晴天だった空は、気づけば曇天混じりに。
さらに不穏になった穴では、巨大ともいえる
ですが、対峙している少女達には興味がないのか。
地面をゆらして、散らばったゴミを、吸い込み、噛み砕いているワームです。
「一体なんなんだ、コイツはッ」
「ゴミ山の掃除屋だ」
少女達に向かって、看板となったゴミが飛んできます。
────全ギルド管理地(ゴミ捨て場)では、たまりゆくゴミを処理するべく、雑食の魔物を放つことを決定しました。
魔法の杭をうたれた穴から、魔物は出ることが出来ませんので、安心して捨ててください。
※注意 ワームは急激に成長する傾向がありますので、廃棄は行為にギルドは一切の責任を負いません────
ア少女は、看板をうしろに蹴飛ばします。
「で、どうする」
「不意打ちで、ぶん殴る「ガキン」────マジか」
火花が飛びちり、紅髪少女の拳は、大きく後ろに。
粘液に塗れた皮膚、その下には、岩石よりも硬い鱗が生えていました。
成長がかなり進んでいるってか。確かに、下半身は未だに地面に埋まったまま、正確な長さすら分かんねぇが。
紅髪少女はごくりと喉を鳴らします。
「これはちょっとヤベーかも……」
「おい、攻撃がくるぞッ」
身震いをおこすように、暴れ出す、ワームの化け物です。
反応は出来ましたが、避けることはできず、2人そろって崖に叩きつけられます。
「イタっ、皮膚切れてるし。大手の連中、狩りを渋りやがったな」
腐葉土が混じった、黒土の崖です。
紅髪少女の背中は地面に埋まり、すぐには抜けません。
湿気た枯れ葉が、数十層にたまっているのです。
「働かず、寝とけってことか?」
「正気か? 魔物が迫ってきているんだぞ」
「サイズがデカいんだよ。小型レベルかと思えば、中型レベル。下手すりゃ、大型だ」
「なら早く逃げろ」
ア少女は、埋まった状態から立ち上がり、腰をおとします。
「まさか、盾になるつもりか?」
「ああ、その間にさっさと崖をよじ登れ」
「悪いが、よじ登る手段は無い」
赤羽織の左袖を開けます。
違和感がある隙間。そこに、左腕と呼べるモノはありませんでした。
「なぜ、それを「ギュアウウウン」────クソ、思ったより速いッ」
枯れ葉を舞いあげ、視界が晴れた先には、口を大きく広げたワーム。
ア少女は身体をつかって防ぎます。
とびちる青い血。
「おいおい、オマエ、体は大丈夫なのかよ」
「問題ない。すぐに治る」
服の中が泡立つように、膨張し、縮小します。
「再生しているのか……」
「吸血鬼化の呪いだ。ミンチになっても余裕だぞ」
「冗談よせ。馬鹿デカい代償を背負って……良く笑えるな、軍人」
「盾になる事に、これほど向いた力はないだろ?」
彼女は、ワームの擂り潰すような噛みつきを、身1つで支えるのです。
体は治っているのかもしれませんが、足元には膨大な量の、青い血が流れています。
「私が耐えている間に、意地でもはい上がれ」
「 そりゃオレに言ってるのか」
「無論だ。この魔物を倒すには人が足らない」
「ぬかせ」
埋まった状態から、足に力をいれる、紅髪少女です。
立ち上がり、纏わりつく落葉を気にすることなく、ア少女にフードを被せます。
「5秒耐えろ、片づける」
「待て、待て、私が言っていることが分かっていないのか」
「安心しろ、オレはこう見えても、妖精に力を貸してもらえる」
「魔法が使えるのか。敵を屠れるほどの」
「いいや、魔法使いの足もとにも及ばないレベルだ」
指を一本立てて────石っころを1つだす、紅髪少女。
スネア。周囲の土を硬めて、隆起させることで、敵を転ばす魔法。
今回は空気中の塵をあつめたため、小石が出てきました。
「その程度じゃ、皮膚すら貫けぬのは貴様も分かっているハズだッ」
「阿呆。どんなモノでも使いようだ────初級土魔法」
独特の声が響き、妖精の力を借りる、紅髪少女です。
壁に右手を押しあて、身体からあふれる力を注ぎ込みます。
「どこに魔法を使っている」
「んなもん、この壁に決まってんだろ」
「まさか、壁を崩して、倒壊させる気か」
「馬鹿が、クソデカワームだぞ。崩落ごときじゃ倒せねえよ」
「なら、どうする」
腰を低くする紅髪少女。
崖に行使されている魔法は、未だに発動しています。
スネア。周囲の土を硬めて、隆起させることで対象を転ばす魔法。
2工程で完成する魔法。それを1工程のまま、未完成のままにしているのです。
「森の悲鳴が聞こえる……」
崖が軋みをあげます。落ち葉が地面に沈み、あらわれた亀裂に喰われていきます。
根っこ、枝、ついには木々さえも飲み込むほどに、亀裂は延々と広がります。
内部には、黒く輝くナニカがあります。
「岩石の鈍器か────」「────刀だ、間違えんな」
ア少女が見間違うのも無理はありません。
柄はなく、鍔もなく、刀身さえも無い、巨石の塊です。
だだ、ただ木々を巻き込み、黒土を硬め────森の果てに届きそうなほど、長々と、大地を抉り取っただけ。
ですが紅髪少女は、これを“刀”と呼びます。
なぜって、彼女はこれを“振れる”のですから、
「抜刀」
崖から、巨石ゆらいの刀が抜かれ────ワームの巨体に、一文字の影をつくります。
軌跡は、散りゆく流星の如く。
空気が震えます。大地が砕け、土埃が舞い上がります。
隠す土煙を裂くように、飛び散る青い血。
晴れた視界には────青い血がしたたる肉塊が、なおも巨石剣に押し潰されているのでした。
「私ごと殺す気かッ」
「ミンチになっても余裕なんだろ?」
綺麗なワームの頭部には、すり潰すような歯が依然と並んでいます。
閉じられた隙間から、現れる、唾液混じりの手。
ア少女はこじ開けながら、這い出てきます。
「ぬめって出にくいッ」
「ちなみに早く通り抜けたほうが」
「これでも頑張っているんだッ」
「なら、よっと「うわッ」「ガゴン」────まあ体が死んだとしても、口には力が残っているからな」
それ以上は動かず、完全に静止した頭部。
紅髪少女が視線を動かすと、逆さになって崖に埋まっているレイ少女です。
「もっといい助け方はなかったのか?」
「一番効率のいいやり方だろ」
「次からは覚えておくことにする」
紅髪少女は、手を貸すこともせずに、頭部をさわり始めます。
「手を貸してくれてもいいんだぞ」
「手を貸すよりも大事なことがあるからな」
「怪物の頭部をめでるのが趣味か?」
「馬鹿か、このデカデカワームを剥ぎ取るんだよ」
袖の下から、硬貨を取りだして、指で研ぎ、皮をえぐるように切っていきます。
「剥ぎ取ってどうするんだ」
「そりゃもちろん────」
紅髪少女は指で硬貨をはじきます。
青空の下で、キラリと光る硬貨。
すでに中天を外れた太陽は、少女たちの足音とともに、地平線の縁へ消えていくのでした。
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