爽やかな風が入りこむ、ギルド天井の大穴。
年月がたった大穴は、植物が生い茂り、日差しが入ったり、入らなかったりします。
陽が木床に照らすは、3つの影。2つの影は離れて、1つの影にむいています。
「あの、軍人さん……ギルドの職員さんは何があったんですか」
「私に聞くな。昨日、飯に誘ってくれた時から、ずっとあの調子だ」
フードの少女と、依頼人の少年。影はジリジリと後ろに下がります。
「おいおい、どうした? オレが何か変か」
「え、いや、あのだな」
「その、ですね」
彼らの視線の先には、紅髪少女。
腰を落とし、腕を大きく振りまわしています。
「何をやっている」
「ソーラン節を踊っている」
「それはどういう意味だ」
「体から溢れる嬉しさを表す踊りだ」
羊用紙を丸めて網を引くように、キレのよい動きです。
この背景をみた人物は、海原を幻視してしまうことでしょう。
「そんな「あー、よっこいしょー、よっこいしょ」事より、報酬と納品物は「ソーラン、ソーランっ」────うるさいッ」
紅髪少女の頭を叩き、大きな音を鳴らす、短剣の柄です。
振り下ろしたア少女の手には、青筋が浮かび上がっています。
「私の話を、聞け」
「あい」
「それで昨日居酒屋で話していた、私達の報酬と納品物はどうなった」
「ちょっと待て……ああ頭がいってえ……えっとぉ、書類がこっちか」
紅髪少女の手から、丸められた羊用紙が開かれます。
ギルドの印。文書には、報酬600Gと、薬草3本。
「そんで、こっちが報酬だな」
となりに、袖から取り出した、硬貨と、つやのある草が置かれます。
「さて、まずは冒険の報酬からだな。ほら軍人、きっちり600G────なにやってる……早く受け取りにこい」
「いや、てっきり硬貨を投げるかと思ってだな」
「馬鹿野郎、オレがそんな奴に見えるか?」
見えるというか、投げてたよなぁ、という2人の視線。
言葉にすれば、面倒な事になりそうなので、喉はごくりとならすだけ。
ア少女は、かわりに気になった事を、口にします。
「今更だが、コレを私が貰ってもいいのか?」
「当然だ。クリアした者には相応の報酬が基本だろ」
ア少女の視線は、自身の手を見つめます。
真面目な奴だな。頭の片隅で思い、視線を切りかえる、紅髪少女です。
「どうした薬草がいらねえのか?」
「わ、分かっているんですが」
嫌な予感。村人の少年は、一歩後ずさりします。
そんな少年に近づいて、肩をつかんで、ドンドンと叩く、紅髪少女です。
「先に言っておく。次はねえぞ」
「ひ、ひいッ」
「いいか。こんな金額だと、冒険者も、ギルドも仲良く野垂れ死ぬからな、な」
「えっ、そ、そう、なんですか……」
「テメーは子供だ。それぐらいの無知は許してやる。だから、そこの献身性あふれる軍人にでも感謝しとくんだな」
「あの、本当に……」
「なんだ、まだ言いたい事でもあんのかァ? 首とばすぞ」
「ひ、ひえッ」
村人少年は、薬草をつかみ取ると、走って、入口から飛び出してしまいます。
紅髪少女はポツリと一言。
「まあ、これぐらいで勘弁してやるか」
「脅したいのか、教えてやりたいのか、疑問だな」
「そりゃもちろん、教えてやりたいのさ」
「そうか、なら失言だったな」
紅髪少女は、特に何もいいません。
いつもなら、怒りのグーで殴っていますが、今日は寛大なので笑顔です。
なんなら気にもとめず、看板“本日閉店”にして、入り口に設置しています。
「そういうことだ。オレは帰るぞ」
そんな紅髪少女の肩に手が置かれます。
ふりむけば、ア少女が笑っていました。
「まあ待て、どこかに行く前に聞いておきたいことがある」
「おいおい、そりゃ昨日の疲れを癒やすためにだな」
「飲みにいくのか、昨日も、今日も、ずいぶんと豪華だな」
「そりゃ、オレにだって飲みたい時はあるさ」
「その右袖からみえている銀貨でか?」
「嘘は良くねぇ。銀貨はオレの左袖に入ってるんだぜ」
「ところで昨日の朝は、酒代にすら困ってなかったか?」
紅髪少女の動きが止まります。
一瞬でも動きを止めたのが致命傷。ア少女から、次の質問を浴びせられます。
「で、いくら儲けたんだ?」
「い、一体何のことかさっぱりだな」
「私に解体を手伝わした、あのワームの事だ」
紅髪少女はふりむいて、顔を見ます。
まっすぐな視線。絶対に逃さないという意思のレイ少女です。
「いやー正直、二束三文ってところでな」
「ギルド活動で得た金をごまかすと、不正と知っているな」
「そりゃあ……00G」
「小声でよく聞こえなかった」
「だからっ、1000Gだ。内緒にしとけよ」
肩から手を離さない、ア少女です。
紅髪少女は、諦めたように、袖に手をつっこみます。
ガサゴソ。漁って、
「疑い深い奴だな、ほら」
投げられる袋。
手に取ると金属音。中を見れば、銀貨が2枚です。
「これで満足か?」
「まったく最初から出せばいいものを」
「これを見せたら、あの少年がまた同じことを繰り返すだろ」
紅髪少女が何気なく言う言葉を、しっかりと聞き取るレイ少女です。
彼女がいつも優しいというのを否定するべきではなかったか。
なんてことを思い、無意識に前髪を手でさわります。
「まったく、まあ、そういうことなら」
「というわけだ。オレはその金でちょっとだけ豪華な飯をくってるからよ」
「なら帳簿には課外報酬500Gと記しておけよ」
「うん? クク、なんだ中々に話がわかるじゃねーか」
紅髪少女は勢いよく、本日開店の看板を裏返します。
看板の表記は“閉店”に。
思いきりが良すぎたのか、紅髪少女の袖が翻ります。
「なら今日は「チャリーン」「うん? なんの音だ」────やべ」
視線をむけると床をころがる銀貨が2枚。
奥をみると、紅髪少女が焦った顔をしています。
「これは今、貴様の右手から出てきた銀貨だが」
「いやちょっと、手が滑ってな」
「なら、その手を、いや、袖の中まで見せて貰おうか」
紅髪少女の顔から、汗がだらだらと流れています。
顔には、袖の中を見られるのは非常に不味い。どうすっかなぁ。いけるか、賄賂で?
視線を左右に動かしたあと、意を決したように、頬をゆらします。
「なあ────その1000Gはオマエにやるから、見なかったことにしない?」
「なら────正確な金額を言え」
バッサリ。紅髪少女の甘露な考えは、ア少女の、鋭利な視線で切りおとされます。
困った。賄賂が通じないとなれば、言葉で丸め込むしかない。だけどオレは口が苦手なんだよなぁ。
紅髪をかきながら、再度、頬をゆらします。
「もし嫌だ、と言ったら」
「今回の報告書に書かしてもらう」
「ただの軍人ギルドの報告書に意味があると思うか?」
「貴様も、私も国営ギルドというくくりだ。身内のゴタゴタは嫌いか?」
「脅しの材料にされるってのは嫌なんだが」
「なら嘘をつかず金額を言えばいいだろ」
紅髪少女は天を仰いで、流し眼でみます。
逃げようと思えば余裕だけど、後々が面倒だよなぁ。
カチリ。視線が合います。ア少女は、真っすぐに見つめています。
「根気負けか、仕方ねえな」
諦めて袖の中から、銀貨をとりだします。
「なんだ1枚か、その程度の金額をごまかそうとするな」
「なに言ってんだ、誰が1枚といった」
2枚、3枚と、次々とだされる銀貨。
積み重なる銀貨の山をみて、ア少女の眼がどんどん細くなっていきます。
「おい待て、何枚ぐらい隠してた」
「10枚ぐらい?」
「だが数えても3000Gしかないぞ……残りはどうした」
「使っちまった。ちょうど手持ちがなくてな」
「隠しているという訳ではないな?」
「隠さねえよ。ほら見て見ろ、相場表だ」
相場表をむしりとる、ア少女。
ワームの皮。一般的な皮と比べ、伸縮性と防水性に優れた素材。
初級1000G、中級5000G、上級10000G
※雨季が近いために、相場が上がっています。ぜひ買い取りにお越しください
相場表を、コート裏のポケットにしまいこみます。
「相場は分かった────で、帳簿には記したのか?」
気づけば、帯から抜かれている短剣。
紅髪少女の喉元を、鞘の先が鋭くてらします。
「まさか……これは偶然、帰り道に、ワームの皮を拾っただけだからな」
彼女ははやさしく柄を握り、下に力をいれます。
「ギルド活動で得た金額は、記入する決まりがあるはずだが?」
「換金は定時を越えて行ったからな、管轄外の金だ」
ギチギチ。拮抗する力。鞘は上にも、下にも震えるだけ。
埒が明かないと思ったア少女は、するどく踏み込みます。
「だから帳簿に記さなくてもいい、とでも────」
「────大丈夫だ、半分はお前のお腹に入ってるからな」
昨日の晩飯はうまかっただろ。という声を残して、短剣を投げ返す、紅髪少女。
ア少女の頭に短剣が当たり、めくれたフードの下からは、真っ赤になった顔。
どうやら反論しようにも、足は動かず。
しいていうなら口がパクパクと動くだけ。
「う、うまかった、が……み、見逃すのは今回だけだからなッ!!」
ギルドには叫び声がひびきますが、紅髪少女は気にせず、扉から出ていくのでした。
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