろ、アホか」
布で編んだ靴、いわゆる布靴をみせてくれる紅髪少女です。
「ほら、動きやすい布靴だ」
無造作に転がる布靴。
ア少女の口から、ため息が漏れます。
息は厚底靴にかかり。靴を履き替えて、紐をゆるく縛ります。
「違和感があれば返却するからな」
「好きにしろ」
立ち上がり、1歩、2歩、反転して、中腰になります。
ア少女の指が、靴ひもを厳しく縛ります。
「むむ、これは確かに……うごきやすい」
「気に入ったか?」
「割と気に入った」
「なら200Gだ」
ア少女は白けた眼で、見上げるのは、笑顔の紅髪少女です。
「まさか、これも金をとるのか」
「履いたからな。ついでにさっき食べた昼飯代も加えて300Gでいいぞ」
「まてまて、昼飯は貴様が渡してきただろ」
「タダとは言ってないんだよな」
「それでも、おにぎり1つに100Gは高すぎるハズだ」
「クックック、オレ特製のおにぎりだ。高いのも仕方ねえだろ」
ひとしきり笑うと、踵を返す紅髪少女です。
つま先は、森の奥を指しています。
ア少女は急いで立ち上がり、彼女の背中を追うのでした
「ほら、急げ、さっさと薬草とって帰るぞ」
「おい、まだ私が休んでいただろッ」
「日が暮れるまで休むつもりかよ」
森の奥へ、奥へ、と歩みをすすめていく、紅髪少女です。
道端に生えている草木には、見向きもしません。
「もし艶があり、薄緑のものがあれば……」
「おい、ゆっくり歩きすぎだ。ホントに置いていくぞっ」
「私は草木を見ながら進んでいるんだぞッ」
「馬鹿が、見分けるなんて無駄なんだよ」
足が止まり、下を見つめる、紅髪少女です。
蔦が生い茂った森に、乾燥した地がぽっかりとあいています。
穴の中心部は真っ暗で、奥が見えません。
「薬草は日光がよく当たり、澄んだ水の流れる場所に自生するハズだ」
「関係ねえよ。オレがこっちと言ったらこっちだ」
言いきる前に、飛びこむ、紅髪少女です。
ア少女は、慌てて、飛びこみ、滑り、着地すると────腐臭がします。
薄暗いが視野はあるが、なんだこのガラクタの山は。可愛らしい顔をしかめ、鼻をおさえます。
「かなり臭うぞ、ここ」
「当然だ。ギルド共用のゴミ捨て場だからな」
「まてまて、我々は薬草を採りにきたのではないのか」
「いいから、ゴミ山にくっつくように隠れてろ」
鼻の違和感が消えるほどでしょうか。やや日差しが傾いた時「ガタガタガタ」────視線が上方に吸い込まれます。
馬車です。降りてくるのは数人の冒険者。
彼らは、積み荷を取り出しては、大穴の中に投げ捨てていきます。
「草の束を投げているのか」
「この時間帯は、錬金ギルドのゴミ捨て時間だ」
ア少女が、落ちてきたものに眼をこらすと────艶をもった薄緑の草です
「あれは、薬草か」
「虫が食ってたとか、枯れてたとか、で廃棄されるゴミだな」
「まだあるのか、とてつもない量だな」
「都市にどれだけのポーション屋があると思ってんだ。そいつらに売れなかった分の1割にも満たねえよ」
「だが、廃棄品の再利用とかはしないのか」
「金がかかるんだよ。なら捨てた方が安いだろ?」
しだいに遠ざかる馬車の音。
足音を殺して、散らばった草の束に手をつっこむ、紅髪少女です。
ですが、ア少女は動きません。
「不満か?」
「やはり、ソレを持って帰るというのは……違う気が」
「別に問題ねえだろ。中級ぐらいの薬草も混じってるし」
まだ使えそうなものを3本ほど抜きとり、投げる、紅髪少女です。
ア少女は、受け取らず、地面に薬草が落ちます。
「受け取れよ。それで十分だ────」
「────いや、やはり我々の手で探すべきではないだろうか」
ア少女は、胸に手をあてて、声を響かせます。
背後から照らす陽射し。うずたかくゴミ山がつまれています。
「おいおい……真っ当に薬草を探したら何日かかると思ってんだ。この山だけでも3日はかかるぞ」
「なら3日間探しまわればいいだろう」
「3日間、朝昼晩、駆け回るのか?」
「ああそうだ。気合で探す」
「じゃあ食費は900Gだな」
落ちているゴミを蹴飛ばす、紅髪少女。
それは、うずたかく積まれた山にあたり、ゆらぎます。
「う、うまく見つかれば1日ですむかも知れない」
「しかたねえな、1日300Gで許してやるよ」
次々にゴミを蹴りながら、数え始める、紅髪少女です
「食費300G、情報200G、靴代200G────」
そして最後は大きく蹴り上げます。
「で、オマエはいくらでこの依頼を引き受けた?」
「ろ、600G……です」
「そういうこった。冒険者を赤字にしねえためにも、最低700Gはいるんだよ」
限界がきたのか、崩れ始めるゴミ山。
ですが、内部の方で深く根をはっていた草が、軋み、全壊するのを妨げます。
それはア少女も同じ事。
分かっているにも関わらず、彼女の口からは、言い訳まがいの言葉が出てきます。
「で、でも、2倍の1200Gは言い過ぎではないか」
「確かに1000Gも報酬があれば、明日の飯付きという理由で受けてくれる奴はいるかもな」
「な、なら、それで」
鋭利なガラス片を蹴り飛ばす、紅髪少女。
それは最後に支えていた蔦を切りさきます。
「────じゃあ、オレはただ働きでいいわけ、か?」
最後の堤防を失ったゴミ山。
ア少女の顔も、蒼白へと変わっていきます。
「ギルドの職員だって生物だ。働きゃ腹が減るし、飯がいる」
「だから残り200Gは、ギルドの金額……」
「まあ、マジの最低限だがな」
本来は魔力費用、衣食の金額、休日の生活費、等がありますが、ただの村人にそこまで要求するほど守銭奴ではありません。
この1200Gという金額は、ギルドにとって限界な金額ということです。
「さて、オマエは、その落ちている薬草をいくらで少年に渡す」
「それは……」
「600Gか? まあ軍人ギルドだからな、オレみたいに金に苦労したことがねえんだろうなー」
「その……だ」
「その結果、ここまで案内したオレは完全なただ働き。あーあ、明日の飯はどうすっかなー」
ボロボロと崩れているゴミの山。
ア少女の瞳からも滴が零れます。
「結局のところ────オマエの信念ってのは、誰かのために、誰かをゴミのように扱うってことだ」
「違う……私は、そんな事を思って……言ったわけでは、ない」
「気持ちは違っても、結果はそうなった。それが現実では全て、だ」
「それでも、私は、私はッ」
ア少女は泣きじゃくります。
鼻水をたらして、眼からはとめどない涙を流しています。
背後には、完全に崩れ切ったゴミ山があるだけです。
「この問題、オマエが泣けば解決するとでも思ってんのか」
「お゛も゛って゛な゛い゛」
「なら手をうごかせよ」
ゴミ山が無くなった先には────昇りきった太陽が。
穴を照らすように、内部の薄暗さを切りさくように。
「いいか、オレがこの場所を選んだ理由は2つある────1つめは、比較的近場で薬草が手にはいること」
地面が揺れます。
四肢に力をこめていないと、倒れてしまうほどの振動です。
「2つめは────襲ってきたゴミ山の化物を狩るのは、“防衛行為”だからだ」
太陽を覆い隠すほどの、巨体があらわれます。
細長く、粘液を纏い、土煙をあげる、
彼女達が見上げれば、青くほどばしった眼光をこちらに向けています。
開け放たれた口からは、地面が水たまりになるほどの、ヨダレを滴らせています。
「さて、残業といくか」
紅髪少女はニヤリと笑うのでした。
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