とっても天使なウマ娘さん 作:レース場の散った芝
チャンミ用の育成ばかりしてたので、育成ストーリーはまだ見れていません。
ウマ娘。それは……なんだっけ。ポケ○ンみたいにウマ娘とは何かを紹介するテンプレ文があるのが忘れてしまった。長いし覚えられん。
とにもかくにも、ウマ娘とは不思議な生物なのだ。基本的に人間と同じ身体構造をしながらも、身体能力は人間よりも遥かに高い。そして一番の謎、ウマ息子はいないのである。いてほしいと思ったことは一度もないが、何故かウマ息子はいないのである。
どういう進化を辿って今のウマ娘があるのか、あるいはウマ娘という存在から進化したのが我々人間なのか、生物学的に非常に興味深い存在である。
ところで、皆は天使を見たことはあるだろうか。俺はある。そう、すぐ目の前に天使なウマ娘がいるのである。
「……」
映画を見に行こうと電車に乗ったら、びっくりドッキリ、なんと天使に遭遇してしまった。プラチナブロンドの綺麗な髪で、穏やかな顔つき。天使みたいに可愛いとかいう比喩じゃなくて、なんかもう雰囲気が天使みたい。天使みたいに可愛いのは事実だけど。
トレセン学園の生徒だろうか。レースは頻繁に見ているつもりだが、天使な彼女は見たことがないな。デビュー前だろうか。もしデビューしたら推そう。この子のデビューを機に実際にレース場に行ってみようかな。
「?」
おっと、じっくり見すぎてしまったか。天使と目が合ってしまった。こんなに見られたらさすがに気にもなるだろう。すっと手元のスマホに視線を落とす。
別に俺はこの子をナンパしたいわけじゃない。せいぜい結婚を前提にお付き合いさせてもらいたい程度だ。けどこの子には俺みたいなのより良い男がいるだろう。俺からすれば高嶺の花だ。おそらくこの子はトレセン学園の生徒。天使ということを差し置いても超エリート。
なので一般ヒト息子は黙って去るぜ。もう会うことはないでしょう。
あれぇ~……どうやら降車駅が同じだったみたいです。まぁデカい駅だしね。そういうこともあるだろう。偶然たまたま同じ駅で降りたからってテンション上がるとは、中学生じゃあるまいし。
まぁいい。気になる天使なあの子のことは忘れて早く映画を見に行こう。ずっと公開を楽しみにしてたんだ。ワクワクドキドキである。
あっるぇ~? 映画館でまた再会しちゃったぞえ~。ここまで偶然が重なるともはや運命なのではないか? もしくはストーカー。あの子にストーカーだと勘違いされていないだろうか。違うんです。本当にたまたまなんです。信じてください。
気になる天使なあの子にストーカーだと勘違いされたくないので、とっとと発券して端っこの方でウネウネしていよう。うん、それがいい。
「……」
おかしい。なにかがおかしいぞ。同じシアターなのはいい。公開初日だし、公開前から話題だったし、タイミング的にも同じ映画を見るんだろうなーとはなんとなく想像していた。
だがしかし、何故座席が隣なのだ。結構広いシアターだぞ。しかもチラチラこちらを見てくるし。こんなのもう映画どころではない。可愛すぎる。可愛すぎて滅する。そのまま天使として俺のことを天界まで導いてほしい。
「ん……」
声を、かけるべきだろうか。これはお近づきになる絶好のチャンスなのではないだろうか。でも怖い。こんな天使に見つめられるだけで滅しそうになっているのに、言葉まで交わしてしまったら跡形もなく消滅してしまうのではないだろうか。人を消滅させてしまったという罪をこの天使に背負わせてしまうこと、それが怖い。
そうでなくともストーカー扱いされてしまう可能性があるのだ。『この人ストーカーです!』なんて高らかに宣言されてしまったらもう両手を差し出してお縄につくしかない。
故に答えは沈黙。お近づきになることもないが、お縄になるリスクもない。最善の選択。ずっとドキドキし続けなければならないことを除けば。こんなに見つめられて、僕、困っちゃう。心臓が破裂しそう。
面白かった、映画。わざわざ休日に出かけた価値は十分にあった。もう一回見たいな。
お隣の天使さんも、さすがに上映中は映画に集中していたし、こちらも映画に集中できた。さて、ストーカーを疑われる前にとっとと退散してしまおう。
「あ……」
何か聞こえたような気がするけどきっと気のせいだ。うん、きっと気のせい。自意識過剰。あんな天使な子が俺のこと気にするはずないんだ。
さて、これからどうしようかな。他に用事はないし、たしか雨の予報だし、降り出す前に帰ってもいいが。
「うぇ〜ん!」
子供が泣いている。小さな子供だ。親とはぐれたのだろうか、1人で泣いている。周りの人は皆知らんぷり。さすがに放っておくわけにはいかないな。迷子センターに連れて行くくらいはしてあげないと。
「君、大丈夫? パパかママは?」
「うぇ〜ん!」
「はぐれたの? とりあえず迷子センターに行こうか」
「うぇ〜ん!!」
「大丈夫、私が来た!」
「うぇ~ん!!!」
うーん、困った。泣き止んでくれないし、話聞いてくれないし、むしろ泣き声が大きくなった気がする。なんか周りからジロジロ見られるし、怪しい人間だと思われてる気がする。
どうしたものか。他の誰かが助けてあげるだろうと見捨てるのは簡単だけど、後味悪いしなー。でも子供のあやし方なんて知らないし。
「大丈夫ですか?」
「天使さん……」
「天使?」
どうしたものかとうんうん唸っていると、プリティーキュートな天使さんに声をかけられた。近い……間近で見るとほんとのほんとに可愛い。浄化されそう。というかまた出会ってしまった。これが運命か。
「この子が親とはぐれたみたいで、多分。迷子センターに連れて行ってあげたいんだけど、話しかければ話しかけるほど泣かれちゃって」
「なるほど……分かりました。私にお任せください」
「お願いします」
俺みたいなのより、この子みたいな柔らかい雰囲気のとっても可愛い天使さんの方が子供も話しやすいだろう。見立て通り、あれだけ泣きじゃくっていた子供もみるみる落ち着いていく。
しかしまぁ、こうして子供をあやす姿は本当に天使のようで、背中から綺麗な大きな翼が生えているように見える。恋に落ちそうだ。いや、この気持ちは恋心なのか? 分からない。崇拝とかかもしれない。
「ふふっ、それでは行きましょう」
「あっ、終わりました? さすが天使さん」
なんということでしょう。あんなに泣き止んでくれなかった子供も、天使の手にかかればあっという間に泣き止んで、天使さんと手まで繋いでいるではありませんか。なんと羨ましい。
「天使……?」
まるで天使のようだったので、なんて初対面の方に言ったらセクハラで訴えられるだろう。子供にも警戒されてるし。というか若干怯えられているような気がする。やっぱり初対面で大して似てないNo.1ヒーローの真似をしたのが良くなかったか。せめて作画が変わるくらいのクオリティまで仕上げておくべきだった。
「俺、いない方がいいです?」
「……お姉ちゃん」
「来てほしい、だそうです。えぇと……」
「シンジです。まぁ好きに呼んでください」
「シンジさんですね。私はヴィクトワールピサと申します。ピサとお呼びください」
「ピサ……さん」
「はい、ピサです」
『ニコッ』という擬音が聞こえてくるほど可愛らしい微笑み。なんというか慈愛に満ち溢れている。この迷子の子供の性癖が壊れてしまわないか心配だ。俺はもう壊されてしまったかもしれない。
ヴィクトワールピサ……ピサさん、かぁ。やっぱりレースでは聞いたことない名前だ。やはりデビュー前なのだろうか。あるいはそもそもトレセン学園の生徒じゃないか……いや、絶対トレセン学園の生徒だ。俺の第六感がそう言ってる。だってピサさんの勝負服姿が見たいから。
にしてもピサさんと言葉を交わして、さらには名前をお呼ばれされてしまって、それでも消滅していない俺の体って結構頑丈? ピサさんと子供の2人の会話に割って入る心の強さはないけれど。
楽しそうに会話をする2人の後ろをテクテクとついていく。スリップストリームである。というかこれ俺いる? 周りからはストーカーに見えてない? 大丈夫?
「はい。……はい、お願いします」
そうこうしているうちに迷子センターに辿り着いたが、係の人とのやりとりも全てピサさんにお任せする。俺は何のためにいるのだろうか。係の人もそう思っているだろう。そんなことを考えながら待合室に案内され、出されたお茶をゆっくりと口に含むピサさんを正面から眺める。美しい。そうか、俺はこの瞬間のために生まれてきたのだ。
「ふぅ。見つかるといいですね、あの子のご両親」
「見つかると思いますよ。館内放送もしてもらいましたし」
さすがに自分の子供がいなくなればどこかのタイミングで気づく。モールから出て行ったとかでなければ館内放送も聞こえてるだろうし。
「……シンジさん。シンジさんって先程私の隣の席で映画を見ていた方ですよね」
「えぇと、まぁ……はい、そうです」
「やっぱり! 電車でも正面に立ってらっしゃったので不思議な縁だと思っていまして」
「一つお聞きしたいのですが、天使、とはどういうことでしょうか?」
「テンキーと聞き間違えたんじゃないですかね?」
「そうですか。では私を見てテンキーと呟いたのはどうしてでしょうか?」
「んー……なんででしょうね?」
「……」
「ごめんなさい。天使って言いました。ピサさんの纏う雰囲気が柔らかくて、可愛くて、天使みたいだなって思ってました。セクハラで訴えるのだけは勘弁してください」
「ふふっ、そういうことでしたか。訴えたりなんてしませんよ。むしろお褒めいただき嬉しいです。可愛いと言われるのは少し恥ずかしいですが……」
頬を少し赤く染めながら、恥ずかしそうに微笑むピサさん。よかった。通報されることはなさそうだ。前科もつかず、こんなに可愛らしい表情を見られた。幸せ者かぁ?
「シンジさんは面白い方ですね。電車や映画館でもそんなことを考えてたんですか?」
「まぁ、そうですね。天使って実在するんだなーって思ってました。あと行く先々で出会うもんだからストーカーを疑われないかヒヤヒヤしてました」
「ストーカーだなんてそんな。むしろ素敵な縁だなと思っています。シンジさんのような心優しい素敵なお方と出会えましたし。泣いている子供のために迷わず手を差し伸べる……素敵な方だと思います」
慈愛に満ちた瞳で見つめられ、天使のように素敵な方から素敵だと褒められ、会話までしてしまった……こんなの恋に落ちるなという方が無理な話である。限界だッ! 推すねッ!
「お付き合いを前提に結婚してください」
「けっ……んー、まずはお友達からでいかがでしょうか?」
天使とお友達になりました。
続かないかもしれない。